鈴木邦男(文筆家・元一水会顧問)の右顧左眄
今回も、個人的な話になってすみません。僕が出ている映画と本の話。宣伝ぽくて嫌だけど、いや実は宣伝そのものか。
若者よ、ポレポレ東中野に急げ
まず映画の話を。ルーフトップは毎月1日発行だ。でも、ロックのライブハウスやトークライブハウスに来場した時に手に取る方も多いだろうから、そういう方は目にするのがもっと遅くなる。なので慌てて書いておく。
実は僕を撮ったドキュメンタリー映画が上映中だ。2月の1日から始まっていて、14日まで続く。ポレポレ東中野という問題作ばかりを好んで上映する、クセのある映画館だ。東海テレビの『さよならテレビ』も、まだやってることだろう。
僕の映画のタイトルは『愛国者に気をつけろ! 鈴木邦男』という。ドキュメンタリー映画だ。自分が主人公となっている映画なんて、正直な話、恥ずかしい。だって、イケメンでもないし、ワンチームで何か大ごとを成し遂げたスポーツマンでもないし、涙がちょちょ切れるような感動大作でもない。そんな映画を誰が観に来るのか。僕なら行かない。
じゃあ監督はなんで、そんな僕を、2年間も追い掛けてカメラを回したのか。ちょうど1月23日付の朝日新聞の朝刊「ひと」に、中村真夕監督が取り上げられていたので、そこから紹介しよう。
この「ひと」欄のタイトルは「異色の言論人を記録映画に撮った」である。その他にサブタイトルもない。つまり鈴木邦男という文字がない。ということはきっと、〈異色の言論人〉とは僕のことなのだろう。自分ではあまり、異色意識はないんだけどね。
で、記事の冒頭にはこうある。「好々爺(こうこうや)然とし、押しつけがましさを感じさせない。どんな曲折をへていまの境地に達したのか」。どうやらこれも僕のことだ。好々爺ってなんだ? 広辞苑を引いてみると「人のよい老人。にこにこしたやさしそうな老人」とある。ああ、老人なのか。それなら確かだ。僕は昭和18年生まれ。8月の誕生日が来れば77歳だ。戦争が終わったのが1945年、昭和20年だから、直接戦争のことは知らないが、防空壕や傷痍軍人(街頭で兵隊姿でアコーディオンなどを弾きながら物乞いをする)は見ているし……と、この話をすると長くなる。これはいつか、ここにも書きたいと思っているが、今回は映画の話だ。
中村監督は、カメラを回し始めた頃は、僕のことをよく知らなかったらしい。なんでも、若松孝二監督が亡くなった時、「この世代が亡くなるのに、若松監督世代の人を誰もちゃんと撮ってない」と思ったとか。それで見まわしたら、僕がちょうどいい年頃でいたらしい。「なんだ、そうかよ」と思ったが、撮りたいというものを嫌ですという理由もなかったので承諾した。
でも中村監督は、みやま荘でのインタビューを一つの中心に据えたいという。確かに、今の僕を追ったって、ろくな画は撮れない。派手な立ち回りもしないし、人間が丸くなったのか、熱くなって議論を戦わすこともなくなった。あっ、だから好々爺と書かれるのかもしれない。今やもっぱら、話し合い路線だ。話せる人となら、何でも話したい。どこへでも行く。
映画でも、いろんな人がインタビューに答えてくれているし、映画の公開に合わせて毎日セットしたアフタートークにも、たくさんの忙しい人が出てくれる。ラインアップを表にしたので、見てほしい。ぜひ、興味のある人物の時に、観に来てください。アフタートークだけじゃなくて、その前の映画も観てくださいね。値段は変わらないんだから(セットで2,000円です)。
『彼女たちの好きな鈴木邦男』
さて、次は本の話をさせてほしい。2月8日の発売で、ポレポレ東中野では先行発売されているから、もう買った人がいるかもしれない(いてほしい)。タイトルは『彼女たちの好きな鈴木邦男』という。彼女たちって? それは、対談相手(9人)、ひとことコメント、それに編集まで、すべて女性たちが登場しているからだ。
まず対談相手の9人はこんな人たちだ。望月衣塑子(東京新聞)、三浦瑠麗(国際政治学者)、入江杏(ミシュカの森主宰)、溝口紀子(柔道家)、赤尾由美(赤尾敏の姪)、雨宮処凛(作家・運動家)、松本麗華(カウンセラー)、塩田ユキ(監獄人権センター)。政治から社会問題、柔道まで、いろいろ楽しい話ができた。
コメントを寄せてくれたのは、ユン・スヨン(フリー・ハグ運動家)、香山リカ(精神科医)、中村真夕(上記の映画の監督)、早見慶子(作家・元戦旗派)、そして上記映画でも邦男ガールズとして紹介された御手洗志帆(TVディレクター)、瀧澤亜希子(三島由紀夫研究家)の方たち。
そして、最後の匿名座談会には参った。「愛される邦男って、ほんと?」というタイトル。邦男ガールズ3人が匿名で喋っているのだが、メチャクチャ面白い。面白い、と第三者的に言ってばかりではいられない。なんでこんなこと知ってるの? なんてことまで、喋ってる。僕の過去の女性の話だ。上記の映画のパンフでも、僕のことを語ってる男3人が「知らない」と言ってる女性関係なのに、なんで話す、匿名をいいことにして。僕には誰だか分かるんだから、後で締め上げなきゃ(冗談、冗談)。まあ、女性関係というほどの話ではないが、ちょっとびっくりした。何か僕が断片的につぶやいたりしたのを寄せ集めて(もしかしたらそれぞれの情報を持ち寄って)、大げさな話にしているのかもしれない。
本の出版社はハモニカブックスといい、奥付を見ると発行人が椎野礼仁となっている。どこかで聞いたことのある名前だな。でも本人に言わせると「企画・編集はすべて清水均さんで、僕は一切関わっていません」とのこと。その清水さんが書いたであろう、チラシのキャッチコピーを引用しておこう。
「〈左翼よりもリベラルな右翼〉とも称される鈴木邦男だが、社会変革のために〈女性〉目線をとりわけ重要と考えているらしい。誰も彼のことをフェミニストなんて呼んだりしないが、鈴木邦男にとって〈女〉とはどんな存在なのだろう」
ふーむ、僕にとって女とはねぇ……一言ではうまく言い表せないが、その視線・視点を大切にしていることは確かだ。邦男ガールズをはじめとして、女性のほうが男性より、素直に質問してくれる。ものを書いたりする時に、それはとても参考になる。
無事、退院!
最後に少し、体調のことを報告しておく。11月から腸閉塞などで入院していたが、手術やリハビリを経て、1月24日に無事退院した。なんとこの間に、検査・手術・リハビリでそれぞれ病院が変わって、結局3つの病院を経験した。それぞれに、看護師さんやリハビリの先生は、優しく指導してくれるので、僕も何とか切り抜けることができた。
退院の時にレーニンさん(上記の椎野礼仁さん)が手伝いに来てくれたが、「背筋が伸びて歩いている鈴木さんを久しぶりに見ました!」と目を丸くしていた。
何とか、映画のアフタートークには行けそうだ。
構成:椎野礼仁(書籍編集者)