ブロウしながら唄いまくるエナジー過剰なブルース・ハープ、血湧き肉躍るダイナミックなバンド・アンサンブル、それらに呼応して発せられるのは純然たる歌詞ではなく楽曲のタイトルのみ(!)というスマートソウルコネクションの特異すぎる音楽は、音のハンサム度合といかがわしさが絶妙なバランスで混在した粋な大人の道楽みたいだ。ブルースから派生したブラック・ミュージックが主軸のファンキーでグルーヴィーなサウンドは、それ単体なら充分に正統派なのだが、バンドの顔役であるコハ・ラ・スマートが偏愛する亜流・まがいもの特有のチープさ、70年代の国内外のテレビ番組や映画作品のエッセンスが加味されることで既視感を伴う唯一無二の近未来スーパーカーサウンドに豹変する。ジャンルもフォーマットも薙ぎ倒し、ただひたすらにカッコいい音楽を追求するスマコネの本質、最新作『ニューアクション』の制作意図に迫るべく、コハ・ラ・スマートの脳内コズミック・ワールドを覗いてみることにしよう。(interview:椎名宗之)
今までのスマコネはカルピスの原液みたいなもの
──今日はスマートソウルコネクションの音楽性の本質に迫ってみたいのですが、まず「興奮のブギー音! ブロウするハープ! 世界初のSWING!FUNK!BLUES!」という『ニューアクション』の帯の惹句からして分かったような分からないような……。
コハ・ラ・スマート :そのキャッチコピーはレコード会社のスタッフが考えてくれたもので、僕の関与するところでは全くないんです。でも、そこが今回のアルバムのコンセプトだと思っているんですよ。今までの作品では曲作りからパッケージのヴィジュアル面まで事細かいコンセプトを自分なりに作ってきたんですけど、全くそういうことをしないっていうのを一度やってみたかったんです。
──ノン・コンセプトがコンセプトであると。
コハ・ラ:曲に対する思いやコンセプトがそもそも僕にはないんです。「この曲でこんなことを訴えたい」とか「この思いをお客さんにダイレクトに伝えたい」という思いが全くない曲の集合体がアルバムなので、そこに改まってコンセプトをつけるのはおかしいなと思って。むしろ聴く人がいろんなヴィジョンをイメージして「こんなコンセプトなんじゃないか?」と自由に考えてもらえたらいいし、僕の中ではただカッコいい音楽を作っているに過ぎない。とにかくノン・コンセプトのままアルバムを作り、ジャケット・デザイン、キャッチコピー、曲順に至るまでのすべてをレコード会社や事務所のスタッフに任せてみたんです。
──それでも某か一本芯の通った作品に仕上がっているのが面白いですね。
コハ・ラ:僕は本来、人に任せるのが苦手で、何をするにも「こうでなきゃいけない!」と自分の考えを突き通す頑固者なんです。それが今回、こうして人に任せることができたっていうのは、曲自体に僕の思いがイヤと言うほど凝縮されているってことなんでしょう。言うなればカルピスの原液みたいなもので、水で薄めないと飲めない(笑)。でも薄めるのはマイナスの意味じゃなくて、多くの人に飲んでいただくためには薄めたほうがいいんです。原液をそのまま出すのが今までの僕のスタイルだったけど、今回はもっと多くの人に口当たりの良い形で飲んでいただきたかった。人に任せることで、自分では考えもしなかった面白さが引き出されますしね。
──「ニューアクション」をアルバムのタイトルトラックにしたのもお任せだったんですか。
コハ・ラ:お任せです。当初はこのアルバムのために20曲くらい用意したんですが、僕はそれをただ投げただけなんです。どの曲をアルバムのタイトルにしていただいても構わなかったので。
──コハ・ラさんのようにキャリアのある方がそうやって新たな試みに挑むのは、文字通り「ニューアクション」ですよね。
コハ・ラ:ある程度の作業を人に任せる行為は特に新しいものではなくて、僕が一番やってみたかったのは「人に騙されること」なんですよ。
──騙される?
コハ・ラ:ええ。スタッフに騙されてみたかった。たとえば昭和40年代、50年代にレコードを出した黒人プレイヤーはスタジオでさんざん演奏させられて、ろくにギャラももらえずにまんまと騙されていたわけですよ。気がついたら勝手にレコードを出されていて、そのジャケットには自分の写真ではなく、ニューヨークの夜景とかヘンな風景写真が使われていて(笑)。そんな状況を自分も味わってみたかった。だからできるだけ人に投げて、それで勝手なことをされればちょっとは騙された感を味わえるかな? と思ったんですけど、そういうわけでもなかったですね(笑)。
──サンバの女性ダンサーが終始ひたすら踊り狂う「ブギークラッカー」のPVもスタッフのアイディアだったんですか。
コハ・ラ:いや、あれは僕と映像ディレクターのコンプ鈴木さんの話し合いから生まれました。PVもアルバム同様にノン・コンセプトにしたくて、説明的な映像は一切排除してくれとコンプさんにお願いしたんです。それと、僕らを出さずして躍動感溢れるPVを作っていただきたいと。
──バンドが一切姿を出さない作りも攻めてますよね(笑)。
コハ・ラ:僕自身がただカッコいいな、面白いなと思う映像が良かったし、そのためにはまず僕らが出ないのが必須条件だったんです。爽やかな草原に電源のつながれていないアンプを置き、さも熱演しているかのようなシーンを撮影する必要はないな、と(笑)。じゃあどんな映像が欲しかったのか? と言えば、自然界に溢れる現象…それは物理現象でもいいし、人間の心の動きでもいい。「なんでこうなっちゃうかなぁ?」みたいな動きを観察する視点で映像を捉えて欲しかった。PVって、カメラを何台も駆使して寄りと引きを繰り返したり、ごちゃごちゃしたのが多いじゃないですか。そういう映像的な演出は一切要らなかったし、まるで花の成長を観察するかのようにジッとカメラを据えて欲しかったんです。
どこかズレているニセモノ感がカッコいい
──それで炸裂するサンバの踊りを定点観察しているわけですね。
コハ・ラ:ただ最初は、アルバムが『ニューアクション』だから、「何かを開ける行為を次々と見せていくのはどうですか?」とコンプさんから提案してもらったんです。ペットボトルや缶のフタを開ける、ドアを開けるとか、開ける動作を接写して、連続して見せていく。そんな映像と音楽がリンクすれば凄くクールだし、無機質な映像にも躍動感が出てくる狙いがあると提案してくれたんですが、僕にはちょっとクールすぎるなと思ったんですね。それで画面を二分割にして、何かを開ける映像と外人がずっと踊り続けている映像を同時に見せたいと思い立ったんです。
──PVのことだけは完全に人任せにできなかったんですね(笑)。
コハ・ラ:なるべく自分の意見は排除してお任せしようと思っていたのに、表現欲がむくむくと沸き上がってきてしまったんですね。でも僕は、あまりにもクールすぎる表現が苦手なんですよ。これは音楽作りでもそうで、突き詰めたお洒落感とか無機質なまでにクールなものに面白味を感じないし、そこにちょっとダメな感じが欲しいんです。そのダメな要素が入っている音楽なり映像を僕はカッコよく感じるし、自分のやる音楽もどこかしら面白味が垣間見られるものにしたいんです。
──それで「ブギークラッカー」のPVはサンバの踊り一辺倒になったんですか。
コハ・ラ:途中から無機質な映像は要らないんじゃないか? と思うようになったので。でも、サンバの躍動感を「ブギークラッカー」に合わせたかったわけじゃないんです。あくまでも出発点は「何かを観察する行為」だし、だからダンサーの下半身をずっと観察している画が続くんです。サンバは大人数のチームで踊りながら山車と一緒にパレードを楽しむものなのに、サンバのダンサー一人だけを延々と映していくのが僕には面白かったんですよ。
──お話を伺っていて、コハ・ラさんの音楽的嗜好と指向が少し分かった気がしました。今作で言えば「フルスイング」も「ブギークラッカー」も、もはやタイトルを呼ばなくてもいいんじゃないか!? ってところで呼ぶじゃないですか。それさえなければブルース・フィーリングに溢れた真っ当なインスト曲になるのに、どうしてもタイトルを連呼してオチをつけてしまう(笑)。でもそれこそがコハ・ラさんのやりたい音楽なんですよね。
コハ・ラ:全くその通りです。「それ、要らないでしょ?」っていうのが必要なんですよ。ずっとカッコよく演奏しているのに、最後の最後にタイトルを呼んで台無しにしているというのが普通の意見なのかもしれないけど、それを味わっていくと「やっぱりあのムダな部分がないとダメだね」って感じるようになると思うんです(笑)。
──ちょっとスパイ映画みたいな雰囲気がある「ドラゴン超特急」も演奏は凄くムーディーでカッコいいのに、真面目なんだか不真面目なんだかよく分からないハミングを入れることで妙なおかしみが生まれますよね。
コハ・ラ:あのハミング、よく聴くとヘタクソなんですよね(笑)。「ドラゴン超特急」というタイトルだからと言ってブルース・リーのイメージで作ったわけじゃないんですけど、『燃えよドラゴン』を始めとする70年代のカンフー映画ブームには僕もご多分に漏れず影響を受けていましてね。当時は映画本体ばかりでなくサウンドトラックもヒットしたんです。まだビデオが普及していない時代だったので、見た映画を家に持ち帰ることができなかった。だから映画の感動と余韻を家で味わうにはサントラを買うしかなかったんです。そのサントラがバカ売れすると、亜流のもの、ニセモノが出回るんですよ。それで僕も『燃えよドラゴン』のサントラのニセモノを買っちゃったんです。ホントはラロ・シフリンが作曲したテーマ曲が入った本物のサントラが欲しかったんですけどね。僕が買ったサントラはフィリピンパブの箱バンが演奏しているような明らかにうさんくさいシロモノで、ブルース・リーの「アチョー!」っていう怪鳥音もヘンで、「ィヨー、ハッ! ホッ! ホーッ!」って能みたいな怪鳥音なんですよ(笑)。そのインチキなイメージがずっと記憶の片隅に残っていて、今聴くとそのニセモノ感が凄くカッコよかったりする。ニセモノなりに一生懸命作っているはずなんだけど、どこかズレている感じもいいんですよね。
──分かります。パチモンの美学ですね。
コハ・ラ:その感覚はニッチなものかもしれませんが、僕はそこに惹かれるんです。そんなニュアンスを「ドラゴン超特急」には入れたかったんですよ。