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INTERVIEW

トップインタビュー映画「天皇ごっこ 見沢知廉・たった一人の革命」大浦信行監督

<敵>がわからなければ教えてやる!
文学と革命に殉じた、不世出の作家・見沢知廉の46年。

2011.11.10

 作家・見沢知廉が自死してから6年。ドストエフスキーを愛し、三島由紀夫に憧れ、革命を目指した男の46年とは一体何だったのかを、生前関係した人々の回想を中心に解き明かすドキュメンタリー映画『天皇ごっこ 見沢知廉・たった一人の革命』が公開された。活動家としては自ら引き起こしたスパイ粛正事件により12年間投獄され、文学者としては獄中で書いた『天皇ごっこ』が脚光を浴びるも、精神的な闘病のため活動期間が短かった見沢知廉だが、いまだ彼ほど独自の存在感を放つ小説家は他にいないだろう。「<敵>がわかならければ教えてやる!」と常に何かと闘っていた見沢知廉。映画の監督であり脚本・編集を務めた大浦信行にその魅力を語ってもらった。(TEXT:加藤梅造)

虚構を生きた人・見沢知廉

 

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──そもそもなぜ見沢知廉をテーマに映画を撮ろうと思ったんですか?

 前の作品(『9.11-8.15 日本心中』)を作っている時から見沢知廉で撮りたいという意識はぼんやりあったんです。実は他にもう一つ撮りたいものがあって、それは筑豊炭田をテーマにしたもの。筑豊は日本近代の搾取を象徴している場所ですが、さらにそこには朝鮮人の強制連行や囚人の労働、奄美・沖縄からの出稼ぎ労働者などに対して二重の搾取があった。筑豊を舞台にそういった日本近代の闇を描けるんじゃないかと。その闇の中に「祝祭の場」があったのではないか、その場所から「日本近代を撃つ」ことができるのではないかと思ったのです。
──それが見沢さんの方に決まった訳は?
 見沢知廉がやってきた暴走族、新左翼から新右翼という政治活動を通して見ると、それを突き動かしていた彼の無意識の中に、底辺で蠢く人々と共有しているものがあるように思うんです。それで彼の活動の底辺に横たわっているものは、僕が筑豊をテーマに描こうとしていた部分に通じるんじゃないかと。見沢の映画をやることで次に筑豊が撮れると思うんです。見沢さんは活動家として挫折した後、文学者として再出発して、成功しそうで結局うまくいかなかったのかもしれないけど、そうした見沢の人生は、僕らに実り豊かな想像力を喚起してくれる存在としてあるんだと思います。未完成で成功しなかったからこそいいのであって、もし彼が三島賞など大きな文学賞を取っていたら僕は映画にしなかった。社会に公認された人を撮ってもあまり面白くないし、未完成であることが逆に最大の可能性を残していると言えますから。
──確かに見沢さんは、政治でも文学でも、常に少数派の立場から闘って来た人ですよね。
 見沢文学では彼自身の成田闘争の体験や右翼活動などを、重くならないように自身をトリックスターに見立てて書いてる要素があるんですが、それってすごく重要で、現実の時系列の歴史を反転させる可能性がある。評論家の中島岳志さんが映画の中で「人間はみな仮面を被って演じている」と言っていますが、見沢さんのようなトリックスター的な役割の人は社会をひっくり返す力を持っていると思うんだよね。彼はそれを無意識でやっているのがよくて、それを意識的にやったらくさいものになっちゃう。新劇の役者が上手いけど面白くないのと同じで、やっぱり三船敏郎や勝新太郎のほうが破天荒で面白い(笑)
──見沢さん自身はいつも本気で指導者として革命を起こすことを考えていたとは思いますが。
 だから「天皇ごっこ」であり「革命ごっこ」なんだよね。シリアスに政治の真ん中で指導者になっていくんじゃなくて、やっぱりサブカル的に民衆を扇動していく存在。でもそういうものこそ底辺の人々に浸透していけば、結果的に少しずつ社会が変わっていくんだと思う。だいたい見沢知廉みたいな繊細で華奢な美男子が政治的なリーダーになれるはずなくて、彼はやっぱり虚構を生きた人だよね。

内なる天皇を見つめる

──見沢さんの『天皇ごっこ』は右でも左でもない小説だと言われてますが、大浦監督の天皇をテーマにした作品も単純に右か左かでは語れないものですよね。
 竹内好が「一木一草に天皇制がある」と言ったように、人々の無意識の中に否応なしに染みこんでいる天皇制を見つめていく作業をした時、最終的に自分が天皇を肯定するかどうかはわからないんです。もしかしたら自分の中に巣くっている天皇に対して自身をテロる行為、つまり自己破壊も含まれてくる。そうしてたどり着ける場所は天皇制を越えていけるかもしれない。それはまだそういう制度がなかった縄文だと思うけど、表現者として自分の中の「内なる天皇」を見つめた時、そこに「縄文」という視点を持ってくることによって、それは相対化されていくでしょう。そして皮膚の中にまで染みこんだ天皇は見えなくなっていく。ただ、縄文に辿り着こうと思っても簡単にタイムマシンで行けるわけではないし、自己否定や自己分解を繰り返し、断片化された自分の一つ一つが実は想像力で作られた自分自身の分身であったことに気づかされる。そうなってくると右とか左とかの問題ではなくなってくる。
──そういえば、在日朝鮮人や被差別部落民であるが故に、熱烈な天皇主義者になる人がいると聞きます。
 そう。被差別部落出身である中上健次が天皇主義者だったりしますから。天皇の下では誰もが平等になれるし、特に被差別部落は日本の制度から疎外されている存在だから、天皇と言うことでようやく日本の社会や歴史につながれるんだという幻想ですよね。逆に言えば、そういう幻想にすがらないと生きていけないほど差別があるということでもあり、中上健次は天皇主義者だから認めないとか言っている奴は、そういった悲しみをわかっていない。単純な左翼が多いよね。
──大浦さんが制作して大問題になった『遠近を抱えて』(昭和天皇を主題とした版画シリーズ)では、左翼側からの支持もあったと思いますが、大浦さんの作品意図とは必ずしも一致しなかったように思います。
 僕はあの作品を自画像として作ったのであって、天皇批判を主義として作ったのではないと言ったからね。それで随分引いていった人もいたけど。左翼にとっては天皇制を否定することが自分の根拠だったりするから、そういう人には『遠近を抱えて』が錦の御旗に見えたんだろうね。(美術評論家の)針生一郎なんかは面白がってくれたんだけど。

生きづらいんだったら革命家になるしかない

──文庫版『天皇ごっこ』の後書きで宮台真司が「天皇主義ロマンチシズム」と説明していたように、見沢にとっての天皇は恋愛における愛と同様にフィクションとして必要な存在だったと言えますよね。
 時間の都合でカットしたんですが、中島岳志さんも言ってました。天皇に対する北一輝と三島由紀夫の違いは、北一輝は天皇を政治的手段として使う、いわゆる「天皇機関説」だったけど、三島は天皇が人間宣言したことに怒ったように、みんな天皇が天皇を演じていることを分かっているんだから、自ら人間宣言してはいけないと。
──鈴木邦男さんが、『天皇ごっこ』というタイトルが、当時、衝撃的だったと言ってますね。右翼が驚き、左翼も呆れた、と。
 それは野村秋介さんの直弟子の蜷川正大さんも言ってましたね。右翼があんなタイトルをつけたら大変なことになるって。蜷川さんは右翼の王道を歩いてきた人だからすごく率直だし、見沢さんのこともあまり評価してないと正直に言ってました。ただ、見沢さんのお母さんの息子に対する愛や思いを非常に強く感じていて、映画の撮影をお願いした時も、お母さんを通しての見沢知廉なら語れるということでした。
──そのお母さんが映画の中で語る部分は、見沢さんが小指を切って自殺未遂した時のことなど、あまりに描写が生々しくてちょっと驚きました。
 あの事件についてはわりと知られていると思いますが、ああいう事情だったというのは初めて知りました。お母さんも凄い人なんだよね。華がある人で、話もすごく面白い。
──お母さん同様、雨宮処凛さんも見沢さんのナイーヴな面を話されてたのが印象的でした。
 雨宮さんもすごく繊細で傷つきやすい人だから、見沢さんの弱い部分をよく見ていますよね。生きづらさとか、自分と重なるところがあったんでしょうね。
──見沢さんの高校時代からの親友であり、一緒に政治運動に身を投じ、スパイ粛正事件の共犯者でもあった設楽秀行さんが登場しますが、設楽さんと雨宮さんはそれぞれ違った部分で見沢さんからものすごく強い影響を受けてますよね。
 男女の違いもあると思いますが、雨宮さんの方がより繊細に見沢さんの本質を見てるように思います。設楽さんは男として見沢さんを全面肯定してますよね。正しいとか間違っているとかでなく、見沢が行動するなら俺も行動するという、非常に男気が強い人だと思います。
──設楽さんの話を聞くと、スパイ粛正事件の回想という所もあって、見沢さんの厳しい面や怖い部分が見えるんですが、雨宮さんは見沢さんの弱い面や優しい所を多く語っていてかなり印象が変わります。今回の映画のキャッチコピーにもなってますが、見沢さんが雨宮さんに言った「生きづらいんだったら革命家になるしかない、お前にはその資格がある」なんてすごくいい言葉ですよね。
 見沢さんは雨宮さんに対しては掛け値なしに自分の思ったことを伝えているし、雨宮さんも必死にそれを求めていたから、見沢さんは救い主みたいな人だったと思います。見沢さんは弱い人や困っている人には徹底的にやさしいけど、そうじゃない人とは徹底的に戦う。だから殺人事件までいっちゃったんでしょうね。

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LIVE INFOライブ情報

 

<劇場情報>
新宿K's cinemaにて上映中(11/18迄)
他、全国順次公開 →詳細
 
<出演>
あべあゆみ、設楽秀行、鈴木邦男、森垣秀介、針谷大輔、雨宮処凛、蜷川正大、中島岳志、高橋京子
<スタッフ>
監督・脚本・編集:大浦信行
撮影・編集:辻智彦
製作:国立工房 配給:太秦
 
<今後のトークイベント>(K's cinema)
11/11(金)18:00の回上映終了後
 雨宮処凛(作家)
11/12(土)13:00の回上映終了後
 高木尋士(劇作家・劇団再生主宰)
11/13(日)18:00の回上映終了後
 宮田徹也(日本近代美術思想史研究)
11/14(月)18:00の回上映終了後
 古川美佳(韓国美術文化研究家)
11/15(火)18:00の回上映終了後
 三浦小太郎(評論家)
11/16(水)18:00の回上映終了後
 阿部嘉昭(評論家)
11/17(木)18:00の回上映終了後
 毛利義孝(社会学者)
11/18(金)※千秋楽18:00の回上映終了後
 鈴木邦男(一水会顧問)
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