音楽が繋いだ縁
── また、上京して生活の環境が変わったことは音楽活動に影響していますか?
小林:それは一番大きいと思います。自分1人になって、自分とはなんだ、音楽をやってる必要があるのかとすごく考えたんです。就職して仕事の能率を上げていくことで社会に貢献したほうが重要なんじゃないのかとか考えたりもしましたけど、結局は詞や音で表現することが自分の今の仕事だなって思えたので、それを届けていこうと改めて思うきっかけになりました。けっこう精神的に厳しい時期でしたよ。昨年の秋ぐらいですね。俺はバンドを頑張らなければいかん! と松本で泣きながら。
── 決意の涙ですね。
小林:キレイに言えばそうですけど、そんなキレイなものではないです(笑)。でもそういう変遷があって、ひとつ心の中でまとまってきたというか、東京に来て芯が通ったものをやれば付いてきてくれる人がいるという自信が付いたし、昨年は樋口さんにお世話になることが多く、たくさんのことを学ばせてもらいました。
── 樋口さんが初めてTHE NAMPA BOYSを見たのは、いつぐらいになるんですか?
樋口:2009年4月にあった新宿ロフトのライブです。
田中:高1から高2になる時の春休みです。それが初ロフトで。
小林:500人ぐらい入っていたんですよね? “閃光ライオット”に出演したバンドが集まった“catch me if you can '09 tokyo”というイベントがあって、その時に樋口さんが見てくださったみたいで。
樋口:すごく良いバンドだなって思ったんです。
小林:その後樋口さんから「イベントに出ませんか?」ってメールが来て、それ以降よくしてもらっています。だから、上京してからの変遷は樋口さんが一番知ってると思います。
樋口:音楽が呼ぶ縁というか、ファンの子だけじゃなくて、レーベル、マネージメント、ライブハウスの人は全部彼らの音楽で繋がっていて、音楽が世代と性別を超えるなというのは、THE NAMPA BOYSと一緒にいて改めて思った。音楽ってすごいなって、みんなと出会って話をしていく中で強く感じました。
── 樋口さんのように、近くで応援してくれる人がいるって心強いですね。
小林:そうなんですよ。今アナログで繋がる人って少なくて、Twitterとメールで済んじゃうんですけど、一番大事なのは会って話すことだと思うんです。直接会っていかに好きかを言ってくれる人は信頼出来ますし、結局人との繋がりでここまで来ているんだと感じています。そうやっていろいろな人と出会って行く中で、バンドが強くなった感じもあるんです。それぞれの役割を認識するというか、自分たちのスタイルをバンドにどうぶつけていくかというのがまとまってきて今回の作品が出来たので、自己紹介的な意味も多分に含んでいると思います。
── だからミニアルバムのタイトルに付けられた『froM』の“M”は“松本”という意味も込められていたりするんですね。今作は1曲目の『到来』から聴いていると、そういった変遷もわかりますね。『到来』は自主盤としてリリースした楽曲で歌詞もすごくわかりやすいですが、『月照』は突然変拍子が入り、渦巻く感情をシニカルな歌詞で表現し、バラエティーに富んだ作品ですね。
小林:この曲は自分ですごいなと思っているんです。社会に対して稚拙な意見を言うわけでもなく、自分の詞ってすごいでしょって誇示するわけでもなく、ひたすらエグいことを言うわけでもなく、いろいろな解釈があると思いますけど、自分なりに社会に対して書いたんです。
── 私は「本体は無関心に革新を急ぐ」という歌詞が、今の日本を象徴しているなという気がしたんです。
小林:歌詞を今年に入ってから書いたので、そういう意味もあります。あと、江戸時代の風刺画とか、皮肉っぽいものが好きなんです。『到来』も皮肉っぽいんですけど、『月照』と『螺旋インセクト』はもっとアイロニカルになったと思うし、それが伝わりにくくアイロニカルになったのではなく、直感でわかるようにするというのがなんとなくテーマとしてあったんです。
── 小説のような言葉の使い方ですよね。
小林:詞に関しては、小説に寄ってきたんだと思います。わかりやすく言っちゃうと、すっと流れちゃうんだなって思っていて、でも僕にはまだ誰かの胸に染み渡るような人生経験があるわけではないので、これまでの経験を元に聴く人の脳を刺激するような歌詞を書きたいと思っています。これも今後変わってくると思いますけど、素直に言うのはあまり得意ではないし、今はこの書き方がすごく楽しいんです。
今を切り取ることの難しさ
── 言葉をわかりやすく聴かせるためには、皆さんの演奏も大事だと思うんですが、皆さんは歌詞を一度解釈してからレコーディングに臨むんですか?
澤柳昌孝(Gt):聡里が何を言いたいのかということを、全員が同じ意味で捉える必要はなくて、聴いてくれる人達と同じく、それぞれの捉え方があって良いと思ってます。でも、何を言おうとしているんだろうって考えて、その意味を汲み取ってアレンジに反映させるので、そこはけっこう時間をかけます。
小林:レコーディング中に一度後藤くんにブチ切れたんですよ。『螺旋インセクト』を録ってる時だったんですけど、後藤くんがぬるいドラムを叩いていて、「ちゃんと汲み取ってるの?」って。冷たい歌だからってBPMが速ければ良いわけでもないし、ちゃんと曲の意味を意識して的なことを言ったんです。
── アレンジはそれぞれが考えるんですか?
小林:今回は制作期間が長かったからプリプロしながらだったんですけど、大枠が出来てレコーディングをするという流れでやったんです。歌詞は、俺の解釈と違っていても良いんですけど、自分のフィルターを通してないというのが良くないというところで、「お前がこうしたいというのがないなら俺が全部やる」って思う部分もありましたけど、それじゃバンドでやってる意味がないじゃんっていうことでずっとモヤモヤしていて。でも、そうやって話をしながら結果的に良いものになったと思います。
澤柳:僕は、聡里が聴いた時に「それ欲しかったんだよ」っていうのはあんまり求めてないと思っていて、「それ良いね」って言われると変えたくなっちゃうんです(笑)。
小林:ここ(小林と澤柳)はAB型なので、ぶつかるんですよ(笑)。でも、バンド内でも互いのリスペクトの元に、俺はもっと出来るというのをどんどん見せ合う事が一番の高め合いだと思っていて、僕らはメンタル的なところで高めていかなきゃいかんというのはレコーディング中にずいぶん言いました。それは僕ら的にはかなりの成長に繋がったと思います。
── 後藤さんも言われて気付く部分もあって?
後藤 駿(Dr):レコーディング中に、自分の意識がプレッシャーに勝てなかったりするとバレちゃいますよね。ちょっと自信がないドラムを叩くとすぐにバレちゃう。一気につけ込まれる。
── つけ込まれる(笑)。
小林:つけ込んでるわけじゃないよ。そんなに悪い人じゃないよ(笑)。
後藤:でもそうやって喝が入ることで、結果的に良いものに仕上がっていくし、振り返った時に自分の中でも成長出来ているような気がしています。
田中:レコーディングだと、それが形になっちゃうじゃないですか。個人的にはレコーディングの最中はテンションを下げたくないんです。テンションが下がったままでいくと抜け出せなくなっちゃうので。テンションが低い音をパッケージしないようにと心がけてました。
── 今回は一番良い形でパッケージ出来ました?
田中:そうですね。まだまだこれからですけど。
小林:音源は今を切り取ることの難しさを感じました。かと言って再録出来るものではないので、今出来たものを今の温度で作るというのは、上手い下手とかじゃなくて、ちゃんと感情に沿って出せるか、自分の声にしてもギターにしても、俺個人としてはよく出来たなと思います。