ノイズの固定概念を易々とぶち壊したゆるめるモ!
──ようなぴさんは「nose no(i)se nose」で美川さんとノイズ・バトルを繰り広げていますが、なんでもお風邪を召していたそうで。
ようなぴ:そうなんです。ちょうど咳と鼻水が酷い時で、これは鼻をかむ音をノイズで入れるしかないと思って(笑)。そしたら本番になって意外と鼻水が治まっちゃって、あまり本領が発揮できなかったんです。一発録りだったし、ちょっと悔しい思いが残りましたね。
JOJO:美川さんが持ってきた機材に感動してましたよね。
ようなぴ:エフェクターとか、普通の楽器では使わないような機材がいっぱいあって驚きました。
──JUNKOさんのスクリーミングを間近で聴いて圧倒されませんでしたか。
もね:ちーぼうがJUNKOさんとバトルしたんですけど(「JCB68」)、ホントに凄かったですね。ちーぼうの声がどんどんかすれてきてるのに、JUNKOさんは全然声がかすれなくて。
──美川さんのプレイももの凄い迫力だったんじゃないかと思いますけど。
ようなぴ:見た目は凄く優しい人にしか見えないけど、出す音が凄すぎましたね。
JOJO:まぁ、「ちびでハゲ」ですけどね(笑)。
──ノイズと言っても、ただムチャクチャにやればいいというわけでもないだろうし、いろいろと試行錯誤されたんじゃないかと思うのですが。
もね:あまり深く考えず、その時に感じた通りに叩くようにしました。
ようなぴ:私は美大の授業で即興音楽をやった経験がちょっとあるんです。それを思い出して楽しくできましたね。
──即興演奏をやる授業があるって凄いですね。
ようなぴ:ヲノサトルさんっていう作曲家の先生のゼミを取ってたんです。
JOJO:だから素養があったんですね。みんなノイズのことはよく分からないと言ってますけど、ホントに何も分からない女の子にいきなりノイズをやってもらおうとしても何もできないですよ。それができちゃうってことは素養がある証拠ですよね。アイドルって歌や踊りはもちろん、喋りやコミュニケーションにも長けていて、マルチじゃないとやれないじゃないですか。だから瞬時に理解する対応力が優れているんだと思います。
──聴き所は多々あるのですが、タイトルトラックの「解体的交歓II」のオールスターによる怒濤のノイズ・セッションは度肝を抜く壮絶さですね。本作がこのトラックを残しておくための作品であると言っても過言じゃないくらいの即興演奏で。
JOJO:まるで宇宙の果てに飛び出すみたいなノイズで、ホントに凄い演奏ですね。後半の音の盛り上がり方とか、昨今のノイズ作品全般の中でもかなり素晴らしい水準だと思いますよ。
──資料によると、広重さんいわく「ゆるめるモ!はノイズの固定概念の壁を易々とぶち壊す術を教えてくれた」とのことですが、ゆるめるモ!がノイズの概念を突き破ることができたのはなぜなんでしょう。
JOJO:ひとつには、彼女たちがノイズのことをあまりよく分かっていなかったこと。それと若さ。「よく分かんないけどやっちゃえ!」って発想は年長の人よりも瞬発力がありますよね。あと、短期間でいろんなことを理解して吸収する素養は、ここ何年かのゆるめるモ!の活動の中で培ってきたものだと思うんです。彼女たちはそれに気がついてないかもしれないし、僕もまだ知り合って日が浅いですけど、みんな会うたびに凄く成長してるんですよ。今回のアルバムでの経験も彼女たちはすっかり吸収しただろうし、今度やる坂田 明さんとのライブも余裕でやれると思うんです。
──もねさんとようなぴさんは今回のレコーディングからどんなことを吸収できましたか。
もね:即興でノイズをやることの楽しさですかね。今まで何回かライブをご一緒して、共演すること自体は楽しかったんですけど、即興演奏に対してちょっと苦手意識があったんですよ。「即興でドラムをやんなきゃいけないのかぁ…」って(笑)。でもレコーディングをやってみて、意外と楽しいんだなって思いました。
真逆の世界をつなげて面白いことをやっていきたい
──自由奔放にやれることが楽しいと?
もね:いや、私は自由にやるのがけっこう苦手で。即興演奏って練習して臨むものじゃないから、練習できないのが逆に難しかったんです。
ようなぴ:私は逆に、感覚的にやるほうが好きなタイプなので、こういう即興演奏はこれからもっとやってみたいと思いましたね。機材に触るのも凄く面白かったし。
JOJO:もねちゃんは岡野(太)さんにドラムをちょっとコーチしてもらったんですけど、「才能があるから勉強したらいい」って言ってましたよ。
もね:ホントですか? 去年、Deerhoofが来日した時に共演させてもらって、ドラムの人(グレッグ・ソーニア)の演奏を見て、こんなに格好良くドラムを叩く人がいるんだ!? って思ったんですよ。
JOJO:Deerhoofのグレッグはもともと僕らのファンだったんです。昔、非常階段のアルバムをよく聴いてたとステージでも話してましたからね。そうやってどこかでいろんなことがつながってるものなんですよ。ゆるめるモ!がNEU!のオマージュをしていたことで僕らがつながれたように。
──毎年春恒例の「JAZZ非常階段」が、今年はゆるめるモ!と合体した「JAZZめるモ!階段」としてどんなライブをやるのかが楽しみですね。ゆるめるモ!がピットインのステージに立つのも痛快ですし。
JOJO:しかも坂田 明さんと一緒にやるっていうのがね。どこまでジャズを冒涜すれば気が済むんだ!? って感じで(笑)。何と言うか、限界を超えたいんですよ。真っ当にジャズをやってピットインに出ましたってことじゃなくて、「こんなやり方だってあるんじゃないか?」っていうのを見せたい。ノイズにしてもアイドルにしても、ひとつの考え方じゃなくていろんな切り口があってもいいと思うんです。そんなことをやっていれば、こんな世の中でも少しは希望が出てくるんじゃないかと思って。
──音楽ビジネスが斜陽産業と呼ばれて久しいですからね。
JOJO:少し角度を変えればいろんなことができるのを示していきたいんです。ゆるめるモ!がジャズの殿堂であるピットインに出られるなんて、去年の今頃は考えられなかったじゃないですか。でも、こうして共演を重ねて、アルバムを一緒に作ればお互いにいろんな可能性が増えてくる。
──コラボレーションの相性も良いし、これからも両者が共演する場がもっとあるといいですね。
JOJO:まぁ、彼女たちはアイドルが本業ですからね。この先メジャーに行かれて、アイドルとしてもっと躍進していかれると思うし、僕らはアウトサイド側の人間なので。ゆるめるモ!が今後本格的にブレイクしたら、今回のアルバムは彼女たちの黒歴史になるのかなと思ってるんですけど(笑)、それはそれでいいかなと。
もね:ゆるめるモ!のお客さんは好奇心旺盛な人が多いから、これまでの非常階段との共演も凄く楽しんでくれたんですよ。新しい音楽に触れられたって人もいたし、もともとノイズに詳しい人もいるし。
JOJO:アイドルのお客さんは耳が自由なんです。生粋のフリージャズ・ファン、ノイズ・ファンのほうがよっぽど閉塞的で、アイドルとノイズの融合を見下す傾向にありますね。それに比べてアイドルのファンはアヴァンギャルドも聴くし、ロックも聴くし、自由に音楽を聴くのを楽しんでいる。『解体的交歓』のジャケットは高柳昌行と阿部薫の『解体的交感』のパロディなんですけど、フリージャズとアイドルって対極にあるじゃないですか。そういう真逆の世界をつなげて面白いことをやっていきたいんです。
──異種交配を重ねることでノイズの可能性をもっと広げていけますしね。
JOJO:自分たちを凌駕するくらいのノイズ・バンドが全然出てこないのに、“ノイズの王様”と言われてるのがつまらないんですよ。僕らの世界には純粋にノイズを突き詰めるほうが正しいみたいな風潮があるけど、それよりももねちゃんとあのちゃんと一緒に語りのトラックを作ったりするほうが痛快なんですね。こんな作品がメジャーから出るのも痛快ですしね。これで『JOJO広重を武道館に連れてって』が実現すれば、もっと痛快なんですけど(笑)。
もね:5月の赤坂ブリッツのワンマンまでは今のところゲストでお連れできそうですね(笑)。
JOJO:ゆるめるモ!は海外のアヴァンギャルド・シーンでも凄く受けるはずなので、タイミングが合えば是非お連れしたいんですよね。
ようなぴ:『ゆるめるモ!を海外に連れてって』ですね(笑)。
JOJO:じゃあ、武道館と交換条件にしましょうか(笑)。