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鍵盤が入ったことでより曲の幅が広がった

── そして、今回アレンジにSUNNYさんという鍵盤の方が参加されていますが、どんなきっかけがあったんですか？

中野：前々からこのバンドには鍵盤のサウンドが合うと思っていて、鍵盤を入れてみたいという話はなんとなくしたことがあったんです。レコーディング前の2013年のツアーで、宇宙まおさんのサポートをしていたSUNNYさんと対バンさせて頂いて、僕たちのスタッフの人がSUNNYさんと昔から知り合いだったということもあり、ご挨拶させて頂いたんです。まさか、やってもらえると思っていなかったので、今でもお会いするとすごく緊張します。

── 収録曲の鍵盤のアレンジはSUNNYさんにお任せですか？

中野：そうですね。最初にアレンジを考えて来て頂いて、あとはスタジオに一緒に入って意見交換しながら固めていきました。ほとんど最初のイメージからは変わってないですが。

── ご自分が作った曲にストリングスが入ったり、鍵盤が重なっていく過程を見ていてどんな心境でしたか？

中野：心から嬉しいという一言に尽きますね。4人では出せない音だし、曲の幅が広がっていくことが全員嬉しかったと思うんですけど、大元を作っている僕が一番嬉しいんじゃないかなと思います（笑）。リード曲の『Mirror』はストリングスをいっぱい入れて頂いて、チェロの音も生演奏で入れて頂いて。聴きながら、鳥肌がずっと立ってましたね。

── 今回ストリングスが入っている曲は5曲ですが、その選曲も話をしながらですか？

中野：最初は『patchwork doll』『Roller coaster』『透明なリボンが解けるまで』の3曲で、どの曲も入ってもらったほうがもっと良くなると思ってお願いしたんですが、作業をしていくにつれて、ストリングスを入れたほうが曲がどんどん良くなるということを目の辺りにして、『来週』も『Mirror』もお願いしたんです。でも、曲の個性もあるので、ストリングスが入っていない曲は今の状態が良いかなと思ったんです。

── 4人だけの演奏の『meteor』は他の曲とは毛並みが違ってハードな曲でしたが、これはみなさんでアレンジして？

中野：デモ音源を作った時から、このアルバムの激しい曲の中でも最たるものにしようと思っていて、声にエフェクトをかけたり、ベースは激しくやって欲しいと伝えたり、ギターの音も普段使わない歪みを混ぜたりとか、そういうこだわりはありました。

── アレンジはそれぞれの楽器の方が考えるんですか？ それとも中野さんがデモの段階で、こういう曲にしたいと伝えてそれ通りに演奏してもらうんですか？

中野：基本的に僕が持っていくデモ音源は自分のギターと歌だけなんです。明確なイメージがある時には言葉で伝えることが多いですね。見開きの用紙の左に歌詞、右にコード進行とこの曲に込めたメッセージを文章で書いていくという感じです。その文章の受け取り方は任せる部分が多いですが、自分にとって大事な部分は記して渡すようにしています。激しめのイメージだけど、あとはスタジオで合わせて決めようとかも書いてます。

── それも書いてるんですか？ 言えばいいような気もしますが（笑）。

中野：残るほうがいいかなと思って。僕はこのやり方が普通だと思ってましたけど、他のバンドと話すとちょっとおかしいみたいです（笑）。

── では、今回の作品で、これまでにはなかったこの引き出し開けてきたんだとか、テクニックの面において大きく変化した部分ってありましたか？

中野：今回は4人全員で試行錯誤した点が大きいですね。ベースの神尾くんはもともとギタリストだったんですけど、ギターを弾いてる姿を見てベーシストとして誘っているんです。2012年に大学時代からずっと一緒だったベースの脱退があって、その時に単にうまいベーシストを見つけるよりは新しい風を吹かせる人物が欲しいと考えていて、ギターも弾けるし、センスが良いというのももちろんありましたけど、神尾くんはプレイヤーとしてバランス良く見渡せるタイプだし、何より音楽を大事にしている人なので声をかけたんです。前作のレコーディングもこの4人でやってますが、その時はギターのアイディアに関して彼が何か言うことはなかったんです。でも、今回は僕も含めてギターを弾ける人が3人いるわけだから、リードギターの今村が良いと思うものだけを採用するのではなくて、みんなで意見を出し合いながらやったのは今回新しいことでした。3人でギターを持ってスタジオに入ったりもしていました。

── レコーディング前の音作りの時間はかなり時間をかけられたんですね。

中野：長かったと思います。曲数が多いし、曲に幅を持たせたいというところで、耳に残るギターの音とか、これまで以上にこだわりたかったので。

── その結果10曲がいろいろな表情を持っている曲になったと思いますけど、曲順を並べるにあたっては、どんなこだわりがありましたか？

中野：スタッフ含めて全員が曲順を考えて、その理由を長く書いたメールをやりとりしました。ラストの『ドアの魔法』は10曲目に置くのが良いという意見が多くて、1曲目に関してはいろんな意見がありましたが、最終的にはサウンド的にも新しくて耳障りが良くて、イントロから鍵盤の音が入っているという僕たちにとっては新しい感じもある『来週』が一番良いんじゃないかという意見でまとまったんです。CDをリピートされた時に『ドアの魔法』から『来週』の流れも良いと思いましたし。

── リード曲の『Mirror』が最後から2曲目にあるというのも面白いですよね。

中野：聴いた時の印象とか、他の曲にはない広がりのあるサウンドの曲だと思っていて、最初にお話したように詞の世界がとても伝えたいものだったので、その前の8曲の中でいろんな毎日があって、いろんな自分がいて、いろんな切り口があって、そういうことを経て『Mirror』を聴いてもらいたいと思ったんです。ラスト前の大事な位置に置きたい曲だったんです。

── 物語を進めて行って、クライマックスで聴かせるというイメージだったと。

中野：そういうふうに今回は聴いてもらえたら良いかなと思っています。

 

誰にでも届くことをいつも意識しています

── 新しいことを見せたいとか、新しいスタートを切りましたというのが、今作を作る時にバンドが提示したかったことのひとつではあるんですか？

中野：そうです。ミニアルバムを3枚出してますが、フルアルバムは初めてなので、この作品で初めて僕たちを知ってくれる人たちにもshepherdの軸を見せたかったのと、これまで知ってくれてる人たちにはこれまでの僕たちにはなかったものとか、良い意味で変わっていくところを提示したかったんです。なので、サウンドはもちろん、ジャケット写真やアーティスト写真についてもすごく話をしましたね。これが最新であり、今が一番だと確信を持ってやっていけたらというところが強かったです。

── この作品を持って3月21日からはリリースツアーが始まり、5月24日のTSUTAYA O-Crestがファイナルワンマンとなりますが、今回のツアーでバンドとして手に入れたいものってありますか？

中野：今回の作品ではストリングスを入れたり、メンバー4人以上の音がCDに入っているので、どうやってライブで表現しようかとか、ライブを初めて見てくれた人たちにはそこからCDを聴いてもらいたいという思いが強いです。ファイナルのO-CrestにはSUNNYさんをゲストに迎えますが、それ以外の公演では同期を使って音を出したり、ギターの今村が鍵盤を弾くことにも挑戦しようと思っています。ライブは生なので、自分たちの音やメッセージも含めて、伝えたい音とか思いを妥協せずに折り込んで受け取ってもらえたら良いなと思います。

── ステージの見せ方もずいぶん変わるんですね。

中野：試行錯誤中ではありますけど、今村が鍵盤を弾く部分が増えれば同じ4人組でも見え方は違うと思うので、そういった点は変わっていくと思います。スタジオで合わせる時に、楽器がひとつ増えると純粋に楽しいので、その楽しんでる感じをライブで出せたらと思っています。

── ツアーのリハは始まっているんですか？

中野：はい。必死にやってます。このインタビューを読んで頂いている方にはぜひライブに遊びに来てもらいたいですね。今回福岡と広島は初めて行きますし、今年は新しい人たちにもライブを見てもらいたいんです。

── では、バンドは今後どういう方向に向かっていこうと思っていますか？

中野：僕が一番大事にしたいと思っていることのひとつに「普遍性」というのがあって、この人に僕の曲は届くけど、この人には全く届かないということはよくあると思いますけど、それが悔しいという気持ちがすごく強いので、誰にでも届くことをいつも意識しています。それと、僕が感動したり感銘を受ける作品はどういうものかを考えた時に、10年経っても色褪せることなく受け取れる曲に感動することが多くて、これから先どこまでバンドを続けていくのかはわからないですけど、リリースして10年20年経っても色褪せることなく響くものを作っていきたいと思っています。