会場および通販限定のライヴ・アルバム『Same Old BackBeat』の発表は途中あったものの、オリジナル・アルバムとしては実に5年振りの発表である。花田裕之(vo, g)、下山 淳(g, vo)、池畑潤二(ds)、市川勝也(b)から成るロックンロール・ジプシーズの『III』は一見ぶっきらぼうで無愛想で武骨な風情でありながらも、噛み締めるほどに深みのあるコクとまろやかさに溢れたロックンロールを存分に堪能できる逸品だ。思春期にザ・ルースターズという数奇な運命を辿った空集合の音楽に魅せられた僕らには『OH! MY GOD』と『CRAZY ROMANCE』のカヴァーがまず目を引くところで、原曲の趣きに風格が加味された感があるのだが、恐らく本人たちにその自覚はないだろう。自由奔放なジプシーたちの佇まいは柳に風とばかりにさり気なく、悠然と果てなき旅を続けるのみと言わんばかりに淡々としている。『III』という作品も彼らにとってはひとつの通過点に過ぎないのかもしれないが、単なる通過点として看過することは到底できない会心の作だ。この至上の一枚を主題に、先日行なわれた花田の50歳を記念したプレミアム・イヴェント、その一環として実現したまさかのルースター"Z"再結成について花田と下山に訊いた。(interview:椎名宗之+加藤梅造)
22年振りのザ・ルースター"Z"再結成
──花田さんはさる6月20日に50歳を迎えられましたが、率直なところどう感じていますか。
花田:"生きたな"って感じはちょっとするかな。40を過ぎた時は何の感慨もなかったけど、50ともなると"生きたな"って言うか。
──"50TH GIG"と銘打った計4回のライヴは花田さんがずっと出ずっぱりで、息つく間もなかったと思いますが。
花田:まぁ、その辺は覚悟して臨んだけど。
──七夕の日に我が新宿ロフトで開催された"NAGARE PREMIUM DAYS 2"では22年振りにTHE ROOSTERZ..."Z"の面々が一堂に会したビッグ・サプライズがありましたが、過去のわだかまりみたいなものはなかったんですか。
花田:いや、そういうのは全然。大江(慎也)以外はみんな東京にいるしね。
──柞山(一彦)さんがステージに立つのは久々だったんですか。
花田:全然やってないことはなくて、少しは演奏もしてるみたいだよ。灘友(正幸)もぼちぼちやってるみたいだし。
──久しぶりに"Z"の面々と共演を果たして、どう感じましたか。
花田:自分で言うのもナンだけど、やっぱり面白いバンドだなと思ったね。
下山:俺は安藤広一がちゃんと弾けるのか心配でさ。今や単なるオッサンだから(笑)。
花田:あの人だけよね、やってないのは。
──今や天下のスピードスター・ミュージック代表ですが(笑)。
下山:「キーボード持ってるの?」って訊いたら「ない」って言うし、「どうすんの?」って尋ねたら「どうしよう?」って答えるしさ(笑)。
──下山さんはどうでしたか、"Z"の再結集は。
下山:だから、そういう人がいるから大変じゃない? 「これは弾けない」とか「身体が痛い」とかわがままなことばかり言ってさ(笑)。
花田:社長、困ったもんやね(笑)。
下山:灘友は自分でやってるバンド(デンジャラス・ミカバンド)があって、そのバンドが東儀秀樹さんとセッションしたらしいんだよ。
──ああ、東儀さんって本業の雅楽以外にギターを弾くそうですね。
下山:その時の写真を自慢げに見せてくれてさ。「そんな大層な人とセッションしている人が僕らみたいなのと一緒にやっていいんですか?」って一応イヤミを言っておいたけど(笑)。
花田:どこで繋がっとるのか謎やけどね。
下山:近所のお祭りとかで共演したみたいで、東儀さんはどこからともなく現れてギターを弾くんだってさ。「友達なの?」って灘友に訊いたら「いや、全然」って言ってたけどね(笑)。
──その砂漠の民が"最終形ルースターズ"と話していた三原(重夫)さんと穴井(仁吉)さんのリズム・セクションはやはり尋常ならざるものがあると改めて実感したんですよね。
下山:三原は少し練習したみたいだよ。
──三原さんのブログを拝見したら、事前に音源を聴き直してかなり入念な準備をされていたのが窺えましたね。"Z"でツアーを望むファンも全国に大勢いると思いますけど。
花田:そうかな?(笑)
──いや、絶対そうですよ。今回も「何でロフトみたいな狭いハコでしかやらないんだ!?」と非難囂々でしたから。
下山:穴井さんがわがままを言わなければやってもいいんじゃない?(笑) ステージの上なら数曲の付き合いだからいいけど、1日中一緒にいたら「腹減った」だの何だのって大変なんだから(笑)。まぁ、ロフトの時はいつもより大人しかったけどね。
──今回の"Z"再結成の要となったのは、やはり下山さんだったんじゃないかと思うんですが。
下山:要と言うよりも、先生みたいになっちゃうんだよ。「集合!」って言わないと集合しないんだから、あいつらは(笑)。B型が圧倒的に多いからさ。俺はO型だから、自分から引率するタイプじゃないんだよ。
──ちんこ先生(灘友のこと)は先生じゃないわけですね?
下山:あいつに任せたらとんでもないことになるよ(笑)。
──最後に大江さんが飛び入りで参加したのは狂喜しましたけど、花田さんのお祭りだから花田さんの歌で締めても良かったんじゃないかとも正直思ったんですよね。
花田:いやいや、"Z"には大江もちゃんといたからね。
──最後の最後に大江さんの唄う『GOOD DREAMS』で終わったのが粋な構成でしたよね。文字通りいい夢を見させてもらったと思いましたし。
下山:大江君のは意外な選曲だったよね。まぁ、全部意表を突かれたけどさ(笑)。
花田:まさか『カレドニア』をやるとは思わなかったしね(笑)。
──『カレドニア』は初めてライヴで拝見しましたね。
花田:俺も初めてライヴでやったよ(笑)。
──リハーサルはどれくらいやったんですか。
花田:前の週に3、4回かな。取りまとめは下山に任せて。
下山:でも、みんな意外と練習してきてビックリしたよ。柞山なんて、昔よりもイヤにキチンとしててさ。
花田:うん、歳を取ったぶんだけね。
──柞山さん、あの風貌からして悟りの境地に入っているみたいでしたね(笑)。
花田:あれは何なんやろ? と思ったね。スキンヘッズが2人もいてさ(笑)。
──その"Z"然り、4回もバースデー・ライヴをやれて、あれだけ大勢の豪華ゲストが快く参加したのはひとえに花田さんの人徳ですよね。
花田:いやいや、そんなことないよ。
下山:いや、人徳以外の何物でもないでしょ。
──ですよね。誕生日当日に行なわれた"NAGARE PREMIUM DAYS 1"のほうは菊さんを筆頭に石橋凌さんや陣内孝則さん、ベンジーさんやUAさん、布袋寅泰さんといった錚々たる顔触れが集まって、一体どう取りまとめをしていたのかなと思いましたけど。
花田:あれだけの人数だと、もうまとめるも何もないよね。各々に好きにやってもらうしかなかったよ。まぁ、自分から進めた企画ではなかったけど、有り難いよね。
──その辺が仲野茂さんの50歳記念ライヴと違うところですよね。茂さんの場合は行かないと怒られそうですけど(笑)、花田さんの場合は自然と集まった感じですし。
花田:俺の場合は自由だから(笑)。自由にやってもらうのが一番だからね。