音楽まで差別したらこの国はおしまいだと思う
──エンケンさんが最初にギターを弾いた時のエピソードで、学校の竹ホウキをギターにして歌ったという話を以前読んだのですが、その姿って、今でもエンケンさんがギターアンプを背中に背負って歌う姿と重なりますよね。
アンプを背負わなくても同じだと思う。それは中学3年生の時で、歌ったのは植木等の「スーダラ節」だったけど、格好よかったんだよあの曲は。俺の中でもの凄いロックだったんだろうね。当時ラジオで映画音楽もベンチャーズもプレスリーもラテンもウェスタンもロカビリーも演歌も歌謡曲もクラシックもジャズもいろいろ聴いていたんだけど、その中で一番興奮したのが「スーダラ節」だった。「なんか違うぞ」と。同じ頃、映画『座頭市物語』の一本目を観たんだけど、その時も「この映画は何か違う!」と思った。そういう年頃だったのかな(笑)。あれは中学校の謝恩会で、各クラスのみんなが何か出しものをやって先生を楽しませようというものだったんだけど、俺は何をやったらいいんだろう…と思っていた所にちょうど教室の掃除用の短い竹ホウキがあったから「これだ!」と思って、ギターは全く弾けなかったけどギターを弾く真似をしながら「スイスイスーダラダッタ」と教室中を走り回ったんだ。俺はおとなしい生徒だったんだけど、その時はものすごくうけて。ああ、自分にはこういう素質もあるんだなって思った。
──「フォロパジャクエンNo.1」は副題に「音楽版水平社宣言」とあるように、フォーク・ロック・パンク・ジャズ・クラッシック・演歌…全ての音楽は平等だ!というエンケンさんの純音楽宣言のような曲です。
曲そのものは11年前ぐらいに録音したものなんだけど、自分が1967年にギターを弾いて、曲作って、ハァモニカ吹いて、歌い出した時からずっとこの気持ちは変わらない。だから俺には大事な曲だね。ジャンルなんか誰にも決められないし、俺自身も決められたくない。みんな一人一人が言音一致の純音楽家だから、あえて俺はそのなかの一人で「純音楽家の遠藤賢司です」と言ってるんだけどね。いいものはなんでもいいと思うし、音楽家だからどんなものでも吸収し演奏したいんだ。
──今だに社会は「水平社宣言」(註:1922年に出された日本最初の人権宣言)のような世界にはなっていないし、やっぱりエンケンさんはこの曲を歌い続けるしかないのかと。
永遠にそうだと思うよ。でも俺みたいなのは珍しいのかもしれない。最近つくづくそう思う(笑)。分け隔てというより、音楽ジャンルの差別は人間への差別だから、音楽まで差別したらこの国はおしまいだと思うよ。それでなくてもアメリカの被占領国なのにね。引き出しみたいにこれはここって何でもきちっと整理しないと不安なんだろうね。明治維新で西洋翻訳文化がどーっと押し寄せてきたから、一つ一つをはみ出さないように整理しないと、世界の潮流について行けないと思ってるんだろうけど、それがダメだよね。自分の責任で自分の為にだけ物作りをしてないから分からないんだよ。演歌でもアフリカの曲でもフラメンコもまあロックもクラシックも韓国の歌も中国の歌も、自分がいいと思う音楽はすべてDNAの中にもともと自分の中に入っているんだと思う。創造の本場は自分、そう思って創る、それが物作りの基本じゃないかな。
──「嘘の数だけ命を燃やせ」はライブでも定番の曲で僕はすごく好きなんですが、歌詞の「燃えつきるにはまだ早い」という言葉が、ニール・ヤングの「錆びつくより燃えつきたい」への呼応にも聞こえるんです。
別にニール・ヤングに応えた訳じゃないけど、言ってることは同じことだと思うよ。音楽家として言いたいことや歌いたいことがなくなってしまうことが錆びつきるってこと。俺もそうだし、ニール・ヤングもそうだと思うけど、音楽がなくなったらどうやって生きてけばいいのか途方に暮れると思う。俺は本を読むことも好きだけどそれだけでは多分ぼーっとして急にボケるかもね。音楽がなくなったら世界は滅びるよ。リズムは活きる基本だから。
──歌いたいことがなくなってしまう不安ってやっぱりあるんですね。
そりゃあるよ。来年ニューアルバムを作ろうと思っていて、今2曲なんとなく在るんだけど、他最低8曲前後実際できるかどうかわからない。いつもそうやって作ってきたから多分できるんだろうけど、必死になればね、でも不安感はあるよね。どんな仕事でもそうだと思うけど、俺は好きなことしかやってないから特にそうなのかもしれない。音楽を嫌いな奴は誰もいないし、その中で闘っていかなきゃいけないから。余計キツイかな、なんてたまには甘えたい(笑)
一緒にこの時代に活きてる
──「やっぱりあなたの歌じゃなきゃ」はなんといっても鈴木茂さんのギターが印象的ですが、エンケンさんにとって鈴木茂さんのギターとは。
彼はすごくいい音を出すよね、飾りのない素直ないい音を。それは、昔から知っているからとかじゃなくて、ベテラン面せずにいい音を保ち続けている努力の音だね。初めて音を聴いたのは道玄坂の上にヤマハの練習場があって、43年ほど前だけど、そこで細野晴臣くんから「今度はっぴいえんどという新バンドに加入するリードギターの鈴木茂くんだよ」って紹介された時かな。その時の音と全然変わってないよね。それがすごい。もちろん山本恭司くんも土屋昌巳くんもそうだけど、俺がこういう音が欲しいと言って、俺の音楽を理解してくれて、俺の音楽に寄り添ってくれた音は、俺にとっての凄くいい音だね。魂をなぞってくれるような音。中でも鈴木茂くんとは一番長いし、一番たくさん曲をやっているから特にそうだね。普段はさほど付き合ってるわけではないんだけど、前は10年毎に会ってたのが5年毎、3年毎とだんだん近づいているような気がする。一緒にこの時代に活きてるから。鈴木茂はそんなオーバーな話じゃないよって言うかもしれないけど、俺にとってはそうだね。世界に誇るべき名ギター弾きだよ。それにあえて言えば俺の曲が今に活きてるから、彼も気持ち良く寄り添って弾けるんだよ。まあ俺の曲が良いからで大したもんだよ。さすがにそこまで言われたら彼も違うとは言えまい(笑)
──「惚れた!惚れた!」はエンケンさんとトシさんと2人で演奏してますが、まさに「エンケン対トシ」の大勝負って感じの曲ですね。
そうだね。録音でトシと一対一でやったのは久しぶりだと思う。すごくいい音が録れたね。
──エンケンバンドはエンケン・トーベン・トシの3人でぶつかり合うのもいいんですが、それぞれとの1対1の対決も見物です。
エンケンバンドはそれができるよね。1対1が。トシみたいなドラムを叩く人もいないし、トーベンみたいなベースを弾く人もいないから。俺さえシッカリしてたらエンケンバンドは世界一のバンドだと思う(笑)。トシもトーベンもずっと闘っているから。自分と家族を食わせるために必死でやってきて、一度も止めたことがないからね。これは大きいよ。一度音楽を止めたら音は違ってくるから。誰よりも音が好きだっていうのもあるんだけど、何としても俺はここで闘うんだっていう迫力の音がある。
史上最長寿のロックンローラー
──終盤は「純音楽の道」に続き「史上最長寿のロックンローラー」とエンケンさんの代名詞のような曲が続いて、まさにライブさながらの展開だと思いました。この曲はエンケンさんが99歳までやり続けるという宣言の曲だと思いますが。
実際99まで今みたいにギター弾いてドラム叩いてっていうのは無理だと思うんだけど、99歳まで自分でやってやろうと自分をたきつけたら、少しは長持ちするのかもしれないかなって思う(笑)。何せ年齢的な目標は高く掲げた方がいいよね。その方が聴いてる方も自分に希望がもてて楽しいじゃない。だから史上最長寿のロックンローラーというのがいてもいいと思ったんだ。自分の望みも含めて俺の中で長編小説のようなロックを作りたかったんだ。
──今回収録されたのは9分47秒のバージョンですが、最初出た時は25分以上の曲でした。
ははは。ジャケットもギネスブック級でデカかったしね(笑)。(註:60cm四方の超特大ジャケットでリリースされた)
──いろいろすごかったんですが、いわゆる能とか狂言みたいなものをロックにしたというのにすごく驚きました。
俺は歌舞伎も演劇も芝居も浪曲も映画もなんでも本当に好きだから、そういうのが全部入ってるのかもね。小さい頃に村芝居を観たんだけど、それがすごくよかったんだよ。カッコイイよ。豊年祈願がかかってるから生半可じゃないし、エロや残酷な部分もあるんだけど、大笑いする所もあって、とにかく迫力あったよね。歌舞伎も好きだけど、俺の心の中の創造魂を今でも焚きつけてくれてるんだ。エンケン独自の歌舞伎や村芝居がこの史上最長寿のロックンローラーの中で生きている。それと音楽的にはローリングストーンズの「ベガーズ・バンケット」を意識してるよ。影響されてじゃないよ。対決曲としてね。聴き手の頭の中に音から画面が見えてきたらいいなと。99歳のじいさんが「わっはっはっは」って出てきて、勝手にひとしきり大騒ぎして、「これでも!どうじゃ!どうじゃ!うひぃうひぃ!」と言って去っていく。そういう奴がいたら楽しいよね(笑)。見た人が嫌なこと忘れて、心がお祭りになるじゃない。そういう音楽を演じる人が一番大人なのかもしれないよ。それは喜劇の人も野球の選手もサッカー選手も、映画も、本も、同じだと思う。誰かがホームランを打った時、それは俺の心の美しい軌跡になるんだよ。ああ、気持ち好い!なって。人の前で表現するっていうのはそういうことだと思う。ゴォルに一点叩き込んで「どうじゃー!わははは」と言って大笑いする奴が俺のライバルだね。プロレスラーもそうだよね。試合中は「どうじゃ!どうじゃ!」って勢いよくやってても控え室に帰ると「死ぬ程痛ててて」って、チャントヤル奴、そういうのが、本当の大人だよ。
──アルバム最後を『中学生円山』のサントラでもある「ド・素人はスッコンデロォ!」で締めてますが、これはエンケンさんがギターとドラムを同時に演奏するというハイライトがありますね。
あれも世界的に珍しいよね。アフリカの奥地にはいるかもしれないけど(笑)。俺はこれを30年ぐらい前からやってるのかな。「東京ワッショイ」でドラム叩きながらギター弾いて「ワッショイ」って叫んでた。一人でプログレ・ハードロックだね。「中学生円山」にそういう場面もあってやっと少し注目されるようになったから、ああ!良かっただけどねぇ(笑)。
──ライブといえば、6月12日に新宿ロフトでベストアルバムの発売記念ライブがあるので非常に楽しみです。
鈴木茂くんとやるのは「君にふにゃふにゃ」の録音以来くらいだから、3・4年ぶりだし、もしかしたら、鈴木茂+エンケンバンドは初めてかもしれない。それも楽しみだね。