宍戸留美と上田健司のニューアルバムがそれぞれ今秋、同時期に発売される。宍戸留美の『ルミネッセンス』は『CHERBOURG→BRIGHTON』『女』に続く三部作最後となるアルバムで、全曲が上田健司プロデュース。宍戸の30代を締めくくる集大成ともいえる作品となっている。一方、上田健司の『楽しい追憶』は7年振りのソロアルバムで、新曲から過去の代表曲、提供曲までをすべてアコースティックギター1本で演奏するという初の試みだ。
この同時期に生まれた2つの作品に共通するのは、音楽をやるものにとって最も大切な精神である「Do It Yourself」だ。11/6の合同リリースライブを前にお二人に話を伺った。(Interview:加藤梅造)
──留美さんのニューアルバム『ルミネッセンス』のタイトルはどうやって決めたんでしょうか?
留美 今回タイトルにはすごく悩みました。最初はハートの記号にしたかったんですが、iTunesとかでハートは表示できないというので諦めて。それで今回は上田さんの世界を私のエッセンスで歌うというのと、ルミネッセンスという言葉が発光を表す科学用語としてあったので、ダブルミーニングでこのタイトルにしました。
──蛍のように自分で光ることをルミネッセンスというそうですが、まさに留美さんを表すのに相応しい言葉ですよね。
上田 僕もびっくりしました。すごくいいタイトルだなと。
──それで今作は『CHERBOURG→BRIGHTON』『女』に続く3部作の最終作ということですが、どういったコンセプトで作りました?
留美 自分の中では集大成というか、自然な流れでちゃんと着地した感じがあるんですが、世界観が(前作から)あまり変わってないというか、上田健司さんの世界観なんだけど、自分がやってきたことともリンクするような感じで、自然に健司さんの世界の中に入れたかなと。
──上田さんにプロデュースをお願いしようというのはいつ頃決めたんですか?
留美 上田さんとは昔から顔見知りだったんですけど、あるお店で私がカウンターに座っていたら、そのお店に貼ってあった私の前作『女』のポスターを見て「うわ、いい女だなー」って言ってる人がいて、それが上田さんだったんです(笑)。それで別のお客さんが「留美ちゃん、ここにいるよ!」って教えて。その時に「曲書いてー!」ってお願いしました(笑)。
上田 僕の知り合いが留美ちゃんのプロデュースをしていたから、そこから留美ちゃんが俺の曲を好きでいてくれていると聞いていて、いつか自分の曲を歌ってもらえたらなという気持ちは僕の方にもあったんです。
──お互いの長年の想いが繋がったんですね。
上田 最初は2曲ぐらいを一緒にやる予定だったんですが、やってるうちにもっとやりたいね、という感じになって。
留美 それで1年かけて全曲レコーディングしました。
上田 レコーディングしている最中に留美ちゃんの声を聴いていたら、「ああ、そういえばこんな曲あったなあ」って、それまで全く忘れていた15年前の曲が降りてきたりという事もあって。資料もなくて最初はなかなか思い出せなかったのが、ある時突然、歌詞と曲が一字一句間違えずにスラーっと出てきた。それが「春風」です。
──今作のオープニング曲ですね。まずアルバム全体の話を聞きたいのですが、宣伝文句に「和製フレンチ ネオアコサウンド」とありますが、これは一体?
上田 誰がつけたの? 森(註:宣伝担当)?
留美 レコーディングしている最中に出てきた単語をずっとメモしていたんです。フレンチとかネオアコとか。それが最終的に「和製フレンチ」って資料に書かれてて、なんかドレッシングみたいだなって(笑)。
──上田さんのプロデュースなのでネオアコというのはすんなりくるフレーズではあります。
上田 僕はそんなにネオアコブームには乗ってなかったんだけど、ネオアコ周りの人達とも仲良かったし好きでもあったので、わりとチェリーレッドっぽい雰囲気もちらほら出てるんじゃないかな。FELTとか。
──確かにレーベルで例えれば、elやクレスプキュールよりはチェリーレッドという感じがしました。シンプルな所などが。
留美 音数が少ないのにグルーヴはすごいなと思いました。
──留美さんが当初から言っていた3部作のコンセプトが、1作目は60年代、2作目は70年代、そして3作目は80年代というものでしたが、それはあったんですよね。
留美 あったけど、ずれていきましたね(笑)。
上田 今のブルックリン系のバンドの雰囲気もありますね。Grizzly Bear や MGMTとか、あのへんのグルーヴ感とかがあって、そういうのが好きな人が聴いても頷かせるものにしたいなと。
──留美さんのアルバムと同時期に上田さんの7年振りのソロアルバム『楽しい追憶』が発売になりましたが、『ルミネッセンス』と世界観が近いですよね。
上田 どうしてもそうなりますよね。
留美 この1年かけて『ルミネッセンス』をレコーディングしている中で、上田さんも創作意欲が湧いてきたということで、それがすごい嬉しかったです。
上田 ここには昔の曲も入っているんですが、3曲ぐらいはできてすぐ録ったものがあって、それは留美ちゃんとやってる中で刺激を受けて、やっぱり音楽ってもっと自由に創らなくちゃいけないなと思ったからです。特に僕は普段仕事で音楽をやることが多いので、それを否定するわけではないんだけど、自分のものは自分の趣味でいいんじゃないかなと。最近ライブで弾き語りが多かったので、一回けじめをつけなきゃなというのもあったんです。本当はバンドでやったほうが寂しくないんだけど(笑)。録音も自宅のスタジオなので、エンジニアもいなく全部一人でやるんですが、この半端じゃない孤独感(笑)。まあ焼酎とかビール飲みながらやるんだけど、「うまくいかねえ」って投げつけたくなる瞬間もありました。僕はこのアルバムを自分でジャッジできなくて、曲順は事務所の人に決めてもらったんです。
──全部一人でやるというのは初めてだったんですか。
上田 初めて。僕の持論として、アルバムを作る時はプロデューサーが絶対にいた方がいいと思っているんですが、今回それに相反したものを作ってしまった。先日、CDできてから初めて家で聴いてみたんです。まず『ルミネッセンス』を聴いた後に「よし、聴いてみよう」と『楽しい追憶』を聴いたんですが、「うん、いいじゃん」とようやく納得できました(笑)。
──僕は十代の頃にチェリーレッドを聴いてすごく影響を受けたんですが、今回同じものを感じて「ああ、やっぱり自分はこういうのが好きなんだな」って思いました。
上田 あのへんのベン・ワットやトレイシー・ソーンのソロは相当意識していますね。
──音楽的にもそうですが、当時の精神的な部分というか、DIYでなんでも一人でやるんだという精神をすごく感じました。
上田 留美ちゃんもそうだよね。俺、留美ちゃんが全部自分でやってるって知らなかったから、後ろに何か巨大なスポンサーがいるんじゃないかと思ってた。
留美 スポンサー欲しい!(笑)
上田 今回一緒にやってみて、本当に一人でやってるんだって知って驚きました。
──そういったDIY精神こそ、今回のコンセプトである80年代を一番表しているんじゃないかと。
留美 なるほどー、きれいにハマりましたね(笑)。
──留美さんは上田さんのアルバムを聴いてみてどうでした?
留美 大好きです! もうヤバイです。ジャケットもいい。
上田 ジャケットはアマチュアの札幌在住の画家の女の子に描いてもらったんです。内容が地味だから表紙はポップにしたいなと。
──留美さんも毎回ジャケットにはこだわりますよね。今回は?
留美 この手触りですね。マットだと汚れるんだけど、大切に扱ってもらえるようわざとそうしてます。配信と違って商品は手に触れたい人が多いと思うので、中の歌詞カードの紙も高めのものにして、大切にしてもらいたいなと。