2011年4月に1stミニアルバム『一番はじめの出来事』、12月に2ndミニアルバム『回帰する呼吸』をリリースしてきた"the cabs"が、待望の1stフルアルバム『再生の風景』をリリースする。前作から1年という時間の中で、多くのステージを経験してきた彼らが作り出した今作。1曲目の『Leland』から予想外の展開で魅了し、彼らの魅力が充分に詰め込まれた『花のように』、リード曲の『anschluss』や、美しいギターのメロディーを聴かせる『わたしたちの失敗』、そして現在24歳の彼らが高校生の時に作ったという『Your eyes have all the answer』『すべて叫んだ』までの全10曲。前2作までとはさらに進化し、より聴かせることを意識した首藤義勝(bass&vocal)の歌声、歌詞世界への想像力を増幅させる高橋國光(guitar&vocal)のギター、繊細さとダイナミズムとを持ち合わせた中村一太(drums)のドラムが、ドラマチックに展開するサウンドを掻き鳴らす。
今回は作詞作曲を手掛ける高橋國光に単独インタビューを敢行した。変化を続けていることを感じる彼の言葉にも注目してほしい。(interview:やまだともこ)
これまでの経験を詰め込んだ作品になった
── これまでミニアルバムが2枚続き、ようやく1stフルアルバムですね。初めてのフルを作る作業はどうでしたか?
高橋:レコーディングの日程が近づくにつれて、みんな目に見えて焦りが出てきましたね(笑)。「曲足りないんじゃない?」って。実際には足りてるんですけど、もっと余裕を持って収録する曲を選びたいというのがあって、レコーディング直前まで曲を作ったり選んだりしつつ。曲作り自体は同じペースでずっとやっていたので、全部で13曲〜14曲あったんですけど、高校の時に作った曲も入れたいし、選ぶというのはプレッシャーでした。
── 選曲の基準はあったんですか?
高橋:ミニアルバムと変わらなくて、自分たちで聴いてグッと来るか来ないか。メンバー全員の意志がしっかり統一されているから、明確にこういう曲というよりかは、メンバー的にどう思うかというところを大事にしました。
── アルバム全体を通して、前作の「生まれ変わる」というメッセージの先を提示しているように思いましたが、こういう作品にしようというのは最初からあったんですか?
高橋:コンセプトは全曲通した時にこういう感じだなというのはありましたけど。今回は曲数が多いし、カラーが違う曲も入ってくるし、でも今までのthe cabsの経験を作品に入れていくことになるから、同じ時間軸の中で新しいことを始めようという意味で“再生する”というイメージがあって、タイトルは『再生の風景』になりました。フルアルバムというタイミングもあるし、一度落ち着いてここから新たに自分たちの感じを出していこうよっていう感じですね。
── それは今の自分のモードとしても“再生”がキーワードだった、と?
高橋:2012年は『回帰する呼吸』のリリースツアーが上半期にあったり、大きいステージを経験したり、年齢的には今年24歳で大人だし、激動の1年だったけれど落ち着いて考えることもけっこう多くて、これまでの自分とは違う感じになっているなと思ったんです。その中でフルアルバムを出すことになって、タイトルを決めたり歌詞を見直している中で、自分が書いた歌詞や曲の見え方、音源の質もミニアルバムとは全然違うと思っているし、そういう意味では再生かもしれません。
── 先ほど話にあがりましたが、高校生の時に作った曲を今入れようと思ったのはどんな理由からですか?
高橋:アルバムのラスト2曲『Your eyes have all the answer』『すべて叫んだ』ですね。今までの2枚はこれまでに経験したことや、音楽的な部分の積み重ねが入っていますけど、この2曲は自分たちの根本的な部分から出ている曲なんです。今聴いたら逆に新鮮に聴こえるし、良い曲だねってみんなが口を揃えて言えるようになっていて、今まで継続してthe cabsを聴いている人にはこういう時もあったんだよを提示しようって。
── みなさんの原点に近い?
高橋:原点に近いというか、今はライブをやって、お客さんに対していろいろと提示していくことが生活になっているけれど、高校生の時だから自分がバンドでどうなっていくかなんて全く考えていなかった。ただスタジオに集まって作った曲だから、今とは質感が全然違う。ある意味今のほうがガムシャラにやってやるという気持ちがあるんですけど、その時に作った曲はすごくシンプルだし、伝わりやすいかなって思うんです。
── こんなに歌モノだったんだという感じもしましたけど。
高橋:一瞬でしたけどね。高校2年でバンドを組んで、当時洋楽、UKロック、ニューウェーブにドラムの一太がはまっていたので、洋楽っぽいことしようよって始めたんですけど、高校3年の時ちょっと歌モノっぽくしようって。アスパラガスのようなメロディーがあって、すっと入りこむ音楽をやろうって。その後今よりもっと変なことをする時期があったんです。
── 変なこと?
高橋:曲が6分とかで展開がめっちゃあって、歌うパートはちょっと入ればいいってぐらいの。
── 渋い音楽をやる19歳だったんですね(笑)。
高橋:渋いって言うんじゃないんですよ。見失ってたって言うんです(笑)。お客さんも全然いなかったし。みんな今よりもっともっと音楽を聴いていたし、貪欲だったからやりたいことを詰め込みまくってた。
── いつぐらいから首藤さんの歌がこんなに良いということに気づき始めたんですか?
高橋:僕は高校の頃から義勝が歌うのがベストだと思っていたんですよ。本人の意識の問題で、歌うことを嫌がっていた時期もあったんです。でも、『一番はじめの出来事』をリリースしたちょっと前ぐらいから、本人が歌を歌うということはこういうことなんだなっていうふうに気付いて。『二月の兵隊』(『一番はじめの出来事』収録曲)が出来た時は、まだリリースとか決まってない時期ですけど、プリプロをスタジオでやっていた時に自分から歌を増やしたいと言うようになって。今は、曲が歌を出そうという感じになってきているし、本人がそれに対してレスポンスしてくれるようになった。あと歌に対する話し合いも増えたかな。義勝も歌うことに対して意識が高くなったし、こっちとしてももっと良くして欲しい、もっと良くなるだろうっていうのがありますから。
── 演奏はめまぐるしく展開するものが多いですが、そこで歌がちゃんと立ってるんですよね。『花のように』は歌もメロディーも良いし、でも展開もシャウトもあって、the cabsの魅力が全部入っているような気もします。
高橋:この曲が一番最後に出来たんです。レコーディングのちょっと前。スピード感もあるし、メロディーも立ってるし、演奏も難しい。だからライブで極力やりたくない(苦笑)。
── 難しいものも、作品ごとに挑戦してスキルアップさせるという意識はあるんですか?
高橋:それはあまり考えてないですね。作ったんだったらやるしかないっしょって(笑)。自然に出てきたメロディーが難しかったというだけの話で、今はみんなのスキルの中でギリギリ収まってる。ガシャガシャしてよくわかない曲ばかりを作るというモチベーションでもなくなってきているし。
── 引き算ということですか?
高橋:アレンジに関してはみんなすごく考えてますね。これまでも演奏のことで言うことはあったけれど、曲全体のことで話し合うことって最近すごい多い。
── バンドとして音を出すことを自覚し始めたというか。
高橋:自然にそうなってきたのかなと思います。ここ歌が良いからもっと聴かせようとか、どうしたらこの演奏がかっこよく聴こえるかという話し合いは増えました。