今年結成30周年を迎え、7月には2日間にわたって『歴史はここから始まった...30YEARS 3HISTORY 3STAGE at 新宿LOFT』という揺籃期を過ごした場所で記念碑的なライブを敢行したPERSONZ。四半世紀を経て再び日本武道館のステージに立つことを目標にひた走る彼らが、結成から今日までの軌跡を補完した珠玉のベスト・アルバム『ALL TIME BEST』を発表する。メンバー自身が選曲に携わり、3社にまたがるレコード会社の楽曲がひとつの作品としてコンパイルされるのは初めてのことであり、これがメーカー3社による共同企画プロジェクトのリリース第1弾となる。30年間休むことなく現役を貫いてきたバンドの全貌を窺い知る格好のアイテムと言える同作品、間もなく始まる全国20ヶ所に及ぶ全国ツアー、そしてその先に見据えた武道館でのライブについて、JILLと渡邉貢に話を聞いた。(interview:椎名宗之)
30年の活動の流れを俯瞰できるアイテム
──今回の3社共同企画プロジェクトはどんな経緯で始まったんですか。
渡邉:事の発端としては、今年の3月にHMV限定でBAIDIS(テイチクエンタテインメント)時代のカタログがSHM-CDで再発されたんです。その流れで結成30周年を記念したアイテムを、テイチク、ユニバーサル、エイベックスの3社共同で作れたら面白いねとJILLさんと話していたんですよ。それで企画書を作ったら、OKをいただけたんです。
──再発を記念したHMVのインストアライブはどこも盛況だったそうですね。
JILL:かなり盛り上がりましたね。お陰様で曲の知名度は高いので、イオンモールみたいな大型のショッピングセンターでもたくさんの人たちが足を止めて見てくれるんですよ。今はちょっと音楽から離れているような人たちがああいう場所にはたくさんいるんですよね。
──BAIDIS時代の再発のセールス好調を受けて、EMI(現・ユニバーサルミュージック)時代のカタログも先だって復刻されましたね。
JILL:自分たちの旧譜が気がついたらほとんど廃盤になっていて、愕然としたんですよ。それで過去のアルバムをまとめて復刻してもらったんです。それとせっかくの30周年なので、何かメモリアル的な作品も出したくて。メジャー・デビュー10周年の時にはテイチク時代とEMI時代のライブ音源を収録した『PERSONZ COME ALIVE 1986〜1995』(1996年4月発表)という2枚組のライブ・アルバムを出してもらったんですけど、考えてみれば3社の音源がひとつにまとまったベスト・アルバムを今まで出したことがないなと思ったんです。これまで19枚のオリジナル・アルバムを出してきて、それらのエッセンスを凝縮したベストが欲しいなと。30年の活動の流れを俯瞰できるようなアイテムがね。
──それが3社共同企画プロジェクトの第1弾となる『ALL TIME BEST』であると。メンバーが選曲したベスト・アルバムは今回が初というのが意外ですよね。
渡邉:まぁ、ベスト・アルバムというのはメーカーとの契約が切れた後に出るのがよくあるケースですからね。
JILL:『singin'』(テイチクから出た初のベスト・アルバム。1992年12月発表)が出たのは本田(毅)君が脱退した後で、バンドがこの先どうなるか分からない時期だったんですよ。ベストを出す余裕も気力もなかった頃でね。
渡邉:最近じゃオリジナル・アルバムを数枚出しただけでベスト・アルバムを出すアーティストもいますけど、昔はそんな慣例なかったですからね。せめてオリジナルを10枚くらい出してからじゃないと、ベストを出すべきじゃないと思っていましたから。
JILL:テイチクから2枚組、3枚組のベストが出たこともあって(『PERSONZ BEST』1994年3月発表、『PERSONZ BEST II』1994年12月発表)、それにテイチク時代のほとんどの曲が入っていたんです。でもそれも、その後のEMIとエイベックスの時代、今に至るまではつながらないから、何とも消化不良なわけですよ。それが全部つながる作品が欲しかったんですよね。今回のベストを聴いて「こんな曲もあったのか!」と新鮮に感じる人もいるだろうし、自分で言うのもナンですけど、30曲も入っていてDVDまで付いて5,000円ちょっとって凄くお得だと思いますよ。
──30年のキャリアのなかから30曲を厳選するのは至難の業だったんじゃないですか?
渡邉:収まりどころのいい感じに落ち着いたんじゃないですかね。間違いない選曲だと思いますよ。
JILL:どの時代も均等に並べることが基本だったんです。初期の頃はシングル曲という基準で選んで、途中からその基準がなくなってからは各アルバムの代表曲を中心に選んでみたんですよ。ある程度の土台を固めて、あとはみんながコメントしたい曲を選んでみたりして。[註:ブックレットにはメンバーによる楽曲解説が掲載されている]旧譜の復刻や今回の『ALL TIME BEST』もそうなんですけど、メーカーの現場のスタッフがPERSONZを聴いていてくれた世代で、私たちの提案に凄くノッてくれるのが有り難いんですよね。
渡邉:課長クラスが特にね(笑)。
「LOFTでのライブはこれが最後かも」の真意
──それは凄く大きいですよね。8月の『a-nation island powered by inゼリー THE FIRE LEGEND 2014』も、出演が皆さんを始めZIGGY、DEEN、LINDBERG、相川七瀬さんという顔ぶれで、ブッキングしたのは間違いなくバンド・ブーム世代の方だろうなと思いましたし(笑)。
JILL:私たちやZIGGYは30年、他のバンドも20年以上のキャリアがあって、そういう面子が今もずっと現役でいるのは凄いことですよね。ああいうイベントをやろうと思っても、それだけ長く続けているバンドも少なくなってきたわけですから。これは余談ですけど、私たちが『MODERN BOOGIE』(1988年7月発表)を出した頃かな、次世代を担うバンドは誰だ? みたいなフジテレビの特番があったんですよ。そのなかで新橋辺りの道行くサラリーマンに「次に武道館でライブをやれそうなバンドは誰だと思いますか?」っていうアンケートがあって、その1位がPERSONZだったんです。その候補のなかにZIGGYもいて、現存するバンドは私たちとZIGGYくらいだなと思ったんですよ。休まずにずっと続いているバンドはね。何も知らない人たちは途中で止まっていたと思うかもしれないけど。
──ずっと現役のバンドとして活動し続けて、19枚ものオリジナル・アルバムを発表してきたこと自体、他に例がないんじゃないですかね。
JILL:その19枚目から20枚目に行く間の今がまた激動の時期なんです。震災もあったし、その後の閉塞した状況から抜け出すために30周年の節目に武道館でライブをやろうという目標を立てることにもなって。
──この『ALL TIME BEST』で特筆すべきはやはり、7月に敢行された『歴史はここから始まった…30YEARS 3HISTORY 3STAGE at 新宿LOFT』のダイジェスト映像がDVDとして収録されていることですね。開催前にJILLさんが「PERSONZのLOFTでのライブはこれが最後になるかもしれない」とブログに書いたのを読んで、LOFTに籍を置く身としては非常に残念だなと思ったんですが。
JILL:LOFTはもともと自分たちが育った実家みたいな場所だけど、これからの1年はもっともっとステップ・アップしなくちゃいけないし、その覚悟を決める意味であえてああいう発言をしたんですよね。でも湿っぽい気分は全然なかったし、当時LOFTでやっていた模造紙を使ったパフォーマンス(特大の模造紙を白い幕に見立てて、本番が始まるとスプレーで逆文字を書いてから紙を破ってバンドが登場する演出)をまたやれたのも純粋に楽しかったです。
──披露されたレパートリーもパフォーマンスも当時の追体験がコンセプトでしたが、懐古趣味みたいな空気は一切ありませんでしたよね。
JILL:当時のステージを追体験することで今のPERSONZを魅せるのが目的でしたからね。渡邉君も言っていたんだけど、3ステージをインディーズ時代の曲ばかりで構成できちゃうのが凄いなと思って。
──確かに。だからこの『ALL TIME BEST』は、インディーズ時代の楽曲を今のPERSONZが再現した映像を入れることで、図らずも結成から今日までのPERSONZを補完している内容と言えますよね。
JILL:結果として、なんか上手い具合にそうなったんですよね。
渡邉:いや、最初からそういう意図があったんですよ。今の映像があることで懐古的にはならないと思ったし。
JILL:あと、復刻した旧譜も音が格段に良くなったんです。オーディオで聴いてみたら凄く澄んだ音で、まるで目の前で演奏しているような臨場感があるんですよ。だから是非、ベストに漏れた曲は復刻盤で聴いていただいて(笑)。
──そのまま再発したわけではなく、ちゃんとリマスターが施されているんですね。
渡邉:リマスターには僕が立ち会ったんですけど、これまでのCDは何だったんだ!? と思うくらい音が全然違うんですよ。今までは薄い膜が一枚挟んであるような感じだったけど、それがなくなって凄くリアルな音になったんです。それもマスタリングの機材がだいぶ良くなったからなのかな? と思ったんですが、どうもそういうことだけではないみたいで、やっぱりエンジニアさんの腕が素晴らしかったんでしょうね。
JILL:最初の頃はテープで録っていたんですよ。直しが利かないからパンチイン、パンチアウトするのも真剣でね。今はデジタルの時代だからいくらでも編集できるし、何でもできちゃいすぎるから技術が劣るのかもしれない。私たちの世代はパッケージがデータになってきているのがちょっと寂しいんです。ショップに行けばCDが並んでいる、それを買える環境がちゃんとあるのがいいし、その意味でも今回のベスト・アルバムと旧譜の復刻が出るのは有り難いことですね。私たちの音楽をまた聴いてみようと思う人たち、興味を持ってくれた若い人たちがCDを買おうにもモノがない状況は悲しいじゃないですか。