最後の最後にあっちゃんが切り出した“告白”
──でも、最後の最後でまさかのクライマックスが訪れますよね。
ナリオ:1年半撮影してきた集大成のインタビューの時に、「メンバーにも、家族にも、恋人にも言ってない話をこれからするよ」とあっちゃんが切り出して、最後の最後に心を開いてくれたんです。その話を聞けた時にやっとすべてのパーツがつながったと思ったし、間違いない映画が出来た安堵感が生まれたんです。
ナボ:あの話が引き出せなかったらどうしてたの?
ナリオ:書き置きを残して実家に帰ってましたね(笑)。何と言うか、シリアスな作品を作りたかった僕の意向と、あっちゃんが告白してくれたことが最後にマッチしたってことなんでしょうね。ただ、あっちゃんはあの告白を映画に使わないほうがいいんじゃないか? って最後までずっと迷ってましたけど。
アツシ:酒の勢いって怖いですねぇ(笑)。でも、基本的に編集や仕上がりに僕が口出しするのは違うと思っていたので。
──全体の構成もよく練られていますよね。最初と最後が「なぜニューロティカを30年間続けてこれたのか?」というテーマでつながっていたり。
ナリオ:初めと終わりは絶対ああいう構成にしようと最初から考えてました。同じバンドを30年間続けてきた理由を僕も知りたかったので。
──バンドの過去の映像が思っていたよりも少なかったですが、それは意図的だったんですか。
ナボ:最初の段階ではニューロティカの歴史をもっと盛り込む予定もあったんだけど、結成25周年の時に歴代のメンバーや親交の深いバンドマンのコメントを挟んだヒストリーDVDを3巻作ったんですよ。それと被る部分が多いので、今回の映画は違う方向にしてもらったんです。
──あっちゃんに対してコメントする出演陣も豪華ですよね。宮藤官九郎さん、大槻ケンヂさん、綾小路翔さん、まちゃまちゃさんといった縁の深い方々があっちゃんの横顔にふれていて。
アツシ:主演男優が自らアポ取りしたんですけどね(笑)。ヘアメイクもスタイリストもいない、主演男優自ら請求書と領収書、お礼の手紙を書いて送るという日本映画史上初の記録を残しました(笑)。
──ホントにスーパーマンばりの活躍だったと(笑)。
ナボ:あっちゃんは夜もスーパーマンだからね(笑)。でも、俺もこの映画を通じて今まで知らなかったあっちゃんの日常を知れたところがかなりあるんですよ。20年近く一緒にバンドをやってきた俺ですら知らなかった部分がいっぱいあるってことは、お客さんにしたらもっといっぱいあるわけじゃないですか。あっちゃんを好きな人がこの映画を見たらもっと好きになるだろうし、これであっちゃんに新しい彼女が見つかれば言うことナシなんだけどねぇ(笑)。
アツシ:大丈夫! もういっぱいいるから!(笑)
──監督もこの映画を制作することであっちゃんの新たな一面を見た思いですか。
ナリオ:そうですね。ステージや打ち上げでのあっちゃんもよく知ってたし、誰からも愛される存在なのも僕なりに知ってたつもりでしたけど、ずっと密着して日常を共に過ごすことで「この人はホントに凄いな」と思ったんですよ。みんながあっちゃんを好きになる理由もよく分かったし、僕の人生にとっても凄く重要な人なんだなと感じましたね。
ナボ:あっちゃんが誰からも愛される理由っていうのは、この映画全体ににじみ出てるよね。それもこの映画で広めたかったことなんですよ。まぁ、あまり褒めるとイヤがるからこの辺にしておくけど(笑)。
──監督の言う“あっちゃんの凄さ”を具体的に聞かせていただけますか。
ナリオ:仕事をしながらバンドをやるのはどこにでもある話ですけど、あっちゃんはその密度が違うって言うか。バンドのリハーサルやレコーディング、営業やツアーの組み立てとかをギュッと詰め込んでやっているのに、お菓子屋の仕事も一切手を抜かないんですよね。前の日にどれだけ打ち上げで呑んでも次の日は早朝から仕入れに行くし、バンドも仕事も常に全力投球なんです。僕は自分に甘いタイプだから絶対にできないことだし、それがなおさら凄いなと思って。あと、あっちゃんは何かアクシデントが起きても絶対に他人のせいにしませんよね。
ナボ:この映画がコケたら俺のせいだって言われてるけどね(笑)。
アツシ:オフコース!(笑)
ナボ:これで動員がさっぱりだったら、俺は来年ニューロティカにいません(笑)。
アツシ:《CAMPFIRE》のお金を回収するまで、地方でマグロを獲ってきてもらおうかな(笑)。
夢に向かって突き進んでいる人は共感できる映画
アツシ:でも、ナリオもナボちゃんもそうやって持ち上げてくれるけど、自分としてはバンドマンなら誰しもやってることを普通にやってるに過ぎないんですよ。働きながらバンドをやるのは当たり前のことだし、バンドも仕事もやりがいがあるから全然苦じゃないし、両方ともみんなが喜んでくれるしね。みんなの喜びは自分の喜びだと思ってるし。
ナボ:だけど、50歳でこれだけバンドと仕事を両立させてる人は他にいないんじゃないかな? 20代、30代ならザラだろうけど、50代でバンドも仕事も未だにガンガンやってる人はあっちゃん以外いないと思う。
アツシ:精神年齢が25歳ですからね。みんな僕のことを50歳って言うけど、いつも25歳のつもりで20歳のお客さんに向けて唄ってるんですよ(笑)。
ナボ:……ホントに頭がイカレちゃってるんだね(笑)
──常に25歳のままの気持ちでいられる秘訣は何なんでしょう?
ナリオ:「女にモテたい」じゃないですか?
アツシ:オフコース!(笑)
──あっちゃんと同じようにバンドをやっている人は共鳴する部分が多いでしょうけど、仕事とは別のことに打ち込みながら働き続けている人たちも大いに元気をもらえる作品だと思うんですよね。
ナリオ:そう思います。アルバイトしながら演劇をやっているとか、カメラマンの道を志しているとか、何か大きな夢に向かって突き進んでいる人には共感してもらえるんじゃないですかね。
──テンポ良く場面展開していくぶん、泣く泣くカットした映像が膨大にあるんでしょうね。
ナリオ:出演者の方々がそれぞれ凄くいいことを言ってくれたんですが、時間の都合でほんのちょっとずつしか使えなかったんですよ。だからとても申し訳ない気持ちでいっぱいなんです。あっちゃんとお母さんのやり取りや歴代メンバーの証言でも使いたいところが他にたくさんあったんですけど、それはいつか《ディレクターズ・カット版》として日の目を見ることがあればいいなと思ってますね。
──カタルさんやRYOさん、JUNIORのGo!さんを始めとするOklahoma Drinkin' BANDが手がけたニューロティカの楽曲の映画音楽バージョンも聴き所ですが、チャラン・ポ・ランタンの「泣き顔ピエロ」というじんわりと沁み入る歌が劇中で効果的に使われているのがとても印象的でしたね。
アツシ:彼女たちが所属しているSMA(ソニー・ミュージックアーティスツ)のディレクターさんが古くからの知り合いで、「チャラン・ポ・ランタンがあっちゃんのために歌を書き下ろしたから、是非使って下さい」って言ってくれたんですよ。チャラン・ポ・ランタンの音楽は個人的にずっと大好きで、去年の正月にロフトでやったチャラン・ポ・ランタン主催のライブで初共演したんです。
ナボ:「泣き顔ピエロ」が流れる場面は、音と映像がバッチリ噛み合ってたよね。あれは監督の裁量の賜物ですよ。
アツシ:この間、avex trax(チャラン・ポ・ランタンの所属レーベル)の人と打ち合わせをした時にも「ホントに素晴らしい所で使っていただいて…」って感謝されましたからね。カタルやRYO君、Go!君が中心となったチームのインストも素晴らしいし、チャラン・ポ・ランタンの歌以外にThe Birthdayの「PIERROT」って曲を使わせてもらったのも良かったと思うんですよ。ミッシェル時代から続くチバ(ユウスケ)君と僕の関わり合いも含めたところで。ニューロティカの曲はもちろんですが、そういう映画ならではの音楽もじっくり聴いて欲しいです。
──あっちゃんはこの映画をどんな人たちに見て欲しいですか。
アツシ:とりあえず八王子市民には全員見てもらいたいですね(笑)。普段から僕がよく言ってるじゃないですか。「金は要らない、地位と名誉が欲しいだけ」って。この映画を見て、「《ふじや》の坊っちゃんは凄いんだ!」って言われてみたいです(笑)。
──「皆でイノウエアツシを漢にしてやりませんか?」というナボさんの当初の目論見は達成できた作品だと思うし、あっちゃんの魅力が存分に刻み込まれたこの映画が公開されたら、またモテ期が到来するんじゃないですか?(笑)
アツシ:ヒュ〜!(と口笛を吹く) これで「戸籍真っ白、お先真っ暗」な生活も一発逆転かな!?
ナボ:タイプじゃない女はこっちに回してね(笑)。
アツシ:オフコース!(笑)