
三浦コウジ(Vocal&Guitar)、宮野哲郎(Guitar)、伊藤祐介(Bass)、橋本智恵美(Keyboard)、斉藤正樹(Drums)の5人からなるacari。三浦コウジの独特で繊細な歌声と切ないメロディーは、センチメンタルながら激しく包み込む独自の世界を作り出している。そんなacariから届けられた『プリズム』は、何気ない日常に彩りを加えてくれるような作品だった。ファーストアルバム『片想いのレッスン』からは約1年半ぶりのリリースとなるが、この期間で彼らがどれだけの意気込みを持って音楽に取り組んでいたのかを少し感じる事ができた。以前に比べると、歌にもサウンドにも説得力が増し、彼らが目指している次なるステージへの布石となる1枚となったことだろう。
今回はRooftop初インタビューということもあり、メンバー5人にお話を伺うことができた。個性がバラバラな5人だとインタビュー中に何度も言っていたが、バラバラだからこそ生み出された化学反応がacariそのものなのだろうと実感した。(interview:やまだともこ)
5人になることで大きなステージが想像できた
──『片想いのレッスン』から1年半ぶりのリリースとなりますが、出ている音の感じや最近のライブなど、みなさんの心境的にかなり変化が出てきているんじゃないかと感じました。この1年半って、みなさんにとってどんな期間だったんですか?
三浦:『片想いのレッスン』の頃はメンバーが僕と伊藤くんと斉藤くんの3人で、お客さんが座って聴くようなカフェライブが中心だったんです。でも、当時はライブをやって充実感はあったんですけど、ライブの魅力を見いだせていなかった。その後、昨年6月に初めて新宿ロフトに出演させて頂き、哲郎くんともっさん(橋本)はサポートとして出てもらっていたんですけど、その時にライブの魅力をすごく感じたんです。このメンバーだったら自分がイメージする以上のものが出来るんじゃないかって。それで、昨年の夏にこの5人でがっちりやっていこうってなったんです。
──今後こうなりたいというものが見えたということ?
三浦:はい。カフェでやっていた時って、外に向いていなかったというか内々な感じだったんです。でも、本音としてはちょっと居心地が悪かった。もっと広いところでやりたいし、いろんな人に聴いてもらいたいと思っていたんです。この5人は聴いてきた音楽や趣味とか考え方はバラバラですけど、バンドとしてもっと良くなるイメージができて、それからライブハウスでもやるようになったんです。今はファーストの頃に比べるとエッジが立ってきたんじゃないかと思います。
──『片想いのレッスン』も良いなと思ったんですけど、今作の『プリズム』と聴き比べてみると元々の音量がすごく小さくないですか?
三浦:そうなんです。わりと部屋のなかで鳴っているようなイメージになってるんですよね。入ってる曲はみんな好きだし自信もあるし、今でも演奏しているんですけど。
斉藤:当時は初めてのレコーディングで知識もなかったし、出来上がったものがどういう感じに聴かれるのかもよくわかっていなかったんです。
──ということは、今回はプロデュースを片寄明人さん(Great 3)にお願いして、こういう音にしたいという部分は明確に見えていたんですか?
三浦:『プリズム』は5人になってからの初めての作品ですし、メンバー全員の見せ場をたくさん作りたいというのがあったんです。そうすることによってカラフルにもなるし、そのイメージを片寄さんにも伝えて、アレンジは僕のイメージを一度みんなに共有してもらって、みんなから出たアイディアをもう一度僕の頭に戻して足したり引いたりして、けっこう時間をかけてやっていたんですよ。それで、バンドの中で完成したアレンジを片寄さんに聴いてもらい、そのイメージだったら楽器や音色はこっちのほうが良いんじゃないかとかを提案して頂いたんです。僕らが思いつかなかった楽器や音色のセレクト、コーラスの重ね方など全体の音像の場所とかは力をお借りして。自分たちのやりたいことと、片寄さんのアイディアがすごく良いところで交わったと思います。
伊藤:プリプロで、ベースをこうやってやるのも良いんだけど、試しにこうやってみようとか、自分の中にはなかったリズムやフレーズのアイディアを頂いて、こういうのもあるんだ! って刺激になりましたね。最初は苦労しましたけど、片寄さんと一緒にできて良かったなって思いました。
──そもそも片寄さんとは、どういう経緯でご一緒できることになったんですか?
三浦:プロデューサーを付けようというアイディアが出た時に、「片寄さんとできたらいいよね」って言っていたんです。Great 3の時からずっと聴いていて、好きなミュージシャンでもあり、音楽的にも尊敬しているので、片寄さんが僕たちの音楽をジャッジしたらどうなるんだろうというのはすごく興味深くて。そしたら、ありがたい事に一緒にやって頂けることになったんです。
──そこで、自分たちにはなかったアイディアがたくさん取り入れられた?
伊藤:違うアイディアがモロに入ったという感じです。
斉藤:1人1人にも言ってくれるし、バンドとしてこういう見せ方もありじゃないかとか、この曲だったらこういうアレンジでやっているけど、こっちもやってみたらどう? ってアイディアを出してくれて、僕たちにはないアイディアだったけれど、やってみたら案外しっくり来るかもってフレーズを変えた曲がけっこうあったんです。
三浦:切り口が違うから、いろんな発見がありました。
斉藤:5人でやっていると、三浦くんが最終的にジャッジをせざるを得ない部分が大きかったと思うんです。でも今回は、こういうことを挑戦しても良いんじゃないかって、今まで正しいか間違っているかもわからなかった部分が、一緒にやって頂くことで広くなった感じはあります。
三浦:片寄さんにジャッジしてもらえるというのはすごく心強かったですしね。
歌を一番聴いて欲しい
──曲自体は、前作以降から作り続けていたものの中からになるんですか?
三浦:そうです。全部で13曲ぐらいできていた中から選びました。
──三浦さんが曲を作る段階で、他の楽器の音も頭の中ではできているんですか?
三浦:前回のアルバムは、ここにこういうフレーズが鳴っててこういうリズムが来て欲しいというイメージがあったんです。でも、『プリズム』の9曲はおおまかなコード進行、メロディー、曲の構成、歌詞はあってもアレンジはイメージを伝えるだけで、具体的にこういうフレーズというのはなかったです。
──曲を伝えて、アレンジはメンバー全員でやってという感じで?
三浦:まず僕が持っているイメージを共有して、メンバーが思いついたフレーズを弾いてもらい、イメージと違うものだったとしても面白そうであればやってみたり、いろいろやった結果みんなの見せ場がちゃんと出たなと思います。
──見せ場と言えば、宮野さんのギターは聴きどころが満載ですよね。ギターソロの部分がかなり多いのではないかと。
伊藤:加入前に前の音源を聴かせてもらって、メロディーと声が良いなと思っていたんです。僕はロックバンドをずっとやっていて、自分がやってきたこととacariのイメージが重なればサウンドがもっと広がるなと感じたので、片寄さんにも入ってもらいイメージを摺り合わせていきました。満足できる作品になりましたし、今後はもっともっと行けると思います。
──ギターがあれだけ鳴っていて、三浦さんの歌は声を張ってるわけでもないのに、なんでこんなにボーカルが引き立つんだろうって思ったんですよ。
伊藤:5人いるので好き勝手やるとガチャガチャして、一番聴かせたい歌が埋もれちゃう危険性が高いんです。それはアレンジの段階でみんなが意識して、歌が一番メインになるアレンジはしています。
伊藤:歌を一番聴いて欲しいですから。
三浦:アレンジを詰める作業は、とにかく時間をかけてやってますね。
──『ほおずき弾けたら』『グッドモーニング』『パズル』は、アップテンポのアレンジで"こう来たか!"の連続だったんです。これまでのacariのイメージを覆す曲というか、こういうバンドだったかなって思うところが多々あって...。
橋本:『ほおずき弾けたら』は、最初にあった感じからけっこう変わった曲ですね。
三浦:最初はイントロに全く別のフレーズが入っていて、もうちょっとザクザクやっていたんですけど、スタジオで全員のイメージを摺り合わせた時に、哲郎くんからギターのフレーズを生かそうというアイディアが出たんです。それをやってみたら良くて、そこから広がった。そうやって、みんなのアイディアがどんどん重なって曲が変わっていきました。こう来たか! とか、そう来たか! というのがけっこうあって面白かったです。5人いるから、ぶつかる事もあるんですよ。でも、そのバランスがうまくはまればカラフルにもなるし、大きい演奏が出来るんですけど、一箇所でもバランスが崩れると一気に破綻してしまう。そこを全員のやりたいイメージと摺り合わせるのが大変でした。5人いる武器でもあるんですけどね。
──ぶつかることがあるんですか? しっとりと話し合いをしていそうだと思いましたけど。
三浦:アレンジの時はけっこう剥き出しですよ(笑)。
斉藤:話し合いもたくさんしたし、だから今回は、出来た時の感動もありましたけど、達成感がありましたね。5人が出せる全てが出せて、現時点で納得できる形で出来ました。それはすごく良かったです。
三浦:出来上がって、もっとこうすれば良かったという後悔がない。これは初めての感覚なんです。もちろん課題はいっぱい見つかったし、足りない部分もあったし、今回のレコーディングってヘコんで帰る日が多かったんです。自分はこう弾きたいと思っているのに技術的に到達しなかったりして。その時に、片寄さんは精神的なことも技術的なことも教えてくれたんです。だから、レコーディングが終わってから、みんな考え方も変わったし、ミュージシャンというものは甘くないなとすごく痛感しました。例えば作った曲が有線でラウンジミュージックみたいに流れた時に、強いメロディーというのは絶対に残るという話だったり、音楽の聴き方だったり。曲を作る人間として、音楽の聴き方を変えるともっと良くなる、と。同じ曲を聴いていても、どの音がどこに鳴っているのか、ギターの音がどこに鳴っていて、その間にメロディーがどうなっていて、どんな質感なのかを徹底的に聴けば、その曲がなんで良いのかわかってくるし、そうすると自分が曲を作る時にイメージ通りにアレンジが出来るから音楽を見るように聴きなさいって。それ以降、そうやって音楽を聴くようになったんですけど、聴こえてなかった音が聴こえたりしてきたんです。ミュージシャンという同じ立場の人からの意見ってすごく響いたんですよ。