2001年にナカノヨウスケ(Vo.Gt)、伊藤愛(Dr)、倉地悠介(Ba)、恒松遙生(Key)の4人で結成されたPaperBagLunchbox(以下PBL)。2006年には、1st.アルバム『ベッドフォンタウン』でデビュー。しかし、それから5年もの間ライブ活動は続けながらもリリースがない状態が続く。そして結成10周年を迎えた2010年。ついに沈黙が破られた。4年振りのツアーを敢行し、10月には2nd.アルバム『Lost & Found 〜2006 − 2010〜』を発表。そこから3ヶ月という短い期間を経て、3rd.アルバム『Ground Disco』をリリースする。ライブの数を重ね、より強靱になった彼らのサウンドに注目して頂きたい。
この作品に封入されているアクセスコードで、バンド初のライブアルバムがフリーダウンロードできるという試みもされている。今回Rooftopでは彼らの"ライブ"に焦点をあててお話を伺った。(interview:やまだともこ)
まだ何も答えは出ていない
── 5年ぶりに新曲が入った3rd.アルバム『Ground Disco』は、CDを買うとライブアルバムがフリーダウンロードできるそうですが、やはりライブはみなさんにとって大事な場所でもありますよね。この5年間も音源は出さなくてもライブだけは止めなかったですから。ライブを止めてしまったら、音楽と自分が繋がっている気がしなくなってしまうという感じはありましたか?
ナカノ:それは確実にありました。バンドの状態が良くても悪くても、週2日の練習にはみんな来てましたから。
伊藤:CDは出せないにしても一度世の中に出たわけから、PBLが忘れられないためにライブを続けていたというのもあります。まだやってるよっていう足跡だけは残したかったんです。『Ground Disco』の中に入っている『watching you』を先行でフリーダウンロードにしたのも、もう一度名前を浸透させるというところで、いろんな人の耳に触れるには効果的な方法だと思ったし、一番良い曲を今すぐにでも聴いて欲しいと思っていたんです。レーベルの人がアイディアを出してくれたんですけど、私たちもこれを聴いた人が3rd.に繋がるという自信のある作品ができたし、多くの人に聴いてもらいたかったんです。
恒松:仮にずっとバンドを続けていて、今一番良い曲を無料でダウンロードすると言われたら抵抗があったと思いますけど、僕らに失うものは何もないので、フリーで聴いてもらうことに抵抗はなかったですし。5年もの間何もしていなかったので、やれることは全部やろうと言っていたんです。
ナカノ:Twitterでリアクションも伝わるし、自分たちが今誰かに必要とされているとか、やれることがあるんだと結果的にすごくわからせてもらいました。音楽好きの中でゆっくりと広がっていくスタイルは1st.の『ベッドフォンタウン』でできた部分があって、今回は曲もそうですけどブワー! って広がる感じにしたかったんです。そのエネルギーをパッケージングしていては間に合わない。今すぐ出したいみたいなエネルギーが世の中に出ていったと思うんです。それでこれから何しでかすんやというワクワクと期待感があると思っていて。だから、フリーダウンロードも一番自信があるよっていう曲を出して、でっかい爆弾投下しちゃうみたいな。賭けではあると思いますけど、自信がある作品ができたから何も心配してない。
── 5年の間には解散の危機が何度もあり、それでも続けられた理由って何ですか?
ナカノ:解散騒動の発端はいつも俺でしたけど、それでもやっぱりやりたいって何度も思い、やるならすごいやろうと思ったんです。それから何もかもが上手く回り出したというか、ステージでもどんどん良い演奏ができるし、パフォーマンスも変わっていったんです。それに、バンドを諦めた後の自分の人生を考えたら絶望しかなくて、諦めずにやることだけが美しいことじゃないですし、何か作らなければいけないし、何か訴えなければいけないし、何か生まれないと意味がないので、そこで振り切れたというのは大きかったと思います。それに、まだ答えも何も出てないから。
恒松:まだ辞める理由がないんです。そういう意味で、今回は本気で勝負するか!みたいな。いろんな人の気持ちに応えたいって思ってます。
── となると、歌詞も自然と変わってきますよね。
ナカノ:ええ。伊藤さんとケンカした時にできた曲があって、それが1曲目の『Ground Disco』なんですけど、“愛の爆心地”という単語が、ケンカの焼け跡から出てきた宝物みたいな言葉で、全ての人間関係に悩んでいる人たちや別れたカップルなど、いろんな人の心模様と重なる単語だったんです。歌い続けるってどういうことなんだろうって考えた時期でもあって、すごく気に入っています。ゼロ地点ですごく傷ついているのに、全部を見渡せている言葉になったし、これから何でもできるんじゃないかという歌になりました。PBLではいろんな受け取り方ができる歌詞を書かなければいけないと思っていて。でも書かなきゃいけないと思っても書けるものじゃないし、毎回伊藤さんとケンカするわけにもいかないし(笑)。最近も歌詞を書いてますけど、俺の歌って瞬間芸なんだと気付いたんです。バンドの音が鳴った瞬間にフワッと出てきた言葉がすごく信じられる言葉だったら、それだけでいくらでも言葉やメロディーが出てくる。それが、俺の歌い手としてやソングライターとしての特長。ナカノヨウスケという人間を通して時代を反映した言葉になっていると思っています。世の中から何かを受け取ってパーンって出していく感じ。3rd.に入っている『キスレイン』は、最初は歌詞が違ったんですけど、言葉を置き換えていく中でわかりやすく時代を風刺したりはしないんだけど、今の時代がすごく出た曲になりましたし。すごく鋭角ですごく優しい歌ができていると思うんです。そういう曲を生み出す力を持っているPBLは不思議な体験をさせてくれるバンド。最近は特にそう思うようになりました。
歌というひとつの信頼だけで繋がってきた
── そうして、それぞれが藻掻きながら時を過ごし、昨年11月に行われたミナミホイールでは入場規制がかかるほどにお客さんが集まってくれ、待ってくれていたんだとすごく伝わったんじゃないですか?
恒松:明らかに昔の僕たちを知らない人たちも見に来てくれていました。ああいうイベントの場合、「何時からライブやるので来て下さい」というフライヤーを配ったりするバンドも多いけれど、ストレートに行こうと思って僕らは何もしなかったんです。でも、たくさんの人が来てくれて嬉しいのと驚きとが入り乱れて、かなりテンションが上がっちゃいましたね。
ナカノ:その光景を見た時に、まだまだやり続けたいなって思いましたよ。お客さんが笑ったり、泣いたりしていて…。ライブを見て涙が出るってすごくリアルじゃないですか? そんなお客さんに出会った時に手応えをすごく感じたんです。売れることも大事だけど、こういう空間を作れてるってすごいなって思ったし、だからこそなんかしてやりたいってうずうずするというか、ワクワクするというか。前はいろいろ考えてステージに立ってましたけど、今は全く装わないで裸で出ていく感じなんです。剥き出しの精神でお客さんに向き合うと、お客さんの剥き出しの心が見えてくるんです。
恒松:こっちがさらけ出さなくてどうするって。
ナカノ:見るからに盛り上がってくれている人もいれば、目をつぶって音楽と一対一になってる人もいたり、そこに向けてレスポンスしていくという空間は出来上がりつつあります。求められたことに対して、思いっきり吸い込んで大きく返すということを、前回のツアーやミナミホイールで経験して、世の中を動かしている力とか、人と人を繋げるのはこれなのかとわかりやすく実感しました。
── 以前、歌うことで人を幸せにできると、どこかでおっしゃっているのを読みましたけど。
ナカノ:何度目かのバンドの解散の話があがったときにもライブは決まっていたんですけど、その時にもうバンドはなくなるかもしれないし、楽しく自由にやろうって、すごくフラットな状態でステージに立ったんです。それで客席を見渡したら、お客さんが音楽に期待している顔をしていて、それを感じて応えるように演奏したらお客さんが楽しんでくれて、新しい自分の才能やセンスみたいなものが目覚めたんです。昔は自分の内面的な苦しみとか生きづらさみたいなものを吐露する音楽をやっていたし、それはそれで好きでしたけど、こうして人と繋がることもできるし、幸せにする方法もあるんだなって。今は、周りに愛しい人がいっぱいいて、大事にしたい人がいて、結局その5年間で俺は、歌というたったひとつの信頼だけでまわりと繋がってきたような気がしてます。