今年で結成9年目に突入するSUPER BEAVERが、ニューアルバム『361°』を2月12日にリリースする。一度はメジャーデビューをはたした彼らだったが、これまでの音楽活動は決して平坦な道ではなく、思うように活動が形にならず自問自答を繰り返す日々だった。その後、2012年に自主レーベルを立ち上げ、今作からはegg manのスタッフで自身もDJ等で活躍するYUMAが発足したレーベル[NOiD]とタッグを組んだ。多くの人が自分たちの音楽に共感していることを実感した彼らは、これまでの経験を自信に変え、現時点でのSUPER BEAVER史上最高傑作だと言っても過言ではないほどの作品『361°』を完成させた。
過去には解散の危機もあったが、それでも音楽を続けてきた彼らが1周まわって辿り着いた場所は、「あなたたち」ではなく「あなた」に向けて歌いたいという明確な意志を持って音を鳴らすことだった。「ようやく経験を上手に生かせるようになってきた」とインタビュー中に柳沢が言うように、彼らはここからさらに進化していくことを確信することが出来た。(interview:やまだともこ/Rooftop編集部)
目の前のあなたに歌いたいという気持ちに戻ることが出来た
── 今作より新しく、[NOiD]のYUMAくんがスタッフとして加わったり、新しく聴いてくれてる人が増えたり、たくさんの仲間を手に入れながら、やりたい形にどんどん近づいているのかなという気もしますが手応えとしてはいかがですか?
渋谷龍太(Vo):虎視眈々という感じになってきた感じはしていますね。一緒にやってくれる人たちが増えたこともそうだし、『361°』が完成してこの作品が出来たから大丈夫だろうと思えたし、どんと構えられるようになった感じはしますね。
── 今までは不安のほうが大きかったですか?
渋谷:もちろんそうですね。今でもやらなきゃっていう気持ちは変わってないですけど、前は何がなんでも結果を出さなきゃ、絶対に良いライブをしなきゃっていう意気込んでる感じというよりは、じっくりと腰を据えて、ここがエネルギーを注ぎ込むところだというのがわかるようになってきた感じがします。
柳沢亮太(Gt):メジャーの最後にリリースした『SUPER BEAVER』から、シングル『歓びの明日に』を2012年4月に出して、2012年7月に『未来の始めかた』(アルバム)、そして2013年4月に『世界が目を覚ますのなら』(アルバム)をリリースして今回の『361°』なんですけど、『未来の始めかた』と『世界が目を覚ますのなら』を作ったことによって、やりたいことが具現化出来るようになったというか、ずっと種まきをする作業をしていたものが結集した感じがしていて、ジタバタしなくなったというか、あれっぽいこれっぽいというものも特に考えることもなく、SUPER BEAVERはSUPER BEAVERだという自信が最近持てていて、だからぶーやん(渋谷)が言うように焦ったりとか無駄な意気込みが少しずつなくなってどんと構えられるようになったと思います。
── SUPER BEAVERがやるべきことが見えてきた感じはありますか?
柳沢:明らかに変わったのは、今までは自分の中の焦燥感とか葛藤とか対峙しているものを歌ってきて、そこに自己投影してくれる人たちに響いてきたと思うんです。そうやってアウトプットしながら自分たちの内側に確認し続けてきたことの一個の答えとして、目の前のあなたに歌いたいんだっていう気持ちに戻ることが出来たという意味では、今のSUPER BEAVERが歌いたいことは明確になった気がしますね。
── 今回のアルバム『361°』は、「あなたたちじゃない。あなたに歌ってるんだ。」というメッセージを込めているそうですが、この言葉をテーマに曲を作っていったという感じなんですか?
柳沢:そうです。アルバムの持っていくべき方向が決まって、最初に『あなた』が出来たんです。
── 「あなたたちじゃない。あなたに歌ってるんだ。」というのは、ライブ中に渋谷くんがよく言っている言葉でもありますよね。
渋谷:ライブで同じ空気を共にして対峙するのは、あくまでも1対1だと思っているんです。ライブで誰に歌っているのかというのがあまりにも曖昧でボヤけているものってすごく伝わりづらくて、明確に「あなたに歌っている」と言ったほうが伝わりやすい場合が多いんです。今回「あなた」というテーマがあったからこそ、改めて目の前のあなたに歌いたいと思うようになってます。
── あなた1人1人に向けて歌うようになったということは、ステージに立つ時だったり、立っている時だったりの思いって昔とは違います?
渋谷:違いますね。人前に立つからにはヒーローでなければいけないと思っているんですけど、ヒーローというのは無理して作り上げるものではないというのは、ようやく今になってわかったことで。それこそ、どんと構えていれば大丈夫だろっていうような心持ちにはなってきてますね。
── ヒーローと聞いて思ったけど、近年は特にボーカリストとしての渋谷くんの存在感がどんどん増して、逞しくなっているような気がします。
渋谷:みなさんのおかげですね。今回のアルバムで言えば、僕らの歌はほとんどが柳沢が書いた詩なので、柳沢の歌に感化されて僕の視点から見て思ったことをMCで言って、そのMCに感化されて柳沢が曲を作る、その曲を聴いて僕がまたMCで話す、というサイクルが出来上がりつつあって、ステージに立つことや、その日に来ているお客さんと対話するということを最近すごく自分の中で楽しんでいて、それが出来るようになってきたというのが僕の自信にも繋がっているんです。
柳沢:「歌い手と作り手が違うというのはどうなんですか」と言われることもありましたけど、俺と渋谷の中で思いが循環し始めているというか、俺が作ったものを渋谷がアウトプットする中で自然に発生した言葉の種を俺が拾い上げて曲を作っていく中で、渋谷が今こういうことを思っているなら、俺はこういう歌を作りたいというサイクルが出来始めているという感じがしますね。歌い手と作り手が違う僕らにとって、非常にポジティブな現象が起き始めています。
── ライブ中に渋谷くんが言った言葉にハッとさせられることもある?
柳沢:あります。最近も渋谷がライブで言い始めた言葉からヒントをもらい、曲のイメージが出来ているものはあります。
── だからここ何作かは、歌詞で描き出している世界が前作と少しずつリンクしているんですね。
柳沢:これまでは渋谷が一方的に歌を受け取って吐き出して、またこっちから渡して吐き出して…でしたけど、渋谷も精神的な変化があったと思うし、リンクし始めているというのはバンドとして健全な感じになってきたなという感じはしています。2011年に事務所を独立してジタバタしていた時期があって、経験は必要なんだなと思えたし、ようやく経験を上手に生かせるようになってきたことは大きいと思っていて。今回の『361°』というタイトルもそういうところから来ているんですけど、『361°』の歌詞にもあるように、ホントは挫折なんて知らないで済めば一番いいし、失恋もしないほうが良いと思うし、ハッピーで終わるのが究極は一番良いと思うんです。でも、挫折したり悩んだりした経験は、結果として非常に前向きになれたんじゃないかなという気がしてます。