仲野 茂(vo)、内藤幸也(g)、EBI(b)、名越藤丸(ds)という辣腕揃いの布陣から成るSDR〈セドロ〉のセカンド・アルバム『!〈ビックラゲーション〉』が完成した。現代社会を完膚無きまでに斬り刻んだ舌鋒鋭い歌と緩急の付いた鉄壁のアンサンブルが核を成す彼らの純真なパンク・ミュージックは、アナーキー、Mute Beat、ユニコーン、ARB、WRENCHといったこれまで各人が歩んできた輝かしいバンドの屋号さえ時に霞ませる。肉体が欲するプリミティヴな歌声と音塊は前作『NO FREEDOM』以上にコクとキレが増し、平均年齢47.7歳のバンドとは思えぬほどに瑞々しい。彼らが放つシンプルでリアルでタフなレベル・ミュージックは、表向きは泰平な時代に見えてその実は生ぬるさばかりが横行した現代に狂い咲くバクテリアだ。あなたの体に寄生する日もそう遠くはないだろう。(interview:椎名宗之)
ファースト以上に好き勝手に作れた
──2作目にしてこれだけ充実した作品が完成したことが一番の“ビックラゲーション”ですよね(笑)。
仲野:そう? まぁ、1枚目を出したのがエライ遅かったし、巻いてかないとね(笑)。
名越:最初の頃は単純に曲が少なかったから、ファーストが出来上がるまで時間が掛かったんだよ。
仲野:つうか、ライヴを入れちゃったんだよな。それで“やれてる風”になって、曲を作る意識が飛んじゃったんだよ。
──前作『NO FREEDOM』はZAZEN BOYSの向井秀徳さんをミックスに迎えた力作でしたけど、バンドなりに課題が残った部分もあったんですか。
名越:そういうのは特になかったけど、今回はファースト以上に好き勝手に作れた気がする。今思えば、ファーストはもっと端正な作りだったよね。
仲野:自分で言うのも何だけど、今回は曲のヴァリエーションが意外にあるなと思ってさ。
──凄くありますよね。アンサンブルもバンドの一体感と自由度がグッと増したように思えるし、曲作りのプロセスが少し変わったのかなと思ったんですが。
内藤:どうかな。基本的にセッションで固めていくのは変わってないよ。
仲野:幸也やEBIがネタを持ってきて、音合わせをしながら固めていく感じだからね。今回も前回同様、河口湖にある“湖のホテル”のスタジオを借りて曲作りをしたんだけど、今回はそれを3回やったんだよ。それが曲の自由度に繋がったのかもしれないね。阿吽の呼吸とまでは言わないけど、1枚目よりは阿吽な感じが出てきたかな。
名越:要するに、前回は“ここまでやっちゃっていいのかな?”って思うところまでやり切って、それで幅が広がったんだよね。前は探り探りだったけど、このバンドならここまでやってええわな、っていう。
仲野:それはあるね。1枚目の時のEBIはメロディ・メーカーとしての役割を担ってくれたんだけど、作ってきてくれたメロを俺がちゃんと唄えないんだよ。一応EBIに教わるんだけど、あまりに俺の覚えが悪いから、EBIもそのうち投げちゃうわけ(笑)。今回のEBIはベースのフレーズを持ってきてくれたんだけどさ。
──本作におけるEBIさんのベースは、メロディアスさを醸し出しながらも骨太な感じが格段に増しましたよね。
EBI:ありがとうございます。強く意識したわけじゃないんですけど、徐々にそんな感じになってきたんじゃないですかね。1枚目は実験的な部分が多かったし、このバンドがどうなっていくか探りもありましたから。この2枚目で各自の個性が出るようになって、バンドとしてまとまったような気がしますね。
──考えてみれば、茂さん以外のお三方はKASINというバンドを組んでいたわけで、音作りで煮詰まることはなさそうですね。
名越:まぁ、この3人でサウンドを作るのはラクだよね。後はこの人(仲野)が歌詞をちゃんと覚えてくれればバッチリなんだけど(笑)。
──茂さんの歌詞は今回も冴え渡っていますね。政治家や富裕層、腑抜けたマスメディアやアナリストといった気に喰わない連中に容赦なく唾棄して、バッサバッサと斬り倒していくのがとにかく痛快で。
仲野:1枚目は歌詞を書くのに苦しんだから、2枚目はもっと苦しむだろうなと思ったんだけど、俺に書けるのは所詮こんなもんだろ!? って開き直っちゃったんだよ。それが意外に良かったみたい。ムダにこだわったり、執着するところがなかったしね。幸也やEBIが持ってきたフレーズはヴァリエーションがあったから、とにかく言葉が載りゃイイやと思ってさ。それと、前に書き溜めておいた歌詞で当時はこっぱずかしいと思ってたものでも、今見るとフィットするものがポツポツ出てきたりした。それは年齢を重ねたせいもあるんだろうね。
──矢継ぎ早に繰り出される『バクテリア』、『バラバラ』、『G』という頭の3曲は、性急なサウンドに呼ばれたかのような言葉がのべつ幕無しに連射される感じですよね。『タイ!タイ!タイ!』もそうですけど。
仲野:『タイ!タイ!タイ!』は“〜たい”の言葉を揃えるのが大変だったよ、ホントに。それに、歌詞よりも何よりも、まず歌に入れねぇんだもん(笑)。
名越:ライヴで唄えるのか!? って不安になるくらい酷かったからね(笑)。
言葉を呼んでくれた幸也とEBIのフレーズ
──アルバム前半のハイライトはやはり、8分を超える大作『感動』ですよね。前作のタイトルトラックに匹敵する重厚なナンバーで、歌詞もとりわけ秀逸だと思うんですよ。
仲野:『感動』の歌詞がまさに昔はしっくり来なかった部類のものでさ。昔から書き溜めていて、叩き台みたいなのはあったんだよ。俺は意外と古いノートを取っとくタイプで(笑)、“湖のホテル”へ行った時も昔のノートを10冊くらい持っていったわけ。
名越:ウソつけ、10冊もないよ(笑)。
仲野:6冊くらいかな?(笑) とにかくさ、今回はアナーキー時代の殴り書きノートから出来た歌詞もあるんだよね。そのノートからこぼれた言葉を掻き集め、掻き集め、何とか完成に漕ぎ着けたっていう。
名越:それじゃまるで残飯みたいじゃん(笑)。
──いやいや、残飯にしては随分と旨味エキスが凝縮されていますよ(笑)。
仲野:アレじゃない? イイ感じに発酵したって言うかさ。
EBI:チーズみたいに熟成したわけだ(笑)。
──『感動』の歌詞は、安っぽい感動を押し付ける昨今のJ-POPや映画に対する茂さんなりのアンチテーゼなのかなと思ったんですけど。
仲野:“感動”なんて、俺の中じゃ完全にNGワードだったんだけどね。“頑張れ”とか“LOVE”とかさ。まぁ、“LOVE”は『ミッドナイトランブラー』で使っちゃったんだけど、縛りのワードから解き放たれた感はあるかな。“もういっか、50だし”みたいな。
──“あいつは頭で考える オレたちゃ体が覚えてる”という歌詞の通りなんじゃないですか。頭で考えずに、体が欲する言葉をそのまま吐き出していると言うか。そんな肉感的な歌詞の表現が2作目にして早くも確立されたように思えますね。
名越:次のアルバムがヤバイね(笑)。
仲野:次はもう、コンセプト・アルバムだな。昔、THE ROCK BANDが『四月の海賊たち』っていう小説のサントラを作ったみたいにさ(笑)。まぁそれはイイとして、『感動』は幸也のソロ・フレーズを聴いて“これだな!”と思ったんだよ。あのフレーズが言葉を呼んでくれたんだよね。あと、EBIが持ってきてくれた曲…何だっけ、『最悪』か?
名越:『最悪』って曲はないからね(笑)。
仲野:ああ、アレだ、『2010RPM』。EBIがベースでフレーズを作ってきてくれたんだけど、頭の所は歌が作れなかったもんな。
──だから『2010RPM』の冒頭は語りっぽい感じになっているわけですね。
仲野:うん。あのフレーズだと、歌を載っけるよりも喋っちゃったほうがリアリティあると思ってさ。
──『感動』の終盤で聴かれる幸也さんの火を吹くようなギター・フレーズはシビレますね。
内藤:長いんじゃないかって話もあったんだけど、俺は最初からあの長さで行こうと思ってたからね。
仲野:俺たち3人はブースの外で“いつやめんのかな?”って思ってたけど(笑)。
──でも、冗長な印象はまるでないですよね。
仲野:確かにね。上九の家で届いた音源をフル・ヴォリュームにして、外でメシを食いながら聴いたんだけど、あのソロはアリだと思ったよ。曲のヴァリエーションが多いからなのか、アルバムを通して聴くとかなりボリューミーだよな。5曲くらいでお腹が一杯になる時があるしさ。ちょっとクドイか?
内藤:いや。俺はサラッと聴けちゃうよ。“もう終わりか?”って思うし。
仲野:『感動』辺りで一山越えると、もう『とっておきの朝』が来てもイイかな? とか思う時もあるんだけど、それだとやっぱり物足りないんだよな。何度も飽きずに聴けるし、意外にイイアルバムだよね。自分も言うのも何だけど(笑)。
──名越さん主導で完成した曲はないんですか?
名越:ないよ。曲作りはみんなでヤイヤイ言いながら進めたからね。俺はもう言われるままに叩くだけ。
仲野:ウソ言え、この謙遜オヤジめ。一番言うこと聞かねぇクセに(笑)。