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INTERVIEW

トップインタビュー鈴木邦男 INTERVIEW('10年7月号)

映画「THE COVE」上映中止問題とは何なのか?

2010.06.22

 和歌山県のイルカ漁を問題にした映画『ザ・コーヴ』の上映を巡り、配給会社・映画館と上映反対派による激しい攻防が続いている。反対派の抗議活動により、当初上映を予定していた東京の映画館が次々と上映を取りやめ、新聞・テレビでも大きく報道されるに至ったが、断固上映を予定している他の映画館に対しても営業妨害ともいうべき抗議活動が続けられている。ようやく7月3日から全国6館での上映開始が発表されたが、抗議の方もエスカレートし今だに予断を許さない状況だ。この問題の当初から先頭を切って上映を支持してきた一水会の鈴木邦男氏に、この一連の騒動についてお話を伺った。なおロフトプラスワンでは上映初日の7月3日に緊急イベントとして「ザ・コーヴ上映&公開討論会」を開催するが、そこにも鈴木氏には登場していただく予定だ。(TEXT:加藤梅造)

日本の映画監督は何故撮らないのか?

──鈴木さんが『ザ・コーヴ』のことを知ったのはいつでした?

鈴木 去年の10月に東京国際映画祭でやったんですよね。その時は見てないんですが、それを見たある左翼系の記者が「あれは反日的な映画だ」って批判していたんです。「日本の食文化を外国にとやかく言われる筋合いはない」って。そんなに反日的な映画だったら是非見たいなあと思っていたら、今年になって試写を見る機会があった。でも実際に見たらそれほど反日的ではなかったですね。
 この映画は、1960年代にテレビドラマ『わんぱくフリッパー』のイルカの訓練士だったリック・オバリーが、自分のやってきたことが間違いだったと思い、その後イルカの解放運動を30年以上やっているという自己批判の映画ですよね。面白かったのは、僕が今まで知らなかったことがたくさん分かったことです。例えば、イルカ漁というのが日本政府の許可を受けて行われていることも知らなかったし、あとイルカショーにおけるイルカのストレスの問題も知らなかった。僕は水族館が大好きだから今までイルカショーも随分見ていて、イルカ自身もショーを嬉々としてやっているものだと思ってたんです。でも実際はそんなことなくて、ストレスが溜まるから胃薬を飲まされてやってるんですね。イルカショーについて言えば、日本のイルカ漁で捕れたイルカが世界中の水族館に高額で取引されていて、売れ残ったイルカが殺されて食肉にされていることも初めて知って驚きました。
 これらの事実は多くの日本人が知らなかったと思うし、なんで今まで日本のドキュメンタリー監督が撮っていなかったのかとも思いました。李監督の映画『靖国』もソクーロフ監督の『太陽』もそうですが、日本人が撮れないテーマを外国人が撮って問題になっているけど、じゃあ日本の映画監督は何をやっているんだと、そういうことも思いましたね。他にも、イルカが水銀汚染されているという問題、またイルカ肉が地元の学校給食に出されている問題など、一つ一つがもっと広く議論すべきテーマだと思いますね。だからこの映画を多くの人が見ることで、そうした議論があちこちでされるようになるだろうと思っていたんですが、まさか「映画を見せるな」という議論になるとは思ってもなかった。

──この映画はドキュメンタリーじゃなく、ただのプロパガンダ映画だと言う人もいますね。

鈴木 それはドキュメンタリーの捉え方によると思うけど、『ザ・コーヴ』について言えば確かに映画として作り方が巧いよね。たとえプロパガンダにせよここまでやられたら認めざるをえないでしょ。ハラハラさせるような場面もあるし、必要以上におどろおどろしいBGMを使ったり、オバリーさんが街の人に見つからないように変装しているのも、かえってそっちのほうが目立つだろう!と思いますよね。あとイルカ漁を撮影するために呼び寄せたカメラマンやダイバー達を劇映画『オーシャンズ11』の登場人物に例える所とか、普通のドキュメンタリー映画ではやらないですよ。登場人物のオバリーさんはプロパガンダを一所懸命やってますが、それを撮っているシホヨス監督はもっと醒めていて2人の温度差もある。そういう映画としての面白さを追求しているところはすごいと思いますね。
 イルカ漁を盗撮したのがけしからんという批判が多いですが、そうであるなら撮られた方が訴えればいいだけの話じゃないですか。現にオバリーさんは何回も捕まっているわけですから、それは覚悟の上でしょう。その盗撮にしたって映画を盛り上げるために大げさに言ってるだけじゃないかと僕は勘ぐりますけどね。

──僕もエンターテイメントとしてよくできてると思いましたが、それにしても日本人を悪く描きすぎだろうとも思いました。まあアメリカ人ってそういう所ありますけど。

鈴木 最初に東京国際映画祭でやった時は、顔のボカシもテロップもなかったけど、その後、地元の人から抗議が来たので肖像権に配慮してボカシを入れたそうなんです。僕はボカシが入ってないのを見たくて、頼んで見せもらったんです。映画の中に出てくる「Mr.Private space」(註:撮影を妨害するある地元住民のあだ名)や公安警察の人達も、素顔はいかにも善良そうな田舎のおっちゃんなんですよ。それが顔にボカシを入れるだけでものすごく悪い人に見えてしまう。僕は映画『靖国』の李監督に、一方的すぎる場面にはテロップで別の意見も入れたほうがいいと指摘したんですが、李監督はテロップもモザイクも一切入れなかった。だから、ドキュメンタリー作品におけるモザイクやテロップの必要性についても、いろいろ考えさせられましたね。

反日だから見せないというのはそれこそ国辱的。

──今回『ザ・コーヴ』を巡って様々な論争がありますが、一番の問題は一部の反対派の抗議によって映画上映自体が中止になったことですよね。

鈴木 映画上映に反対する人達は、あの映画を見せると日本人が欧米の間違った思想に洗脳されるから上映するなと言ってますが、日本人はそれほど愚かじゃないですよ。この前、ニコニコ生放送に出た時に、途中で視聴者のアンケートをとったんです。そこで、映画を見てイルカの肉を食べてみたいと思った人が40%近くいたんです。それには驚きましたね。映画の主張していることと正反対の結果ですから。だから映画っていろんな見方をされるものなんですよ。昔、中国の国威発揚の映画を見たんですが、そこに小さな子供に軍服を着せている場面があったんです。今の日本人がそれを見たら、中国は子供にまでそんな格好をさせて怖い国だって思うでしょう。だからイデオロギーというのは見る人によって逆に取られることも多い。日本人が北朝鮮の映像を見ても主体思想に洗脳されないのと同じですよ。悪い映画だから見せないっていうのはおかしいよね。

──あと上映反対騒動はかえって映画を宣伝していることになってますよね。まあ自分たち自身の運動の宣伝にもなっているかとは思いますが。

鈴木 もし『ザ・コーヴ』がアカデミー賞を取らなくて上映反対運動もなかったら、それほど話題にも上がらずミニシアターで上映されて終わりですよ。あと以前はイルカ漁も今ほど警戒が厳しくなくて、『ザ・コーヴ』以上に残酷な映像もいっぱい撮られてるんですよ。ただそういう映像は素人がたんたんと撮ってるだけで、BGMもなければ編集もしてなくてあまりおもしろくない。だからほとんど知られてなかった。日本の文化を守れって言うけど、この映画がなかったら多くの人がイルカ漁のことを知らなかったんだから。それにかつては切腹やお歯黒といった日本文化も今はなくなったんだし、文化は時代と共に変わっていくものでしょう。
 もっと極端に言うと、映画は全部反日ですよ。昔、右派の文化人が言ってたことですが、戦後アメリカが日本を骨抜きにするためにやったことを3S政策と呼んでたんです。3Sとは「SCREEN」「SEX」「SPORTS」のことです。その3つを積極的に日本に輸出して日本をダメにしたと。でも今更、映画とセックス産業とスポーツをなくすことなんかできないですよね。
 そもそも映画は反日か反日でないかという単純なものではない。あれほど反日的と言われた映画『靖国』は中国では上映できないんですよ。表向きの理由は「日中の友好関係に問題を起こすものを中国政府は支援できない」ということらしいんですが、ある人によると本当の理由は、靖国神社が日本人が戦死者を追悼する施設だということを中国の国民に知らせたくないという理由らしいんです。僕も後者の可能性はあると思います。だから優れたドキュメンタリー作品というのはいろいろな見方ができるものであって、世界中で上映されている映画を反日だから見せないというのは、それこそ国辱的な話だと思いますね。


鈴木邦男:新右翼団体「一水会」最高顧問。『夕刻のコペルニクス』『右翼は言論の敵か』など著書多数。

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ザ・コーヴ

7月3日(土)よりシアター・イメージフォーラム、他で公開

イルカ解放運動家のリック・オバリーは1960年代に世界的なイルカ人気のきっかけを作った人物。自分のせいでイルカたちがストレスにさらされていることを悔やみ、イルカ解放運動を続けている。彼は日本の和歌山県太地町のイルカ漁の実態を調査していた。彼はある入り江でイルカ漁が行われていることを知り、そのイルカ漁の模様を撮影しようと撮影チームを呼び集める。そして監視網を掻い潜った彼らは、イルカ漁の撮影に成功する。(2010年のアカデミー長編ドキュメンタリー賞受賞作)

LIVE INFOライブ情報

 

『ザ・コーヴ』上映&公開討論会
これは反日映画か? 上映中止騒動は何なのか?
問題作『ザ・コーヴ』を観て考えるイベントを緊急開催決定!!
【出演】鈴木邦男(一水会顧問)、綿井健陽(映像ジャーナリスト)、安岡卓治(映画プロデューサー)、針谷大輔(統一戦線義勇軍議長)、篠田博之(月刊『創』編集長)、他
 
開催日:7月3日(土)
会場:ロフトプラスワン
開場18:00 /本編上映19:45〜(91分)/終演22:30(予定)
前売¥1500 / 当日¥1800(+ドリンク代)
※前売りはローソンチケットで発売【Lコード:38759】
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