僕に悪いことを言う人は僕のことを愛してるのよね
中村:太宰治の『駆込み訴え』だって、ユダがキリストっていう身の程知らずな相手を愛してしまうんだけど愛されずっていう話だから。あ、そうだ、伏見さんは『駆込み訴え』やらない? 私が伏見さんに読んでほしい本ってことで。
伏見:オッケーオッケー。『駆込み訴え』ってなんか僕っぽいタイトルだし。
切通:どういう意味ですかそれ(笑)?
伏見:なんか切迫された感じが。
中村:『駆込み訴え』はざっと説明すると、キリストが十字架に架けられて殺されたのは知ってんじゃん? あれはユダっていう弟子が裏切ったのね。そのユダの一人称で、キリストをまさに売りに行く話なの。キリストを捕らえたいと思っているユダヤ教の偉い人とか、体制側の人間がいるわけですよ。キリストが当時でいうとオウム真理教の麻原みたいなもんでさ、宗教テロに見えてるわけ、体制側からしたらね。
その体制のところに、自分の師であるキリストを売るのに駆け込んで「あの人を捕まえてくれ」って言う、一連のユダの独白っていうかモノローグでひとつの短編になってて、自分がどうしてキリストを裏切るのかっていうのをユダががーっと言うわけよ。そういう話なんだけど、結局ユダはキリストをものすごく愛してるわけ。ちょっとホモセクシャルっぽい感じもあり、キリストという人にリスペクトと、ちょっと恋愛感情っぽい気持ちを抱いてるんだけども、キリストに愛されないわけ、ユダは。
伏見:なるほどね。それは読みたい。僕にぴったりだわ、いろんな意味で。僕もいろんな人に悪口を書かれたりいろんなことされるけどだいたいその人は僕のことを愛してるのよね。
切通:キリスト側(笑)?
伏見:そう、キリスト側(笑)。
中村:本当は嫌われてると思うよ(笑)。あと伏見さんにね、サンタ服を着てほしいって話をさっきしてたの。
伏見:サンタ? いいよー。サイズが合うんなら全然いいけど。
中村:っていうかサンタはそもそもデブじゃん。
伏見:そうよねー。
切通:国際サンタ連盟とかあるじゃないですか、そこでもちょっとふくよかな男性がいいって基準があるそうですよ。
伏見:ふ、く、よ、か。
中村:まあものは言い様だけどね。
伏見:でもあんたこの間私のこと、「デブはデブでもイベリコ豚」って呼んでくださったじゃない(笑)。
中村:そうそう。豚は豚なんだけど、中身はあるからさ。でも豚なのよ(笑)。でも脂身は美味しいの。豚は脂身が命じゃない?
童貞歴が長い男は基本的に童貞ですから
中村:今日はいないけど、中沢健さんとはどういう話になりそう?
切通:枡野さんが中沢健さんの処女小説『初恋芸人』をすごく良かったって言ってて。その話をブレイクタイムみたいな感じで入れたいんですよ。これはせつない話ですよ。
〜ストーリーを説明〜
中村:えー!?なんかもういま、涙が出そうに。可哀想すぎるね。
切通:それがですよ、その作者の中沢さんが、最近彼女が出来て、twitterで「童貞卒業なう」って書いたんですよ。それがmixiニュースにもなったんですよ。『せつないかもしれない』に出演してくれた時は全然彼女がまだいなくて童貞として語ってたんだけど、「その数ヶ月後にまさか『童貞卒業なう』とつぶやくようになるとは夢にも思いませんでした」って連絡が来て。
中村:童貞卒業してからは彼は変わったんですか?
切通:どうなんでしょうね? 聞いてみたいんですよ。
中村:会ってないの?
切通:彼女が出来てからは会ったんですけど、「童貞卒業」からは会ってないです。
中村:急にふてぶてしい男になってたらどうしよう、なんか自信満々になっちゃって。
切通:いや、変わらないですよ。童貞歴が長い男は基本的に童貞ですから。こういう場所だから言いますけど、僕が初めてオナニーしたのは小3なんですよ。で、童貞卒業が22才。その間15年くらいあるんですよ。15年妄想がある。これはもう、ちょっとやそっとセックスしてもね、損なわれない童貞性が築き上げられちゃってるんですよ。それに比べれば、たとえば12歳で初めてオナニーして16歳で初体験した人間なんて、妄想期間がせいぜい4年間でしょ? 大学一回行ったぐらいの年数しかないんです。
しじみ:やっぱり童貞歴長いと醸すものが違いますよね、伊達じゃないって感じ!
中村:童貞力ね(笑)。イベントでも語ってくださいよ。
クリスマスは一年で一番深くて長い夜
中村:そもそもクリスマスって恋人といっしょにいなきゃいけないって誰が決めたのかね? ヨーロッパとか欧米では家族と祝う行事だから、日本の正月みたいな感覚で、みんな実家帰って家族でご飯食べるみたいなさ。
しじみ:クリスマスイブとかおかしいですよね、なんだあれ、ですよね。
切通:クリスマスは冬至の季節のもので、冬至っていうのは一年で一番深くて長い夜。その淋しさを癒すためにお祭り騒ぎをするのがクリスマスなんですよ。僕サンタ服の本(『サンタ服を着た女の子〜ときめきクリスマス論』白水社)を書く時にいろいろ調べましたから。
もともと馬鹿騒ぎ・乱痴気騒ぎをするものなんですよ。キリスト教が上にかぶさる前の土着祭としてのクリスマスは。だから今の日本のクリスマスの乱痴気騒ぎは、ある意味原点還りとも言える。たとえば身分社会だと、わざと使用人と主人をひっくり返したりするんですよ。無礼講みたいな。あと死者が蘇ってくるっていうのもあるんですよ。何でもありみたいな。子供たちはグループで乱暴狼藉とかする。ハロウィンよりもっと凶暴なやつで、それで女の子はどんどん妊娠とかしちゃう。
中村:じゃあ翌年の10月くらいに出産ラッシュ? で、また12月に種仕込んで。
しじみ:私も10月生まれなんですよ。クリスマスの子供かもしれない。
切通:僕の子供も9月生まれなんですけど、ほとんどイブくらいにできたらしいんですよ。赤ちゃんのときにサンタ服着せましたよ。ポニョみたいで可愛かったです。
ここで枡野浩一さんがご来店。待ち合わせはしていなかったらしいのですが、枡野さんもこのバーの常連さんで毎週いらしているとのこと。
中村:いまそれぞれのプレゼンする本を決めてて、枡野さんは『クリスマス・キャロル』? 私は枡野さんには『マッチ売りの少女』がいいと思うんだけど。
枡野:うーん、なにがいいんだろう。
中村:枡野さんがいままで子供の頃とか読んで悲しくなっちゃったけどみんなには分かってもらえなかった話とか。
例えば私が聞いたことある人の話では、『みにくいアヒルの子』ってあるじゃない? あれはみにくいって言われていじめられたんだけど白鳥になって良かった良かったって話なんだけど、あの話を子供のときに聞いて白鳥にならなかった兄弟に感情移入しちゃって。子供の時に「お前なんか」っていじめてたやつが実は自分より上の人間で、自分はずっとあひるのまんま。みにくくはないけどあひるのまんま生きていかなきゃいけない兄弟の気持ち考えたら悲しくなっちゃって、まわりのみんなはその子の気持ち全然分かってくれなかった、みたいな話を聞いたことがあって。確かにみにくいあひるの子も兄弟の気持ち考えたらせつないよね。
枡野:確かにねー。それはそうだわー。
ちっちゃいとき、『ごんぎつね』の話が辛かったから結末書き換えてましたよ。このイベントはみんな物書きなのに、自分たちで考えた話とかはないの? クリスマスの話みたいのを。『マッチ売りの少女』を僕なりに解釈した話を考えようかなー。
中村:結末とかも変えて?
枡野:変えるの。で、最初ペンネームで外国人が書いた話みたいに……(ちょっとしたひっかけを計画)。あ、でももしかしたら普通に他の作品から選ぶかもしれないけど、もしかしたら考えてくるかも。
中村:でもいいよねこうさあ、『幸福な王子』も『人魚姫』もそうだし、『駆込み訴え』もそうだし、全部片思いの物語じゃないですか。
切通:まさに「せつない」!
中村:そう「こんなに愛してるのに報われない」という、それがやっぱりテーマで。だから『クリスマス・キャロル』も、金貸しで嫌われてるスクルージ側に立って、人々に愛されたかったのに愛されないで老人になった悲しい男の話として読解していくとせつないかもしれないですよね。
こうして打合せは朝まで続いたのですが、あとは12/21のイベントをお楽しみに。
思わず「せつない」と何度もつぶやいてしまうイベントになること間違いなしです。