昨年リリースされた『CHERBOURG→BRIGHTON』から1年弱で早くも宍戸留美のニューアルバムが完成した。タイトルは『女』。16歳の時にアイドル・デビューし、その後は日本初のフリーアイドルに、そして今や弾き語りもこなすシンガーソングライターとして芸歴22年を誇る宍戸留美は、アイドルの少女性から大人の女性の艶容さまでを自在に表現する重層的な魅力を持った歌手といえる。今、音楽的にも女性としても豊潤期といえるルンルンにお話を伺った。(Interview:加藤梅造)
70年代ニューミュージックの夜明け
──今回も前作同様、鴫原浩平さんが多くの曲をプロデュースしてますね。
宍戸 前作の『CHERBOURG→BRIGHTON』は60年代のフレンチやブリティッシュの匂いを出すために英語とフランス語の曲を5曲書き下ろしたんです。今回『女』に入れた曲の多くはその時もうできていたんですが、次のアルバムを70年代ニューミュージックの夜明けにしようと思ってとっておいたんです。実はもう3枚目のコンセプトも考えています。
──なるほど、3部作なんですね。じゃあ3部は80年代になると。
宍戸 そうです。今、「Oil in Life」というインターネット番組をやっているんですが、そこでゲストの上田健司さんや伊藤銀次さんと競演させていただいたら、すごく気に入ってくれて曲を書いてくれたんです。そういう感じで3部は蒼々たるプロデューサーが参加します。今、私は音楽モテキなのかな(笑)。
──じゃあ、矢継ぎ早にリリースっていう感じですか?
宍戸 でもCD作るのはお金がかかるから…(笑)。せっかくパッケージにするんだから豪華なものにしたいんです。
──CDの盤面もスケルトンだし、ジャケットもデジパックですね。
宍戸 ジャケットの紙の手触りにもこだわってるんです。あまり気づいてもらえませんが(笑)。あと紙ジャケのいい所は物販の時に軽い!
──さすが元祖フリーアイドル! プレスから物販のことまでトータルで考えています(笑)。あとブックレットもカラー写真が綺麗ですね。
宍戸 最後のページの写真は私が被災地を訪れた時に撮ったものなんです。周りはめちゃくちゃな状態なんですが、そこにきれいな花が咲いていて「なんて強い花なんだ!」って。
──これを見ると、やっぱりパッケージで買いたくなりますね〜。
タイトルは『女』
──では曲についていろいろ聞かせて下さい。1曲目は三宅伸治・作詞作曲の「愛のシェルター」ですが、これはライブハウスSHELTERでのライブがきっかけとなったそうですが?
宍戸 そうなんです。「留美ちゃん、今度SHELTERでライブやるんでしょ?」って書いてくれた(笑)。その他にも意味があって、実は「反核」の歌でもあるんです。言葉数は少ない曲ですが、歌えば歌うほど深いなあと思える歌ですね。
──歌詞はもちろんアレンジも素晴らしくて、特に女性コーラスのスキャットがすごい迫力です。
宍戸 そう。初めて会った方なんですが意気投合しちゃって。とても素敵でした。私にはまるでない歌い方で(笑)。
──3曲目の「TAWAGOTO」はある意味、このアルバムのキーとも言える曲だと思いました。
宍戸 私もこの曲はオススメです。歌詞にもある通り、私は本当に人に期待しないんです。それをある人に言ったら「お前、すごいな!」って言われて(笑)。あと歌詞の中に出てくる「別れの朝」は、小さい時に聴いていたペドロ&カプリシャスをリスペクトしています。
──ペドロ&カプリシャスって、子供はふつう聴かないですよ!
宍戸 この間もステージ上で(森若)香織さんに「なんでそんなの聴いてたの!」ってつっこまれました(笑)。でも昔の歌謡曲は大好きなんです。母親がいつも聴いてたんですね。
──この曲のタイトルが「女」でもいいぐらい女性ならではの曲ですね。
宍戸 なるほど。じゃあ「TAWAGOTO」と書いて「おんな」と読もうかな(笑)。今回、アルバムのタイトルを『女』にしようと思って、タイトル検索してみたら出てこないんです。それで周りの人に「タイトル『女』ってどうかな?」って相談したら、みんな「う〜ん」って言うから、じゃあ『女』にしようと。
──確かに『女』ってタイトルはインパクト大ですよ。そういえば前作に収録されている「井の頭にて」もまさに女性にしか書けない歌詞でしたが、こういう歌詞を書くようになった動機は何かあるんでしょうか?
宍戸 歌詞を作る時は、なるべく女同士でしゃべる言葉とか、ふだん日記に書くような言葉で歌いたいなって思うんです。だから自分では普通の言葉だと思うんですが、「井の頭にて」はすごい反響がありましたね。
──いや、僕も最初聴いたときはドキっとしました。今作だとやはり「TAWAGOTO」の「何にも求めてないし何にも期待してないよ」という歌詞が印象に残りますね。男としては少々凹みますが。男ってどこかで頼りにされたい願望がありますから。
宍戸 でも女としては、本当は期待してる気持ちもあるんですが、言葉に出すとこう言っちゃうのかもしれないですね。
父親のことはずっと封印していた。
──5曲目「昼下がりのうた」は本アルバムの中でもとりわけ70年代歌謡曲の影響が濃いですよね。
宍戸 この曲の歌詞の中に「大切なうた」って出てくるんですが、これは『CHERBOURG→BRIGHTON』の最後の曲「大切なうた」のことで、『女』への伏線として歌謡曲っぽい曲を最後に入れたんです。内容も「大切なうた」に出てくる主人公が田舎から帰ってきた後という設定です。
──なるほど、両方の曲を聴くと話が繋がるという構成なんですね。
宍戸 あと、女優のすぎもとみさきさんと私が同じ誕生日で、誕生日になにかやらないってことで一緒に短編映画を作ったんですが、その主題歌がこの曲なんです。インディーズで作った映画なんですけど、今度ドイツのハンブルク映画祭で上映されることになって。映画のタイトルは『何であたし』なんですけど、宮田宗吉監督で山崎樹範さんとかすごいメンバーが集まって面白かったですね。
──8曲目の「ハマナスの記憶」は波の音が入っていてとても穏やかな曲ですが、これは父親のことを歌った曲だと言ってましたね。
宍戸 ええ。両親は私が2歳の時に離婚しているので、その頃の事は全く憶えていないんですが、両親がこういう感じだったらいいなと想像して作りました。私の理想を歌にしたというか。今も父が何処にいるか分からないんですけど、どこに住んでいるかはプライバシー情報だから(役所は)教えてくれないんですよ。一時は探偵に頼もうかと思ったんですがすごく高くて、じゃあCD作った方がいいなって(笑)。
──それって結構辛い体験じゃないですか?
宍戸 私は母親が21歳の時の子供で、実家がお寺だから厳しくて、宍戸家の中で私はずっと疎外感を感じていました。
──そういう体験を歌にしたのは初めて?
宍戸 ずっと封印してたんですけど、もう38歳にもなったし、家を出て行ったお父さんを、許すまではいかないですが、女として、人間として見たというか。だから、もし家出した経験のある人がこの曲を聴くと泣いちゃうかも(笑)。
──中にはそういう人もいるでしょうね。離婚して子供に会えない父親とか。
宍戸 三宅さんにも娘さんが二人いるんですが、この曲はお父さんのことを思って書いているのが嬉しいと言ってました。
──父親目線でそう思ったんですね。あと、曲調もゆったりしたハワイアンでステキですね。
宍戸 そうなんです。最初に三宅さんからもらったデモ音源が、なぜかハワイアンに聞こえて大喜びしたんです。三宅さんはそういうつもりじゃなかったと思うんですが(笑)。でも、たまたま三宅伸治BANDのベーシスト高橋 "Jr." 知治さんがハワイアンの第一人者で、ほとんどJr.さんがやってくれました(笑)。