2002年に結成され、今年で活動10周年を迎えたAJISAIが、6月21日に『WORLD ENTRANCE e.p.』をライブ会場と通販のみでリリースした。作り手の手から聴き手の手へと直接届けられる作品だ。今作は長年所属していた事務所からNo Regret Life小田和奏が立ち上げたレーベル"spiral-motion"へ移籍した1枚目となり、新たなスタートを切った作品と言える。
一貫して"歌"に重きを置き、日本語にこだわってきた彼ら。ボーカルギターの松本 俊の歌声は力強さと切なさを持ち合わせ、今作ではその歌声に磨きがかかり、胸をギュッと締め付けられるような感覚になる。全部を「自分たちの責任」で作り上げ、「自由度が増した」今作は、より多くの人に受け入れられる作品となるだろう。
実はインタビューでRooftopに登場するのは初めてになるので、今回はAJISAIのメンバー4人に、これまでの10年間のことを交えてお話を聞いた。(interview:やまだともこ)
もう一度自分たちでやりたかった
── 今年で結成10年を迎えるそうですが、これまでの10年を振り返っていかがですか?
須江 篤史(Gt.Cho.):最初の2〜3年は遊びでやっていたようなものだったんです。だから10年間みっちり活動していました、という感じではないんですけど。
── どういう経緯で結成されたんでしたっけ?
須江:ボーカルとドラムは小学校から一緒で、4人が集まったのは東京ビジュアルアーツという専門学校で、卒業公演のためだけに結成したバンドです。大塚CAVEというライブハウスに月1回出るか出ないかぐらいのペースで活動をしていて。大塚CAVEは、当時働いていたスタッフの女の人がすごくかわいくて、出演するというよりはノルマを払って会いに行くという感じでしたけど(苦笑)。
山本 太作(Dr.):完全な一方通行でしたね(笑)。
── どのあたりから、バンドをちゃんとやろうという感じになっていくんですか?
須江:渋谷にあるRUIDO K2の店長に「ちゃんとCDを作ってツアーをしたら?」って言われて、なんとなくCDを作って初めて関東近郊をツアーで回って。このCDを前の事務所の人が聴いて、「一緒にやりましょうか」と声をかけてくれたんです。そこからですね。
── 6月21日にリリースされた『WORLD ENTRANCE e.p.』は、No Regret Lifeの小田和奏さんが立ち上げたレーベル“spiral-motion”からとなりますが、和奏さんと一緒にやろうとなったきっかけは何だったんですか?
松本 俊(Vo.Gt):昨年No Regret Lifeのツアーの九州を一緒に回らせてもらった縁ですね。事務所に所属していた当時から、何かを変えなきゃいけない、もう一度自分たちでイチからやってみようという話はしていたんです。それで、ツアーの時にいろいろ話をして、東京に戻ってきてから「事務所を辞めることになりました」という話を和奏さんにしたら「じゃあ一緒にやろうか」って。活動を始めて10年目というものあって、ちゃんとやりたいよなとは思っていたので、助けを借りて良いタイミングでCDを出せることになりました。
── 気持ち新たに進み出した1枚目となる『WORLD ENTRANCE e.p.』は、和奏さんと皆さんで作っていったんですか?
須江:一緒に作っていきました。前からリリースの話はあったので曲は作っていたんです。それを1回ばらして和奏さんと作り直して。前の音源はウワモノとか同期とかけっこう入っていたんですけど、今回はバンドの音で作りたいと考えていて、それに合った曲をさらに作ったという感じです。
── 昔の作品に比べると歌詞がずいぶん変わりましたよね。これまでは君と僕の距離を歌うことが多かったと思うんですけど、今回のアルバムは視点が世界に向いた感じがして変わってきているのかなと。
松本:全く意識はしてないんですけど、前はスタッフを含めて関わってくれている人の数が多かったから、その人たちがどんな反応をするかというのも気にしながら作っていたんです。でも、今回は自分の好きにというか、誰の意見も気にせずに歌詞を書いたので、そこの違いだと思います。誰のために書いているかってことですよね。
── 今は自分のために曲を書けている?
松本:もちろん自分のためでもあるし、聴いてくれる人のためでもあります。
── その歌詞は“自由が首吊ってた”とか、“いっそ裏切られるのなら 誰も信じない”とか、けっこうエグいものが多いですよね。
山本:“爆弾でも抱えてハグしよう”とか。
── 昔は「歌詞が女々しい」と言われていた時期もありましたが。
松本:特に拘ってはないんですけど、“愛”だったら“愛”で振り切って、“怒り”だったら“怒り”に振り切る感覚で1曲1曲作っていたんですけど、今回はその“愛”がなかったんです(笑)。
── 今回は、世界とか日本で起こっているニュースを見て歌詞を書くことが多かったんですか?
松本:戦争や宗教、地震などのニュースを見ていろいろ感じることが多かったし、それを吸収して書けたかなと思っています。曲の作り方も変わって、前は曲を作ってから歌詞を乗せるという感じでしたけど、今回は最初にこういう曲を作りたいというイメージがあって歌詞を書いて、そこから作っていきました。昔はレコーディングの直前まで歌詞が出来てなかったりしましたから。言いたいことはたくさんあるんですけど、どの言葉を選べば一番伝わるのかというところで最後の最後まで悩みました。
── 歌詞で悩んでいる段階でメンバーの皆さんに相談したり、聴かせたりはしますか?
須江:僕らはミックスとかの段階まで歌詞は知らないんです。今回は曲出しの段階で歌詞が付いているものもあって、こんな感じなんだっていうのはわかりましたけど、最終形はミックスの段階で初めて聴きます。
── でも歌詞があるほうが、その曲が何を伝えたいかもわかるし演奏しやすくないですか?
山本:逆にどんな詞が乗るのかが楽しみになります(笑)。もともと歌詞がない状態でやることに慣れているので。
須江:出来上がって初めて聴いた時の新鮮さが楽しいですね。
── そしたらライブで演奏していく中で、どんどん曲が変わっていきそうですね。
須江:変わりますよ。
山本:ライブをやりながらギターのリフが変わってたりするので、俺も変えたほうがいいのかなって変えてみたり。だから二度同じものは出来ないんですけど(苦笑)。
── ライブ毎にいろんなアレンジが聴けるってことですね。
須江:今日のアレンジは良かったけど、この間はダメだったねとか楽しんでもらえると思います(笑)。
山本:でも“歌モノ”なので俊の歌を僕らは支えなければならないですけど、ライブ中にアレンジが変わるのもスリリングだし楽しいです。俊がフェイク入れたりすると、それだけで新鮮になるんです。
須江:最終的にはちゃんと歌ってくれますから。
── でも、そのアレンジはちょっと歌いづらいとライブ中に思ったことはなかったですか?
松本:ありました。曲を無視してバスドラの連打とか。
山本:たまに、うしろを振り返って「テメエ」みたいな顔されますよ(笑)。変なところで自我を出したいと思っちゃうんです。
── お前がこう弾くなら俺はこうやるよと、ステージ上でもお互いが切磋琢磨しててる感じがしますね。
須江:あまりにも思ってもいないアレンジをされると、笑って弾けない時とかありますけど(笑)。
── mocchiさんはリズム隊として、山本さんが自我を出し始めたらどうしているんですか?
mocchi:僕は第三者的な目で見てます。マイペースで。
── でもこういう役割をする人も大事ですよね。
松本:全員がやったらしっちゃかめっちゃかになりますから(笑)。
── 絶妙なバランスなのかもしれないですね。
須江:たまに崩れますけどね(苦笑)。
── そう聞くとライブの楽しみが増えますね。6月30日のライブとツアーファイナルでは曲が成長しているだろうし。でも、もっときっちり演奏するバンドだと思っていました。
山本:事務所に所属していた頃はそれなりに組み立ててやっていましたけど、事務所を離れて言い方が正しいかはわかりませんが、自由じゃないですか。全部自分たちの責任だし。だから、ある意味吹っ切れた感があるんです。ノーリグ先輩とツアーを回らせてもらったときも、9年目にして初めてライブ前に全員でかけ声をかけてからステージに立つようになったんです。演奏的にも内面的にも変わってきたと個人的に感じてます。
── ちゃんと10年間の経験があって事務所を離れたという時期も良かったのかもしれませんね。
須江:焦ることも特になかったですから。ただ、いざ辞めるとこんな細かいところまでやってくれていたんだなって、ありがたみを感じました。