女性ツイン・ヴォーカルを擁した天衣無縫の3ピース・バンド、Who the Bitchがいよいよ勝負に出た。結成当初からライヴでも人気の高い代表曲『Superstar』を公式リリースするという現状考え得る至上のカードを切ったのだ。ディスコティックなリズムの躍動感と荒々しく切り刻むビートの獰猛さが見事に溶け合った『Superstar』は、この世に生きるすべての人がミラーボールのように光り輝くべきだと唄う大いなる人間讃歌である。これは"We all shine on"と唄われるジョン・レノンの『インスタント・カーマ』にも通ずる世界観だ。Who the Bitchの音楽は我々の感情を否応なく昂揚させ、うつむきがちな漆黒の日々をも煌びやかに輝き立たせる。その意味において、Who the Bitchの存在自体がミラーボールそのものだと言えるのかもしれない。たとえそれが鈍くおぼろげな光でも、目眩く輝く彼女たちのミラーボールに反射すれば萎えた心も瞬時に発火する。さあ、次にスポットライトを浴びるのはあなた自身だ。(interview:椎名宗之)
みんなが光り輝く姿を引き出したい
──結成当初からの代表曲である『Superstar』をこのタイミングでシングルとしてリリースしたのは、どんな意図があったからなんですか。
ehi(vo, g):初めてワンマンをやった時に自主制作盤を限定で作ったこともあったんですけど、全国リリースの機会をずっと溜めに溜めてきたんですよね。レーベル然り、スタッフ然り、今はようやくバンドを取り巻く環境がいい具合に整ってきたので、このタイミングで『Superstar』を出したいと思ったんです。自分たちの自信のある曲をここで一発ガツンと皆さんに届けて、またツアーを回りたいなと思って。それがまさに今かなと。
──どれくらい寝かせ続けてきた曲なんですか。
yatch(ds):かれこれ5年は寝かしましたかね(笑)。
Nao★(vo, b):私がBitchに入った時からあった曲ですからね。
ehi:ギターも弾ける範囲で弾いたリフだったし、全く無理のないところで作った曲なんですよ(笑)。
──オリジナルとはアレンジの異なる部分もあるんですか。
ehi:ほとんど変わってないですね。ただ、ライヴを重ねていくにつれて後半のアンサンブルが盛り上がれるようなアレンジにはなってきました。ライヴと共に成長してきた曲ですから。
──一人一人が人生の主役であり、"Superstar"であるというメッセージがこの歌には込められているんですよね。
ehi:そうなんです。私たち自身が"Superstar"なんだというよりは、生きている人生の中でみんなそれぞれが主役で、それぞれが輝いていて欲しいし、それぞれが"Superstar"なんだよ! っていう。そんな思いを込めましたね。ライヴもそうで、みんなが光り輝く姿を引き出したいんですよ。お客さんがイヤなことは全部忘れて、心底楽しめる空間を作るのが私たちのやるべきことだと思うし。
──ライヴで何度も演奏し慣れているとは言え、レコーディングして完成型を作ることの難しさもあったのでは?
ehi:今まで何回もレコーディングをやってきたんで、逆に余計な力を抜いて録れた気はしますね。それまでもアレンジを変えて自分たちで録ったことがあったんですけど、結局は元サヤに収まって、一番最初にやってたアレンジがベストだなということになったんです。
Nao★:私も緊張することはあまりなかったですけど、入った当初に録ってたら大変なことになってたでしょうね(笑)。ベースはオクターブ奏法なので。私の技術的にも『Superstar』を出すのはこのタイミングが良かったなと(笑)。
──Nao★さんの演奏力は作品を発表するごとに着実に増していますからね。
Nao★:いやいや、とんでもないですよ。まぁ、前に録ったデモの時よりちょっとはマシになったと思いますけど。
──『ミラクルファイト de GO! GO! GO!』に収録されていたクールなダンス・ナンバー『sadistic』での横ノリなアプローチが『Superstar』にも活かされている気がしますね。
ehi:4つ打ち系の曲はみんな凄く好きで、その手の曲をたまに作っていこうと話していたんです。『Superstar』はその中で一番最初に出来た曲で、『sadistic』はそのずっと後に出来た曲なんですよね。ただ、先に公式で発表した『sadistic』と『Superstar』を差別化する意味で、『sadistic』を出す時に『Superstar』にはない色を付けてみたんです。逆に『Superstar』はロック色の濃い4つ打ちにしたいなと思って。
──どれだけ無機質なリズムに徹しても、Who the Bitchのサウンドには人力の温もりと迸るエナジーが脈打っているところがいいですよね。
yatch:僕らは決して上手くはないし、4つ打ちの曲はいろんなバンドがやってますけど、4つ打ちの中でパンク感を出したいといつも思ってるんですよ。攻撃的な4つ打ちをやりたいんです。
どんな目が出るのかを含めて楽しもう
──ジャケットとPVには煌びやかなミラーボールがあしらわれていますが、現場には凄まじい数のミラーボールが用意されていたそうですね。
ehi:大小合わせて凄い数でしたよ。多分、100個以上! ミラーボールの中に入ったりもしましたし(笑)。
Nao★:あの数は圧巻でしたよ。今回、ミラーボールを用意してくれた"MIRRORBOWLER"(数百個のミラーボールを使って"宇宙と和式美"をテーマに光と反射の空間作品を創り出すアート集団)とタッグを組めたのもいいタイミングだったんですよね。『ミラクルファイト de GO! GO! GO!』のジャケットを手掛けてくれたデザイナーの方が"MIRRORBOWLER"のメンバーで、その流れでコラボすることになったんですけど、いろんな人たちとの関わり合いがこの『Superstar』に上手いこと集結していったと言うか。
ehi:4つ打ちと言えばミラーボールだし、最早ミラーボールなしに『Superstar』は語れなくなりましたね(笑)。
──Aメロのクールさとサビの爆発力が対照的なヴォーカルも聴き所のひとつですよね。
ehi:ライヴだと、最初にクールな感じで唄うのが結構難しいんですよ。それまで「オリャー!」って散々煽ってるのに、そこからいきなり「響けうねる Music」って入るのが(笑)。サビは「I'm a Superstar」ってガーンと行きたいので、ちゃんと溜めを効かせないとダメなんですけど。
──カップリングの『DICE』と『Chicken Heart』も非常に良い出来ですね。ツイン・ヴォーカルの妙と心地好い疾走感が楽しめる『DICE』はライヴで人気を集めそうな曲だと思うし、ehiさんとNao★さんのハーモニーも実に美しい。
ehi:2人の声質は全然違うんですけど、重なった時に違和感があまりないってよく言われるんですよね。
Nao★:「どっちか判らん」ってよう言われるもんな。
──唄い出しのキュートな歌声はNao★さんですか?
ehi:いや、ド頭は私なんです。Nao★は2つ目のAメロで、サビもNao★がメインで唄っているんですよ。
Nao★:改めて言われると、ウチらもどっちがどっちなのかよく判らないんですよね(笑)。
ehi:急にハモりから主旋に戻ったりするしね。
──「猿も木から Slow down!」という日本語と英語のチャンポンの歌詞もユニークですよね。「ピッグの耳にパール」みたいなルー語を彷彿とさせますけど(笑)。
Nao★:まさにそんな感じですね(笑)。
ehi:とあるライヴハウスの楽屋で「成せば成るさナンチャラ〜」って英語を混ぜたいねと話してたんですよね。そこからバーッと歌詞を広げていったんです。
──どんな苦境に立たされても成せば成ることを信じて、ピンチをチャンスに変えるんだ! という意気込みで日々を生きようという前向きなナンバーですよね。
Nao★:"DICE"="サイコロ"の目は何が出るか判らないけど、そこも含めて楽しんでいこう! って感じですね。
ehi:どんなに悲しいことがあっても前向きでいたい気持ちが常にあるし、そういうメッセージは曲の中に残しておきたいと思ったんですよ。
──あくまで平易な言葉を使って軽やかに前向きなメッセージを織り込んでいるのがWho the Bitchらしいですね。
ehi:基本的に唄いたくなるような音の響きを優先して言葉を選んでいて、それで日本語も英語も判りやすい言葉だと余計にいいんですよね。あと、"Lonely at night"っていう英語はダサイし、使うかどうか凄く迷ったんですけど、響きも合うから使うことにしたんです。
Nao★:あまりに甘すぎたり可愛すぎたりする言葉だと、"Bitchっぽいかどうか?"という判断で迷うこともあるんですよね。
ehi:あえてダサイ言葉を使っても、それがシャレに映るならOKなんですよ。