熱い志を共にする、気鋭の新進監督たちが集う伝説の上映イベント"SHINPA(シンパ)"が、渋谷に舞台を移して大復活! あの『SLUM-POLIS』の二宮健監督の呼びかけに応えた10人が、それぞれ渾身の監督作品を引っ提げて、LOFT9に乗り込む!! (interview:石崎典夫 テキスト:マツマル[LOFT9 Shibuya])
大人に搾取される前に
ーまず、「SHINPA」がどのような目的で始まったイベントなのか、ということからご説明いただけますでしょうか。
二宮:監督たちが大人によって集められる、「よくわからない上映会」はちょこちょこあるんですけど(笑)、監督たちが自主的に集まって自主的に解散する、「フリーな上映会」というのはあまり聞いたことがないなと思いまして、一昨年、自分の知り合いや興味のある監督に声を掛けて始めたのが「SHINPA」ですね。
ー入場料が1000円で出入り自由という、まさに「フリーな上映会」だったみたいですね(笑)。
二宮:その結果、お客さんも一緒になって打ち上げするような、かなりラフな上映会となりまして、それが好評だったので、翌年に第二回をやったんですね。今回は松崎さんの方からロフト9でのイベントの話をもらいまして、「それなら『SHINPA』の第3回目をやりたい」と。
ー松崎さんはどのような経緯でこのイベントに関わることになったのでしょうか。
松崎:「SHINPA」の第一回目はトークゲストとして呼ばれたんですが、第二回目は打ち上げだけの参加でしたね(笑)。今回ロフトさんから「映画のイベントやりませんか」とお話をいただいた時に、これからインディーズからメジャーに羽ばたくような人のためのイベントをやりたいなと思って、二宮くんに相談したところ、「それなら『SHINPA』しかないんじゃないですか」と。
ー第一回目の概要を拝見した際に、二宮さんが「日本映画の未来が危ないんじゃないか」というような発言をしていらっしゃったのですが、これにはどのような意味があるのでしょうか。
二宮:本当の理由とカッコつけた理由だと、どっちがいいですかね(笑)?
―あ、じゃあまずはカッコつけたバージョンでお願いします(笑)。
二宮:もともとヌーヴェルヴァーグ(フランスで50年代末ごろに起こった若い映画監督らによる映画活動の呼称。ゴダールやトリュフォーなどが有名)に憧れがあったので、日本でもそういう新しい流れがつくれないものかと思いまして、それなら「新しい波」で「SHINPA」というタイトルでどうだろうかと。
松崎:「ヌーヴェルヴァーグ」をまんま日本語に訳しただけになりますけどね(笑)。
二宮:まあ、本当にヌーヴェルヴァーグでいこうと思ったらもっとコンセプトを練らないといけないんで、大人に搾取される前に、インディーズでやってる監督で集まって自主的な上映会がやりたかったっていうのが目的としては大きいですかね。「搾取する側」っていう意味だと、松崎さんもだいぶグレーなんじゃないかと思ってますけど(笑)。
普通の映画祭では見られない「化学反応」
ー二宮さんが「SHINPA」に呼ぶ監督を人選されているとのことですが、その基準はどこにあるのでしょうか。
二宮:今回に関しては松崎さんと半々ぐらいの割合で呼んでますけどね。個人的に本来ライバル同士であるべき関係の監督同士がつるんでるのを見るのは少し不可解な部分もありまして、こういう機会にお互いの作品を持ち寄ることで、ただ仲良くするだけじゃなく色々な発見ができるのではないかと。まあ、敢えて仲の良くない人にもオファーしてみたりしてますけどね(笑)。
松崎:二宮くんのことを肯定的に見ていなそうな監督にも声掛けてるよね(笑)。でも「否定する」ということは「意識している」とも取れるんじゃないかと思いますね。
「SHINPA」はどうしても「二宮健映画祭」のように思われがちですけど、普通の上映会では見られないような、特殊な関係が引き起こす化学反応に期待してもらいたいですね。
ーなるほど。今回のラインナップについても伺いたいのですが。
松崎:もちろんすべての作品が見どころなんですが、たとえば『トイレのピエタ』が昨年高く評価された松永大司監督であったり、今泉力哉監督の大学時代の卒業制作であったり、女優としても活躍する、中森明夫さんイチオシの小川紗良監督であったり……全員挙げると文字数オーバーしそうなので難しいですけど、すべての監督に注目してほしいと思ってます。
二宮:参加していただく監督たちには、イベント自体の趣旨を面白がってもらえるかどうか、っていうのが一番ですね。今回、渋谷で大復活ということなので、賛同してくれた参加監督のみなさんのためにも良いスタートダッシュを切りたいです。
ー渋谷でも成功させて、頑張っていきましょうよ!(笑)。松崎さんは「SHINPA」をどう展開していきたいとお考えでしょうか。
松崎:今回は半分くらい自分がオファーしましたが、あくまで二宮くんが呼びたい人を呼ぶ、という前提は崩したくないですね。二宮くんの言う通り、「大人が搾取している」という図式は好ましくないと思ってます。少し前に超低予算で若手監督に映画を撮らせることが流行っていましたが、それを続けていると、ノーギャラ前提の出演者とスタッフ集めなどで、監督の人脈を食いつぶすことになるんです。だからこういう上映イベントに関しても、本来は見合ったギャランティーが発生する方が望ましいわけで、もし今後も継続していけるのであれば、コンペ形式にして賞金を出す、っていうのもアリなのかなと。
「劇場で公開するってだけじゃ、観客動員に繋がらない」
二宮:話の流れとはあんまり関係ないんですけど、今回、イベントの前にお客さんから「いつ・どこで・だれが・なにをした」っていうアンケートをとって、それを出演する監督にくじ引きしてもらって、出た結果でイベント終了までの間に一本映画を撮ってもらおうかな、と思ってまして……。
松崎:それ、できる?(笑)
二宮:いや、できたらいいなって(笑)。24時間テレビのマラソンみたいな謎の充実感を演出したいんですよね。
松崎:そういう仕掛けはほしいよね。若手のクリエイターとイベントに携わる機会は多いんですけど、やっぱりみんなアイデアは豊富ですね。もちろん二宮くんみたいな無茶振りに近いアイデア出してくるケースもあるんですけど(笑)。映画も、今はただ劇場で公開するってだけじゃ、観客動員に繋がらないので、監督のセルフプロデュースの範疇が増えてるんですよね。
二宮:ただイベントするだけじゃなく、どうしたらバズるのか考えるのは大変ですよね。そこはネット文化の弊害でもあると思うんですけど。
松崎:そういえば二宮くんが「SLUM-POLIS」の劇場公開中、14日間毎日アフタートークをしたんですけど、なかなかゲストが決まらない日にちが出てきて、どうしようかと頭を抱えたことがあったんですよ。そんな時たまたま劇場に観に来てくれた有名モデルさんを二宮くんが見つけて、初対面にもかかわらずその場で「明後日一緒にトークしてくれませんか」と口説いたんですよね。そうしたら本人が「いいよー」って簡単にOKしてくれまして……。人脈づくりの天才だなと思いましたね(笑)。
二宮:そのモデルさん、松崎さんがその後隙間なく口説いて、他のイベントにも出てもらってましたね(笑)。やっぱり、グレーな大人の典型例ですよね(笑)。
松崎:いや、それはちゃんとしたお仕事として発注したんだよ! なんで俺を搾取する側の人間にしたがるんだよ(笑)。