「一生かかっても音楽をやり尽くせないと最近よく思うんですよ。頭のなかでは次から次へと新しい音が浮かび上がってくるので、それを惜しみなく出し続けるしかないんです」
猟牙のこの言葉の通り、『THE STALIN -666-』と題されたBORNの最新作は現時点でバンドが持ち得るエナジーと音楽への情熱が惜しみなく注がれた会心の作だ。オリジナル・メンバーだったベーシストの戦線離脱という苦境を撥ね除け、過密なライブ・スケジュールと並行してこれだけ高水準の作品を生み出せた原動力とは何なのか。正式に4人体制となった結成6周年という節目にBORNが打ち出すヴィジョンとは何か。『BORN TOUR 2014〜THE STALIN -SECTION 1-【OSMOSIS】〜』初日に新宿ロフトのステージに立つ彼らに生粋のライブ・バンドとしての矜持を訊いた。(interview:椎名宗之)
遠藤ミチロウのザ・スターリンとヨシフ・スターリンへのオマージュ
──去年から今年にかけて年間100本以上のライブを敢行しつつ、その合間にシングル4枚とDVD1枚を発売するというワーカホリックぶりですが、この凄まじい活動ペースの意図するところは?
猟牙(vo):意気込んで100本以上のライブをやろうとしたわけじゃなくて、気づいたらこんなペースでライブをやっていた感じなんですよ。誘われたライブをどんどん受けているうちに「凄いライブをやってるよね」って周りから言われて、確かに多いなと他人事みたいに気づいて(笑)。
──誘われたライブは断らないのが流儀なんですか。
猟牙:やってやろうじゃないかって気持ちがあったんでしょうね。ベースのKIFUMIが活動休止することになって、ひたすらライブをやり続けることでその大きな穴を埋めようとしたと言うか、4人になっても大きな一歩を築き上げていこうとしたんですね。そんな気持ちがライブの本数に表れている気がします。
K(g):バンドとして止まりたくなかったんですよ。KIFUMIが抜けても活動休止せずに続けることを選択したわけだし、選択したからにはとにかく突っ走るしかなかったんです。
──ベーシストの脱退が図らずも良い発奮材料になったと。
猟牙:このタイミングでオリジナル・メンバーが離脱するのは本来ネガティブな問題ではあるんですけど、そこでひるまずに「この4人でとことんやっていこう!」とメンバー全員が思えたのは幸せなことでしたね。
──ライブと音源制作を並行するのは、なかなか難儀なことだと思うんですが。
K:去年出したシングルはどれもデモの段階で形が固まっていたものばかりだったので、個人的にはスケジュールに焦りを感じることはほぼなかったですね。今回の『THE STALIN -666-』はかなりタイトな状況でしたけど。
猟牙:ライブの1本1本が真剣勝負だし、これだけの本数をやり遂げる上でバンドの方向性を見失いそうになった時も正直ありました。「このままでいいのか?」と疑問がふと湧き上がってきたりして。でも、1年に100本以上のライブをやるなんて、普通のバンドの倍のペースじゃないですか。普通のバンドが1年かけてやることを2年分やれたとも言えるわけで、メンタルがかなり鍛えられたのは良かったです。
──今回発表されたミニ・アルバム『THE STALIN -666-』ですが、まずタイトルからしてインパクトがありますよね。僕は即座に遠藤ミチロウさんのハードコアパンク・バンドを連想したんですけど。
猟牙:まさにそれなんですよ。過去に出したBORNの音源のなかで、俺が“STALIN”って言葉をたびたび歌詞に散りばめていたんです。それは遠藤ミチロウさんのザ・スターリンとヨシフ・スターリンへのオマージュで、ミチロウさんというアナーキーな存在とソビエト連邦の独裁者っていうのが、俺のなかでクールなアイコンになっていたんですね。発売日の4月9日にBORNが6周年を迎えたこともあって、これまで気に入って使っていたワードをここで真正面から打ち出そうと思ったんです。“STALIN”って攻撃的なイメージのある言葉だし、曲もそういうのが揃っていたので。
──“666”というサタンが好む数字は何を意味しているんですか。
猟牙:6周年と掛けているんですよ。あと、初期のグッズによく“666”の文字を入れていたんです。当時はドス黒いイメージのバンドが少なくて、自分たちは悪魔みたいな存在になりたいという思いがあったので。
──「LIVE TOUR 2014 ALL NUDE SATISFACTION」の千秋楽であるTSUTAYA O-EASTの前に集中してレコーディングしたんですか。
K:そうですね。プリプロ自体は去年の11月くらいから始めていて、1月の末くらいからレコーディングがちょっとずつあって、ツアー・ファイナルのTSUTAYA O-EASTの前がガッツリとしたレコーディング期間でした。
猟牙:そういうペースがもう当たり前になってきたんですよね。
K:でも、音楽でやることがあるのは幸せなことだなと思って。それを感じながらレコーディングに臨めたのは良かったです。
──ライブと並行して制作されたからなのか、『THE STALIN -666-』に収録されたのはどれも勢い重視のハードかつヘヴィな曲ばかりですよね。
K:ツアーの合間にギター録りがあったりしたので、ライブのテンションそのままで行きましたね。『THE STALIN -666-』というタイトルだけ先に決まっていて、そのイメージはよく分かるんだけど、「BORNなりの“THE STALIN”とはどんなものだろう?」と考えたら何通りもアイディアが浮かんで迷ってしまったんです。結局、締切間際になって完成形が見えて、何とか形にできたんですけど。
音楽には聴き手を“支配”する力がある
──タイトル・トラックの「THE STALIN」は骨太で重厚なサウンドを基軸に疾走感溢れるチューンで、表題曲として申し分ない出来ですよね。
K:デモが出来た時に「これが俺たちなりの“THE STALIN”だ!」という手応えがありましたからね。
──“Oh, oh, oh...”という印象的な掛け声は、ライブでオーディエンスとのコール&レスポンスをする様が目に浮かびます。
猟牙:お客さんとのコール&レスポンス、一緒に叫び合うことは、BORNがずっと大事にしてきたことなんです。今回もライブで掛け合いできるようなパートを要所要所に散りばめたんですよ。
──青山レッドシューズでシューティングされたPVも臨場感があっていい出来ですね。
猟牙:あの真っ赤な壁も独裁的な匂いを醸し出していますよね。今回はヴィジュアル・イメージとサウンドが気持ちよく合致した作品に仕上がった自負があるんです。
──猟牙さん自身、独裁者に惹かれるところがあるんですか。
猟牙:自分の周りに独裁者みたいな人がいたら相当厄介ですけど(笑)、自分がそうなりたい願望はありますね。ステージに立つ瞬間にそんなモードにもなりますから。その意味では、「THE STALIN」という曲は自分自身の独裁者願望を投影した曲とも言えますね。「THE STALIN」に限らず、何かしらの形で自分を投影して表現するのはバンドを始めた時から変わっていませんけど。俺もキッズの頃は好きだったアーティストに支配される側だったんですよ。音楽にはそういう力があるし、それをずっと信じてバンドを続けているつもりです。
──他の収録曲も聴き応えある作品が揃いましたね。ハードな曲調から一転、サビで胸を締めつけられるメロディが訪れる「DIARY」は、2、3曲分のアイディアが詰まっているような感じで、高い完成度を誇っているし。
K:今回は、俺とRayでだいぶ曲作りに時間をかけたんですよ。聴いていて純粋に面白い曲を作るのが前提だったので、展開が飽きないように気を留めたんです。なかでも「DIARY」はBORNとしては新しいタイプの曲になったと思いますね。それと、コンセプトを掲げてから楽曲制作に挑んだのは今回が初めてだったんです。今まではまず曲ありきで作品のコンセプトを固めていったんですけど、今回は『THE STALIN -666-』のイメージ固めからすべてが始まったんです。最初は手こずりましたけど、「THE STALIN」という曲が太い幹となって、そこから他の曲が枝葉のように育っていった感じですね。
──溜めの効いたリズムと緩急のついたアレンジが光る「排梳ノ蝶」ですが、“排梳”とはどんな意味なんですか。
猟牙:“ハイソ”と読みます。ハイソサエティ(上流階級)って言葉を漢字で表現したくて、俺が勝手に作った言葉なんですよ。最初に曲を聴いた時に夜の歓楽街のイメージが浮かんできて、妄想で一気に歌詞を書き上げたんです。
──オーディエンスがヘドバンするのにもってこいのサビが印象的ですね。
猟牙:洋楽に対する憧れもあって、今まで激しい曲と言えば英詞が多かったんですよ。今回は全部日本語で攻めたヘドバン系の曲を作ったら面白いと思って、「排梳ノ蝶」では日本語攻め、漢字多めのサビにしたんです。
──淫靡で挑発的な歌詞を覚えるのが大変そうですけど(笑)。
猟牙:自分の引き出しを増やしたかったのと、この「排梳ノ蝶」の歌詞をもう一歩踏み込んだ形にするために官能小説を読んでみたんです。適当に980円くらいの本を買ったんですけど、アルバムを1枚作るくらいの価値はあったかなと思って(笑)。
──歌詞のユニークもさることながら、音作りもバラエティに富んでいますよね。ボーカルにエフェクトをかけた「SKIN」はエレクトロの要素もあるダンサブルなナンバーですし。
K:BORNにはああいう4つ打ち系の曲がちょこちょこあるんですけど、今まではもろにデジタルだったりとか、振り切った感じの曲が多かったんです。今回の「SKIN」はバンドの生音とデジタルな部分、激しい部分とダンサブルな要素がちょうどいいバランスで仕上げることができましたね。
猟牙:最近はデジタルとラウドの融合が流行っているから、逆にその辺には手を出さないでいたんですよね。
K:俺自身、デジタルの要素を取り入れるのはバンド・サウンドありきの発想なんですよ。バンドの音だけで成立させてから、何か面白い要素を入れたくてキーボードをいじったりするんです。だから、デジタル・ロックを作ろうと思ってこういう形になったわけではないんですよね。