スピッツの草野マサムネ氏やGOING UNDERGROUNDの松本素生氏らをはじめ、各方面から賞賛の声が届いた前作『2012 EP』(2012年9月発売)から早4ヶ月。新たな境地を開拓した前作のリード・トラック『tokyo2012』とは対を為すように、今作『井の頭 EP』には「これぞ、よしむらひらく!」と最大の賛辞を贈りたい屈指の名曲『井の頭』が収録されている。
今回はインタビューのゲストに今やよしむらひらくのライブでは欠かせない存在となったサポート・ギタリストの西田修大氏(goodbye blue monday)も迎え、ソウルメイトがいてこその本音もちらり。誌面では、『井の頭 EP』について掲載しているが、2人の出会い〜『2012 EP』リリースまでのエピソードがWEB版Rooftopに掲載しているので、そちらもどうぞ。(interview:山口広太郎)
音楽を作るというよりは、自分である事
──新作『井の頭 EP』発売されましたね! さて、今回の対談はゲストに西田くんを迎えて行なう訳ですが、まずは、ひらくくんとの出会い等を教えてもらえますか?
よしむらひらく:俺がサポートでギターを弾いていたバンドと、西田のバンドが対バンした事があって。ま、『2012 EP』でもドラムを叩いてくれていた金川ってやつが共通の知り合いではあったから、お互いの存在は元々知っていたんだけど。でも、対バンしたその日は俺の体調がすごく悪くて、その時に西田がすっげー熱い感じで絡んできて。「本当、こいつウゼェ…」って思ってた(笑)。でも、その後に「ギター弾かせてよ。」みたいな事を言ってきたから、じゃぁお願いしますって事で。
西田修大:対バンした後に、よしむらのライブを初めて見に行ったんですけど、その時に話したら「メンバーに対してしっかり信頼出来ているかと言ったら難しいかもしれない」とか言っていて。その日のライブを見てすごく良いなとは思ったんだけど、よしむらが言っている意味も分かって。演奏が悪いとかって訳じゃなくて…。
よしむら:「もっといける!」って感じだよね。ネガティブな意味ではない。
西田:そうそう。で、だったら俺に弾かせてくれない? って素直に思って、それを伝えて。でも、それから連絡はなく…(笑)。そしたら、1ヶ月後ぐらいに急に、この日とこの日は空いてないか? というメールがきて。
──そもそも、西田くんは、よしむらひらくのどこに惹かれたの?
よしむら:その辺、たくさん話したよねー! 良い話がめっちゃある。
西田:ま、かいつまんで話すと、最初に見た時も、一緒にやった後にも思った事だけど、自分は違うバンドをやっていて、そこでは俺が曲を作っていて。シンガーソング・ライターがフロントにいる訳ではなく、メンバーそれぞれが、その音楽を作るためのツールの一つというか。でも、よしむらひらくの後ろで演奏をしていると、極論で曲が良いとか声が良いとかはあるけど、そういう事ではなくて立ち姿的に、自分が作った曲を自分が歌うから良い、みたいなところを強く感じて…。
よしむら:音楽を作るというよりは、自分である事というか。よしむらひらくがそこにいる、って事の方が重要だって事を西田に切々と説いたよな。
西田:そう、最初から言ってた。その意味は今でも分かるし、よしむらは今まで俺の周りにはいなかったタイプだから、そういう強度を持った人間と一緒にやる事は面白いし、気持ちが上がる。
よしむら:西田がいて一番助かっているのは、よしむらひらくがやろうとしている事に対して、よしむらひらくの実力のどこが足りていないかって事を分かってくれている。ネガティブだったり批判的な気持ちを持って言う訳ではなくて。それが、自分の中でどれだけの支えになっているかっていうのはあるかな。
西田:結局は人間性だけどね。もちろん、それだけでは一緒に出来ないんだけど、でも、よしむらの音楽においては人間性が好きという事がかなり重要だから。
よしむら:でもね、そこがやっぱりさ、俺の音楽が広がるのには時間が掛かってしまう要因なんだろうね。ある程度よしむらひらくを多面的に理解しない限り、魅力がさっぱり分からないという。それが、よしむらひらくの音楽の弱点だよねぇ(笑)。
西田:まー、そこをどう狙って行くのかっていう面白さもあるけどな。
よしむら:やっぱり、ぱっと聴いて瞬間で良いなと思わせなきゃだめでしょ。今後は。分からないけど、よしむらひらくっていう名前がある程度パワーを持つようになったら…要するに、知名度とか人気とかがもう少しじわじわ上がれば、ある所から急に信頼されるアーティストになるような気がするんだよねー…って誰か記者が書いてくれれば良いけど(笑)。
西田:でも、そこがポイントだからな、本当に。
よしむら:あ、こんな新人が出てきたんだって感じじゃないからなー。やっぱ、売り方を考えなきゃいけないね。
『井の頭 EP』制作秘話
──二人の出会いから、ダメ出しモードになりそうなので、話を活動と作品の事に移しましょう(苦笑)。まずは、前作『2012 EP』をリリースしてから約4ヶ月ですが、振り返ってどうですか?
よしむら:否定する訳でも、悪い意味でもないんだけど、リード曲の“tokyo2012”に関しては未だに消化しきれてないかな。結構、考えて作った曲だから。難しいですね、慣れない曲というのは。特にライブにおける”tokyo2012”というのは、「こういう所とこういう所がクリア出来たら俺にとって良い曲になるだろうな」っていう考えがあって、それを未だにクリア出来てない気はするかな。
西田:リハとかでも、あまりやりたがらないよね。メンバーは演奏していて楽しいけどね。
──西田くんは『2012 EP』からの関わりで、ひらくくんの音楽に対しての先入観はあまりない中での作品だったと思うけど、どう感じた?
西田:俺は、『2012 EP』の4曲の中では”tokyo2012”が一番好きですね。ひらくとやる事になって半年ぐらいしてから『2012 EP』を録音したんですけど、それまでの間に、どういう音楽をやりたいのか、どういう風に曲を作るのか、普段どういうコード進行を使うのかとかを何となく分かってはいたんですけど…“tokyo2012”ではひらくが持っていたそういう部分をあえて避けて、逆にない部分をあえてやってみたりと、かなり悩んで作った曲なのかなとは思いましたね。結果、よしむらひらくの曲として良い曲になったと思う。『2012 EP』は全部好きだけど、リード曲の“tokyo2012”は、次の自分の表現というものに意欲的に取り組んだんじゃないですかね。
──なるほど。今までの話を聞くと、楽曲制作においても、西田くんからは何らかの影響を受けているんじゃない? 『2012 EP』を経て、今回リリースされた『井の頭 EP』では何か影響はあったの?
よしむら:あ、でも、そんなにないかなぁ。
西田:そこは、俺もないだろうなって思ってますけどね。というか、ない所がひらくの良い所というか。ただ、ライブの見せ方とか、よしむら自体の雰囲気は変ったかもしれないけど。
──たしかに。西田くんが入ってから、ライブの見せ方は一段と良くなったと思います。『井の頭 EP』の話になったから、それについて話しましょう。今作は『2012 EP』リリース前の時点で、ある程度の構想はあったよね。
よしむら:そうだね。俺としては『2012 EP』と『井の頭 EP』は最初から2枚組として構想はしていたから。
──リードトラックの“井の頭”は「春」のシングルを出した気のレコ発からライブでは頻繁に演奏していた曲だけど、曲の原型自体はもっと前からあったよね。
よしむら:そうだね。これは意外とどこにも公に発表してないんだけど、最後の大サビの部分は高校三年生の時に、某レコード会社と関わっていた時に…今は“春”を越える曲を書けとスタッフ陣に言われる事が多いけれど、当時も別の曲なんだけど“春”同様に指標とされていた曲があって。それを越える曲を作れと、その某レコード会社の人間に言われて、ムカついて作った“スピッツ”って曲があるんだけど、その曲から“井の頭”の大サビとして歌詞もメロディもそのまんま使われていますね。コードだけ一部違うけど。
──ここに来て、もう一回“スピッツ”を引き出したのは何故? 他にも昔の曲のストックは大量にあったし。
よしむら:理由かぁ…それは、何故音楽をやっているのか、この曲は何でこのタイトルなのかっていうのを聞かれるのと同じで、ただそうであったからっていうレベルの話かな。曲作りレベルのことだから。ま、思い入れのある曲ではあたけど。“井の頭”を作っていた2011年の春に、高校生の時に作ったメロディを、当時一番新しく作っていた曲とドッキングさせるという、自分の中だけでの楽しみ方というか。特に深い理由はないです。高校生の時、ずっと苦しんできたから、なんか褒めてあげたかったっていうかね。
──俺はひらくくんの楽曲の中で個人的には一番好きな曲なんだけど、ひらくくんも自信のある楽曲でしょ?
よしむら:うん、そうだね。でも、上手く歌えないけれども。難しいんですよ、歌うの。
西田:井の頭はいつも上手く出来た気がしないんだよね、何故か。メンバー間でもそう。
よしむら:そうなんだよ。全員言うんだよね。井の頭は難しいって。
西田:感覚としては、 “春”ぐらいの感じで演奏出来る曲なんだけどね。
よしむら:うん、曲自体の安定感としてはね。言い方悪いけど、この曲はここに入れておけば大丈夫だろう、みたいな。
西田:“ザ・よしむら”な曲だしね。でも、“春”とは違った難しさがあるんだよ。
よしむら:“ザ・よしむら”な曲だけど、“ザ・よしむら”な難しさがあるよね。