これまでの経験をようやくプラスに変えられるようになった
── アルバムタイトルの『361°』は、音楽活動をしていく上で解散の危機だったり(前回のインタビュー参照)いろいろ経験し、ゆっくりかもしれないけれど一歩ずつ歩いてきたみなさんらしい言葉ですね。
柳沢:同世代のバンドより、5年経験が早いって言われてますから(苦笑)。今作でははじめの一歩じゃなくて、いろいろと経験しながら通ってきた道があって、そこからさらに違う方向への一歩というのも表現したかったんです。
── 曲の『361°』も歌詞の一言一言に重みがありますよね。
渋谷:これまでの経験をようやくプラスに変えられるようになったというのもあって。これまでは、反骨精神のエネルギーでしかなかったものが、そのエネルギーは全部使い果たしていて、次の段階に進めるようになってきたんです。
柳沢:今までは昔から越えたいと思っていた事を思い浮かべながらレベルアップしてきたけど、気付けば目標としていた部分が越えられて、そう考えたら歌っている内容も自分たちのことばかりではなくなって来ている気がします。大きな指針であったり、世の中の風潮であったり、仲が良い友達が右って言うから自分も右に言っておこうとかっていろんな側面があると思うんですけど、今作の『あなた』で歌っている「大丈夫だよ」という歌詞とか、『361°』の「本当は挫折なんてしなくたっていい」という歌詞もそうですけど、いろんな柵(しがらみ)や壁を越えて生きたいなと思っていて。それがあなた自身の奥底にある、言わなくてもわかると思っていたらわからなくなっちゃったものを改めて引っ張り出して目の前で歌いたかったんです。
── 5曲目の『センチメンタル』は失恋の曲ではあるんだけど、こんなに優しい歌を歌うようになったんだなということも思いました。
柳沢:SUPER BEAVERが君と僕の恋愛ソングを歌っても、こういうふうになるんだなって思いましたけどね(苦笑)。余談ですけど、『センチメンタル』は前に渋谷の失恋の話を聞いて、俺が勝手に作った曲で。その話をレコーディングが終わるまで明かさないでいたんですけど、ぶーやんはこの曲にドンハマりして。
渋谷:めちゃくちゃ染みるものがあったので、このアルバムで一番好きな曲だって言っていたんだけど、蓋を開けたら自分が題材の曲だった(笑)。
柳沢:妙に自分とシンクロするなとは思っていたみたいだけど(笑)。結局僕が作る曲って誰かに歌いたいって思いがあるから、そういう意味ではこの曲はぶーやんに歌いたいという気持ちがあったんです。俺は勝手にぶーやんを題材に曲を作って、それをぶーやんが受け取って…。
渋谷:勝手に感動してる(笑)。
── 良い循環が出来てますね(笑)。また、『鼓動』とか『ありがとう』はSUPER BEAVERならではの、メッセージの強い王道のギターロックで聴かせる曲で、SUPER BEAVERの軌跡と今がこの1枚で表されてますね。
柳沢:『ありがとう』や『鼓動』は必殺ですよね(笑)。でも昔だったらリード曲にしていた『鼓動』みたいな曲を、9曲目という位置に置けるようになったのが大きいと思っています。『鼓動』はビーバーならではの老舗感があるというか(笑)。
渋谷:満を持してって感じがあるよね(笑)。
柳沢:安心感があって裏切らないというか(笑)。『ありがとう』はテーマも明確で、これこそがあなたに言いたい「ありがとう」だし、今言っておきたい言葉だと思ったんです。
濃厚で自信のある作品が出来上がりました
── その中で『×』は、不安や不満などの溢れる思いが短い曲の中に詰め込まれ、音もザラッとした手触りが印象的な曲でしたが。
柳沢:これはライブで『歓びの明日に』に入る前とかに、渋谷が言っている言葉をパッケージしたというイメージです。もともと一発録りですけど、この曲では4人が同じブースに入ってアンプも入れて同じ空間で録ったんです。ミックスもアナログミックスで一気にまとめて、エンジニアの人がすぐに作業してくれて、録って20分ぐらいでミックスまで終わった曲です。
── 歌も一気に?
柳沢:そうです。だからちょっと噛んでるんじゃないかというところもあるし。
渋谷:でもその場の空気感が重要で、ザラッとした手触りにもなるし、アクシデント的な音が入っていてもそのまま入れたし。そういうコンセプトで作った曲ですね。
── 曲順は『センチメンタル』の次に『×』が来て、その後の『まだ』はピアノの弾き語りから始まる曲で、この3曲の流れってどんなイメージがあったんですか?
柳沢:コンセプトとしては、『×』までがレコードのA面のイメージ。『×』であれだけいろいろ言ってたやつが、次の『まだ』でピアノ弾きながら「おはよう」って言ってるわけですからね(笑)。だから『×』のあとに少しブランクを入れてるんです。俺らの中では今回小ネタを仕込んでいて。
── 『サイレン』もエッジが効いてましたね。
柳沢:サウンドや言葉との響きとか構成はいつもよりウエイトを上げた感じがします。『サイレン』は実はブロックごとにこれまで作っていたデモ曲を合体させた曲で、僕らとしては珍しい作り方をしてます。
── そしてラストの『約束。』は音のダイナミックな感じとか、サビの歌詞にグッと掴まれましたよ。
柳沢:SUPER BEAVERが、明確に「あなた」に向かって歌い始めたことを締め括れる歌になりました。
── 1曲目の『→』を入れて全11曲、こってり濃厚なアルバムになりましたね。
柳沢:僕らも思った事ではあるんですけど、本気で聴くとちょっと疲れる(笑)。でも、ライトな感じで聴き流せる曲を作りたいわけじゃなくて、全部がリード曲になりうる曲になったと思います。どこを切っても今のSUPER BEAVERの良いところを見せられると意志を持って作ったので、本当に濃厚で自信のある作品が出来上がりました。