ライブはお客さんが主役なんです
── そして戻ってしまいますけど、1曲目『世界の始まりに』は華やかな幕開けを感じさせる軽快なロックサウンドで。
渡會:あのリズムは初めてやったんですよ。10年目にして初めてやるリズムパターンってあるんだって新鮮でしたね。
── その次の『情熱は踵に咲く』はスパニッシュのような情熱的なサウンドですが、FoZZtoneってスパニッシュ系の曲が多いですよね。
渡會:キャプテン(武並)がラテンとかそういう音楽も好きで、僕も影響された部分があると思います。日本人の情熱って演歌寄りになりがちだけど、あちらの方の情熱って毒々しい花が咲いてる感じとか、あれはあれで良いなって。
── 『Master of Tie Breaker』はスタジアム級のロックを聴かせ、すごくライブ感のある曲ですね。
渡會:エンジニアさんに「スタジアムでお客さん全員がYeah!! って言ってる設定にしたいんです」というイメージを伝えて、もういいんじゃないかって言うぐらい「Yeah!!」という声を重ね続けました。
── 何人分ぐらい重ねてるんですか?
渡會:『LOVE』と同じぐらいなんですけど、あの時はスタジアムロックにしたいって言って60人分ぐらい重ねていて、それぐらい入ってます。まぁ、メンバーの声を何十回も重ねたんですけどね(苦笑)。
── この曲は4月のライブで演奏されてましたが、客席に手拍子を促したり、「Yeah!! 」「Master Tie Breaker!!」というかけ声を入れてもらったり、ここ最近はお客さんを巻き込んでライブを作ろうという感じがすごくしました。
渡會:ライブに来ているお客さんのドラマのほうが大事というか、アーティストは主役じゃないなと最近すごくよく思っているんです。高校生で初めてライブに行くという子が、好きな子を誘って来たライブがFoZZtoneだったら最高に嬉しいじゃないですか。その子たちが最高に楽しかったと言ってくれたら、それは僕らが主役じゃなくて、その2人が主役なんですよね。そういうシチュエーションに関わっていくとか、演出していくことが大事だなと思っていて、お客さんに自分が主役だと勘違いしてもらうツールをいっぱい作らなきゃと思っているんです。そうすると聴き手の主役感が増すんですよね。大阪でこの曲をやった時は、みんな我が物顔でメロイック・サインを作ってやってくれていて、そういうのを見てわかってるなって思うんですよ。
── 客席の顔って見えます?
渡會:「Yeah!!」のタイミングで照明さんに後ろから照明を当ててもらうのでよく見えますよ。
── すごく余談ですが、「Yeah!! 」「Master Tie Breaker!!」の入るタイミングが、ちょっと食い気味じゃないですか。なかなか慣れるまで掴めないんですよね(苦笑)。
渡會:そこなんです。一発でうまくやってもらうつもりはなくて、1度だけ行こうと思ったライブでうまく合わなかった! チクショー!! って言ってもらうことが大事なんです。
── 『LOVE』の手拍子も(笑)。
渡會:あれは僕自身も狂いますよ(苦笑)。次は1回だったかな、2回だったかなって。
── そうやってライブに参加している感じがあって良いなと思うんです。すごく単純ですけど、私も次はあの手拍子を合わせたいって思うんです。結局毎回合わないんですけどね(苦笑)。ところで、このリリースツアーは、昨年同様22歳以下の学生バンドを対象にオープニングアクトを現在一般公募中ですが、若いバンドとやることで皆さんも刺激を受けることはあるんですか?
渡會:ありますね。昔の自分たちを思い出させてくれる部分もありますし、僕は性格的に体育会系の部分があって、年齢の上下関係をけっこう気にするほうなんです。アーティストが「音楽やってるんだから、年齢なんて関係ないさ」って言いますけど、年上は年上なんで敬語はもちろん使いますし。そういうのも含めて自分を見つめ直すという意味でもとても良いんですよ。とくにそれが何かに向かって頑張っている若いバンドだと露骨に見えやすい。向こうにとっても同じことだと思うんです。30を越えて前線で頑張ろうと言っているバンドと対バンすることで、見つめ直すところがあるだろうし。僕ら10周年ですけど、25歳の時にブレイクするぞっていろいろな夢を思い描いていて、今回オープニングアクトに出てもらう子たちもきっとそうだと思うんですよね。
── 若い世代にとっても、先輩バンドとやれることってなかなかないから勉強にもなりますよね。で、今回はthe band apartさんなどのツアー参加も決定していて。
渡會:僕らの先輩をツアーにお呼びすることが出来て、上下幅の広いものになったと思います。本来はそうあるべきだととても思います。昔代々木公園で路上ライブをやっていた時に、特にアメリカ人とかイギリス人とかの音楽を好きな国の方が家族全員で楽しんでくれていたんです。家族でライブに来れるかっこいいロックバンドって日本だと少ないと思うんですよ。一時期「音楽は中学生に響かないとダメだ」って話した事があるんですけど、その話に燃え上がる一方なんとなく切ないなと思ったんです。俺は今32歳だけど、ロックンロールを俺に歌ってくれないかなって思いますし、みんながみんな一番CDを買ってくれる層に向けてだけ音楽をやっていたら、おじいちゃんになって何を聴けば良いんだとも思うし。おじいちゃんのためのロックンロールでもありたいんです。
── 今の皆さんの活動だと、20代の人がお母さんと一緒にライブに来るということもありそうですね。
渡會:親子二世代で来てくれてる方も実際いるんですよ。
── そのツアーファイナルは9月7日に赤坂BLITZで開催されることも発表になりました。
渡會:BLITZでのワンマンは4回目で、10周年のアニバーサリーイヤーなので、なるべく派手で大袈裟で、腹の底から笑えるライブにしたいですね。
── 今回アルバムを聴いて、アルバムタイトルも最後の『Reach to Mars』も、このタイトルでありながらよくあるスペイシーな音は一切なく、ちゃんと地に足を着いた感じがしたんですよね。それがバンドの活動スタイルにも似ているところがあると思っていたんです。
渡會:朝な夕な地球蹴ってますから。俺たちがよし宇宙に行くぞってなったら、まずは火星がどこにあるか測定しようというところから始めて、ロケットを飛ばすのに燃料がどれぐらい必要か、どれぐらいの人に手伝ってもらわないといけないか、そういうのを緻密に計算していって、最後にようやく飛ばすというアルバムだと思ってるんです。
── とても現実的な作品ですね。
渡會:とても現実的です。実業家ですから。