死という結末を意識することで輝くものがある
──それは面白いバンドを見つけ出すアンテナが錆びていない証拠じゃないですか。
木下:僕が『MUSICA』でライターをやってるのが大きいのかもしれないですね。『MUSICA』が創刊して2号目からずっと書いてるし、その縁でバンドマン同士でフットサル・チームを作ることになって、僕が初代監督になったんですよ。今は2代目として鹿野(淳)さんが監督をやってるんですけど。そのフットサル・チームからもいろいろと活きのいいバンドの情報をもらったりしたんです。いいバンドを見つけた時って、思わずウォーッ! と叫びたくなる衝動に駆られるじゃないですか。andymoriを最初に見た時もそうだったし、絶対にこれから大きくなると思いましたから。だから(小山田)壮平が社会的にどう言われようと僕はandymoriが大好きだし、壮平のすべてが大好きなんです。
──そういうバンドの嗜好は戸高さんも似ているんですか。
木下:トディも似たものを持ってるんじゃないかな。
戸高:リッキーが気に入ったバンドは必ずチェックしますからね。
木下:最近だと0.8秒と衝撃。とかtricotとかが面白いなと思ったし、いつの時代もそういうバンドは出てくるんです。
戸高:突然変異的にきのこ帝国みたいなバンドが出てきたりね。
木下:あと、まりこちゃんはこの間対バンして改めて凄いなと思いましたね。ミドリの時も凄かったけど、今のオーラは半端じゃない。
──そうした若手バンドからの刺激をフィードバックさせたART-SCHOOLの最新作は、どんな仕上がりになりそうですか。
戸高:端的に言えば、ロック然としてますね。スケールの大きな感じと言うか。曲の振り幅が割と大きいかもしれないけど、根本にバンド・サウンドという軸があるからブレてないと思います。
木下:キャッチーな曲はもちろんあるけど、けっこうヘヴィな感じの曲もあるからね。
戸高:今のメンバーになってからはパッションや衝動を重視して『BABY ACID BABY』と『The Alchemist』を作りましたけど、あまり時間を掛けられなかったところもあったんですよね。でも、今回は比較的落ち着いてやれてるんです。
木下:曲作りとそれを詰める時間をたくさんもらえたしね。今までとは違う肌触りのいい作品を作れると思いますよ。4人とも物事を俯瞰できるタイプだから作業しやすいし、何より気が合うので。
戸高:これまでのART-SCHOOLのレコーディングで今が一番コミュニケーションが取れてるしね。「ここはこうしようか?」っていう会話が自然にできてるし。
戸高:コミュニケーション皆無の独裁政治みたいな(笑)。「ここはこう叩いてくれ」と問答無用に指示が飛んだりして。
──それは木下さんがある程度任せられるようになったから?
木下:なりましたね。だって2人とも最初から凄かったんだから、今さら指示することなんて何ひとつないですよ。あと新作について言えば、これもまたたけしさんの話になりますけど、『キッズ・リターン』を撮った時みたいなモードでいたいんですよ。
──どういう意味ですか?
木下:テレビの視聴率が落ちてきて、『みんな〜やってるか!』という映画も不評で、たけしさんの人気に陰りが出た頃にバイク事故が起きたじゃないですか。あの事故で生死の境をさまよった経験が『キッズ・リターン』の世界観に大きな影響を与えているんですよ。つまり、死と直面することで生を実感するっていう。ART-SCHOOLもそれなりのキャリアを積んできたし、僕もそれなりの年齢になったし、そろそろ『キッズ・リターン』みたいな作品を作りたいんです。死という結末を意識することで何か輝くものがあるんじゃないか? っていうテーマは今までもずっとあったけど、今回はそれをより強く意識して制作に臨んでいるんですよ。
──それは凄く楽しみです。ART-SCHOOLとして今後成し遂げたいことは?
木下:バンドの進むべき段階をひとつ上にしたいですね。メジャーと契約している以上、インディーズでもやれることをやっても意味がないんですよ。だからこそライブの動員もCDのセールスも今よりもっと増やしたい。熱心なリスナーはもちろん、業界の人や周りのバンドマンからは愛されてますけど、一般層にまで届きづらい何かがあるからこそ愛されてるわけで(笑)。
戸高:今はそこを打破するべきだと思ってるんです。シェルターは好きなライブハウスだからこうして10daysのライブをやってますけど、動員的にはもっと大きな場所を目指さなくちゃいけないと思うし。
木下:まさに今が正念場なんです。バンドの生き残りを懸けた戦争ですよ。言うなればシェルター戦争ですね。シェルターから始まってどこへ行くのかは分からないけど(笑)。でも、こうしてまたシェルターでライブをやれるのは純粋に嬉しいことですね。この10daysの体験が次の作品の発奮材料になることを含めて。だからこれからもシェルターで何か面白いことを仕掛けてみたいです。
写真:大参久人