毎年多くのファンを魅了して、10周年を迎える人気アニメ『プリキュアシリーズ』。女の子向けであるこのシリーズは、本来のターゲット層に留まらず、魅力的なキャラクター・ストーリーで幅広い人々に支持をされている。今までにない発想を当たり前のものにした革新的な作品はどのようにして生まれたのか。まさにこのシリーズの生みの親とも言うべきプロデューサーの鷲尾天氏にインタビューを行なった。(interview:柏木 聡 / Asagaya/Loft A)
今までにないシリーズ
——プリキュアまでは、どのような作品に携わられていたんですか?
鷲尾:まずは研修のような形でOVAの作品に配属されました。次にアシスタントのような形で『金田一少年の事件簿』のスタッフに入りました。初めてアシスタントプロデューサーとして関わったのが『ワンピース』の立ち上げですね。そこで1年ほど経験を積み、独り立ちしたのが『キン肉マンII世』になります。その後『釣りバカ日誌』を担当し、『プリキュア』にという経緯です。
——男の子向け作品がキャリアスタートになるんですね。
鷲尾:だから女の子向け作品と言われた時はどうしたらいいのかわからなかったですね。
——吹っ切れるキッカケはなんだったんですか。
鷲尾:どうせわからないのなら自分の納得のいく形で好きなようにやるしかないという、開き直りですね。それまでの作品が残念ながら周囲の期待に応えきれていなかったので、「自分にできるのか」「この仕事は向いていないんじゃないのか」という思いはあったのです。次がうまくいかなかった場合、別の職種も考えないといけないかなとも思っていたんです。それなら一番やってみたい方と一緒にということでシリーズディレクターを西尾大介さん(※)にお願いしました。
——「女の子だって暴れたい」と企画書に書かれていたというのは本当ですか?
鷲尾:これは本当です(笑)。コンビものやバディーものをやってみたいと思っていて、西尾さんにお願いすると決めた時点で絶対アクションで行きたいと考えていました。それを周囲に納得させるための文言なんです。女の子だからお行儀よくしなさい、おしとやかしにしなさい、スカートはきなさいとあんまり押さえつけちゃうのは、よくないなという気持ちもありました。
——武器を使わないというのは、女の子向けを意識されてなんですか?
鷲尾:そうです。武器を使うのは絶対に嫌ですという話はしていて、これは他の方たちとも意見が一致していました。
——プリキュアの男性キャラはあくまでサポートで、戦闘には参加しませんが何故ですか?
鷲尾:女の子が主人公である以上、自分たちで解決するのがかっこいいよねという話をずっとしていました。男の子のキャラクターが出てきてもアクションには全く絡めないスタンスのほうがスッキリするという話はしていた記憶がありますね。
——敵キャラも魅力あるキャラクターで言葉遣いが綺麗だと感じているんですが、その発想の元になっているのはなんですか?
鷲尾:彼らも必死になってやってきている、自分たちのやっていることが間違いではないという思いを抱えてやってきているので、人質に取るなど卑怯な手は使わないことにしておこうという話は監督としていたんです。きちんとお互いの主張が噛み合う対立にしたかったんです。
——3年目の『ふたりはプリキュア Splash Star』で主人公を代えたのはなぜですか?
鷲尾:会社からは、どの世代の子供もいつでも入れる番組にしなさいというミッションが与えられていたんです。ただ、どうしたらいいかはよく分からなかったのですが、2年目が始まる頃の会議で「タイトルを残してキャラクターを変えていくという発想はないだろうか」という話になりました。このまま進んで主人公たちが成長していくとお話が複雑になって新しく観ようと思った子供たちが入れなくなるので、毎年入れる形でやってみようということだったんです。このまま同じキャラクターで数年続けて終わるのなら、今自分たちで違う方向をとってチャレンジしてみたほうがいいということになったんです。
——3作目でシリーズディレクターが小村敏明さん(※)へ替わりますが、その理由は?
鷲尾:オリジナルで2年間100本近くのアニメーションの構成や内容を考えていくシリーズ監督は、ものすごく疲弊するんです。キャラクターが変わるのなら難しいかなということで、西尾さんと話をしました。西尾さんの方にもそういう思いがあったので、新たに小村さんに入ってもらいました。
——小村さんを選ばれた理由は何ですか?
鷲尾:小村さんの創る映像は嫌な絵にならないんです。観ていて不快な感じがしないんですね。その点にものすごく気を使われていたんです。それはお願いしてできることではなく感覚として持っていることのなので、小村さんにお願いしたんです。
——西尾さんと小村さんの作るものは違う色になると思うのですが、その印象はどうですか?
鷲尾:西尾さんはなにをやってもとんがった感じがするんです。笑いにしても今までにやったことのないような笑いを持ってきますし、アクションにしてもものすごく印象に残る1カットを必ず作ってくるんです。小村さんは映像のつくりがものすごく柔らかいんです。それが出てくるのは、シナリオなのかもしれないし、キャラクター造形なのかもしれないけど、そこが小村さんの魅力ですね。その柔らかな感じととんがった感じは明確に違います。