Vo.瑞葵、Gt.久慈陽一朗、Ba.馬場義也、Dr.吉田大祐の4人からなるイツエが、12月5日にニューシングル『優しい四季たち』をリリースする。ドラマチックなサウンドと、生と死が表現されたひりひりとした歌詞、そして瑞葵の透明感がありながら芯の強さを窺うことが出来る歌声が見事なバランスで折り重なり、とても美しいと思える作品だった。今年3月に1st.ミニアルバム『いくつもの絵』を発表以降、頭角を現している彼ら。きっと来年はもっと羽ばたいていくに違いない。今回は、瑞葵に今作のこと、そして近況についてメールインタビューを行なった。とても素直な言葉が紡がれた返信が届いた時に、よりこの作品がたくさんの人に届いてくれたらという思いが強くなった。(取材・構成:やまだともこ)
より自分達をさらけ出し、階段をひとつ上った作品
── 1st.シングル『優しい四季たち』が出来上がり、率直な感想はいかがですか?
「前作の『いくつもの絵』とはいい意味で違ったものに出来上がったと思います。『いくつもの絵』よりイツエの核心に近いというか、より色鮮やかになった作品です。イツエのもうひとつの顔、より自分達をさらけ出し、階段をひとつ上った作品だと思います」
── 『優しい四季たち』というタイトルにはどんな意味を込めてますか?
「4曲収録という事もあり、1曲1曲を四季にたとえてこのタイトルにしました。しかし何の曲がどの季節に当てはまるかは特に決めていません。聞き手に想像していただいて、その1曲1曲を聴いたときに、思い出すものが優しい、自身の中にあるそれぞれの四季たちだったらいいなと思います」
── 前作の制作をふまえて今作を作るにあたり、レコーディングや曲作り・作詞の際に気にかけたことはありましたか?
「作詞に関しては少し雰囲気を変えました。前作と比べて骨組みから肉付けへ、より情景が浮かぶように。そしてレコーディングではその言葉たちがより伝わるように歌を録りました」
── リード曲『海へ還る』という曲が出来たきっかけを教えて下さい。
「わたしが住んでいた街は海にかこまれていて、何かあったらよくひとりで海を見に行っていました。だけど東京に住むようになって、海を見にいく事がなかなか難しくなりました。東京から3〜4時間で着く海です。いつでも帰る事ができる距離です。なんの変哲もないその海は、ある日、本当に触れることができない海になりました。そしてわたしはこの曲を書きました」
── では、1曲ずつ紹介をお願いします。
『海へ還る』
「この曲は歌詞を書いていて気づいた事があります。海は遠いものじゃありませんでした。目の前で、この手で海に触れなくても、もっと身近にあるように思えたんです。歌詞では海と歌っていますが、本当はどこでもいいんです。陸地を歩きつかれた人に、誰にでも帰る場所はあるんだよって言いたかった。そんな曲です」
『回廊』
「歌詞が少し抽象的で、冷たい雰囲気が特徴的な曲ですが、わたしの声でアンバランスな状態になっているというか、危なげな温度になっていると思います」
『はじまりの呼吸』
「この曲は、今まで書いた事がないようなニュアンスで歌詞を書きました。サビの歌詞の“言いたい事ってなんだ、強がってばかり”っていうのは自分自身に向けています。わたし、ものすごく素直じゃないんですよね。言いたい事を、何重にも重ねて伝えるので、もうそれは言いたい事とはむしろ真逆になってしまうのが良くあって。道に落ちてた物事だったり世界の謎だったり明日世界が終わったらどうしようって事を頭の中でぐるぐる考えて。“でもそれって単純じゃないと思うんだよね、もしかしたらわたしに関係があるかもしれない事だし、明日自分に降りかかる事とかもしれない、笑わないで聞いて欲しい、明日死んだらどうしよう。時間が止まったらどうしよう。記憶をなくしたらどうしよう!”って事をまくし立てるんですけど、本当はただ好きだって言いたいだけだったりするんです。だからただ笑ってくれると嬉しいです」
『時のゆらめき』
「この曲から自分の作るメロディと歌詞が変わった気がします。だからすごく思い入れのある曲です。リアルな情景だったり展開だったり。歌詞もメロディも楽器隊もファンタジーチックな中身で、面白い曲です」
── 瑞葵さんがバンドを始めるにあたり、影響を受けたバンドはいますか?
「スピッツさん。バンドではないですが、椎名林檎さん、宇多田ヒカルさん。とても好きです」
── 瑞葵さんはジャケットのイラストも手掛けてますが、歌詞を書くことと絵を描くことは違いますか?
「別物です。ジャケットなど描くときは頭の中が真っ白になってます。歌詞とは真逆に、頭の中で絵はほとんどあふれてきません。描き足す作業がだんだん止まらなくなって、無心で描いてやっと全貌がわかるというか。感覚的には歌詞が“有”で、絵が“無”ですね。でもどちらも出来上がるといとしくていとしくてたまりません」
── 昨年あたりから、下北沢SHELTERに出演頂くことが多くなっていますが、瑞葵さんにとってシェルターとはどんなライブハウスですか?
「格式高い伝統的なライブハウス。でも内向的じゃなくて一度入ると温かい大好きな場所です」
── では、2012年を振り返ってどんな1年でしたか?
「生きてきた21年と2ヶ月の中で私史上わりと波乱万丈な年でした」
── 来年1月から始まるツアーに向けて一言お願いします。
「待っててください」
── 来年のバンドとしての目標・野望がありましたら教えて下さい。
「さらに波乱万丈な年になると思いますので体力をつけたいです」