amazarashiがニューアルバム、『ねえママ あなたの言うとおり』を4月10日にリリースする。絶望の中から少しだけ覗く希望や、今という現実を受け入れた上で恒久的なもの、もしくは刹那的なものが描かれた、ポエトリーリーディングを含む全7曲を収録。今作はこれまでに比べると、作詞・作曲を手掛ける秋田ひろむの真意を感じられる歌詞が多いという印象だった。
昨年は6月にフルアルバム『ラブソング』を、そして11月にライブDVD『0.7』をリリースし、2回の渋谷公会堂でのライブと、東名阪福でのツアーを敢行。今年も既にSOLD OUTとなっている5月31日の渋谷公会堂をはじめ、名古屋と大阪でライブが行なわれる。以前に比べるとライブ活動が活発になり、バンドとしても進化を遂げている彼ら。今回も秋田ひろむにメールでインタビューを行なった。それぞれの今を色濃く映し出すこの作品が、より多くの人に届いてくれることを切に思う。(interview:やまだともこ)
現時点での人生の歌を作ろうと思った
── レコーディングが終わり、秋田さんの近況を教えてください。
「メールインタビューとか含め書き物が多い感じです。その合間に歌ったり曲を作ったりしてます」
── 昨年は、渋谷公会堂でのライブや、初のZepp Diver City、そして名古屋、大阪、福岡でのライブもありましたが、1年を振り返るといかがですか?
「あっという間でした。あのライブ去年だっけ? 一昨年だっけ? っていう感じです。大変だったんですけど、すごい充実した1年だったと思います」
── そして、ミニアルバム『ねえママ あなたの言うとおり』が出来上がって率直な感想をお願いします。
「このアルバムはいいと思います。毎回思うんですが。攻撃的ではあるんですけど、以前のそれとは違って、現在の視点から過去や未来を歌っているので、その辺に注目してもらえたらと思います」
── 『ねえママ あなたの言うとおり』は、コンセプトを考えた上で制作に取り組んだのでしょうか?
「全然なかったです。『風に流離い』という曲が出来て、これは絶対次に入れようと思ったのが今回のスタートでした。そこから『風に流離い』以外はどういう曲を入れようか、と考え始めました」
── 昨年11月の渋谷公会堂でのライブ後、オフィシャルのブログで「思っていたように出来ず不甲斐ない」というようなことが書かれていましたが、「これをきっかけにもっと良い曲が作れそうだ」ともありました。そこで書かれた曲はありますか? またそれは、今作に収録されていますか?
「あります。けど今回には入ってません。今回のアルバムも色んな曲の中からどれを入れようか考えたんですけど、今回には今回のカラーがあって、それを意識して収録曲を決めました。それにそぐわないと思った曲はいい曲でも入れませんでした。いつか絶対出したいと思ってます」
── アルバムタイトルは『性善説』の歌詞からになりますが、このタイトルに至った経緯はどういうものですか?
「『性善説』が出来た時点でこの曲がタイトル曲だろうな、と漠然と思ってたんですが、アルバムタイトルにするには仰々しすぎるかなと思って、もっと広い意味合いを持つ、全曲に当てはまるようなタイトルを探して、こうなりました」
「以前『アノミー』という曲で社会規範の崩壊というテーマを扱ったんですが、この曲はそれに対する僕なりの答えだと思います。音的にも温もりと攻撃性が混ざり合っててかっこいいです」
── 『風に流離い』について。この歌詞は、秋田さんの心の叫びのようなものを感じましたが、どんなきっかけがあって作られたのでしょうか?
「最初に最後のサビを思いついて、なんか言葉のリズム感が良くて、頭に残ってて、この最後のサビは今の僕の気持ちそのままなんですが、これを最後に置いてここに至るまでの気持ちを書けたらと思って作りました。現時点での僕の人生の歌を作ろうと思っていて、そのとおりに出来たと思います」
── この曲を聴いて思ったんですが、音楽活動をしていることが今の秋田さんを支えていると言ってもよいのでしょうか?
「音楽でしか褒められた事がないので、これをやるしかないと思ってます。もし音楽を止めてたらと考えるとぞっとします」
完璧な人にはなれないけれど、だからといって悪い人生ではないよな
── 『ジュブナイル』について。これまでは必死に藻掻いてそれでも生きようとする少年が「僕」だったことが多いと思いますが、『ジュブナイル』の歌詞を読むと少年少女を第三者的な目で見ているのが「僕」でした。この変化には何か理由があるのでしょうか?
「リスナーから手紙をもらったりするようになって、色んな頑張ってる人達がamazarashiを聴いてるんだなと感じて、同時に以前の僕と重なったりしてこういう曲を作りました。この曲はamazarashiらしい応援歌だと思います。少年少女は以前の僕でもあります」
── この曲は少年少女を描いた曲でしたが、今秋田さんが歌詞を書くにあたり伝えたいと思っている対象の人はいるのでしょうか?
「『ジュブナイル』はたまたまそういう気持ちになっただけで、それが中心になる事はないです。先の事は分からないですが。その時その時の気持ちを歌っていけたらと思ってます」
── 『春待ち』について。この曲を作ることになったきっかけを教えてください。
「『性善説』へのイントロダクション的な役割です。ポエトリーリーディングは最後に今年に入ってから作ったのですが、リリースが4月なので早く春が来ないかなあと考えながら作りました」
── ラップの要素が強い曲でしたので、最近よく聴くヒップホップのアーティストさんがいましたら教えてください。
「THA BLUE HERB、SHINGO西成、鬼、が好きです。歌詞という意味では、日本の色んなジャンルの中でヒップホップが最先端だと思います。『春待ち』はヒップホップを意識したわけではないのですが『千年幸福論』くらいから韻を踏む事を意識しはじめて、今回のアルバムでひとつやりたい事がやれたなという感じがあります。個人的に『風に流離い』がヒップホップ的な構成だと思います」
── 以前リリースされた『さくら』も春をテーマにした曲でしたが、秋田さんが“春”という季節に持つイメージとはどんなものなのでしょうか。
「北国育ちなので、冬から春への緊張と緩和みたいな、やっと解放されたみたいなイメージがあります」
「そういえばしたことないです。いつかしてみたいです」
── 『ミサイル』。この曲はタイトル含めて、とてもamazarashiらしいという印象でした。
「前半の歌詞の中でアパートに引きこもっているのは昔の僕で、ルサンチマンの象徴です。それを今の僕が断罪するという視点で作りました。意図せず混沌とした歌詞になってしまったんですが、それが勢いになっていると思います」
── ポエトリーリーディングの『僕は盗む』。
「『ミサイル』から『パーフェクトライフ』へと繋げるポエトリーリーディングです。歌を作るさいにあるテーマを用いる事を“盗む”と表現してます」
── そして最後は雄大なサウンドで聴かせる『パーフェクトライフ』ですが、この曲も素直な感情が込められているように思いました。
「一番僕の等身大というか、素の感じが出てる曲だと思います。完璧な人にはなれないんですが、だからといって悪い人生ではないよな、という歌です」
── 今回曲を作るにあたり、題材になった出来事やニュース等はありましたか?
「特にないです。僕の日常に根ざした楽曲だと思います」
── 収録曲はリリースされてからライブで演奏されることがほとんどだと思いますが、ライブで演奏してみて、アレンジを少しずつ変える等はあるのでしょうか?
「あります。リハが始まらなければ分からないんですが、曲単体をアレンジするというよりは全体の流れを見て、こうした方がいい流れができるんじゃないか、みたいに考えます」