すべてはライブのために。── そう聞こえてきそうだ。KEYTALKの2ndミニ・アルバムは、見据えているものが明確であるという点において、過去最もシンプルでありながら、最も濃ゆい。インタビューでも何度も出てきたワード"ライブで盛り上がる曲"という一点、そのシンプルな柱を主軸に作られた本作は、楽曲の全要素がエネルギーへと転換されたような痛快な手応えがあるのだ。疾走感と躍動感、スピードの渦の中で生き生きと歌われるドラマティックなメロディ。そのキャッチーでアッパーなサウンドは、歌謡のメロディを奏でながら、時に空中分解をし、四方へ光をまき散らす。フロアを無数の光で照らすミラーボールのような、ライブのテンションと衝動を凝縮した1枚が完成した!(interview:島根希実/下北沢SHELTER)
今回は、ボーカル&ギターの寺中友将さんにお話しを伺ったのだが、実は本インタビュー、当初の参加者は寺中さんだけではなく、ギターの小野武正さんも含めた2人で行うはずでした。しかし当日、待てど暮らせど小野さんは来ず、気まずそうにする寺中さん。話題を逸らし、時間をかせごうと頑張るレーベル・オーナーKOGA社長。結局インタビューは小野さん抜きで行うこととなり、最後まで彼は現れませんでした。── 後日、下北沢SHELTERに飲みに来たKOGA社長に伺ったところ、原因は“二日酔い”とのことでした。そんな小野さんへ向けて、実はこの時、KOGA社長からメッセージをお預かりしました。一言“F○CK”と(笑)。
※小野さんの名誉の為に補足しておくと、KOGA社長曰く普段はこういった遅刻や欠席はない方だそうです。
『トラベリング』の収穫
── ミニアルバム完成おめでとうございます! まず、完成した率直なご感想をお聞かせください。
寺中友将(Vo / Gt):今回は、ライブでもともとやっていた曲が多いので、曲作りに関しては、あまり苦労はしなかったです。出来ていたものが多かったんで、レコーディングもそんなに息詰まることもなく、さらっと出来た感じはあるんですけど、それでも、かなり良いモノは出来たかなっていう感じで。かなりヤバイです(笑)。
── かなり満足していると?
寺中:はい。
── 過去最高にメロディもサウンドもキャッチーですね。そして“歌が生きている”アルバムだなと。うたものにシフトしたということではなく、歌詞が日本語詞に変化したこと、キーボートや打ち込みの導入、ヴォーカルの聞かせ方の変化、音作り曲作りの両面において、本来持っていたグッドメロディが過去最も生き生きしているなと思いました。全ての要素が“うたを生かす”方向に機能しているなと。そういった意味で一体感がすごかったです。全編シングルカット出来そうなほどにキャッチーですし。これっていうのは、やはり前作に収録されていた『トラベリング』の存在が大きいのでしょうか?
寺中:まさにその通りです。前作の『TIMES SQUARE』の時には、やっぱり『トラベリング』が、自分たち的にも、お客さん的にも一番反応が良くて。ライブでも一番盛り上がるし、自分たちも一番楽しいしっていう曲で。そういう曲がもっと欲しいっていう声もお客さんからあったり。あと、お客さんが楽しいライブが自分たちの楽しいにも繋がってくるので、今回は『トラベリング』の要素をかなり多めに曲に取り込みました。まず、曲作りの段階から、『トラベリング』の方向の曲を沢山作ろうってみんなで決めて。それと同時に、歌詞も『トラベリング』が日本語詞だったのもあるし、今回は全曲日本語に統一してみようということになりました。それで曲作りをした結果『トラベリング』から派生したような曲が多くなってますね。
── 『トラベリング』が完成したことによって、具体的に何が掴めたとかありますか?
寺中:まず、メロディで言えば歌謡曲的な要素。『トラベリング』の制作時は意識していたわけではなく、結果的にそういうメロディになっていたんですけど。今回は意識して、メロディだけ聴くとある意味、歌謡曲っぽい感じになっています。あと、四つ打ちを入れて、踊れるサウンドにしました。歌詞に関しては、全体を見て、ストーリーが思いっきり見えるっていうわけではないんですけど、何よりもメロディに合った歌詞、言葉選び、耳触りを最重要に置きました。
── 聴いていて、ヴォーカルが発する言葉一つ一つがポーンと入ってくる感覚がありました。
寺中:あとは、ギター…今来てない彼が(小野)が言っていたのが(笑)、サビとかでコードを弾くんじゃなくて、裏メロだけでも曲になるようなフレーズを後ろで弾くっていうスタンスを確立したいと。…と、彼は言っていました(笑)。
── (笑)なるほど、確かに全箇所全パートがうたっているような印象をうけました。そういう意味でも、KEYTALKが本来持っていた演奏やアレンジの巧みさであったりっていう技巧の部分が、歌をバック・アップする方にも機能しているなとも思いました。全てのパートが歌おうとしているというか。すごくメロディを生かすバランス感を身に付けたんだなと思いました。
寺中:そうですね。彼も、喜ぶと思います(笑)。
── 先ほど、今作はライブをやっていく中で生まれた曲が多かったとおっしゃっていましたが、具体的にどの段階で曲作りは始まっていたのでしょうか?
寺中:これまで、ライブで出来ていった曲で、『トラベリング』タイプの曲っていうのは、それこそ『トラベリング』しかなかったので、まずライブで出来る『トラベリング』っぽい曲を作ろうってなって。で、その時に出来たのが『PASSION』と『sympathy』と『ストラクチャー』。このあたりが、アルバムに向けて曲を作る前から出来てたやつです。で、その次にアルバムの話があって、残りも『トラベリング』っぽくしようってことで。メンバーでデモを持ち寄って、その中から挙手性みたいな感じで、良い曲から選んでいってっていう感じですかね。
── 用意された曲っていうのは、結構数はあったんですか?
寺中:そうですね、あと5、6曲ぐらい。
── 作曲方法はこれまでと変わらず、それぞれが持ち寄って?
寺中:持ち寄るっていう形は変わっていないんですけど、今回は完成された一曲一曲をみんなで持ち寄ってきました。前作は、サビだけ出来たとか、Aメロだけとか、リフだけあるとか、そういうのから広げていった部分があって、スタジオで曲作りするっていう感じだったんですけど。今回はアレンジから全部個々で考えてきたものを持ってきて、皆でそれを覚えて、ただ合わせるっていう作業だったんで、すごいスムーズに出来ました。
── 個々で引き受ける部分が増えたと。
寺中:そうですね。ほとんど完成されたものがそのままCDになってます。
── ばらばらで作っているのに、全部のメロディがドラマティックで、どこか一貫性がありますね。
寺中:その点に関しては、自分的にもびっくりしてるところがあるんですけど(笑)、3人がそれぞれ作ってきたメロディなんで、作ってる人はばらばらなんですけど、聴いただけでKEYTALKのメロディっぽいってよく言われます。それは、自分たちも嬉しいところですね。
最大の学び“引き算していく作曲法”
── 前作同様、今作もプロデュースはFRONTIER BACKYARDのTGMXさんが務めていますが、これは皆さんの希望で?
寺中:はい。自分たちは、次もやっていただきたいという感じで、ずっと構えていたので。
── また、作品作るなら是非っていう。
寺中:前回曲作りに関していろんなアドバイスとかいただいて。それまでは、曲が基本的に長かったんですけど、まずは短くする、あと曲が短いことの良さとかを教わって。今回はそれを吸収して短くて良い曲がいっぱい出来たって実感してます。
── TGMXさんを迎えたことによる作品としての最大の収穫というと、やはり今おっしゃった部分になるのでしょうか?
寺中:そうですね、曲の作り方ですかね。前回、ここいらないんじゃないかとか、カットしたことで他にこういうのを入れればいいんじゃないかって出来ていった曲を見て、曲が短いのってすごくいいなぁって思って。もっと一曲に詰め込もうとしてたんですけど。凝っている要素は一つだけで良かったり、本当はなくて良かったり、そういうことにも気が付いて。良い意味で一曲作るのに関して力が抜けるようになったという感じです。
── そういう意味で引き算が多かったと。それは、今作もそうですか?
寺中:今作に関しては、引き算はほとんどなかったですね。収録されなかった曲も含めた10数曲を、出来た状態でTGMXさんに一回聴いてもらって。TGMXさんは「お、良く出来てるじゃん!」っていう感じで。TGMXさんは見守ってくれるようなスタンスというか。あと、レコーディングの時に歌い方こうした方がいいんじゃないかとか、この曲はフェード・アウトにしようかとか。今回はそういう部分に指示を出していただきました。
── より具体的に、今作の音に行き着くまでに、TGMXさんから学んだことってありますか?
寺中:『トラベリング』が出来た時、最初はもっとレゲエ調で、今の感じとは違っていたんですけど、そこにTGMXさんがこの曲はそういう感じじゃなくて、こういう感じでやった方がいいんじゃない違うんじゃないかっていうアドバイスがあって、今の『トラベリング』のアレンジが出来て。レゲエの感じをなくしてくれなければ、『トラベリング』にあの勢いは出なかったと思うし。その時は、好きな音楽を取り込んでみるていうことをすごくやってて。その時に、TGMXさんが、“レゲエも良いんだけど、この曲でやる感じじゃないな”って言ってくれたから、ああいうアレンジになって。そのお陰でメロディが生きてきて、自分たちが気づかずに作っていた『トラベリング』のメロディの良さに気付くことが出来て、だから今回それを狙えるようになったし。やっぱり『トラベリング』がかなりキーになりました。
── 今回は打ち込みやキーボードも導入されていますが、これはTGMXさんのアイデアですか?
寺中:はい。キーボードと打ち込みは全てTGMXさんにお願いしました。