海外のエンジニアも絶賛した楽曲のクオリティ
──今回の収録曲は割とミディアム調のじっくり聴かせる感じの曲が多くて、一撃必殺でスカッとする「グリース・ミー」タイプの曲は意外と少ないですよね。
KOZZY:アッパーな感じの曲もいっぱい用意したんだけど、今回は入れるのを見送ったのがけっこうあってね。
──2曲目の「ノーバディ・ガール」はそれこそ『ヘルプ! 〜4人はアイドル〜』のA面にありそうな曲ですけど、こういう歌と演奏が淡々と進んでいく感じの曲って今までにありそうでなかったですよね。
KOZZY:うん、なかったね。
BIKE BOY:「ノーバディ・ガール」は『狂騒天国』の時からありましたよね?
TOMMY:あった。けっこうハードルの高い曲なんだよ。
KOZZY:淡々と演奏するには凄い集中力が要るからね。「ノーバディ・ガール」をやってみて、ビートルズって若いのに凄いスキルなんだなと改めて思ったよ。
BIKE BOY:曲のなかにポイントみたいなものがないし、余計なことをやっちゃいけないような雰囲気がありましたからね。
KOZZY:レコーディング・エンジニアのリチャード(・ロビンソン)はこの「ノーバディ・ガール」をベタ褒めしてたけどね。「この曲はシングルだ! 最高だよ、このサウンドは! ドアーズみたいだ!」って。どこかドアーズなんだろう? と思ったけど(笑)。
──ドアーズっぽいと言えば、グルーヴィーなオルガンの音色が印象的な「グロリア」もユニークな曲ですね。「ゼムのあの『グロリア』か?」と思いながら聴いていると、サビで申し訳程度に「グロ〜リア」と唄われていて(笑)。
KOZZY:一応唄ってはいるよね(笑)。レコーディングの時からオルガンの音が入ってないのに頭のなかで聴こえてたから、日本に帰ってからミッキー・スリム・マック(伊東ミキオ)に音を入れてもらったんだよ。3分も掛からずにあの音色を出してたからね。「これでしょ?」って。
──エンジニアのリチャードさんからアドバイスをもらったりもしたんですか。
KOZZY:特になかったかな。どの曲もだいたい2、3テイク録って、「さっきのほうが良かったかな」ぐらいのことは言われたけど、基本的に口数の少ない人だから。かなりいいテイクが録れるとハグされたけどね。仕事が早くて的確だし、まさにスーパー・エンジニアだった。リチャードは40年以上のキャリアがあるし、ローリング・ストーンズのアシスタントに就いたこともあるぐらいだしね。
──「ティミー」と「ラスト・ウィークエンド」というロッカ・バラード系の曲がひとつの作品に2曲も入っているのは珍しいですよね。
KOZZY:しっとりとした歌が最後に1曲入ってるのがいつものパターンだからね。一番最後の「ラスト・ウィークエンド」は2回ぐらいしか演奏してなくて、歌もそのまんまなんだよ。ギター・ソロも最初に入れたから、バッキングだけ後から入れた感じでね。
BIKE BOY:「ティミー」も去年からありましたよね。
KOZZY:そうそう。スローな曲をやるとドラムの響きやタイム感、部屋の鳴りが大事になってくるので、このスタジオ(Rocksville Studio One)で録るのはムリだったんだよ。そういう持ち越しになった曲と新曲をL.A.に持って行って、音決めにセルフカバーなんかもやりつつ、それを全部録ってから最終的に13曲を絞り込んだ感じかな。
BIKE BOY:セルフカバーをやったのは、ウォーミング・アップと目を覚ますのを兼ねて(笑)。
KOZZY:今回のスロー・ナンバーを「ティミー」と「ラスト・ウィークエンド」のどっちにするか最後のほうまで悩んでたんだけど、両方あってもいいかなと思ってね。って言うのも、今回はトミーがメインで唄ってるのが「リメンバー・ユー」っていうミディアム系の地味な曲でさ(笑)。
TOMMY:おとなしめの曲をしれーっと唄ってるね(笑)。
KOZZY:最終的な曲のラインナップはミディアム系の曲が多かったので、似た感じの曲があっても別にいいんじゃないかと思って。「あの娘はバタフライ」と「今夜はリーヴ・ミー」もどちらもミディアム・テンポで夏の恋を唄った曲だったけど、それも両方入れちゃうかと。ちなみに「リメンバー・ユー」はバイクボーイが唄う選択肢もあったんだけど、ドラムを叩きながら唄うならハッピーな感じの「恋はハンキー・パンキー」のほうがいいかなと思ったんだよね。
BIKE BOY:僕は「リメンバー・ユー」みたいにゆっくりな歌は唄えませんからね。スピードでごまかさないとダメなんで(笑)。
──「恋はハンキー・パンキー」の「インをアウトしよう」ってフレーズ、意味がよく分からないけど最高だなと思ったんですよね。
KOZZY:まぁ、「恋はハンキー・パンキー」ってタイトル自体が何だそれ!? って感じだからね(笑)。
引っかかりのあるとんでもない歌詞を作りたい
──歌詞のことで言うと、「彼女はナンバー・ワン」の「She is a メリケン・ガール」、「She was a ヤンキー・ガール」という言葉を出してくるセンスもコージーさんならではで凄いなと思って。もの凄く異物感のある言葉を大マジメにコーラスまでしていて(笑)。
KOZZY:まさに何じゃこれ!? だよね(笑)。「彼女はナンバー・ワン」は3人で交互に唄ってるんだけど、それぞれのイメージに合った言葉をチョイスしてるんだよ。トミーが唄うパートならやっぱり「ヤンキー」だろうとかさ(笑)。
──「恋はハンキー・パンキー」もそうだし、「彼女はナンバー・ワン」のバイクボーイさんのパートもそうなんですけど、バイクボーイさんが唄うともの凄く頭の悪そうな感じが出ていいんですよね(笑)。何とも憎めないおかしなニュアンスもあって。あんなに甘くて伸びやかな歌声なのに、なんでそう聴こえるのかが不思議で。
KOZZY:ある種の演出なのかな。本人は至って普通に唄ってるだけなんだけど(笑)。
BIKE BOY:僕はちょっととぼけた感じの唄い方が好きなんですよ。聴く人みんなの頭に「?」が付く感じの。ホントは三枚目キャラなのに、二枚目キャラみたいにカッコつけたことを言うのも好きだし。
KOZZY:まぁ、それを声だけで表現できるっていうのはひとつの才能かもしれないな。
──それも言葉との相性じゃないですかね。バイクボーイさんが「メリケン・ガール」と唄うと相乗効果で面白く聴こえるっていう。そういうコージーさんの詞のユニークさは「いかしたスキニー・タイト」にもあって、「俺のスキニー・タイト」って詞はまだ分かるんですけど、ちょっと助詞を変えた「俺をスキニー・タイト」って何じゃそれ!? じゃないですか(笑)。でも音に乗ると何だか面白くて伝わるところもある。
KOZZY:ロックンロールにはそういうヘンなことを唄ってるのが多いよね。日本盤の訳詞を見ると、「俺をそこら辺にいる農民だと思ってるんだろ?」みたいな一文があったりして(笑)。そういう引っかかりのあるとんでもない詞が好きだし、そんな詞を作りたいと普段から思ってるんだよ。だからなのか、今回は歌詞にけっこう時間が掛かったんだよね。別に大したことを唄ってるわけじゃないんだけど、歌詞もアレンジのひとつみたいなところがあるからね。
──トミーさんが歌詞に携わることはないんですか。
TOMMY:僕は基本的に歌詞が書けないんだけど、コージーからキーワードを出してくれって言われて、いくつか思いついた言葉をメールで送るぐらい。
──今回の収録曲で採用された言葉は?
TOMMY:(歌詞カードを見ながら)あ、「あの娘はバタフライ」で「ファントム」って言葉が使われてる(笑)。
KOZZY:「あの娘はバタフライ」ってタイトルはトミーが変えたんだよ。最初は「バタフライ」だけだったんだけど、「『あの娘はバタフライ』のほうがいいんじゃない?」ってトミーに言われてね。あと、トミーとバイクボーイに歌詞を任せた曲があって、2人が頑張って一晩かけて作ってきた歌詞をスルーして、全然違う歌詞に変えたこともあったな(笑)。
──バイクボーイさんが挙げたキーワードで採用されたのはあるんですか。
BIKE BOY:今年はないですね(笑)。最後の最後にひとつ出して、一度は採用されてコージーさんに唄ってもらえたんですよ。でも最終的には違う言葉に変わってました(笑)。
KOZZY:採用されたかどうかは本人もリリースまで分からないっていうね(笑)。
──「DRIVE ME CRAZY」は、ノンストップ・ミックスCDともB.A.D RECORDS UNITEDのコンピレーションとも違うバージョンですよね。
KOZZY:録り直してるね。ミッキーにピアノも入れてもらったし。「グロリア」のオルガンを弾きにせっかくスタジオまで来たんだから、ついでにこれも弾いてよって頼んで(笑)。そもそもこの「DRIVE ME CRAZY」はノンストップ・ミックスCD用に書き下ろした曲で、企画ありきでインスタントに作れちゃう良さがマックショウにはあるよね。最初は新曲なんて作る予定は全くなかったんだけど、せっかくだから作ってみるかと思ったらすぐに出来ちゃった。それが僕らにとって最も得意とするところだし、作る側も聴く側もそういうゴキゲンなロックンロールを楽しむのが健康的でいいじゃないかっていうのが今回のアルバムのテーマにつながってるんじゃないかな。とは言え、「ノーバディ・ガール」や「ティミー」みたいに一度寝かしておいた曲も今回は多かったけどね。
BIKE BOY:1年間熟成させておいた感じの曲が。
KOZZY:1年寝かせて渋くなることもあるし、逆に初々しさを取り戻すこともあるんだけど、要は響きがすべてなんだよね。3人で「せーの!」でやってみて、その場の響きの善し悪しがすべて。