2008年夏、世界を騒がせた再結成セックス・ピストルズがサマーソニックに出演したその日、同フェスの別ステージで、4人の大人たちが弾けない楽器を振り回し、パンクへの愛を叫んだ。それから3年。メンバーを加えパワーアップした彼らが遂に、ファーストアルバム『大人パンク!』をリリースする。彼らの名前はLASTORDERZ。
社会的な地位も安定した収入もある(?)大人たちが叫ぶ"パンク"とは? そして彼らはどこへ向かっているのか──。バンドの"責任者"であるラスト・サンジ(淡谷三治)と、フロントマンのラスト・トモロヲ(田口トモロヲ)の二人に訊いた。(インタビュー・文:前川誠)
もう大人ですから。
──CDを聴かせて頂きましたが、ものすっごい良かったです! 皆さんの存在って、バンド界隈に根付いている若さをもてはやす風潮へのアンチテーゼとも取れるんですよ!
ラスト・サンジ どうなんでしょうね。僕自身はずっとバンドをやってきたから、あんまりそういう意図は無いかなあ。トモロヲさんはどうですか?
ラスト・トモロヲ アンチテーゼかどうかは分からないけど、僕が(バンドを)やっていた頃と、シーンの状況が変わったな、という実感はあります。あの頃はフェスも無かったですし。それに、当時はみんなシリアス過ぎたのかもしれないけど、横の繋がりもなかったし、むしろ(他バンドと)敵対するくらいの緊張感のなかで演っていましたから。でも今はみんな、横の関係とか縦の関係とか含めて非常に仲良しですよね。ロックという音楽が知名度を獲ることで、シーンがとてもピースなことになっているんだなあと、感じます。
──何かしらもの足りなさを感じたり?
トモロヲ オヤジの目線としては、感じますね(笑)。「ロックなのに!」「パンクなのに!」って。もっとハチャメチャでいいんじゃないかっていうもの足りなさは正直感じます。でも若い人にとって今の方がリアリティがあるんだとしたらそれは否定できないし、僕の意見なんてオヤジの説教とか、そういう境地なのかなって。「あの人、語らせるとうるさいんだよね……」っていう。そこは注意していかないと(笑)。
──では、せめてLASTORDERZだけでもその当時のヒリヒリした空気感を再現しようという気は……。
トモロヲ ないです。だって、大人だから(笑)。それにLASTORDERZっていうバンド名自体が、「人生のラスト・オーダーに入っている」っていう意味だと思うんですけど、残り少ない人生を楽しくやっていきたいんですよ。
サンジ 僕もそういう気概は無いですね。僕にとってのパンクって、あまり緊張感とは関係ないものでしたし。そもそもこのバンドは、なんとなく「パンク、かっこよかったな」と思ってやりたくなったんですよ。楽器は弾けないけど「パンクだから良いんだ」って言い聞かせて(笑)。やたらと歌詞で「パンク」って言っているのも、必死で言い聞かせているんだと思う。誰が見てもパンクだったら改めて言う必要はないけど、もしかしたら自信が無いのかもしれない。
──敢えて自分で言っちゃうんですね(笑)。
サンジ でも、トモロヲさんがいてくれるってことは、少しはパンクだと思ってくれているのかなと安心したり(笑)。トモロヲさんに「これはパンクだよ」って言われたら安心しますもん(笑)。
トモロヲ アリバイを作っているんですね(笑)。
──曲作りの過程などで、実際そういうやりとりはされるんですか?
サンジ いや、僕はないけどアンザイさん(安齋肇)はよく言いますね。
トモロヲ アンザイさんはもろにロック世代だと思うんですけど、だからこそロックやパンクに対する造詣があるんですよ。……でも、だいたい酔って話しているから忘れちゃうんで、ご本人に訊くのが一番良いんですが(笑)。
──“パンク”って、ある意味人それぞれ捉え方が違うものだと思うんです。その点トモロヲさんはある程度確固たるイメージがあると思うんですが、サンジさんは今回、どこらへんをイメージされているんですか?
サンジ もろにピストルズ、クラッシュとかですね。だから、世間のパンクに対するイメージと違って、そんなに速い曲がないんですよ。そうしたら北島さん(UK.PROJECT)から「(アルバムには)速い曲があると良いですよね〜」っていう、何となく「作れ」という指令が来たので「パンク☆ミー!」っていう曲はちょっと速くしてみたんですけど。
──ただ、楽曲の振り幅の広さやテクニックの……ある程度の完成度というか……。
サンジ なんか、「テクニックが無い」って言ってません!?
──いやいや! そんなことないですよ!!
北島 実際ライブ見るとぐちゃぐちゃなんですよ(笑)。
トモロヲ 丸裸です(笑)。
──いや、でも最近はレコーディング技術も発達しましたし(笑)。
トモロヲ マジックです(笑)。そういうスキルは皆さん持っていますから。「そこはパンチ・インで」って、何の照れもなく平気で言いますから。
サンジ 「とりあず箇所ごとに録っていきましょうか」とか(笑)。でも、それを現場で一番多用したのはアンザイさんですからね。
一同 (笑)
サンジ アンザイさんはとりあえずそういうコトだけ知っているみたいで、「とりあえず録っておいたから、使えるところは使ってね」とか「後は編集で何とかしてください」とか言ってくるんですよ。そうなるとコッチもへそ曲がりだから、敢えてそのまま使ったりしましたけど(笑)。
何をやってもパンクになる
──先ほどからピストルズの名前が出て来ますが、僕がCDを聴いたとき真っ先に浮かんだ印象が「再結成したピストルズ」だったんですよ。
サンジ 僕が好きなバンドは「再結成したピストルズ」ですから。
──あれこそ“大人パンク”ですよね。
サンジ それこそトモロヲさんはジョニー・ロットンが好きなんですよね。
トモロヲ 僕が好きなのはジョン・ライドンなんですよ。ピストルズの頃よりも、PiLになってからの方が。ヒストリーを知っている分、個人としての本質があるって思っちゃうし、「“ジョニー・ロットン”はやらされていた」って本人も言ってますし。だからこそ再結成したピストルズも好きで、ジョン・ライドンの「皆は批判するけど、パンクっていうのは自分たちが発明したんだから、どうしたって良いじゃないか」っていう発言もすごいかっこいいと思う。「パンクは初期衝動で若死にする」っていうカテゴリーはシド(・ビシャス)が作ったかもしれないけど、もうひとつ、「かっこ悪くても長生きする」っていう人間的な側面をジョンが体現していると思うんで、かっこいいなって。ぶよぶよになった腹だったり、訳の分からないファッションだったり(笑)。こっちの思考が及ばない、意味不明にさせてくれるようなスタイルとかが、まさしくパンクだなって。パンクはこれぐらい間口が広くて自由にさせてくれるんだ、って思わせてくれるんです。
サンジ 映画『少年メリケンサック』で、それまで病気で意味不明なことしか言わなかったトモロヲさんが急に治って「ピストルズも再結成してるしね」って言うシーンがあるんですけど、そこが一番おかしかったんですよ(笑)。まあ、生きていればみんな再結成とかやりたくなるんですよね。
──皆さんバンドをやっていくなかで、「これはパンクじゃない」と避けた部分はありましたか?
サンジ 無いんじゃないかなあ……。でも……原稿的にはあった方が良いですよね?
トモロヲ お、大人ですね(笑)。
──いやいや、無くて良いですよ(笑)。
トモロヲ 多分、それぞれの曲は自由な発想で作られていると思うんですが、このメンバーだと出来ないことが出てくるので、自然に今の形になってしまうんですね。例えば僕はパンクバンドしかできない、パンク歌唱しかできないので、責任者(サンジ)が作ってきた曲も、どうしてもパンクにならざるを得ない。もしかしたら「もっとポップにして欲しい」とか、そういう思惑はあるのかもしれないけど、最終的にはこんなボーカルになってしまった。他の方も、例えばギタリストのカオリーナに関して言えば本来パーカッショニストですから、「そのフレーズは無理!」っていうこともあるでしょうし、アンザイさんは時間通り来れないですし。
サンジ 来て欲しいのに(笑)!
──(笑)。つまり、自然と今の形に収束していくと。
トモロヲ パンクというテーマに落ち着いていくんです。
──ナチュラル・ボーン・パンク・バンドですね!
サンジ そう言って頂けると嬉しいですね。確かに、トモロヲさんが入る前は僕が歌っていた曲もあるんですけど、やっぱりトモロヲさんのかっこ良さは(僕には)出せないから、トモロヲさん流にやってもらった方が良いんです。僕が歌ってしまうとお笑い風になっちゃうのに、トモロヲさんが歌うと何でもパンクっぽくなるのは、確かにすごいなって思うんですよ。
トモロヲ ありがとうございます。そう、このように大人パンクはお互い褒めあってモチベーションを上げるんです。
──褒められて伸びると(笑)。
サンジ もう伸びしろ無いのに(笑)。
トモロヲ 伸びしろ無いけど褒められるのは好き、っていう人間の普遍性ですね。かと言ってもう調子に乗る年齢でもないんですが(笑)。