未成熟な自分を形作るもの、それは時に醜く、恥ずべきものであったりもする。しかし、それだって僕らを形成する一部分、己を愛せずしてなぜ人を愛せよう? では、どうやってこんな自分を認めてあげようか。SEBASTIAN Xのキーパーソン・永原真夏は、そんな全ての未熟者たちに魔法をかけてくれるだろう。それは、「素直になる」という簡単な魔法。ありのままを容認し、愛すことこそがもっともポジティブなパワーになると、今彼女は高らかに歌いあげる!(interview:島根希実/WEB Rooftop)
歌い続ける日々の中で生じた変化
── 今回リリースされるミニアルバム『ひなぎくと怪獣』は、とても楽しく、同時に心がたぎるアルバムでした。今回ご自身にとってはどういった作品になりましたか?
永原:駆り立てられたり、背中を押されたりする作品になったと思います。
── 作品のテーマが「苛立ち」ということですが、きっかけは配信限定シングルの『GO BACK TO MONSTER』なのでしょうか。
永原:そうですね。もともとは『GO BACK TO MONSTER』から始まりました。でも、最初はそういうつもりはありませんでした。この曲は、JACCSカードのキャンペーンに提供させてもらった曲だったという経緯もあり、作品を作ろうと思って作った曲ではなかったんです。でもだからこそ、良い意味で肩の力を抜いて作ることができて、最終的にはパワーのある曲に仕上がりました。そこからPVや、ライブでやっていくうちに、自分自身の気持ちが掻き立てられるようになっていったんです。いつも歌う時に書き初めをするような…最初のひと筆を入れる瞬間のような気持ち。「今年一年これで決まる!」みたいな。それで、この曲で掴んだ感触でミニアルバムを作ってみようかなと思ったんです。
── 歌い続けていく中で、曲に掻り立てられていったんですね。では、作品テーマに辿り着くまでには具体的にどういった経緯があったのでしょうか?
永原:まず、JACCSカードさんからいただいたテーマが「あなたの夢に応援歌」というものでしたが、JACCSさん側も「テーマに縛られすぎず、好きに書いてください」と言ってくださっていて。でも私は、テーマに沿って曲を書くなんて機会もなかなかないから、逆にテーマのままに曲を書いてみようって思ったんです。それで、夢ってなんだろうって思った時に、自分の中のものを解放するとか、自分の中に何かあるとか、そういう状態のことだなと思って。その状態の歌を書いたのが始まりです。夢を追いかけている時は、何かフラストレーションがあるなと。全てに満足している状態で何かを作るのはとても難しい。それが出来る人はすごいなと思うけれど、私はまだ全てに満足している状態で何かを作ろうという気持ちにはなれないし、経験も足りない。じゃあ、自分が物を作ったり、何かを追いかけたりする時に、その原動力は何かなと思ったら、苛立ちやフラストレーションだなと。そこで、アルバムのテーマは「苛立ち」になったんです。
ボーカリストとして「何かを入れる器になりたい」
── 私は、今作に漲るパワーの根源は「ありのままを受け入れる」という点にあるなと思いました。永原さんは資料の中で、「苛立って飼いならせない感情を例えば“怪獣”として。そしてその幼い衝動に“ひなぎく”と名付けて。銀色の円盤に、うおおおお!っつってただひたすらに黙々とぶち込みました」、「これからは自分の中の怪獣と仲良くしてみようと思います」とおっしゃっていて、その言葉の真意がこの作品で証明されていたと思います。フラストレーションも苛立ちも、全ての「怪獣」がありのままの姿でいたんです。負の感情や衝動に一切の抑圧も抑制もしない、ただその存在を認めてあげるだけでいい、そういった要素をとても強く感じました。
永原:今回はとても素直に作ったんです。今までは、イライラするとか、ネガティブな感じが嫌で、それがフラストレーションになっていました。なるべく人に苛立ったりしたくないし、負の感情を感じたくない、でも感じざるを得なかったりっていうのがすごく嫌で。その気持ちがフラストレーションになった結果、すごく明るいメッセージを求めていたし、自分に言い聞かせようとしている部分もありました。自分が明るいメッセージを発することによって、ポジティブさがどんどん広がっていくんじゃないかなっていう気持ちでやっていたら、徐々にどんな自分も受け入れざるを得ないと思うようになってきたんです。そうして素直になって受け入れて、素直に出してみたという。例えば、モヤモヤしてる感じとか、気の強い部分って、自分の中では好きなところではないんです。だけど、そういうところをちゃんと出して、折り合いをつけて、そういう自分とも仲良くしていきたいなと。そうやって大人になっていきたいなと思って作りました。
── 大人として、心の折り合いをつけることができるようになってきたと。
永原:大人になってから生まれ続けてくる衝動的な感情とかフラストレーションに、どうやって向き合っていこうかなって思ったら、十代の頃のように振りかざすことはやっぱりできなかったんです。十代の頃とは違い、大人になると責任は全て自分でとらないといけないですよね。社会生活を営んでいる以上、会社で急に感情に任せてイライラして、人に当たったりとかはしない方がいいし。そのフラストレーションとどうやって向き合っていこうかなって思うと、やっぱり素直に解放して、素直に受け入れるっていうことをしてあげないと、大人としてだめだよなと思って。
── 『GO BACK TO MONSTER』を分岐点とするならば、そこを境とした最大の変化というのは今おっしゃったところになるのでしょうか?
永原:そうですね。ライブでも、お客さんは基本的に生身の人間だし、こっちが思っていることがそこはかとなく伝わっちゃうなと思ったんです。であれば、取り繕ってるよりは、ちゃんとありのままの自分を出してコミュニケーションしたいな思うようになりました。
── とても解放的なライブをされるので、もともとそういう方なのかなと思っていたのですが、これまではそうではなかったのですか?
永原:開放的だし、ずっとそう思ってはいたんですけど、出していない部分もありました。それをようやく出せるようになったかなという。そこには、自分たちのライブに来てくれたりとか、聴いてくれるお客さんを信じることが出来るようになったというのがとても大きいです。
── さらに遡りますが、前作『FUTURES』を経たことは今に繋がっていますか?
永原:繋がっています。『FUTURES』の時は自分が基本の柱で、そこから誰かの手を引いたり、1人になってみたりしてたんですけど、あの頃よりももっとコミュニケーションがとりたいという気持ちが強くなりました。
── それってものすごく大きな変化ですね。
永原:めっちゃ大きいですね。喋ってて思いました(笑)。昔は、例えばお客さんが見た目には盛り上がっていなくてもいいと思っていました。でも、今は何かを入れる器になりたい。『FUTURES』のツアーファイナルのあたりから、そう思うようになりました。SEBASTIAN Xが発信したものが器であり、それでお客さんを抱擁できたらなって思ってます。
── それも、歌を歌う人としての完成形のひとつかもしれないですね。
永原:強烈な存在感のフロントマンっていうのももちろん好きだし、私もピンボーカルだからそうであるべきだなとも思うんですけど、ドーンってフロントがいることが大事なんじゃなくて、フロントがいることによって抱擁されることが大事で、突きつけるものでも、見せつけるものでもなくて、どっしりとした存在感と安心感なんじゃないかなと思うんです。