shepherdがバンド史上初となるフルアルバム『Mirror』を3月12日にリリースした。今作では初の試みとしてキーボーディストとして活躍するSUNNY氏を迎え、ピアノ、オルガン、ストリングスの音が加わり、これまで以上にドラマティックに彩られた全10曲を収録。また、物語を読んでいるように聴き手の想像力を奮い立たせ、その詞世界にグッと引き込まれていく彼らの楽曲は、ボーカル&ギターの中野 誠之の澄んだ歌声がサウンドと心地よく混ざり合い、極上のポップソングとして昇華されていた。
今作を持って3月21日からの仙台でのライブを皮切りにリリースツアーが始まり、5月24日にはTSUTAYA O-Crestにてワンマンライブが行なわれる。今回はバンドを代表して中野に今作についてお話を聞いた。まだまだスタートラインに立ったばかりの彼らが、今後どのような形で変化し、進化していくのがとても楽しみになった。(interview:やまだともこ/Rooftop編集長)
誰かのためであり、誰しものためであり、自分のために曲を書いた
── バンドの結成は2007年だそうですが、結成の成り立ちはどんなだったんですか?
中野:大学生の時に同級生4人で結成したバンドです。その後、大学卒業の時に就職だったりでメンバーチェンジがあって、僕以外は最初のメンバーから全員変わっています。
── まわりが就職活動をしている中、中野さんは音楽の道に進もうと決めていたんですか?
中野:最初はすごく迷ったんです。教育学部だったので先生になるかどうかというところで、進路についていろいろな人に相談しつつ反対もされましたが、結果的には自分で決めて音楽の道に進もうと思いました。
── 結成当時はどんな音楽を目指していたんですか?
中野:根本的には同じですけど、詞世界や伝えたいメッセージは時間を経るごとに自分の中で変わっているところはあります。サウンド面はおおまかには結成当初から変わってないかなと思います。
── 当時憧れていたバンドや目指していたバンドはいるんですか?
中野:邦楽のロックやJ-POPを聴いていて、結成した18歳、19歳で一番聴いていた音楽はSyrup16gでした。初期の頃とかオリジナルを初めて作った時はSyrup16gの影響を色濃く受けてましたね。でも、その後曲をたくさん作っていくうちに、自分が歌詞を書くならこういうことを言いたいというのが出てきて、今の感じになっていきました。Syrup16gの曲は大学時代にカラオケに行って歌っていたんですけど、五十嵐(隆)さんのような声の感じとかニュアンスは上手い具合に出せないんですよね(苦笑)。
── でも、中野さんの歌声も耳馴染みが良くて、聴いていて心地良いと思いましたよ。バンドを始めた当時からボーカルがやりたいと思っていたんですか?
中野:中学生の時にまわりがゆずとか19の影響でアコースティックギターを弾いていて、僕も中学3年生でアコースティックギターを買い家で弾いていたんですが、その頃から歌が好きだなと思ってました。
── 歌っていて気持ちいいですか?
中野:何も考えなければすごく気持ちいいです。
── どういうことですか?
中野:上手いこと表現しようと思うと辛い時もありますけど、何も考えず純粋に口ずさんでいて良いのであれば大好きです。
── なるほど。そして、今回初めてのフルアルバム『Mirror』がリリースされますけど、出来上がって手応えはどうですか?
中野:手応えはすごくあります。ただ作るのはすごく大変でした。
── どんなところが大変でした?
中野:これまでは5曲とか6曲入りのミニアルバムしか作ったことがなかったので、ミニアルバムとフルアルバムではこんなに違うんだって実感しました。レコーディングの過程にしても、デモを作る時点でもストーリーの作り方も違うので、曲の幅の持たせ方など特に難しかったです。
── 今回収録されている曲は、これまでに作りためていた曲なんですか?
中野:フルアルバムを出そうというのは昨年の春ぐらいから決めていたので、前のツアーが終わって夏とかその前ぐらいから曲を書き始めて、レコーディングを昨年の秋ぐらいから始めました。
── レコーディングに向けて、どれぐらい曲が出来てたんですか?
中野:今回の収録曲以外に5曲ぐらいでしたね。最初のフルアルバムですし、軸を考えてこっちの曲が良いかなと考えてこの選曲になりました。
── どの曲が一番最初にできたんですか?
中野:『Roller coaster』です。その後に1曲目の『来週』とか、8曲目の『透明なリボンが解けるまで』が出来ました。
── その時点でアルバムのなんとなくの方向性はイメージ出来ていたんですか?
中野:それはもう少し先ですね。この後に、ポップな要素がある『来週』と『デコレイト』『透明なリボンが解けるまで』が出来たんですが、ここを主軸に考えると残りの曲の世界観が見えづらくて、その後『幸せの蒼い海で』『patchwork doll』『Mirror』をまとめて書いて、アルバムの全体像が見え始めました。
── 『Mirror』はアルバムのタイトルにもなっていますが、この曲が出来た時にいいアルバムになりそうだという感触はありました?
中野:出来た時からすごく気に入った曲でしたけど、リード曲になると思ったのはレコーディングの最中でしたね。それまではタイトルが違いましたし、曲順どうしよう、リード曲はどれにしようという話し合いをしていく中で、歌詞を改めて読んだり曲を聴いたりして、本当に言いたかったことが『Mirror』に入っているんだなというのを気付いて、この曲をリード曲にしたいという話をしたんです。
── 『Mirror』は、ありのままを映し出すというメッセージが込められているそうですが、どんな思いを持って書いたんですか?
中野:日常の中で、友達の前、恋人の前、仕事の時ごとにいろんな自分がいて、どれが本当の自分かわからなくなる瞬間ってあると思うんです。僕もわからなくなることがあって、でもそれって全部自分なんですよね。その時にふと、鏡って一番プライベートな自分を映し出すものだし、そういう自分と向き合えるものなんじゃないかと思い、そこから僕と同じように不安や迷い、葛藤がある人のために歌いたいと思ってこの歌詞を書き始めました。誰かのためであり、誰しものためであり、自分のために書いていた曲なんだなって気付いて、より大事な曲になった感じがしますね。
── 歌詞を書くにあたって、中野さん自身、自分と向き合う作業はよくするんですか?
中野:します。ただ、歌詞は必ずしも内面を綴るものだけではないと思っているので、他者と触れ合って感じたことだったり、風景を見たり、自分と向き合うことに付随してその他のことがあるという感覚ですかね。もちろん何かを見て感動したり、それによって自分の感情が突き動かされて歌詞が出来ることもありますけど。
── 中野さんの書く歌詞はただ現実が綴られているのではなくて、物語のように描かれているので、歌詞を読みながら詞の世界を想像するのが聴き手のひとつの楽しみなんじゃないかと思ったんです。
中野:まわりに言われて自分の歌詞の特徴に気付いたりしましたが、一歩引いたところから見た感じで歌詞を書くと、聴いた人が曲の中に入って行きやすいのかなというのは思ってます。僕自身言葉が好きなので、余白というか、行間というか、小説を読む時のような感覚で聴ける曲に魅力を感じることが多いです。