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INTERVIEW

トップインタビュー『戦場ぬ止み(いくさばぬとぅどぅみ)』三上智恵監督インタビュー(Rooftop2015年6月号)

沖縄で今、何が起きているのか? 『標的の村』三上智恵監督が沖縄の決意を日本に、そして世界に問う、衝撃のドキュメンタリー映画『戦場ぬ止み(いくさばぬとぅどぅみ)』が緊急公開決定! 

2015.05.23

 2014年8月14日、辺野古沖は「包囲」された。
 普天間基地の代替施設という名目で、サンゴとジュゴンの最後の楽園と呼ばれる辺野古の海が埋め立てられ、最新のアメリカ軍基地が作られようとしている。基地建設に抗議するわずか4隻の船と20艇のカヌー隊を制圧するため、日本政府は機関砲を装備した大型巡視船を投入し、防衛局と海上保安庁の80隻以上の大船団が大浦湾を包囲した。その異様な光景を見た一人の沖縄の青年は「これはまるで戦争だ」とつぶやいた。
 キャンプ・シュワブゲート前では、工事車両をなんとか止めようと多くの市民が座り込みを続けている。市民の前に立ちはだかるのは沖縄県警と民間警備会社。基地を作るのは日本政府だが、沖縄県民同士が対立しぶつかり合っているのだ。資材を積んだトラックの前に85歳のおばあが立ちふさがる。「私を轢き殺してから行きなさい」
 昨年7月から米軍基地ゲートの前で始まった沖縄・辺野古の基地建設反対の座り込み抗議は、11月の県知事選になるとオール沖縄の「島ぐるみ闘争」に発展し、基地建設に反対する翁長雄志が圧勝した。しかし、こうした沖縄の民意を一切無視するかのごとく、日本政府は県知事選の3日後に海上工事を再開し「粛々と」続けられている。
 一体、沖縄で今、何が起きているのか?
 映画『標的の村』で、高江のヘリパッド建設に反対する住民が通行妨害で国から訴えられるという前代未聞のSLAPP訴訟と、オスプレイ配備に反対する市民による普天間基地のゲート封鎖の攻防をドキュメンタリー作品として世に問い、日本中で議論を呼び起こした三上智恵監督が、現在、辺野古の海とゲート前で起こっている激しい衝突を記録し、再び世界に向けて発信したのが映画『戦場ぬ止み(いくさばぬとぅどぅみ)』だ。基地問題を20年間にわたって取材し続けてきた三上監督にとってこの映画は「沖縄の負担を減らして欲しいなどという生やさしいものではない」と言う。沖縄の人達が国と全面対決してでも止めたいのは、日本で息を吹き返そうとしている「戦争」そのものであると。
 国会では今、集団的自衛権の行使を可能にする法案が審議されているが、戦争に翻弄され続けた70年に終止符を打ちたいと願う沖縄の姿を、今こそすべての国民は正視すべきではないだろうか。東京での緊急先行上映を目前に控えた三上監督に映画に込めた思いを語っていただいた。
(インタビュー:加藤梅造 / 写真:(c)2015『戦場ぬ止み』製作委員会)

映画を観た人は、ちゃんと受け止めて動いてくれるし広めてくれる

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──『標的の村』はテレビ番組として制作され、その後ドキュメンタリー映画になりましたが、『戦場ぬ止み』は最初から映画として制作されたんですよね。

三上 私はずっとテレビで仕事をしてきたので、映画のドキュメンタリーを作ることの意味をあまり考えたことがなかったんです。『標的の村』を映画にして初めて思ったのは、今までニュースにしても番組にしても全然広がらなかった基地問題が、映画にしただけでなんでこんなに広がるんだろうと率直に驚きました。それまでテレビの視聴者と映画の観客との違いをわかってなかったというか、映画を観る人は選んで足を運んでくれただけに、ちゃんと受け止めて動いてくれるし広めてくれるんだと実感しました。みなさん凄いです。だから『標的の村』の次の作品は絶対に映画でやりたいと思っていました。

──映画に専念するためにQAB(琉球朝日放送)を昨年退社されたんですよね?

三上 専念するためというよりは、もう破れかぶれで辞めたというのが実態なんですが(笑)、2年ぐらい前からなんとなく辞めるだろうなと思っていて、辺野古のことは自主で撮り始めていたんですね。『標的の村』では、高江でヘリパッド建設反対の座り込みをしていた住民が通行妨害で訴えられるといういわゆる「SLAPP訴訟」(※大企業や政府が市民を恫喝するために起こす訴訟)を取り上げていますが、あれはもともと防衛省が辺野古移設の前にやったテストケースだったんです。これまで沖縄の住民が最後の抵抗の手段としてずっとやってきた座り込み。それさえも禁じ手にしてしまおうという防衛省の悪巧みを白日の下に晒して、二度とSLAPP訴訟という手を使えないようにしなければいけないというのが『標的の村』を作った大きな理由なので、辺野古を止めなければ高江の苦しみも終わらない。だから辺野古を撮るのは高江の延長線上のことで、単に『標的の村』の評判がよかったから続編を作ったわけではないんです。20年間ずっとこの問題に関わっているので、私にとっては必然ですね。
 
──本格的に撮り始めたのは、キャンプ・シュワブゲート前での座り込みが始まった昨年の7月7日からですか?
 
三上 もっと前からで、山城ヒロジさんの下手くそな船の練習のシーンは7月1日に撮ってます。もやい結びとか練習してるから、私が「え、今頃それやるんですか?」ってツッコミ入れてる所とか。映画ではカットしましたが(笑)。
 
──ゲート前は7月の段階から激しい衝突の場面が多いですよね。私も7月に辺野古に行ったんですが、たまたま映画にも出てくる「トラックの下に潜って車両の侵入を食い止めよう」という場面に居合わせて、これは大変な現場に来てしまったと思いました。
 
三上 それは貴重な場面に遭遇しましたね(笑)。ゲート前は最初から激しくなると予想していたので、誰が怪我しても、誰が逮捕されても抗議の正当性を自分のカメラで証明しないといけないと思ってずっと現場にいました。ただ予想外だったのは、85歳の島袋文子おばあが、まさかゲート前で座り込むとは思ってなかったし、ましてや工事トラックの前に立ちはだかるとは予想外でした。私が焚きつけちゃった面もあるかも知れないんですが、文子おばあがどんどん武闘派になっていって。(昨年11月機動隊との揉み合いの最中に)おばあが怪我しちゃった時には本当に後悔しました…。
 
──その翌日の場面ではゲート前で抗議する人達の激しい怒りがすごく伝わってきました。機動隊の方としては、三上さんにあまり撮影されたくないでしょうね。
 
三上 嫌がらせもありますよ。周りを囲まれて身動きが取れなくなるとか。彼らは屈強なのでどうあがいても外に出れないので「出してよー!」ってよく叫んでます。『標的の村』を撮った時と同じ(機動隊の)人もいるから、「あなた映ってたでしょ!映画観た?」って言いながら出してと叫ぶ(笑)。
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◆劇場公開情報
『戦場ぬ止み』
(いくさばぬとぅどぅみ)
監督:三上智恵 上映時間:129分
配給:東風
5月23日(土)より
東京・ポレポレ東中野にて緊急先行上映
【本上映】
7月11日(土)より
沖縄・桜坂劇場
ほか全国順次公開
 
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