魂が込められた狂熱のステージで観る者を虜にする日本屈指のライブ・バンド、スクービードゥー。通算11枚目となるフル・アルバム『結晶』は、バンド・サウンドの本質を知り抜いた4人のファンキー・メンが繰り出す剥き出しの人力グルーヴと胸を焦がすグッド・メロディが余すところなく盤に刻み込まれた完膚無きまでの傑作だ。彼らの真骨頂であるファンクとロックの最高沸点="Funk-a-lismo!"の旨味成分がギュッと凝縮していることからも、まさに"結晶"の名に相応しい。19年に及ぶキャリアに裏打ちされた実力と風格を確かに感じる。だが本作が素晴らしいのは、駆け出しのバンドさながらの無鉄砲さ、一本気でギラついたエネルギー、音楽に懸ける清新さが息づいていること。それがロック本来のダイナミズムへと昇華しているところなのだ。マツキタイジロウ(g)とコヤマシュウ(vo)に話を聞いたこのインタビューを読めば、彼らが今なお純真さを失わず、音楽のミラクルを信じているからこそ『結晶』は生まれ得た作品であることがよく分かるはずだ。(interview:椎名宗之)
19年目のデビュー・アルバムみたいな感じ
──先日の「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2014 in EZO」では、“ENTRANCE DACEHALL”と銘打った入場口でのライブを決行するという、また随分と思い切ったことをやりましたね(笑)。
マツキ:何年も前から「入場口でライブをやらせてほしい」とイベンターのWESSに冗談まじりで話していたんですよ。去年初めてSUN STAGEという一番大きな所でやらせてもらったので、今年はさすがに呼んでもらえないだろうなと思っていたんです。それならいっそのこと押しかけようと思って(笑)。SUN STAGEまで上り詰めた恩返しも兼ねつつ、またゼロから始めようという気持ちも込めて「入場口でライブをやらせてくれませんか?」とWESSに打診したら、OKが出たんです。
──朝の10時からスタートだったんですよね。
コヤマ:ホテルを8時くらいに出て、会場には9時入りでした。
マツキ:結局、2時間くらいライブをやらせてもらったんです。正式に呼ばれていないバンドがどのバンドよりも長くライブをやるという図々しさで(笑)。
コヤマ:ワンマンくらいやったからね(笑)。
マツキ:しかも、その翌日も朝の10時半から30分のステージをやったので、トータルで2時間以上やったことになるんですよね。
──そのステージでも今回の『結晶』の収録曲は披露されたんですか。
マツキ:タイトルトラックの「結晶」だけやりました。反応はいい感じですよ。割と分かりやすいタイプの曲なので、ノリは凄くいいですね。
──今度の新作は特にコンセプトを設けるわけでもなく、純粋に出来の良い楽曲を取り揃えた感じですか。
マツキ:そうですね。去年『かんぺきな未完成品』が出来た後もずっと曲作りはしていて、ある程度の曲数が固まった時点でメンバーに聴かせて、頭の曲から順にみんなで合わせていきました。そこでいい感じにまとまった曲を12曲入れたという、ざっくりとした進行でしたね。何と言うか、今回はバンドとして格好いい音楽になっていればそれでいいかなという気持ちで作っていたんです。19年目のデビュー・アルバムみたいな感じで、あまり深く考えすぎず、とにかく勢いがあって元気が良くて、ロックのマジックが宿ったアルバムにしたかったんですよ。勇気がもらえて、元気が出てくる作品になればいいなと思って。
──楽曲のクオリティやアンサンブルの見事さはさることながら、今作は音に躍動感があって抜群にいいですよね。ボリュームを上げても鳴りが心地好くて。これも『パラサイティック・ガール』(2008年4月発表)から始まって6作目となる中村宗一郎さん(PEACE MUSIC)とのコンビネーションの賜物なんでしょうね。
マツキ:僕らの音のクセをよく知ってもらっているので、指摘されることも的確なんですよ。音に関してはここ何作かのなかで一番よくできたと思います。
──PEACE MUSICはそれほど広いスタジオではありませんけど、ちょっと手狭な空間のなかで“せーの!”で録るからこその臨場感、一体感が音に表れていますよね。
マツキ:“せーの!”でやって音が被るのはロック・バンドの醍醐味ですからね。PEACE MUSICにはみんなで音を鳴らしてグッとくる瞬間が多々あるんですよ。とは言え、レコーディング自体は割と淡々としてるんですけどね。「うわぁ! これはキタな!」みたいなリアクションにはもうならないと言うか(笑)。「このテイクはこれでいいね。じゃあ次に行こう」「ちょっと音が一辺倒になってきたからドラムを変えてみようか?」みたいな感じで、和気あいあいとしながらも淡々と作業が進んでいくんです。
──コヤマさんのヴォーカルも楽器に埋もれることなく、かと言って前に出すぎることもなく、記名性の高い歌声は安定の存在感ですね。
コヤマ:最終的に曲が格好良くなればいいなと思って唄ってるだけなんです。その意味ではだんだんナチュラルになってきてるのかな。歌録りは俺と曲を作ったタイちゃん、中村さんの3人でやるんですけど、具体的にこの部分がこうなってないとNGとかそういうのはなくて、聴いてみていい感じならOKなんですよ。
──ハープの音も凄くいいですよね。「いいぜ いいぜ」で「聖者の行進」のフレーズが顔を出すのもユニークで。
コヤマ:鳴ってる音以外は録れないし、再現できないっていうのが中村さんの録り方なんですよ。後で「もうちょっと迫力を出したいんですけど…」みたいなことは通用しないし、だったら最初から迫力が出るように演奏するしかないんです。それは歌も同じで、音も歌もとにかくまっすぐ出すしかないんですよ。
マツキ:それとやっぱり、“せーの!”でみんな同時で音を鳴らしてるのが一番ノリがいいんですよね。バラ録りはそれぞれの音が分離して聴きやすいけど、よく聴くとノリが合ってないことがあるんです。だからロック・バンドは“せーの!”で録るのが一番だと思いますね。
自分たちのいろんな要素の一番いい部分を蒸留した
──アルバムは立ち上がりから持っていかれると言うか、1曲目の「真夜中の太陽」からグッと掴まれますね。ショッキング・ブルーの「ヴィーナス」を連想させるキメのリズムにいきなり面を喰らいますし(笑)。
コヤマ:いいたとえだ(笑)。ギターのリフも冴えてますよね。
──「真夜中の“太陽”」、「転がる“石”」、「“月”に手を伸ばせ」、「憂いの“雨”」と、自然物や自然現象のワードが曲のタイトルになっているのは意図的なものなんですか。
マツキ:言葉のチョイスは無意識だと思うんですけど、CDを聴いてくれる人はもちろん、ライブに来てくれる人には勇気をもらって帰ってほしいんですよ。ロック・バンドの持つ向こう見ずな勇気と言うか。僕らの音楽を聴いた人が「明日からまた頑張ろう!」と思ってくれるエネルギーの塊みたいなアルバムを作りたかったんですよね。その思いが“太陽”や“月”といった大きなものに投影されているのかもしれません。
──鋭利なリフと黒いグルーヴでグイグイ引っ張る「転がる石」やノイジーなロック・チューン「囚われ者」にはまるで新人バンドのような鮮烈さがあるし、その一方でジャジーでメロディアスな「笑う女」や「行っておいで」のような甘いバラードの小品もあって、いつもながらにその幕の内弁当感には感服しますね。
マツキ:それも19年やってきたバンドの幅ですかね。デモを聴いたメンバーの反応がいい曲を優先して選んでいったんですけど、自分たちとしてはあまり幅がないなと思いながら作業を進めていたんですよ。「なんか同じ曲調が多いな」って。でも、どのタイプの曲をやってもスクービー節があると言うか、スクービーにしかないリズム感とメロディをのせていく感覚があるんです。だから自分たちの過去を踏襲してもいいかなと思ったし、今までやったことのない斬新な音楽を生み出そうというよりは、バンドが100%エネルギッシュに演奏できて、それが120%聴いてる人に伝わるような作品になればいいなと思って。
──確かに、闇雲な勢いや向こう見ずな感じはよく出ていますよね。最初の「真夜中の太陽」から9曲目の「囚われ者」までノリの良い曲がずっと続いて、「行っておいで」でようやく一息つく構成ですから。
マツキ:期せずしてそんな並びになったんですよね。新人バンドのデビュー・アルバムって闇雲なエネルギーが充満した感じじゃないですか。やたらと勢いがあって、良くも悪くも一本調子なんだけど、「とにかくやり切ってやる!」みたいなエネルギッシュさがある。そういうちょっと青くさい気持ちで臨みながらも、19年やってきたキャリアからにじみ出てくるものも絶対あると思うんです。その辺は意識しましたね。
──アルバム・タイトルの「結晶」は、初期の制作段階から出ていたワードなんですか。
マツキ:「結晶」という曲が出来たので、アルバム・タイトルもそれでいいかって感じでしたね。今までの集大成みたいな大げさなニュアンスではなく、スクービーの持ってるいろんな要素…たとえばファンキーさだったり、暑苦しい感じだったり、切ないメロディ・ラインだったり、その一番いい部分を蒸留して集めたアルバムなので、そういう意味で「結晶」という言葉が相応しいかなと。
──年一のペースでアルバムをリリースするワーカホリックぶりで、よくこれだけ高水準の楽曲をマツキさん一人で書き上げるなといつも感じるんですが、曲作りに煮詰まることはありませんか。
マツキ:自分にムチを打って何とかやってますね(笑)。生みの苦しみはもちろんあるんですけど、どんな曲でもメンバーがいいなと思えば絶対に成立する自信があるんです。何かしらのネタがひとつあれば、バンドに持っていけば楽曲になるだろうっていう思いもあるし。だからそんなに悩むことはなくて、今回は悩まないうちにサクサク作っておいて、細かいことは後で考えようってモードでしたね。