FoZZtoneの5枚目のフルアルバム『Reach to Mars』が完成した。今年でバンド結成10周年を迎える彼ら。3月には『O.M.A BEST』("オーダーメイドアルバムベスト"→FoZZtoneが提示した候補曲の中から好きな曲を選んで曲順を指定してオーダーすると、選曲ディレクターとしてあなたの名前が入った世界に1枚だけのアルバムが届けられる)、4月にはEMI時代のベスト盤『Early Best Album 2007-2009』、5月にはシングル『GO WAY GO WAY』(テレビ東京系列アニメ『遊☆戯☆王ZEXALⅡ』エンディングに起用)、そして6月に『Reach to Mars』をリリースと、毎月連続で作品を発表している。
今、自分たちのことを"アーティスト"ではなく"実業家"だと思っているとインタビュー中に渡會将士(Vo.&Gt)が言っていたが、『Reach to Mars』はこの時代に必要とされているアルバムを、今を一生懸命に生きているFoZZtoneが遂に完成させたと言っても過言ではないだろう。今回も渡會に単独でお話を訊いた。(interview:やまだともこ)
必要なステージのための曲を真剣に作る
── 今年はバンド結成10周年ということで、おめでとうございます。バンドの結成は21歳ぐらいになるんですか?
渡會:22歳でキャノン(Ba.菅野)が加入だったかな。竹尾(Gt)とは19歳ぐらいの時に会ったような気がします。
── この10年は長かったと思います?
渡會:とりようによっては長いんですけど、この3年ぐらいが異常に早すぎるんです。いろいろやりましたから。
── ここ最近は特に活動が活発ですよね。そして、5月15日にはシングルとしては4年ぶりとなる『GO WAY GO WAY』がリリースされました。こちらはテレビ東京系列アニメ『遊☆戯☆王ZEXALⅡ』エンディングでオンエアされているそうですが、アニメを見てFoZZtoneを知りましたという方がライブにいらしたりはしているんですか?
渡會:そこで初めて知ったという話はまだ聞いてないですけど、テレビで流れてるの見ましたとかファンの方はとても喜んでくれています。
── FoZZtoneがアニメの主題歌というのは意外だなと思ったのですが。
渡會:でも、意外と合ってると思います。アニメの曲に関しては、制作スタッフさんの意向をなるべく聞くということに徹したんです(笑)。僕らがデビューした26歳ぐらいの頃って、アニメの主題歌を歌ってバンドを売るというのが流行っていたんですけど、アニメファンとしてはあまり嬉しくないんだろうなというテイストの曲も多かったんですよね。もちろん、知れて良かったという人もいるから賛否両論だとは思いますけど、そういうのを5〜6年端から見てきて、いざ自分たちのところにそういう機会がまわってきて、真面目にアニメの曲を作ろうと思ったんです。正直FoZZtoneっぽくないと言われても良いなとも思ってました。必要なステージのための曲を真剣に作るということがFoZZtoneらしいかなって。
── 『GO WAY GO WAY』と、6月5日にリリースされるニューアルバム『Reach to Mars』は同時期に進行していたんですか?
渡會:はい。3月に『O.M.A BEST』をファン向けに作りましたけど、そのレコーディングと『Early Best Album 2007-2009』に入ってる新録の曲と、『GO WAY GO WAY』と『Reach to Mars』のレコーディング、全部で20曲分ぐらい昨年の12月から3月にかけて一気にやってました。
── 『GO WAY GO WAY』と『Reach to Mars』って、サウンドが明るく、歌詞も前向きで、それぞれ近いメッセージを持っている気がしたんですけど、それは同時期に作っていたということも理由のひとつではあるんですか?
渡會:それはあると思うし、『GO WAY GO WAY』を作ったおかげでアルバムが明るくなったかなという気はしています。
── これまでってもう少し雰囲気としてジメッとしていた印象があります。
渡會:いろいろ理由はもちろんあるんですけど、誤解がないように説明しておくと、音楽ってイギリスとアメリカでジメジメっぽさとカラッとしてる感じが全然違うんです。イギリスはラジオに収まらない帯域の音がいっぱいCDに入っているので、情報の処理の仕方で重いと言うかドロッとしているというイメージになりやすいんですけど、アメリカは車社会なのでカーステレオで聴くためのミックスをしているんです。それは上と下の帯域どっちもガツンと削っていて、それをやるとカラッと明るいサウンドには仕上がるんですけど、良い音かと言ったらそうでもないんですよね。今までは良い音というところで、なるべく帯域を幅広く使うことを考えてましたし、サウンドの面で重いとか湿ってるように感じるというのは意図してやってきたものではあるんですけど、それを知らずに「重い感じだな」って言う人が圧倒的に多いから明るくしようと。録る前からグリーン・デイとかアヴリル・ラヴィーンみたいなザックザクの音にしようぜって、そういうとこもけっこう大きいと思います。
必要に迫られてこのアルバムが出来ているんじゃないか
── そのアルバムタイトルが『Reach to Mars』ですが、このタイトルにしたのはどういう意味があるんですか?
渡會:もともと『宇宙兄弟』という漫画を読んで面白いなって思ったところが入り口ですね。で、「火星に到達せよ!」という意味で『Reach to Mars』にしました。
── 男の人なので聞きますけど、昔そういう夢があったとかはあります?
渡會:人並みにはありますけど、ズバ抜けてはないですよね。でも、挑戦することは良いことだなと思っています。世の中的には挑戦することは良いことだと言いつつ、挫折して無難にゆっくり生きていこうというテイストだと思うんですけど、それは敗北者たちが世の中に多いというだけでかっこいいことだとは思わないんです。少し話が逸れますけど、一昔前に人間みんな死んじゃうから今を大事に生きようという映画や曲が流行っていましたけど、iPS細胞を一生懸命研究している人たちがいるのになんて後ろ向きなんだろうって思うんですよね。これまでの作品で、俺なりに生きることに対して前向きに歌ってるつもりでしたけど、いつか死んでしまうんだから今を仲良くしようみたいな歌詞が世間に受けていると感じて、この人たちが言っている明るいとか暗いとかってその先を見てないような気がしたんですよね。それよりもiPS細胞を研究して、人類は肉体を交換しながら200歳ぐらいまで生きるかもしれませんという研究者のおじいちゃんとか、世間的には落ち着きなさいよという年代の方が一生懸命不老不死を研究しているという現実があって、それ以上に素晴らしいことはないなと思うんです。止まっていないというか。止まるきっかけって誰にでもあって、NASAがアメリカの財政がヤバイという理由でロケットを飛ばすなと言われていた時に、じゃあ月に行きません、その代わり火星に行きますよって言ったんですけど、それが素晴らしいなって。
── 私は『GO WAY GO WAY』も『Reach to Mars』も、夢を追い続けることを諦めないということをメッセージとして受け取ったんです。そういった言葉が以前に比べるとわかりやすくなったというか、力強くなったというか、それはどんなきっかけがあったのかなって。
渡會:明るくないとやってられない時って人間最悪の時だと思うんです。それです(笑)。
── えっ? ということは、今マズイ時ですか?
渡會:言ったら、そこに乗り込む覚悟がついたというか、バンド側がそういうテンションだと思うんです。暗いことを言うとキリがないんですけど、同世代のバンドはどんどん解散していて、そういう年代だということもよくわかっているし、だからこそ明るくないとやってられないだろって。あと、僕らはなんだかんだ言って夢を追い求める世代だったなと思うんです。メジャーに行けばいろんな人たちが僕たちを売ってくれるんだという幻想があって、だからアーティストであり続けようという心構えがあったんだけど、今アーティストかと聞かれたら、そんな気はしていなくて“実業家”だと思ってます。そういうテンションにみんながなり始めてるのかなって。ロックンロールが世界を変えるとかを言う世代でもなくなって、僕は音楽を通して世の中をまわしていきますよ、と。ある意味、僕らの世代で生き残っている数少ないバンドのひとつであるFoZZtoneがそこに到達したというか、変な夢を見ていないんです。リアルにやってやるぞという感じなんです。
── 年齢は30歳を越えて、こうすればバンドをまわせるとか現実が見えてくるというか。
渡會:そういう部分が今まで見えてなかったわけではないんですけど、自らそこに踏み込んで行くべきかなと、必要に迫られてこのアルバムが出来ているんじゃないかなと思うんです。だから、夢を追いかけるのは良いことだとか、このアルバムであまり言いたくないんです。夢を追うということはとてもしんどいですよ。そんな簡単に応援なんか全然しないですからねというアルバムなんじゃないかな。それでも始めるんだったら実業としてがんばりなさいって。それを感じ取れるかどうかは人それぞれだと思ってますけど。
── それって10年活動してきたからこその部分もありますよね。
渡會:はい。