二年間じっくりかけて育てられていった曲
──なるほど。ありがとうございます。では、今回のシングルについて聞かせて下さい。まず、数ある曲の中で何故「春」をシングルに選んだのでしょうか?
もう本当にシンプルな話で、一番人気があったから。やっぱり、知らない人に聴いてもらう前提でCDを作る以上、一番人気のある曲っていうのは表に出していくべきだしっていう、本当にそれぐらいの考えですね。だから、そこは何も迷いは無かったですね。俺自身もすごく良い曲だなって思うし。
──一番人気にがあったとの事ですが、自身にとってはどんな曲ですか?
この曲は、だいたい2009年の春に作った曲なんだけど。高校生の頃にやってた遊びのバンドの再結成ライブを一本だけやろうっていう話になって。その日のために、ライブの二日目に書いた曲が「春」です。深く考えて無かったと思うんだけど、エピソードとしては、その曲を書いた直後にお婆ちゃんが亡くなって。もうそろそろだなって話は聞いてたんだけど。他にもその年の春は大学を中退したり、家にも色んな事があったりで、色々な気持ちが一緒くたになってた一ヶ月だったんですね。それまでは音楽を作るというより、曲を作る時に歌詞を書いて、こういうひとつの気持ちを表現しようって曲を作ってたんだけど、そうじゃなくて、何かひとつのことを表現しようって意識を手放して、今この状態の自分からただ素直に出て来た言葉を何も考えずに歌にしたらどうなるだろうって。そのぐらい力の抜けたものだったんですね、最初は。それでライブでやってみたらすごく評判が良くて、作った時はこんな人気のある曲になるとは思わなかったですね。人気のあるっていうか、まだ誰も知らないけど。でも、二年間じっくりかけて育てられていった曲だと思いますね。
──歌詞は自分に対して歌う事が多いのでしょうか?
自分に対して歌うでも、他人に対して歌うでも、どちらでもある言葉しかたぶん歌詞にしてない。だから、誰に向けて歌うかっていうのはあんまり考えてないかな。だから、変な話、空気に向かって歌っているぐらいの気持ちで曲を作ってますけどね。最近は歌を歌う意味ってのをすごく考えてて。自分の頭の中だけで考える事は一人で出来るし、他人とコミュニケーションがしたければ直接話せば良いし。じゃあ、歌を歌うって何なんだろうってすごく考えて。そのどちらでもあり、要するに全てだっていう事なのかなって。人と話す事であり、自分と話す事であり。ような気がしますね。
──「春」は自主制作CD-Rにも収録されてましたが、今回のヴァージョンの違いはどこでしょうか?
いや、もう大きく二つありまして。一つは初めて他人に録ってもらった事。今までは自分で録音してミックスするって事も含めて音源制作だったんだけど、今回はプロの方にお願いして。俺が高校生の頃によく聴いていたメレンゲとかフジファブリックのCDを録った杉山オサムさんって方なんですけど。もう一つは、これが世にちゃんと出回るんだねっていう気持ちの入り方が全然違ったかな。今までは自分の部屋と、普通に練習するスタジオで自分達でマイクを立てて録って、なんか暗いというか、個人的な文化祭みたいなノリだったんだけど。だから、全然違いますね。誰が聴くのか分からないっていう前提で録ってたっていうのは、気持ちの入り方が全然違ったな。
──果たして、出来上がりの感想はどうでしょうか?
最高っしょ!
──(笑)。これから、7月にはアルバムもリリースされますが、今後の展開とこのインタビューを呼んでくれている皆さんへメッセージをお願いします。
「春」は、あなたの好きな聞き方で、好きな受け取り方で、聴いてもらって構わない曲であって、それが僕の望みです。アルバムは、自分としては今までやって来た事をちゃんと録ってまとめたってぐらいのもので、新しいオリジナルアルバムという感じでは無いかな。それを初めて聴く人にとっては、最初のオリジナルアルバムになるっていう事にまだ実感が湧かないだけなのかもしれないけど。でも、俺自身が好きな音楽っていうのが90年代の日本の音楽であったりとかで…今この時代にあるものっていうのは、あんまり熱心に聴かないんだけど…でも、俺が今作っている音楽っていうのは、今この時代に日本で生きている人の感覚にすごくぴったり来るんじゃないかなって気がします。まぁ、このインタビューを読んでくれている人がいるのに言うのもあれだけど、作った側の言ってる事なんか知ったこっちゃ無いって気持ちで、好きなように、自分の音楽として聴いてもらえればって思います。