「はっきよい」というワードが天命のように降りてきた
── CDとしてはセカンド・アルバムの『I WANNA EAT YOUR CHAOS』から1年半ぶりのリリースとなりますが、前作をリリースして次回作に向けてどんな構想を練っていたんですか?
尾形回帰(vo):前作は「CHAOS(混沌)」をテーマにしたコンセプトアルバムだったのですが、今回はそういうコンセプトは特になく、とにかくテンション高い曲を作ろうと思い、『I WANNA EAT YOUR CHAOS』完成直後から曲作りを始めました。「はっきよい」はセカンド完成後、最初にできた曲です。
── この1年半の期間にもライブDVDのリリースや、ライブを精力的に行なわれていましたが、CDを早く出したいと焦る感じはありましたか?
尾形:それはありましたね。本来は今年の6月に発売したかったんです。というのも、僕の自宅にある小型のブーススタジオでいつも歌を録音するんですが、そのスタジオ室内にエアコンが付いていないので、真夏になると異常な暑さになるんですよ。なので夏前には録り終わりたかったんです。でもメンバーや録音スタジオのスケジュールの都合で、結果的に8月の一番暑い時に録音することになりました。自宅でのレコーディングは汗だくになって全裸で録音しましたよ…。まさに相撲稽古さながらの録音でしたね!
── なるほど(苦笑)。ところで、1曲目「はっきよい」は、タイトルからしてインパクトがありますが、このタイトルで曲を作ろうと思ったきっかけと、なぜこのタイトルにしたのかも教えてください。
尾形:この「はっきよい」という言葉のパワーに感化されてこのタイトルにしました。この曲は珍しく詞先、鼻歌でほとんどできた曲なんですが、完成直後に「はっきよい」というワードが天命のように降りてきて、曲の最後の一番大事なところに入れたんです。そしたら、周りの歌詞との関連性があまりにもなかったので、最終的には後から相撲ワードを意図的に散りばめて、何とかまとめました(笑)。
── この曲ではメタル、歌謡曲、ビート・ロックの要素などなどが取り入れられていると感じましたが、もともと曲のアイディアが出てきた当時からこういう曲にしようと想像していたのですか? どんなイメージを持ってアレンジをしていったか教えてください。
尾形:大まかな構成とアレンジは僕がやっていて、ビート・ロック感とギター・ソロ部分のメタル感は狙いましたね。うちのメンバーは歌メロのバックでもふんだんにギター・フレーズを盛り込んでくるので(笑)、今回は極力シンプルにすることを心がけました。今回はリードするメロディを弾いているパートをとことん尊重し合うようにお願いして、結果的に非常に聴きやすく、HEREの新たな魅力を引き出せたなと思います。あと「イェイイェイ」のかけ声のあるイントロの武田のギター・フレーズは本当に素晴らしいと思います。もの凄くキャッチーでインパクトあるなと。
武田将幸(g):イントロのフレーズはなかなかいいのが出ちゃいましたね。タイトルや歌詞が決まる前だったので、相撲というイメージは全くなかったんですけどね。
三橋隼人(g):ギター・ソロでは、前半は半音で上昇していくフレーズですので、雰囲気としてはバッキング・ギターとも相まってメタル感が出たなと思います。後半のハモりのフレーズに関してはGARLICBOYSの「YOKOZUNA」に影響を受けたフレーズとなってます。相撲ソングとして一番に思い出した楽曲ですので、オマージュさせていただきました。歌が入ってくる部分ではハモりにしないことによってコテコテ感を消して大サビに向かうので、ポップ感を殺さずにキワドイソロになったと思います。
宮野大介(ds):ドラムは、「思いっきり大味で行こう!」と、完全に割り切った感じです。完成して全体で聴くとそれが正解だったなと思います。
「とことんやりすぎる」がモットー
──『はっきよい』でのみなさんの演奏力の高さは相変わらず言わずもがなではありますが、中盤あたりのギターのギョィイイイイイン!という鳴り方といい、その後のギター・ユニゾンのところはかっこいいんだけど振り切れ過ぎてると言うか、演奏はとても上手いのになぜかクスリと笑えてしまう感じがあって、それがHEREの魅力のひとつだとも思っています。はずしの美学みたいなものを私は感じましたが、そういったものは意識されてます?
尾形:はずしてるつもりは全くなくて、自分的にはド真ん中のつもりです! ただ常に過剰さは求めています。ロック・バンドである以上、普通のモノを作っても意味ないので。結果的にはみ出ちゃってるんでしょうね…。まぁ、そのはみ出た部分がロックなんじゃないかと思います。
── なるほど。はずしてるんじゃなくて、はみ出ていると。ただ、その笑える部分もありつつ、演奏面でも凄くかっこよくキメるのでそこにドキッとするんです。みなさんはご自分でHEREをどう見てますか?
尾形:僕は自分の客観性は信じていないので主観のみで突き進んでおります! メンバーのみんなどうなんでしょう??
武田:「とことんやりすぎる」をモットーに活動しているので、あまりにもキメすぎて逆にそれがチャーミングに見えたりする瞬間はあると思います。HEREを好きになってくれる方は、そういう部分を心地良いと感じてくれていると思うので、今後もやり過ぎていきたいですね。
三橋:はずす、はずさないという意識せず自分の中で正しいと思ったことを思い切りやってるといった感じです。どんなことにせよ振り切ったモノはカッコイイっていう共通認識がHEREなんだと思います。
宮野:ある種、「居直り」ですよね。現在のロック・シーンという土俵際に真顔で座り込みしてるような、そんなバンドです(笑)。
──「はっきよい」の中で、「序の口…幕下…」のかけ声部分が面白くて、ライブでこぶしをあげて盛り上がっている感じを想像しました。この曲はすでにライブで演奏されてますが、最初に演奏した時のお客さんの反応はどうでしたか?
尾形:実は「はっきよい」は去年の暮れからライブではちょこちょこ演奏してたんですよ。その時点では「序の口…幕下…」のかけ声は入ってなかったんですが、以前からこのかけ声は入れたいなと思い、レコーディングの時に初めて入れました。初めて聴いたお客さんは爆笑してましたね(笑)。
武田:「序の口…~」の部分は何度聴いても我ながらクスっときちゃいます。PVでもこの部分をメンバーそれぞれが担当しているんですが、年上の宮野さんが「序の口」と言う違和感もたまらないですね。
宮野:それ、俺も言おうと思ってた! 俺、一番年上やぞ、なんで序の口やねん! って。ま、でも、PVの丸山監督がその順番にしたんで。あの人が一番年上なんで、しゃあないかなと。
──「ご一緒に!」という歌詞があるのも面白いですよね。ただ、これを歌詞カードの中に入れなければならなかったものかが気になりましたが…(笑)。
尾形:これもライブ演奏しているうちにお客さんを煽るために言っていたのを採用しました(笑)。ライブ感があっていいかなと!
尾形:相撲…実はよく知らないです…。
三橋:デーモン閣下が解説をやってますね。それは知ってます。
宮野:デーモン閣下は大好きです!! 大ファンです!!
── 今注目している力士や、好きな技があったら教えてください。
尾形:みんなどうよ??
三橋:ねこだましが好きです。言葉の響きがバカバカしくてグッときますね。
宮野:一応、若・貴・曙・舞の海の世代です。小さい体でも、技のデパート舞の海、素敵だったな~。
武田:西麻布の叙々苑で白鵬を見たことがあります。
「そんなに弾いたら歌が目立たなくなるよ!」と何度も叫びました
── ところで、三橋さんが初めて作曲されたという「くらいやがれ」の中盤のギター・ソロが最高ですね。哀愁が漂っていて、胸をえぐられるようでした。3曲ともギターの聴きどころが多い曲でしたが、毎回思うのはあれだけギターを筆頭にそれぞれ楽器とキャラの主張が強いのに(笑)、曲にとっちらかっている印象が全くないのが不思議なんです。曲を作るにあたり、意識していることとはどんなことですか?
尾形:さっきの話にもありましたが、みんなめちゃくちゃ楽器が弾けるので、それを統制するのが本当に大変なんですよ! 「そんなに弾いたら歌が目立たなくなるよ!」って、今回の曲作りで何度も叫びました(笑)。どのパートもけっこう細かいフレーズまで口出ししたので、軽くムカついてるんじゃないかと思います(笑)。
宮野:昔はムカついてましたけどね。今は感謝すらしてますよ。
三橋:アレンジする時はまずはフレーズを散らかして、あとから尾形さんの指示でまとめていくので、良い感じに聴きやすく唄いやすく仕上がります。よっぽどなことがない限りはムカついてはないです(笑)。曲が良くなればそれが一番ですから。
武田:僕は草食系ギタリストなので、ソロとか積極的に弾きたいとは思っていないんですよ。なので、いわゆるギター・ソロパートの話になると「じゃあソロは三橋くんね、景気いいヤツよろしく!」と、まずは歳上特権を行使します。まぁそうも言っていられない場面も多々あるので、やるときゃやります(笑)。ギター・ソロに限らずなんですが、ドラマティックな展開にするのが好きです。
── これも3曲ともに言えるのですが、歌詞での言葉の選び方やメロディは一聴して覚えられる感じがあって、曲を作る上で意識していることですか?
尾形:言葉のフックに関してはとことん突き詰めましたね。唄いたいことがある上で、さらにどれだけ力強い言葉を入れられるか。何だかんだ言って、そこが一番大変でした。全く妥協してないです。
── それと今回の作品はこれまでに比べて幅広い層に手に取ってほしいという思いを私は感じたのですが、前作以上に聴いてもらうための間口を広くした感じはありますか?
尾形:あら? そう感じました? なるほど。実はですね、今回リード曲を選ぶにあたって投票制にしたんですよ。いつも僕が選んでるんですが、今回はどの曲も自信があったのでどれでもいいなと思っていて。それでメンバーにアンケートを取ったら、みんなバラバラの曲を挙げて…(笑)。そこで決まらなかったので、バンドのスタッフや仲の良い友達に聴かせて、アンケートを取ったら「はっきよい」が1位になったんです。自分的には意外な結果だったんですが、HEREのキャッチーな部分が押し出せて非常に満足しています。
宮野:「もー負けたわ! 負けたよ!」って言ってたクセに(笑)。最初は別の曲にしたかったらしいんです。
三橋:「はっきよいのこった」という歌詞がイントロから出てくるなんて衝撃的だと思います。間口が広がったのか狭まったのかは全くの謎ですが(笑)。
自身が思う“HEREらしさ”とは
──では、『はっきよい.ep』のレコーディング中にあったトラブルや、記憶に残っているエピソードはありますか?
尾形:レコーディング中は出前を頼むんですが、上海飯店という中華屋が安くて量がハンパないんですよ! 毎回そこに出前を頼んでました。僕は最終的にラーメン、生姜焼き、ライス、餃子という超大盛りセットメニューも完食できるくらいになりましたね(笑)。
三橋:上海飯店のヘヴィーな夕食のおかげでヘヴィーなグルーヴが出せました。食い過ぎでちょっともたれ気味だったりして。
武田:記憶に残ると言うか、記録しておりました、ビデオカメラで(笑)。使い道は考えていなかったのですが、何らかの形でお届けできたらなと思っています。
宮野:レコーディング風景を動画に撮ってメルマガ限定で配信してみたら、お客さんからとても喜んでもらえてね。動画レポートを送っては、応援のメールを返していただくっていうのを毎日続けましたよ。何かいいなこれ、って思って今でも続けてる。
── ここ最近もレコーディングをされているようですが、それは何の作品になるのでしょうか? お話できる範囲で教えてください。
尾形:来年の春くらいにアルバムを出したいです!
宮野:実は、新しい衣装も作ってますよ。初の全員フル・オーダーメイドで。来年は最初から一段ステージを上げていきますからね。
── 衣装と言えば、先ほど少しお話にあがりましたMVでもまぶしすぎるぐらい派手な衣装に目がいきますね。みなさんのバックに常に映っているHotel Festaの看板も気になりますし(笑)。MVは、どんなイメージで作ったんですか?
尾形:いつもHEREのPVでお世話になっている丸山監督のアイデアです。監督から「青空の下でとにかく爆発! ことあるごとに爆発! メンバーが常に爆発しているイメージだ!」と連絡が来て、何だかよく分からないけどテンション高そうでいいなと(笑)。
──確かに爆発してましたね(笑)。
尾形:バックに常に映っているHotel Festaの看板と宮野大介の衣装の色合いが似ているのは偶然です(笑)。
宮野:1人だけ、ラテンの風を感じてるわ(笑)。みんな、あれがどこで撮影されたか分かるかな?
── 次のHEREのワンマンに行くと答えが分かるかもしれませんね。ところで、ここ最近HEREのようなバンドは稀有な存在だと改めて思ってるんです。80’s感が漂うド派手な衣装を着て、メイクをして、プレイヤーそれぞれの演奏力はめちゃくちゃ高いのにかっこつけるだけで押し出さず、またライブはドラマティックで尾形さんが真剣な表情で唄い上げる姿はかっこいいのに、寸劇を入れて笑いの要素を加えたり、みなさんは他のバンドにはない自分たちらしさ、と言ったらどんなことを挙げますか?
尾形:全部じゃないですか? 曲と歌詞、見た目、ステージ・アクション、メンバーのキャラ。
三橋:他のバンドがやってないことをやるというのが、自分たちらしさだと思います。
── もう少しHEREを掘り下げたいのですが、2曲目の「ああYEARもうYEAR」のような曲は、往年の純国産ロック・バンドのテイストがにおっていましたが、改めてみなさんのルーツとなっているバンドを教えてもらえますか?
尾形:山ほどあり過ぎて困るな…。最近はツェッペリンを聴き直してます。最近出たキース・リチャーズのソロとバディ・ガイの新作は良かった。あと昔から岡村靖幸、エレカシ、吉井和哉さんは大好きで、今もよく聴いています。
武田:僕は中学高校と、思春期のすべてをX JAPANに捧げました。ギターを始めたきっかけもXで、コピーしたのもXやhideのソロばかりなので、ルーツと言うとそこになると思います。最近は9mmしか聴いていません。9mmのあのエクストリームな感じがたまらなく好きなんです。
三橋:ロック・バンド、という括りにするならやっぱりローリング・ストーンズが一番です。60年代から今までバリバリの現役で最高のライブができるなんて凄まじいことです。
宮野:中森明菜、聖飢魔II、山下達郎、嘉門達夫、DEEP PURPLE、LINDBERG、BOφWY、MICHAEL JACKSON、筋肉少女帯、人間椅子、JUDY AND MARY、GO-BANG'S、RAINBOW、SKID RAW、GUNS N'ROSES、MOTLEY CRUE、AEROSMITH。これ小学校から22歳くらいの間にハマった順です。DEEP PURPLE以降は、全部コピー・バンドやってます。
ライブはバンドの原動力
── ライブはどんどんパワー・アップしていますね。ここ最近は、これまで以上にお客さんを巻き込んだライブにしたいという思いを私は感じたのですが、ライブをやるにあたり心掛けていることとはどんなことですか?
尾形:こっちが一方的にゴリゴリ押しつける絶頂感と、みんなで共有する部分のバランスは考えていますね。
三橋:最近ではギター・ソロでお客さんにギターを持ってもらいながらソロを弾くということをしました。最前にいてくれるお客さんには何かしら手伝ってもらって、より良いライブにしていきたいですね。
──またライブは、みなさんから過剰なエネルギーが出ていて、初めて見た人には衝撃を与えるでしょうし、何度見ても想像を超えるステージングはゾクゾクします。みなさんにとってライブとは何ですか?
尾形:生き様ですね。何もかもが滲み出ちゃいますからね。
武田:僕は日常を控えめに生きるよう心がけておりまして、自分が必死になっている姿はあまり人様に見られたくないのですが、ライブは、そういうものをすべて排除して、全身全霊超全力、俺最高状態になることができる唯一の場所です。なので連日ライブがあると、毎日俺最高状態になってしまうので注意が必要ですね。
三橋:ライブ=バンドの原動力だと思います。最高のライブをするために最高の曲を作りたいですね。
宮野:たくさんの人の前で必死になることってのは、もの凄く大事なことだと思ってます。アスリートの試合に懸ける気持ちは本当に見習いたいな。
── 『はっきよい.ep』にはボーナストラックとしてベスト盤的ライブ音源も収録されますが、まだライブを見たことがない人はライブを想像して、その想像をはるかに超えるエネルギーのライブをぜひ見に来てほしいですね。そして今回、11月21日に渋谷 TSUTAYA O-CRESTでレコ発ワンマンがあって、名古屋と大阪でもレコ発の開催が予定されています。このレコ発ライブの意気込みを聞かせてください。
尾形:やはりロックの現場を生で体験してほしいですね。HEREのライブは他のバンドには絶対にない過剰なロックが渦巻いてますから!
武田:年に一度のワンマンはもちろん、名古屋大阪もHERE主催ということで、やりすぎる系なイベントになること間違いなしです。俺最高状態の僕を、今まで以上に多くの方に見ていただきたいです。
宮野:普段のライブでは聴けないような珍しい曲が聴ける唯一のチャンスなので、必ず来てくださいね。絶対に損はさせないよ!
── 最後に、あと2ヶ月もすると2016年がやって来ますが、今後の活動の展望を聞かせてください。
尾形:来年はより活発にロックしたいです! ライブもたくさんやりたいし、新曲もガンガン発表したいです! もう死ぬくらいロックしたい!
宮野:そろそろワンマンも、年1回でなくてもいいかなって思ってますよ。いろんな意味で大きく景色を変えていきたいな!