ご本人による全曲解説
── では、収録曲についても伺っていきます。まずは1曲目の『サディスティック・カシオペア』。これはリード曲になっていますね。
永原:これは、『GO BACK TO MONSTER』と対になるような曲を作ろうと思って作りました。テーマはまったく一緒で、夢をテーマにしたいなと思って。『GO BACK TO MONSTER』は自分に怪獣がいることが分かっている人の歌だけど、この曲はそういうことに無自覚に駆け抜けちゃう、そういう歌です。
── で、2 曲目の『MIDNIGHT CLUB』。この曲は「“怪獣”との付き合い方」という意味においては、怪獣と踊っているという印象を受けました。ご本人はどういった画を描いていたのでしょうか。
永原:私ホラー映画が好きなんです。ホラー映画ってアンデッド系と呼ばれる生き物、ゾンビやバンパイア、フランケンシュタインとか、死なないような生き物、アウトローが題材になることが多いじゃないですか。そういうアウトローやアウトサイダーな人やキャラクターに向けて歌った曲です。画的にはおっしゃった感じに近いです。そういう人たちと仲良く遊ぶっていうような画ですね。
── で、『GO BACK TO MONSTER』と『いけいけ悪魔ちゃん』でぶっ飛ぶと(笑)。
永原:『いけいけ悪魔ちゃん』も、もともとは悪役の歌を歌おうと思って。『MIDNIGHT CLUB』と同様に、天使と悪魔でいったら悪魔側の歌です。怖くて、憎まれ役のキャラクターをユーモアのある描き方で愛され役にしたかったんです。映画とかでも、下手したら主人公より人気があるっていう悪役像がすごく好きで。
── 曲を作る時って、今おっしゃったようにしっかりと画が出来上がっていることが多いのでしょうか?
永原:映像は先行しますね。映像に合うメロディと歌詞を選んで、アカペラで作っていくという作り方が多いです。
── 5曲目の『未成年』。これは聴く世代によって受け止め方は大きく変わりそうですね。十代を終えてしまった側からすると少しセンチメンタルになってしまいました。逆に十代が聴くとある種のメッセージソングにもなりそうですね。永原さんとしては、どちらの世代を思い浮かべて書かれたのでしょうか?
永原:実はこの詩に書いてあるような「少年よずっとそのままで」みたいな美学はあまり好きなタイプではなかったんです。十代の頃から早く大人になりたいと思って生きてきたので。「なんでずっと十代がいいわけ!? 意味分かんない! お酒も飲めないし!」とか思ったり(笑)。音楽って「永遠の十代」みたいなロマンがあったりするじゃないですか。でもそういうロマンもあまり好きではなくて、大人ってこんなに面白いんだぞって言ってくれる大人の方が好きだったし、とにかく早く大人になりたいなと思っていました。でも、そんなに十代の頃に頑固にならなくても良かったんじゃないかなとも思った時に、そういう自分に対して「ごめんね」とか「素直になれよ」みたいな気持ちも芽生えてきたんです。あとは、やっぱり普遍的なロマンだから、ちゃんと自分で受け入れて書いてみようと。
── 感情移入とは全く違う意識のもとで作られたのですね。
永原:とにかく十代に関心がなかったんです。思春期と言われる時期、13~19歳ぐらいの時を、「大人っていいなぁ」って思いながら過ごしてきたので。逆にいうと私のノスタルジーやセンチメンタルな気持ちは15歳よりもっと前、7歳とか8歳の頃にあって、少女の頃よりももっと幼い、幼女の頃…というのでしょうか。一般的にいう思春期みたいなものが欠落しているんです。私、結構おばさんくさいところとか、おせっかいなところがあって、だから「クソガキとおばさん」みたいな要素しかないのかもしれない(笑)。良く言えば幼女と母性(笑)? 甘酸っぱい少女の時代みたいな頃は思い出せない。でも、青春の甘酸っぱい感じがないからこそ、逆に曲にしようと思ったんです。だからある意味、変な私情を挟まずに作れた気がします。
── それが功を奏し、バンドにとって新鮮な楽曲が出来たと言えるのかもしれないですね。そして、最後の『ひなぎく戦闘機』。これは、ありのままが武器だと歌っている、最後までパワー全開ですね。
永原:そうですね。アレンジもそんなに凝ったことはせず。珍しくベース、キーボード、ドラムの3人のコードを全部混ぜて作って、コードだけでやってみたら「いいじゃん!これで!」ってなって。そこからちょっとだけ手を加えるだけで、あとはそのままなんです。
── 歌詞や音作りで今回特に気を付けたところはどこですか?
永原:歌詞は普段使わないような単語を使ってみるというのがテーマでした。このテーマがなかったら「アイ ワナ デストロイ」なんて絶対言わないし(笑)。言わなさそうとか言いたくない単語も自発的に使って受け入れていこうと思って。曲に関しても同じで、普段使わないリフを取り入れてみようとか。歩里なんて、ついにキーボードでギターの音を出し始めましたからね。でも、そういうのも面白みの一種だなと思ったんです。ギターレスであるからこそ、今まで彼女は少なからず「ギターがいなくてもキーボードで満足がいくサウンドを作らねば」という気負いはあったはずなのに、そんな中で、ギターの音をいとも簡単に使ってしまったんです。そうやって、みんなが思いのままに作っていきました。
── 今のお話だと、バンド自体も、先ほどの永原さんのおっしゃっていた「器になりたい」という状態に変化していっているという印象を受けますね。
永原:作品にパワーがあるので、自分たちが出る必要がないというか。作品に背中を押されて、進めばいいだけだっていう安心感はあったと思います。
愛するものから見えてきた再びのキーワード“思春期の欠如”
── また、普段から詩集をたくさん読まれているそうですが、敬愛する作家さんはいらっしゃいますか?
永原:一番好きなのはやっぱり谷川俊太郎さんです。谷川さんの『世間知ラズ』という詩集が一番好きです。その他にも絵本や漫画からもたくさん影響を受けてます。
── 絵本や漫画ならどなたが好きですか?
永原:絵本だと佐々木マキさんです。村上春樹さんの著書のカバー装画もされている方です。彼女の絵本は小さい頃にすごくたくさん読みました。『やっぱりおおかみ』っていう作品が特に大好きでしたね。漫画だと大島弓子さん。あとは竹宮恵子さんや萩尾望都さんとか…昔の少女漫画が好きですね。
── 少女漫画が多いんですか?
永原:多いです。でも古谷実さんとかも読みますよ。漫画は全般的に何でも読みます。
── それら作家陣の中で最も敬愛するのは?
永原:大島弓子さんと谷川駿太郎さんです。大島弓子さんは思春期独特のドロドロがないところが好き。谷川先生は…もう良いと言わざるを得ない!
── 思春期独特のドロドロがないというのは、 先ほどおっしゃっていた「思春期が飛んでいる」という話に近いものを感じますね。
永原:そうですね、その飛んでる感じが私にはすごく心地良いんです。読者の中には逆に思春期の象徴だって言う人もいるんですけど。でも、私はそうは感じなくて、すごく好きだし、読みやすいです。
日々変化していくSEBASTIAN Xと永原真夏
── では最後にお聞きします。このアルバムの解説に「一歩踏み出してみようじゃないか」と書かれていますが、実際に踏み出した作品を作られてみていかがしたか?
永原:気持ちがいいです。認めたりとか、許容したりとか。あとは妥協もしました。妥協することが悪いことだとはまったく思わない、でもやっぱりプライドが邪魔をしてこれまではそうできない部分もあったんです。でも一歩踏み出してみたら、本当に気持ちが良かった。
── 今回お会いするまで永原さんに持っていた印象は、内からこみ上げる野心の漂う、真の通った強い女性というイメージでした。でも、実際にお話しを伺ってみると、それとは少し違いました。もっと大らかで寛容、そして自由になろうとしているのだなと。
永原:「変化なう」なんです(笑)。最近こういう機会で喋りながらも「変化なうだなー」と思うんです。…うん、「変化なう」です!