'98年に結成し今年で活動12年目を迎えたGOOD4NOTHINGが、自身のレーベル"L.M.N.O.P."(読み:エレメノピー)を立ち上げ、ニュー・アルバム『BACK 4 GOOD』をリリースする。この夏も多数のフェスに出演し、全国各地でモッシュの渦を作り上げてきた彼ら。前作リリース後、ドラムのKAWAJINが脱退、新しくSUNEが加入というバンド内で大きな変化はあったものの、勢いを止めることなく走り続けてきた。それは、『BACK 4 GOOD』からも充分に感じることができる。30秒に満たない楽曲『27』から怒濤の勢いで始まるこの作品は、GOOD4NOTHINGならではのパーティー・チューンがあったり、かと思えばドラマティックな展開が待っていたりと、新しいスタートを切った1枚目にふさわしい作品だ。
今回は、絶賛マスタリング作業中のU-tanがスカイプでインタビューに参加するという画期的な手法で、無事メンバー全員にお話を聞くことができた。(interview:やまだともこ+椎名宗之)
アメリカでのレコーディングで得たもの
──U-tanさんは現在地元に戻って『BACK 4 GOOD』のマスタリング中ということですが、もう8月の半ばですし、発売までかなりタイトなスケジュールですよね。一度録ったものに対して“こうすればもっと良くなるんじゃないか?”というアイディアが出てきて作業が延びている状況なんですか?
TANNY(vo, g):いえ、最初からケツまでキメキメでやっていなかったので、今になっていろんな作業が重なってきてしまっているんです。あと、マスタリングがニューヨークとのやり取りなんですけど、向こうとの兼ね合いもあって。
──今回レコーディングは、ご友人のバンドの協力によりアメリカでされたそうですが。
TANNY:はい。歌録りだけですけどね。
──アメリカでレコーディングをすることの意図というのは?
TANNY:空気感とか発音のレベルをもうちょっと上げたいと思ったんです。向こうに行ったらメンバー間で喋る時も英語になったりするんで、そういう環境の中でノリが音や声に出てるんじゃないかっていう。
──伸び伸びと唄えた手応えはあります?
TANNY:やってやった感はありますね。
MAKKIN(b):ただ、せっかくアメリカまで行ったのにレコーディングをしていただけで、コンビニ以外どこにも行ってないんですよ。けっこうタイトでしたね。
TANNY:ストレスはたっぷりでした(苦笑)。ずっとクローゼットの中やったんです。ちゃんとしたスタジオじゃなくて、レンタルハウスみたいなところを借りて。
MAKKIN:そこのクローゼットに機材を持ち込んでヴォーカル・ブースを一個だけ作って、みんなで入っていくっていう(笑)。
──歌録りの手法や環境的な部分で、日本と違うと感じたのはどんなところでしたか?
TANNY:基本は一緒なんですが、逆に“これでいいんかな!?”って思いましたよ。日本のレコーディングって音の跳ね返りがどうとか、マイキングの位置がどうとか細かいレベルまでやりますけど、そんなのが一切なかったので。
MAKKIN:吸音も、家から自分たちで持ってきたものをガムテで貼っただけでしたから。
──かなりハンドメイドなんですね。
TANNY:マイクだけは良いヤツを使いましたけどね。
──歌がちゃんと際立っているのは成果としてよく表れていますよね。マスタリングは順調ですか?
(ここでスカイプを通じてU-tanが参加)
U-tan(vo, g):何とかやってます。
──今回のマスタリングのポイントはどんなところですか?
U-tan:今回はニューヨークでマスタリングをしてもらっているんですけど、日本だけど日本じゃない、アメリカだけどアメリカじゃないみたいなサウンドになれば良いかなと思っています。
──歌詞は英語だし、音も適度にカラッとしていますけど、湿度とか情緒など日本人らしさはちゃんと残してますよね。
TANNY:そこは日本人やからですかね。
U-tan:まず日本のバンドに影響を受けて、それから洋楽も聴き始めて、それぞれに良いところがありますから一度吸収した上で僕らの個性になれば良いかなと思っています。
──ところで、前作のアルバム『Swallowing Aliens』(2008年7月リリース)からメンバーが替わったり、新しくレーベルを立ち上げたことはバンドの歴史の中でも大きな変化だったんじゃないですか? もうSUNEさんが加入して1年ぐらいになるんでしたっけ?
SUNE(ds, Kuchibue):1年経ってないぐらいですね。叩き出したのは昨年の10月からなので。
──バンドってドラムが変わると根本的に大きく変わりますよね。
TANNY:でも、変わってしまった感じではなくて、より盛り上がった感じを出したいなという思いが凄く強かったので、SUNEが入った昨年10月の終わりから今まで一生懸命やって来たという感じです。
MAKKIN:ベースとドラムでスタジオに入って練習も凄くしたんですよ。“なんか違う”というのがあって、それを合わせるのに何をどうしたらええんやろう? って悩んだし、俺らはどうしたら良いか、SUNEはどうしたら良いか悩みすぎて一回意味判らんくなって…(笑)。
TANNY:僕らのバンドってKAWAJINのドラムしか知らないんで、新しいノリを持った人間が入った時にスッと行ける部分と行かれへん部分があって、その間を取っていく作業がけっこう大変でした。
──ドラムが変わって、節回しが変わったりとかしませんでした?
MAKKIN:最初、U-tanは唄いづらそうにしてたな。
U-tan:そういう時はケンカするのが一番早いですね。SUNEが入ってからすぐにツアーに出たんです。ツアーを回って一緒の空気を味わんと絶対にできんって思ったので。そこでお互い思っていることを全部言い合って、MAKKINもホテルでキレて。
MAKKIN:キレたら、SUNEに「もう判りませんわ!」って言われて(笑)。
SUNE:「それやったら無理ですわ!」って(笑)。
U-tan:それぐらいからちょっとずつ良くなってきてますね。
──U-tanさんの中で、GOOD4NOTHINGのドラムとはこういうものだというひな形があったと?
U-tan:型にはめるつもりはないですけど、人間的に“俺はこれしかないねん!”という男であって欲しいんですよ。まずはKAWAJINのコピーをやってもらいましたけど、「徐々にSUNEの良さも出してこいよ」って言っていて、最近は良い感じではあります。まだ入って1年も経ってないし、どうなるか判らないですよ。あと2ヶ月で1年ですけど、そこまで保つかどうかも…(笑)。
──SUNEさんにとってこの1年は、千本ノックを受ける勢いでバンドに馴染もうとしている感じですね。
SUNE:ありがたいことです。
──どういった部分がGOOD4NOTHINGの曲を演奏する上で難しいところですか?
SUNE:最近気をつけているのはヴォーカルです。バンドとして一番強く出したいものがメロディだと感じているので、ヴォーカルとグルーヴの掛け合いは特に大事にしていますね。
──確かに歌とメロディはGOOD4NOTHINGの最大の武器ですから、そこをどう引き立たせるかは最優先すべき課題ですよね。
TANNY:KAWAJINがそれを上手いこと出していたので。
──でも、今回の収録曲で言えば『Flying high』などは、歌と演奏を聴かせるバランスが凄く良いですよね。
TANNY:それはツアーを回ったのが大きいです。SUNEが入った時に、この先どうしていくかという話の中でゆくゆくはアルバムを出すというところに照準を合わせて、そしたらまずはツアー回らんとあかんなって、そこで千本ノックをしてケンカして、ちょっとずつやけどお互い歩み寄っていって制作に取り掛かったので、それが音に出てるんだと思います。
バンドの活動を止めたくなかった
──今回、“L.M.N.O.P.”という自身のレーベルを立ち上げたのはどんな意図があったんですか? これまで所属していたKick Rock MUSICでも自由奔放な活動をしていたイメージがありますけど。
U-tan:最終ジャッジを自分らでやっていきたいというのがあったんです。Kick Rockとはケンカ別れでも何でもなくて、相談したら「一回やってみいや」って言ってもらえたので自立させてもらいました。
──リスクを自分たちで背負おうと?
TANNY:リスクもありつつ、レーベルの色がないところで自分らのやりたいことを完璧にできる環境を作りたいなと思って。
──“L.M.N.O.P.”とは何かの言葉の頭文字なんですか?
U-tan:特に深い理由はないんですけどね。
TANNY:『ABCの歌』ってあるじゃないですか。日本のは「H-I-J-K-L-M-N, O-P-Q-R〜」って続きますけど、アメリカは「H-I-J-K-LMNOP」って“LMNOP”までを一気に唄うんです。その響きが良かったというところで“L.M.N.O.P.”にしました。
──前作を出した辺りから、次は自分たちでレーベルを立ち上げてやってみようという意識が高まっていたんですか?
U-tan:前回のレコーディングは、“これはちゃうねんけどな…”と思いながらやっていた部分もあったんです。それがレーベルとのすれ違いの部分でもあって、レーベルのスタッフに「自分たちの手でやりたいです」って相談したんですよ。
──年齢が30歳を越えたことも大きいですか?
TANNY:というわけではなくて、バンドがひとつの高みに到達したという感じですね。酸いも甘いもじゃないですけど、いろいろ経験して土台ができたから、もうひとつ大きいステップが踏めるんちゃうかな? じゃあ行こか! っていう。
──『Swallowing Aliens』は曲の粒も揃っていたし、コンセプトもちゃんとしていたし、活動10年分の集大成という側面もありましたよね。今作は、それを乗り越える作品というプレッシャーもあったのではないですか?
TANNY:ない言うたら嘘になりますけど、プレッシャーは毎回ありますから。
MAKKIN:でも、いつもに比べたら今回はラフな気持ちで臨めたような気はするな。U-tanもそんなに苦しんでる感じがなかったやん。
TANNY:自分らでやっていかなあかんっていう、違うプレッシャーはありましたよ。レコーディングに慣れてきた分、肩の力を抜いてやることはできたけど、もう一歩踏み込んだところで、ちゃんと作品を作らなければいけないというのは各々あったと思います。
U-tan:KAWAJINが抜けたことを絶対プラスにしたかったんです。だから、1ヶ月でも活動を絶対に止めたくなくて、アコースティック編成でも3人でやるつもりでした。その時期がいつものように“曲を作らな!”って焦る感じにならんくて、それが逆に良かったのかもしれないです。
──となると、『Flying high』はKAWAJINさんへの惜別の歌という意味もあるんですか?
U-tan:これはKAWAJINに向けた歌ですね。
──本作の中でも特にグッと来るナンバーですよね。
U-tan:でも実はこの曲、MAKKINが…。
TANNY:それ言っちゃう?(笑)
U-tan:MAKKINが原曲を作ってきて、その曲があんまりやからちょっと改造してみようやって改造したら、めっちゃ良い曲が出来たんです(笑)。
MAKKIN:気を遣ってくれたのか、「ここだけメロディ使う」とか言うから、「俺の曲なくしても良いから」って言って。
U-tan:それが跡形もなく、なくなったんです(笑)。
TANNY:MAKKINは、演奏する時も凄く微妙な顔をしていますね。生まれるきっかけは作ったけども…。
MAKKIN:けども、ええ曲やから何も反論できへんし(笑)。
U-tan:最初は爽やかすぎて、ちょっとちゃうかな? と思ったんです。でも、やっていくうちに自分らの音にできたから、やろうってことになって。
TANNY:仮タイトルも最初は『爽やか』でしたから。
U-tan:『SWYK』だったな(笑)。
──GOOD4NOTHINGの楽曲は、持ち寄った形から完成形が大きく変わるパターンって多いんですか?
U-tan:たまにありますね。
TANNY:でも、『Flying high』に関しては異例ですよ。
──U-tanさんとTANNYさんの曲に対するイメージの違いって、どんなところがありますか?
U-tan:基本は一緒やと思いますけど、TANNYにしか持ってない判断力もあって方向転換をよくしてくれます。
TANNY:なるべく全体の雰囲気を重視するようにしているんです。
U-tan:たまに全体を見過ぎて、宇宙から地球を見てる感じになってるよな(笑)。大阪がどこかも判らんって。
TANNY:それは否めませんけど、そのバランスが絶妙なのかもしれませんね、実は。