どん底を経験したからこそ今のPERSONZがある
──『ALL TIME BEST』でPERSONZを知った若いリスナーには最新型のバンドの新作も是非聴いてほしいところなんですが、20作目となるオリジナル・アルバムの構想はすでにあるのでしょうか。
JILL:作りたい曲は私のなかでありますけど、次に作るアルバムはおそらくバンド・サウンドにこだわったものになりそうな気がします。ただその前に、こうしてベスト・アルバムを出す以上は今度のツアーはそれに即した内容にしたいし、今の流れと噛み合った時期を見極めて制作に入りたいですね。
渡邉:JILLさんの言う通り、今はバンドっぽいものを作りたい気持ちがありますね。バンドなんだからバンドっぽくなるのは当たり前なんですけど、バンドというのは本来こういうサウンドかつアンサンブルなんだというのをもっとダイレクトに伝えたいんです。ライブをやっているとPERSONZの持ち味はこれだな! と思える瞬間が何回かあるんですけど、それをなかなか上手くパッケージ化できないんですよ。バンドの旨味がギュッと凝縮した部分みたいなものが。
JILL:12ヶ月連続でリリースしたシングル(『LIMITED SINGLES 12』、2011年1月〜12月発表)からもう3年経つし、次にアルバムを作る時はメンバーそれぞれのモチベーションも高まっていると思うんですよ。あのシングルを出して以降、私は新曲を1曲作っているんです。その曲をレコーディングしたら、凄く唄いやすかったんですよね。ずっと身体のトレーニングを続けているのもあると思うんですけど、今まではライブと全然違ってレコーディングは唄いにくいものだったんです。こんなにレコーディングって面白いんだ! という新たな発見があったので、今はレコーディングでいっぱい唄ってみたいんですよ。
──震災以降、JILLさんが描きたい歌のテーマもだいぶ焦点が絞れてきたんじゃないかと思うのですが。
JILL:震災は大きかったですね。音楽が果たす役割について考えざるを得なかったので。たとえば「どこまでも突っ走っていこうぜ!」みたいに元気な歌をずっと唄い続けようと思えばやれるんでしょうけど、歳を重ねるにつれて人生の重みを感じたりするわけですよ。だから今は聴いてくれる人たちの気持ちが少しでも楽になれるような歌を唄いたいんです。
──この間の『a-nation island〜』でも最後に「DEAR FRIENDS」が披露されて、JILLさんが「夢は必ず叶います! ついてきてください!」というMCで締めたじゃないですか。こんな閉塞した時代だからこそ、音楽を通じて夢や希望の大切さを投げかけるPERSONZみたいなバンドは貴重な存在だと思うんですよね。
JILL:今までずっとバンドを続けてこれたからこそ、夢や希望を唄える部分があるんですよ。「夢なんてもう追えないのかな?」と思った時期もあったけど、そこを何とか諦めずに音楽を続けてきたから「夢は必ず叶う」と信じることができるし、胸を張って伝えられる。そして30周年を迎えたPERSONZにとって今の夢は武道館のステージに立つこと。今のPERSONZはこれを実現しなくちゃダメだよね! っていう意識があるんですよ。
──JILLさんの言う「夢はもう追えないのかな?」と思った時期というのは、『ALL TIME BEST』の収録曲で言えばどの辺りだったんですか。
JILL:「見たこともない空の下で」の頃ですかね。それまでの事務所から独立して、バンド内の状況が上手く回っていなかった時。でも悪い状況から学べたことも多かったし、それを乗り越えて本田君が戻ってきてからはバンドをやるのがまた純粋に楽しくなりましたね。テイチクやEMI時代のいい時期で終わっていたら味わえなかったどん底の経験だったけど、その経験がなければ今日までPERSONZが続くことはなかったかもしれない。
時代の変化をその都度どう受け止めていくかが大切
──そもそもメジャー・デビューにあたってテイチクを選んだのはどんな理由からだったんですか。
JILL:いろんなレコード会社の人たちがライブを見に来てくれたんですけど、大概のディレクターは途中で帰っちゃうんですよ。そのなかで唯一、テイチクのディレクターだけが残ってくれたんです。
渡邉:後で聞いたら、そのテイチクのディレクターも途中で帰ろうかなと思ったらしいんですけどね(笑)。
JILL:でも、アンコールを見て「よし、これだ!」と感じたそうなんです。当時のPERSONZはライブの立ち上がりが遅かったんですね。スロー・スターターって言うか。
渡邉:その頃もアンコールで「DEAR FRIENDS」をやっていて、それにピンと来たみたいで。
JILL:ちょうどテイチクがBAIDISレーベルを立ち上げる時で、私たちはその第1号バンドだったんですよ。PERSONZの後がSIONだったのかな。ロックの専門レーベルで、SHADY DOLLSとかKATZEとかもいて。当時の事務所がレーベル最初のバンドっていうのにやけに乗り気で、デビューするならテイチクだ! と息巻いていたんです(笑)。
──BAIDISもその一翼を担っていた当時のバンド・ブームを皆さんはどう捉えていますか。
渡邉:特に気に留めてはいなかったですね。“イカ天”でブームになったのは僕らがデビューした後だったし。
JILL:ブームに巻き込まれていたのは確かだし、自分たちの作品が何万枚も売れたのはその恩恵を受けていたわけですよ。ただ、バンドの真価が問われるのはブームが過ぎ去った後ですよね。長く音楽を続けるということは、それだけ時代の波と向き合わなくちゃいけない。熱心に応援してくれていた人が離れていくこともあるし、時代と共に音楽業界も移り行くし、山あり谷ありじゃないですか。そこで生半可な気持ちでバンドをやっていれば解散してしまうだろうし、時代の変化をその都度どう受け止めていくかが大切なんですよ。PERSONZはそこを4人で助け合ってやってきたし、こうして歳を重ねてきても尚、私たちは現状に甘んじることなくもっと上を目指したいんです。
──その一環として、今は武道館を目指していると。
JILL:今の若いバンドは割とデビューしてすぐに武道館でライブができたりするし、武道館がステップ・アップしていく場所の頂点という認識が薄いのかもしれないけど、私たちの世代には海外のバンドが華々しいライブをやるロックの殿堂なんですよ。それに、「ライブハウス武道館へようこそ!」という名MCを残した人がいましたけど(笑)、やる側にとっては本当にライブハウスみたいにやりやすい場所なんです。すり鉢状になっているから客席も近くに感じるし。今はアイドルでも普通にライブをやれる場所になっちゃったけど、自力で武道館でライブをやるブームが来ればいいのになと思いますね(笑)。
──PERSONZが1990年4月以来、四半世紀を経て武道館のステージに立つことの意味は凄く重いですよね。
JILL:今回のチャンレンジも、最初は全然相手にしてもらえなかったんです。藤田(勉)君はとても冷静で、渡邉君に「お前、いくらお金がかかるか分かってるのか!?」なんて言っていたくらいで(笑)。でも、私たちが「武道館を目指します!」と宣言したら、特に同世代のファンの人たちが「行きます!」と盛り上がってくれたんですよ。ただ、「今度のツアーには参加できないけど武道館には行きます!」って言われることがあって、ちょっと待ってよと。武道館に向けてのツアーもちゃんと来てよ! と思うわけですよ(笑)。この間のLOFTから始まって、今度のツアーがあって、その先にゴールの武道館があるという道順なんですから。
──これでいざ2度目の武道館公演が実現したら、抜け殻みたいになったりしませんか?(笑)
JILL:いや、私にはすでに構想があって、毎年武道館でライブをやろうと思っているんです。それくらいの大きな夢を持たないと、バンドは持続できないんですよ。2度目の武道館をやってお客さんがちゃんと来てくれたら、毎年できるはずじゃないですか。そのことをしっかり念頭に置いて武道館に臨むつもりなんです。
──まずはその助走として、間もなく始まるツアーに参加して夢を一緒に実現させましょう、ということで。
渡邉:その部分を太字にしておいて下さい(笑)。まだはっきりと断言はできませんけど、これだけ細かく回るライブハウス・ツアーはこの先やらなくなるような気もするので。
JILL:これが最後のスタンディング・ツアーになると言っておきましょうか(笑)。今度のツアーにはファンを巻き込んだ面白い趣向があって、“COPY ACT”というPERSONZのコピー・バンドがオープニングで参加してくれるんです。凄くレベルの高いバンドもいるし、この企画のためだけに組んだバンドも初々しいし、手前味噌だけど凄くいい企画だなと思って。他にも小学生の男の子がボーカルの親子でやっているバンドがいたり、私たちのファンも親子二世代にわたるようになったのかと思うと感慨深いですよ。そうやってずっと応援し続けてくれるファンのみんなと秋のツアーを回った上で、来年武道館で一緒に夢を叶えられたら嬉しいですね。