無愛想に見えたのは演奏に集中していたから
──若いリスナーにも訴求力があるような音作りにしようと意識している部分はありますか。
下山:意識はしてるよ、これでも(笑)。なるべく聴き取りやすいようにはしたいと思ってる。何でもかんでも判りやすくするつもりはないけど、無理に難解にするほど高尚なことをやってるわけじゃないし。今回はスタジオ・サンシャインの鎌田(圭介)君っていう若いエンジニアに頼んだんだけど、完全に任せて好きなようにやってもらったんだよ。彼のお陰で凄く聴き取りやすくなったと思う。
──鎌田さん然り、中村さん然り、信頼を置いて任せたことが功を奏しているわけですね。
下山:極論を言えば、演奏を間違ってさえいなければそれでいいと思うんだよね。あと、途中で倒れたりしなければさ(笑)。
──三原さんがブログでルースターズの曲は難しいから練習が必須みたいなことを書いていましたけど、同じことがジプシーズの曲にも言えるような気がするんですよね。難しいことをたやすくやってのけていると言うか。
花田:三原は「テンポの速い曲は難しい」ってよく言ってたね。
下山:あいつはそればっかり言うんだよな(笑)。
──おふたりにとっても"Z"の曲は難しいものなんですか。
下山:俺は自分でやったことだからしょうがないんだけど、簡単にやることもできるんだよ。ただ、ちょっとは難しく弾いたほうがいいだろうっていうスケベ心が出てくるんだよね(笑)。確かに当時は大変だったよ。「愛想が悪い」ってよく言われたけど、それは演奏が激しくて客席に愛想を振りまく余裕がまるでなかったからなんだよ。
──"Z"のステージには何とも言えない張り詰めた空気がありましたね。
下山:集中しないと演奏できなかったからね。みんなそんな感じだったから、それがあの緊張感に繋がったんじゃないかな。俺がルースターズに加入した頃に初期の曲をやると、曲の途中で筋肉がだるくなってきたんだよ。ちょっとスポーツみたいなところがルースターズにはあったんだよね。愛想もなくて、ただ黙って弾いてるだけなのに息切れが凄いんだからさ(笑)。走るわけでもジャンプするわけでもないのにね。
花田:単純に曲自体がキツかったよね。キーも高めに設定してたし、それ相応の気持ちで臨まないと演奏できなかった。
下山:あと、決して勢いだけでは行けない仕掛けが大江君の曲にはあるんだよ。それがもの凄く難しかった。
──その巧妙な罠が中毒性の高さに繋がるんでしょうか?
下山:きっと大江君はそう思ってやってないんだろうけどね。
花田:ただ、昔の曲もちゃんと身体に入ってた。この間の"Z"のライヴも不安やったけど、リハをしたら身体に染み込んでたのが判ったね。
──楽曲の普遍性を実感しましたよね。今聴いても輝きが何ひとつ損なわれていなかったですし。
下山:ちょっと洋楽っぽいバンドだったのもあるかもしれないね。
花田:メッセージ・バンドじゃなかったしね。そういうのはどうしても古くなるからさ。
下山:考えてみれば、ジプシーズはルースターズよりも長くやってることになるんだよね。
花田:大変だよね、久し振りに集中してレコーディングをやると。体力作りが第一みたいなさ(笑)。
──ジプシーズが今後どうなっていくか、おふたりの中に漠然と構想はあるんですか。
下山:以前、日本在住の外国人からインタビューを受けて、「何で海外でやらないんだ?」って訊かれたことがあるんだよ。「ヴァンやバスで乗り継いで回ればいいじゃないか」って。20年前なら「絶対に行く!」って言ってただろうけど、さすがに今は体力に自信がないね(笑)。
──花田さんはソロで全国各地を自由に旅していますが、ジプシーズでも同じように回れるといいですよね。ロード・ムーヴィーならぬロード・バンドみたいな集合体だと思うし。
花田:バンドでも旅したいよね。名前もジプシーズだしさ(笑)。
下山:それも身体を鍛えておかないとね。恐らく何ヶ所かは池畑君の主導の下にキャンプになるだろうから(笑)。
──前作から今作までに5年のブランクが空いたので、次作はもう少し短いスパンで聴けたら嬉しいですね。
下山:話があれば毎年でも出したいくらいなんだけどね。
花田:話がなければ、今度はロフトレコードにお願いしようかな。平野(悠)さんに言っといてよ(笑)。
下山:でも、平野さんに頼んだらピースボートでワールド・ツアーをやらされそうだけどね(笑)。