
言葉の響きを重視して歌詞を作る
──海外の移動中に曲作りをしたりとかは?
逹瑯:それは全くないですね。必要に駆られてやらなきゃいけなかったことはありましたけど。シングルの曲出しをしなきゃいけないってことで、移動日のオフにアメリカのホテルに缶詰めになったりして。
SATOち:あれはホントにイヤだったなぁ...(苦笑)。勘弁して欲しかった。
逹瑯:まぁ、最近はそれほどキツいスケジュールでもないですけどね。知り合いに「最近は忙しいの?」と訊かれたら「暇じゃない程度です」と答えるのが一番適切な言葉なのかなと。
──今はある程度の時間を費やして楽曲の精度を高めるモードなんでしょうか。
SATOち:本番までに1日1曲練り込むようになって、レコーディング・スタンスが変わったんです。だから今は凄くやりやすいんですよ。昔はプリプリプロを1日に4、5曲やってたし、あれは地獄でしたね(笑)。1日に何曲もやると、1曲目のことはもう忘れちゃうんですよ。
逹瑯:時間がなくてオケを録るのが最優先だから、自分の出番がいつになるか判らないけどスタジオにはずっといるんですよ。スタジオで15時間待ちなんてこともあったし、待って、待って、待った挙げ句に何もやらずに「ハイ、お疲れ様!」ってこともありましたね。最終日にまとめて唄ったりして。
──その待ち時間で歌詞を作ることはないんですか。
逹瑯:ないですね。曲を練ってる最中だから、歌詞の割り振りもまだ決まってないんですよ。アレンジも変わるし、ヘタするとメロディまで変わることもあるし。仮の仮の歌詞を言葉の響きだけで付けたりすることはありますけどね。
──各人がパーツを持ち寄って1曲に仕上げることが多いんですか。
逹瑯:昔はそうでしたね。『球体』くらいからみんなデモを持ってくるようになったんですよ。俺は何の楽器も弾けないから鼻歌で唄ったのを持っていったんですけど、さすがにそれじゃ格好付かないので、マニュピの人と一緒にああだこうだ言いながらオケを作るようになったんです。俺がちゃんとしたデモを作るようになったのは今回の『約束』からですね。
──そういった曲作りに対する意識の変化は、何がきっかけだったんでしょう?
逹瑯:結果的にそれが時間短縮に繋がるからじゃないですかね。
SATOち:逹瑯だけじゃなくてYUKKEもちゃんとしたオケを用意するようになって、そこでまた「コノヤロー!」になるわけですよ(笑)。だって、クオリティの差が明らかに違うんですから。
逹瑯:昔の曲出しの時の俺の気持ちが判ったでしょ?(笑)
──デモで作り込みすぎると、糊代の部分がなくなることはありませんか。
逹瑯:デモの段階では、細かいリズムのアレンジやキメとかは全然なんですよ。ギター・ソロも何となくのものだし、ベースもルートで入ってるだけなんで。
SATOち:でも、ツー・バスで作ってあるのを「これはあくまでイメージだから」って逹瑯が言うんですけど、だったらもうちょっと違うイメージのを作ってこいよ! と思うことはありますね。もしそれが採用されたら、叩くのが大変だもん(笑)。
──逹瑯さんは歌詞を推敲することが多いんですか。
逹瑯:今まで仮の歌詞を書く時は言葉の響きを優先して書くことが多かったんですよ。そのほうがメロディも唄いやすいし。ただ、今回の『約束』に関しては書きたいことがあったし、「後でアニメの注文が入って変わっちゃってもこの内容は他の曲で書ければいいかな」と思いながら仮の歌詞をバーッと書いたんです。
──ちなみに、逹瑯さんの考える"アニソンっぽさ"とはどんなところですか。
逹瑯:『約束』を書いた時は「やっぱり判りやすいサビ始まりだな」と思ってたんですけど、今はもっとマニアックに行っても良かったかな? と思いますね。今のコアなアニソンって、楽曲自体が普通に格好いいんですよ。もはやアニメも何も関係なくマニアックなメロディなんだけど、純粋に格好いいっていう。
──おふたりのお好きなアニソンを挙げると?
逹瑯:俺は『幽☆遊☆白書』のエンディング・テーマですね。あと、"世界名作劇場"でやってた『ロミオの青い空』のオープニング・テーマだった『空へ...』。どちらも哀愁が漂っていて、昔から好きでした。それと、『おれは直角』とかも好きだったな。
SATOち:俺は島田紳助さんが唄ってる『がってん承知ノ介』かな。『もーれつア太郎』の主題歌なんですけど、メチャ格好いいんです。「♪いっさい がっさい まかせとけ!」って歌詞で、Bメロが泣かせてくれるんですよ(笑)。あれは小学生の頃にズキューン! と打たれましたね。
出自を隠したほうが格好悪い
──『フリージア』、『ジオラマ』、『約束』とシングルのリリースが相次いでいますが、最近はシングルを切って勝負に出るバンドも少なくなりましたよね。
逹瑯:日本はシングルの立ち位置がアメリカとは全然違いますよね。判りやすくキャッチーなものに飛び付く日本人の嗜好なのか判らないけど、とりあえずひとつのアイコンが欲しいのかもしれない。海外のバンドはアルバムを出すと2年くらいツアーを回って、またアルバムを出すっていうケースが多いんですよ。海外を主体に活動を広げていこうと思ったら、日本でやってるサイクルじゃまず無理でしょうね。アメリカやヨーロッパをちゃんと回ろうとすれば、それ相応の時間がどうしても掛かりますから。
SATOち:(しみじみと)日本人で良かったっす...(笑)。
逹瑯:海外のバンドはツアーの最中でも、楽屋でパソコンを開いてヘッドフォンをしながら曲作りをしてますからね。それがライフワークになってるんですよ。
SATOち:あのワーカホリック振りはとても考えられないね。2年もツアーに出るなんて、独り暮らししてたらどうするんだろう!?(笑)
──凛として時雨やTHE BACK HORNといった異ジャンルのバンドとのライヴを果敢に行なったり、海外でのライヴをコンスタントに断行したりと、常に境界線を飛び越えていこうとする志の高さがムックにはあるし、その姿勢はこれからも不変なんでしょうね。
逹瑯:ジャンルなんてどうでもいいんですよね。アンニュイなのがいいんですよ。立ち位置としてはヴィジュアル系ですけど、それを恥ずかしいとも思わないし。よく格好悪いジャンルって言われることもあるけど、出所を隠すほうがもっと格好悪いですよね。何と言うか、音楽やライヴが純粋に楽しければいいと思うんです。今はやってる側よりも聴く側のほうに偏見があるし、そこは問題かなと思いますね。
──その偏見なり先入観なりを取り払っていきたいですか。
逹瑯:いや。「偏見を取っ払って世界を変えたいんだよ!」なんて熱弁を聞くと、俺は凄く引いちゃうんですよ(笑)。偏見なり何なりは自然となくなっていくもんじゃないかなと思いつつ、背伸びもせず、大口も叩かず、常に自然体でいたいんですよ。
SATOち:ヴィジュアル系ってだけで嫌われたりするのはイヤだなと思いますけど、ムックのライヴは一度見れば絶対に楽しいはずだから、そのためにも異ジャンルの対バンやフェスとかにいっぱい出たいんですよね。
──聴く側の意識を変えようとする強靱な意志みたいなものがなければ、たとえば海外へ打って出る時も心が折れそうな気もしますけど...。
逹瑯:俺はそういう気負いみたいなものはないですね。単純に面白いことが好きなんですよ。面白ければ何でもいい。
SATOち:確かに楽しめるのが一番だけど、毎回毎回楽しめるわけじゃないし、立ち向かって戦わなくちゃいけない部分もありますよね。
──僕が皆さんの立場だったら、ガンズ・アンド・ローゼズの前座を2度も務めるなんて即刻胃潰瘍になるでしょうけどね(笑)。
SATOち:その辺はメチャ強くなりましたね(笑)。
逹瑯:日本人の洋楽ファンが世界で一番のアウェイなんですよ。
──なるほど。それに比べて、海外のオーディエンスは何でも見聞きしてやろうという貪欲さがありますよね。
逹瑯:向こうの人たちは新しくて面白い音楽を常に探し続けてるんでしょうね。音が良ければ素直に反応するし、言葉の壁も関係がない。俺たちが洋楽を聴いても何を唄ってるか判らないのと同じですよ(笑)。