自分たちが体現しないと響かないんじゃないか
── そして、3月26日にフルアルバム『I and I』がリリースされましたが、以前の物語性の高い歌詞に比べて雰囲気がずいぶん変わりましたね。
高津戸:今回は自分と戦っている曲が多いですね。昨年の頭に上京したり、メンバーや事務所が変わって行く中で、自分自身も変われたんです。今作はインディーズでのリリースなので、自分たち主導で進めるものも多くなり、ライブのブッキングひとつとっても変わったんだなということを実感して。変化をする途中には悔しい思いもたくさんしたけど、どんなに悔しい思いをしても負けそうな自分には負けたくないなと思ったし、自分にはこんなに素晴らしいメンバーがいるんだから、力を合わせてやっていこうと改めて思うようにもなりました。自分は決して1人じゃない、悪い事だけじゃないって言い聞かせて。そしたら今までなかったポジティブな言葉が出てくるようにもなって、こんなことも書けるんだという発見があったし、自分や仲間に向けた言葉がたくさん出てくるようになりました。
── 歌詞で本音が剥き出しになっているというか、それが一番変わったところだという気がするんです。8曲目の『just moment』はDIRTY OLD MENのリアルが曲の背景に映し出されているような感じもありますし。
高津戸:僕らが新しいことに挑戦していかないと、聴いてくれる人に響かないと思うんですよ。変わろうとしている人、変わりたいけど変われない人の気持ちは痛いほど僕らはわかっていて、自分たちが経験したことを伝えていきたいと思える年齢にもなってきたということですね。それに今回はメジャー時代から関わってくれてる人たちも、栃木SCの応援ソングになった『呼吸』のMVを撮ってくれた人も、無償の愛で手伝ってくれて、たくさんの愛が詰まったアルバムになっているんです。そういう意味で今までの人とも繋がっていられたし、新しい人とも繋がれたアルバムなので、僕らにとってすごく大切なアルバムなんです。
── となると、アルバムタイトルの『I and I』もとても重要な意味がありそうですね。
高津戸:ラスタ用語なんですけど、隣にいる誰かはYOUではなく、もう1人の私であるという思想で、隣にいる人の喜びも痛みも感じ、手を取り合おうという意味があるんです。きれい事かもしれないですけど、僕らはひとつになって挑戦出来ているので、このタイトルがピッタリだなと思ったんです。
── タイトルは、アルバムが出来て一番最後に付けたんですか?
高津戸:そうです。だからこれがコンセプトでということではないんです。
── アルバム自体のコンセプトはあったんですか?
高津戸:自由に。好きなようにというか、新しい事をやろうって。
岡田:でも、結果振り返ると自分との戦いがけっこう描かれているよね。そういう意味でつじつまが合うなと思いましたよ。
── 今回エンジニアさんも以前からお世話になっている方にお願いしているんですか?
高津戸:『bud』(2008年6月リリースのアルバム)ぐらいからずっとお世話になっている方で。
岡田:力を貸してくれる人が、こんなにもたくさんいるんだなと改めて感じましたよ。
高津戸:それにすごく背中を押されましたね。僕らを信じてくれる方が協力してくれて、まだまだやらなければいけないと思うし、やってやるという気持ちにも繋がっているし、それは事務所にも感謝ですし、みんなにも感謝ですね。
── その方との作業はどうでした?
岡田:スムーズでしたよ。
── 基本はみなさんがこうしたいと言ったものが形になってる?
岡田:音に関してはアドバイスもらってますけど。
山下:アレンジはセルフですね。
── 全11曲がバラエティに富んでいて、やれることが広がったんだなという気がしますね。
山下:まさにそのとおりです。
── 高津戸さんのこうしたいというイメージを形に出来ているような気もしますし。
高津戸:今のメンバーは、こういうのやりたいっていうと受け入れてくれるし、新しいアイディアを提案してくれる。
── 生み出すのが辛かった曲ってあるんですか?
山下:今回はあんまりなさそうじゃなかった? めちゃくちゃつらーいって感じはなかった。
高津戸:いやいやいやいや(苦笑)。『Fruit Windy』は考えすぎたかもな。素直に僕の思いが吐露されていると思いますけど、語呂のはまりとかは歌入れ直前まで考えてましたね。メジャーの時に、歌詞を書いてはディレクターにダメ出しをされるというのを繰り返していて、プロの世界の厳しさを目のあたりにしたんですけど、そうして2年間プロの方々と仕事をさせて頂いた経験が、新しいことを吸収出来た時間になったし、そこから生まれたものを自由に書けるようになったので今は楽しくてしょうがなかったです。
── 『Fruit Windy』はアレンジがすごくドラマティックに展開していきますよね。もともとはギターの弾き語りで持っていくんですか?
高津戸:そうです。それで、こっちのイメージを伝えて、あとはそれぞれが持ち寄って、みんなで合わせていく。で、話し合いをしながら細かい作業をしていって。
渡辺雄司はゴールドフィンガーの持ち主です
── また、『knight』とか『puzzle』は今までにない感じのグルーヴ感があって、骨太のベースラインを鳴らす渡辺さんがキーになっている気がします。
渡辺:『knight』は、こういう感じで弾いて欲しいというのがあったので、それを元にベースラインを考えて、自分だけで考えるよりも違うパートの人にアドバイスされたほうが広がるんですよ。
岡田:雄司は考え方が柔軟だし、テクニックもあるし、休符を使うのが上手いのでノリが出るんですよ。ドラマーとしては合わせるのがとてもラクです。特に『puzzle』に関しては成長がハンパなくて、昨年1回合わせた時は「指がついていかん」って言ってたんですけど、ツアーをやっていくうちに指の動きがすごくなって、彼はゴールドフィンガーの持ち主ですよ(笑)。
── なるほど(笑)。
渡辺:これまではピックでしか弾いた事がなかったんですけど、ダーティーに入ってから指弾きするようになったんです。
高津戸: 戸:僕は ギターでベースのフレーズを作って持っていくんですけど、ピックで弾いちゃうので、ある程度速くても弾けるんです。それを雄司は指弾きして頑張ってましたね。でも僕がある程度作っていく曲って暗くなりがちで、それが『knight』や『puzzle』なんですけど、後半の明るい印象がある曲は弾き語りで渡してみんなでアレンジを考えて作ったものです。
── 『Born Message』とか『World Maker』のような?
高津戸:そうです。
岡田:のぶは曲を持ってくる時に、あの楽器を入れたいというのを考えていて、『World Maker』はカズーを入れたいって、カズーのフレーズを再現して打ち込んでみたりして。実際カズーを吹いたんですけどしっくりこなくて、結局打ち込んでます。
渡辺:『World Maker』はバンドで合わせて出来たのが早かったよね。各々持ってきたのをやってみたら、いいやん! ってなって。特に、こうしたほうがいいんじゃないってのもなかったし。
高津戸:細かい部分で言ったら気になる部分はあったけれど、スッと出来ましたね。歌詞は一番戦ってる感じですけど。
── また『フレンドリーな季節』って、洋楽っぽさがありますよね。何かモチーフとなっているものがあるんですか?
岡田:スティービー・ワンダーですね。
山下:完全に狙ってやってます。
高津戸:やりすぎたなってぐらい(笑)。オマージュって嫌がる人もいますけど、このメンバーは「いいねいいね!」って楽しんでくれるから。打ち込みとかが入っていた曲は前のメンバーの時はあまり聴かせなかったんですけど、今のメンバーは聴いてもっと面白いアイディアを出してくれるんです。
── 1曲目の『煌めくのに』は以前PLAYBUTTON(※缶バッジ型の本体にヘッドフォンを差し込むだけで、自動的に音楽を再生できる優れもの)で販売してましたが、これを書いていた時の心境って思い出せます?
高津戸:『煌めくのに』は昨年上京して一番最初に書いた曲です。環境が変わり、葛藤しながらも新たな光を探しに行くという自分の状況と、住んでる街並みとがリンクして出来ました。『煌めくのに』という曲は、自分の中の一番女々しい部分ですね。