ストックがまるでなかった『FOUR PIECES』
──そんな祝福ムードが一段落ついたタイミングでジプシーズの新作『III』が発表されたわけですが、これも花田さんの50歳に合わせてリリースしようと?
花田:いや、これはこれで話が別に来たんで。前のアルバムから結構時間も空いてるし、そろそろ作ったほうがいいなと思って。
下山:「レコーディングしたいね」っていうのは毎年言ってたんだけど、どこからも話を頂かなかったので(笑)。
花田:まぁ、それぞれの活動があるから時間の調整も必要だし。
──今回のアルバムは下山さんが仙台で腹膜炎を患った前後に制作していたんですか。
花田:下山が抜けたのは、もうだいぶ録り終えていた頃だった。途中で抜けて、帰ってきて、歌を唄って終わりみたいなさ。ギターは録り終えてたよね?
下山:うん。腹膜炎っていうのも原因不明でさ。"ARABAKI ROCK FEST."へ行ったんだけど、急に息ができなくなったんだよ。あの辺のエリアは昔から相性が良くないみたい(笑)。
──『OH! MY GOD』と『CRAZY ROMANCE』という"Z"のカヴァーがどうしても目を引いてしまうんですが、これはレーベルからのリクエストもあったんですか。
花田:うん。「カヴァーもやって欲しい」っていう話があったんで。
──いずれも『KAMINARI』からのナンバーですね。
下山:それはたまたまじゃないかな。
花田:ジプシーズでもライヴでやってるからね。
──"Z"の候補曲は他にもあったんですか。
下山:『再現出来ないジグソウ・パズル』や『PASSENGER』はライヴ盤に入ってるから、その兼ね合いもあってね。地味な曲もあるけど、そんなのを入れてもしょうがないし(笑)。
──ジプシーズの場合、今さらコンセプトめいたものもありませんよね?
花田:曲を持ち寄って「こういう感じで作ろうか」って話はせんやったね。
下山:そんな話、今までもしたことないよ(笑)。ただ、花田君が書いてきた曲がキーにはなるよね。それと全く違う曲を書いてきたほうがいいとかはみんな思わないし。
──どの曲も気迫のこもったプレイができればOKテイクになる感じですか。
下山:準備にはそれなりに時間を掛けたんだけど、録りは早かったよ。全部で1週間も掛かってないんじゃないかな。
──1曲目の『そろそろ』を聴くと、花田さんのソロとジプシーズの境界線が薄まってきたのを感じますね。ラフでいながらタイトなアンサンブルをさり気なく聴かせると言うか。
花田:今回の自分の曲は、ここ2、3年何となく持ってたアイデアをリハに持っていって形にしてみたんだよ。レコーディング自体は短い期間で録ったけど、詞はレコーディング前とスタジオとかでやりながら書いた。
下山:俺の場合は、曲を作らなくちゃいけないかな...? って感じだったけどね(笑)。
──曲作りの部分で役割分担みたいなものはないんですか。
下山:ないね。暗黙の了解みたいな感じかな。花田君もそういうところがあるけど、曲をストックしておくタイプじゃないんだよね。話が来てから曲を書くタイプだし、締め切りが来ないとまず曲は書かないね。俺はストックなんて絶対にムリだよ。
──"Z"の頃からそんな感じだったんですか。
下山:最後の『FOUR PIECES』はそうだったね。レコーディングの初日までに花田君はちゃんと3曲書いてきて、俺は2曲持ち寄ったんだけど、2日目の録りが終わったらもう曲がないんだから(笑)。ホントの話だよ。「明日、何を録る?」「家に帰って書いてこようか」なんて話してさ(笑)。あの時がルースターズ史上、一番曲がなかったんじゃないかな。
──個人的に『FOUR PIECES』はルースターズ後期の最高傑作だと思うし、どの曲も急造したようにはとても思えませんけどね。
下山:でしょ? でも、実際はそんな感じだったんだよ。「この曲はやめとこうかな」なんて思ってた曲でも、リハをやると「まぁいいか」って思い直したりしてさ。
──穴井さんと三原さんのアイディアで方向性が定まった曲もあったんですか。
下山:演奏的にはそうかな。何せ曲が最初からなかったしね。
──"Z"最後の編成でのライヴをこの間体感して、『FOUR PIECES』の後に同じ面子でもう1枚くらいオリジナル作品を聴きたかったなと僕は改めて感じたんですよね。
下山:キミみたいな人が当時のレコード会社とか関係各所にいっぱいいたらやってたかもね(笑)。「もう1枚やろう」なんて話は全然なかったし、シンパみたいな人がもっと多ければやってたかもしれない。いないことはなかったんだけど、力を持ってる人は俺たちに興味がなかったんだよ。俺たちのことを気に入ってくれるのはいい人たちで、いい人っていうのは偉くなれないしさ(笑)。
──安藤さんがもっと早く偉くなっていれば良かったですね(笑)。
下山:安藤はその頃すでにレーベルにいたんだけど、こっちが行きたくなかったんだよ。「キャプテンはイヤだ!」って(笑)。
『III』制作にまつわるエピソード
──『III』の話題に戻りますが、やはりテイクはそれほど重ねないものなんですか。
下山:やっても2、3回かな。ブースがなくて、俺はプラグインだったんだよ。ダビング以前にプラグインをどうやってやり直すかばかり考えてたね。
──歌もテイクはそれほど重ねず?
花田:そんなに唄い直さなかったね。どちらかと言えば、感じ良く唄えればそれでOKみたいな感じだから。
──下山さんがヴォーカルを取る『黒の女』もそんな感じですか。
下山:そうだね。何度唄ってもたかが知れてるからさ(笑)。
──収録曲の選曲基準はどんなところなんでしょう?
下山:と言うか、持ち寄った曲を全部録って入れただけ。大抵、全部録ってみるんだよ。録ってみて選曲から外れるのもあるけどね。
──本作には『RRGブルース』と『A SUNNY PLACE』という2曲のインストが収録されていますが、過剰な感じはないですね。ダレることなく通して聴けますし。
花田:うん、そうなったと思うよ。曲調も違うしね。
下山:膨らまそうと思えばいくらでも膨らませられるけど、あまり冗長になるのもね。
──その小気味良さがいいんでしょうね。セッションから生まれたインストに後から歌詞を付けるケースもあるんですか。
下山:そういうのはほとんどないかな。事前にある程度の形にしてから持ち寄ってるよ。各自、曲の作り方が違うからね。
──今回は市川(勝也)さんの力量が増したのを随所に感じますね。
花田:うん、それはあると思う。
下山:市川はやる気だったよ。いっぱい曲を書いてきてどうしようかと思ったけど(笑)。
──市川さん主導でアレンジを固めていった曲もあるんですか。
下山:そういうふうにやれと言ったんだけど、「いや、そんな...」なんて言われてさ。曲を書いてきてそれはないだろと思ったんだけど(笑)。
──市川さんが今回持ち寄った曲というのは?
花田:『WORK IT OUT』。
──意外ですね。花田さんの世界観が全面に出た感じがした曲なので。
花田:そう? きっと、気を遣って書いてきたんじゃないかな(笑)。市川は気を遣う人間だからね。詞も市川が書いてきたんだけど、「書き直して下さい」って俺に言うんだよ(笑)。
──池畑さんが曲を持ち寄ったりは?
花田:あるよ。今回で言えば『そんなとこ』。詞も池畑だね。
──"Z"もそうでしたけど、ジプシーズも花田さんと下山さんの2本のギターの絡みが大きな聴き所のひとつですよね。互いの役割分担みたいなものも特に事前に話し合ったりしないんですか。
下山:したことないね。ただ、花田君が唄う時は俺が弾いて、俺が唄う時は花田君が弾くっていうのは基本にある。あとはそのヴァリエーションだよね。
──たとえば『黒の女』は歌と同じくらいにメロディアスなギターが終始鳴り響いていますけど、それも特に話し合うことなく自然とそんなアレンジになったんですか。
下山:うん、そうだね。最近、こんなにギター・ソロの長いバンドっていないと思うんだよ。だから敢えて長くしたところはあるね。多分、メタリカよりは遙かにギター・ソロが長いんじゃないかな?(笑)
──言われてみれば、古式ゆかしいギター・ソロは減りましたね。ヘヴィ・メタルとか様式美を重んじるジャンルには健在なんでしょうけど。
花田:俺たちにとっては普通のことなんだけどね。ギター・ソロは歌の途中に普通にあるものって言うか。
下山:でも、最近テレビで見たオジー・オズボーンの曲にもギター・ソロはなかったな。どのバンドもリフが主体なんだよね。
──今回、マスタリングをPEACE MUSICの中村宗一郎さんに依頼されたのが少々意外な人選だなと思って。
花田:ああ、知ってる?
──ゆらゆら帝国やギターウルフ、スクービードゥーといった皆さんよりも少し下の世代のバンドの諸作品を手掛けていらっしゃいますよね。
下山:それを聞いてお願いしたんだよ。
花田:スタジオの隣りがカラオケ・スナックでね(笑)。
──中村さんにはどんな感じの仕上がりにして欲しいとリクエストをしたんですか?
下山:リクエストは特にしてない。すべて委ねた感じだね。