バンドの原点に立ち返り、結成以来初めてメンバー3人だけで全編千本ノック式レコーディングを敢行した前作『狂騒天国』の発表から1年と3ヶ月。世界に誇る純国産ロックンロール・バンド、ザ・マックショウの通算11作目となるオリジナル作品『スリー・ホット・ミニッツ 〜3人はアイドル〜』が遂に完成した。
完全無欠のアナログ・テープ一発録音というここ数年来不動のエチケットに則った彼らが今回標榜したのは、わずか3分間で"Hot"になれるクイックでインスタントなロックンロール。3分間にすべてを懸け、己の持ち得るありったけのハートとスキルを注ぎ込んだグッときちゃうロックンロールだ。それは何も彼らがやっつけ仕事で作品を仕上げたということではない。逆である。旨味成分が凝縮したロックンロールをインスタントに生み出すにはそれ相応の経験と知識と技術とセンスが不可欠であり、簡単なものほど作るのは難しい。そもそも聴き手を選ばず、誰もが踊れて笑えて、泣けて唄えるシンガロング・スタイルのロックンロールを12年間やり続けていること自体が驚異なのだ。
この『スリー・ホット・ミニッツ』は、3コードのシンプルな純和製ロックンロールにまだまだ可能性があること、極上のロックンロールには3分間の夢を見られる魔法があることを雄弁に物語る作品であり、一見軽妙だが実に奥深い世界基準の入魂作なのである。(interview:椎名宗之)
雨に祟られた広島の“超・神田ナイト”
──新作の話の前に、広島と千葉で開催された『キャノンボールフェスティバル2014』についてお聞きしたいのですが、ロックとクルマとバイク、東日本大震災義援金のためのチャリティをキーワードにしたこのイベントは、トミーさんの発案だったんですよね。
TOMMY MACK(b, vo):うん。定期的にやってる『神田ナイト』のスケールアップ版をド派手にやってみたいと何年か前から思ってたんだよね。1年がかりの準備で何とか開催に漕ぎ着けたんだけど。
KOZZY MACK(vo, g):どうせやるなら、クルマやバイクも集まる総合的なイベントにすると面白いんじゃない? と僕が提案して、結果的に大掛かりなイベントになっちゃったんだよ。
──イベントのタイトルは、広島にある観音町からイメージして命名されたそうですね。
KOZZY:そう。僕とトミーの地元のね。
BIKE BOY:あ、そうなんですか? 今知りました(笑)。
TOMMY:地元の連中は、特に説明しなくても分かってくれてたよ。「観音だからキャノンなんですよね?」って言ってたヤツがけっこういた(笑)。
KOZZY:まぁ、実際にやってみたら大変だったけどね。僕とトミーは広島の2日間で4バンドぐらいやらなくちゃいけなかったからさ。マックショウはトリで、急に雨が降ってきたしね。
BIKE BOY:マックショウのステージが始まった途端に台風が来たんですよ。
KOZZY:僕はもう「早く中止にならないかな?」って思ってたんだけど(笑)。台風が近寄ったり離れたりの繰り返しで、お客さんの「早く終わって欲しい」って思いと「最後まで見たい」って思いが相撲みたいに押し合いになってたんじゃないかな?(笑)
──本来なら、その『キャノンボールフェスティバル2014』の開催に合わせて新作を発表する予定だったんですか。
TOMMY:いや、ホントはそれよりも前にリリースするはずだった。
KOZZY:最初は9月を目指してたんだけどね。
──特典のDVDを見ると、カリフォルニアでレコーディングをしていたのは6月でしたよね。それがどんな理由でここまで発売が遅れたんでしょう?
KOZZY:やっぱり万全の態勢を取らないといけないし、合間にコルツのライブを挟んでいたので、その準備もあったんだよね。昔みたいに両方いっぺんに進めるわけにいかないって言うか、うどんとカレーの両方は食えないって言うかさ(笑)。
TOMMY:昔は余裕で食えてたんだけどね(笑)。
KOZZY:何ならカレーライスとカレーうどんでも食えてた(笑)。まぁ、今回は過密スケジュールと年齢的なものがリンクしちゃった感じかな。
──とは言え、カリフォルニアでベーシックな部分はすでに録り終えてあったんですよね?
KOZZY:作業の半分ぐらいは録り終わってた。だったら早く出せよって感じだよね(笑)。でも、細かい部分で自分たちなりのこだわりがあって、ドラムの響きやドライブ感、完全に分離しきれてない音の混ざり具合までを納得いくものにしたかったんだよ。
──カリフォルニアではマックショウ御用達のスタジオで作業を?
KOZZY:「KINGSIZE SOUNDLABS」っていう、僕のソロ・アルバム(『THE ROOTS』)を録ったスタジオでね。広さは全然キングサイズじゃないんだけど(笑)、マックショウとしては初めて使った。
TOMMY:音が凄くいい所でね。
KOZZY:うん。ただの倉庫みたいな所なのに、音は凄くいいんだよ。マックショウでも「SUNSET SOUND RECORDERS」みたいに環境の素晴らしい名門スタジオを使ったことがあったけど、去年ソロで使ってみて、こういう倉庫を改造したような場所でも充分良くない? と思ってさ。日本で言えば、三軒茶屋のリハスタぐらいの値段で使えるしね。機材も一通り揃ってるし、まるで学校の帰りに立ち寄れるような気軽さがあるスタジオなんだよ。
3分で出来るカップ麺やレトルト・カレーのように
──前作『狂騒天国』では、この3人の歌と演奏だけでどこまで突き詰めたものができるかがコンセプトでしたが、今回のテーマはどんなことだったんですか。
KOZZY:前回同様、3人だけでどこまでやれるのかっていうのと、タイトルにもあるように“Hot”で気分の上がるものを作りたかった。『狂騒天国』はああ見えてけっこう緻密な作りをしていて、3人で顔を突き合わせて全体のノリをよく考えて録ってたから、それとは違うベクトルで行きたかったんだよね。あまり頭でっかちにならずに、3分間で“Hot”になれるシンプルな3コードのロックンロールをやりたかったし、もうそんな細かいことにこだわらなくても気持ちが上がる曲なら何でもいいじゃん! って言うかさ。その代わり、曲はL.A.で20曲以上録ってきて、日本に帰ってきてから吟味して選んだんだよ。
──マックショウほどのキャリアがあれば、ただ曲を作るだけなら朝飯前なんでしょうけど、3分間の至高のロックンロールを生み出すハードルは年々高くなっているじゃないですか。だからそれ相応の時間と労力が掛かるのは致し方ない部分もあるんじゃないかと思って。
KOZZY:3分で出来るカップ麺やレトルトのカレーって、実は凄く緻密な計算の上で作られてるからね。それと似てる。アメリカに行くと余計にそんなことを痛感するし、何でも3分で出来ちゃう日本のインスタント食品の凄さを実感するんだよ。向こうのスーパーに行くと、日本のインスタント食品はちょっと高い棚に陳列されてるからね。日清のカップヌードルは向こうじゃジャパニーズ・ヌードルとして完全に認知されてるしさ。
──しかも、何十年にもわたって世界中で愛され続けているロングセラー商品でもあると。そんな日本のインスタント食品になぞらえて、マックショウもわずか3分間で気持ちを昂揚させるロックンロールばかりを集めた作品集を作ってみようとしたわけですね。
KOZZY:そう、それで『スリー・ホット・ミニッツ』というタイトルのアルバムにしようと思った。でも、いざそれだけインスタントなロックンロールを作ってみようと思ってもなかなか難しくてね。たとえばダビングなんてろくにできやしない時代のレコードには、誰も勝てないような迫力があったりするじゃない? それには相当なリハーサルや経験を積んでいたり、周到な準備と緻密な努力があったはずなんだよ。今回はそういうプロセスを含めてレコーディングに臨みたかったんだよね。それが一番の課題だった。もちろん今までもそうやってきたんだけど、『狂騒天国』の時は楽曲をもっと磨き上げたり、アレンジや歌を研ぎ澄ませてみたりすることに重心を置きつつ、尚かつスピーディーに聴かせるのがテーマだったわけ。
──コンセプトが固まったのはどの曲が出来てからだったんですか。
KOZZY:どの曲も最初は分数が割と長かったんだよ。最後の「ラスト・ウィークエンド」も長かったからつまむことにしたし、最初の「スリー・ホット・ミニッツ」もどんどんつまんでいったら「これはもう歌がないほうがいいよね?」ってことでインストになった。最初は歌を入れる予定だったんだけどね。インストはマックショウとしては初になるのかな。面白いことに、歌がないほうが言わんとしてることが伝わる時もあるんだよね。
──キー・ヴィジュアルであるジャケットのデザインを初めて見た時、音を聴く前から「マックショウはこれでまた自己最高記録を更新したな」と確信したんですよ。錆びた昭和のホーロー看板、そこに描かれた各種ロックンロール配合の『スリー・ホット・ミニッツ』。それだけでもう最高じゃないですか。マックショウはそういうヴィジュアルやイメージが時に音楽以上に大事だったりするわけで。
KOZZY:確かに。アルバムのタイトルもなかなか決まらなかったし、音とヴィジュアルのイメージが上手いこと一致するまでに3ヶ月ぐらい掛かったんだよね。僕としては、聴いてくれる人に元気を出して欲しかったんだよ。それで元気ハツラツな炭酸栄養ドリンクを連想したわけ(笑)。