
成功のレシピが判らないから続けていられる
──とは言え、若い連中には高く飛んで深く沈む"トランポリン"を人生の暗喩として描くことはできませんよね。
加藤:若いうちから『トランポリン』みたいな歌を唄っていたら気持ち悪いよ。若いバンドは青臭いほうが最高に格好いいと俺は思うけどね。
古市:若い連中は"俺はただお前とヤりたいだけ"って唄ってたほうが格好いいよね。
加藤:そう、"G・I・R・L、ガールフレンド"って唄ってたほうがね(笑)。当然、経験なんて積んでないわけだから、あとは借り物の哲学をひけらかすくらいしかないよ。あまりに達観した歌を若いのが唄っていたら、余生はどうするつもりなんだよ!? って思うよね。
──閉塞感の拭えないこのご時世だけに、『明るい未来を』や『今が最高!』といったポジティヴなナンバーは尚のこと胸に響きますね。
加藤:打ち上げでバンドの連中と呑んでいて、愚痴を言ってるとホントに暗くなっちゃうからね。こんなに景気の悪い世の中でさ、いい話なんてそうそうないじゃない? それなのに、歌まで湿っぽくなったら唄っていて悲しくなっちゃうよね。ただ、『ラブ・アタック』みたいに敢えて明るく唄わない歌もあるよ。"ド・レ・ミ・ファ・ソラマデ飛びそうだ"なんて無責任な歌だと思うけど、こんな時代だからこそ無責任な歌が聴きたいと思ったんだよね。そういう部分でも、アルバムって時代に凄く反映されるよね。やっぱりロックンロールってそういうものなんだよ。その時代を映す鏡みたいなものなんだから。
──まさに"ミラー"ですね。ちなみに、曲のタイトルや順番はいつ頃に決まるものなんですか。
加藤:今回はかなり手こずったね。特に歌詞が。その時々でタイムリーなことを唄いたいから、毎回歌詞は手こずるんだけどさ。急にイメージが変わってツイッターのことやサリンジャーのことを唄いたくなると、それまで頭の中に浮かんでいたイメージを全部変えることになるんだよ。その作業が凄い大変なんだよね。ホントに締切ギリギリまで決まらないことが多くて、いつも大変。歌詞を書いたり、タイトルを考えたりするのが。でも、こればかりはもうしょうがないね。それが自分の作曲法だと思って諦めてるよ。メンバーもちゃんと歌詞を判っていたほうが感情移入できるとは思うんだけど、迷惑を掛けちゃってるところはあるね。歌詞が全く付かないまま"ラララ..."で演奏しなくちゃいけない曲もあるから。
古市:俺は正直、あまり気にしてないけどね。ライヴでやっていくと詞が化けることもあるだろうけど、最初に録る段階ではこっちもそこまで曲を知り尽くしているわけじゃないからさ。
加藤:『明るい未来を』はかなり早い時期に出来ていて、ライヴでも散々やってきたからレコーディングするのも早かったんだよ。その他にも『青春ミラー』、『エコロジー』、『Cold Sleeper』は2回ライヴでやってから録りに入ったわけ。ライヴでやると演奏は巧くなるからレコーディングも早いんだけど、何と言うか"サムシング"が出てこないんだよね。演奏も間違えないし、身体に染みついてるんだけど、何かが足りない。いい頃合いで録るのが凄く難しいんだよ。たとえば『青春ミラー』みたいな曲をライヴでやりすぎると、真ん中のコータロー君のプレイもスリルがなくなるんじゃないかと思う。本人は一生懸命ギリギリのところで弾いているから飛び越えるものがあるんだけど、馴れてくると小さくまとまってしまう。その見極めが凄く難しい。逆に、その場で初めて弾くと『青春ミラー』みたいにでっかい曲はまとまってこないし、誰かがどこかで間違えるものなんだよね。ただ、『青春ミラー』と『エコロジー』に関しては2回ライヴでやってから録るっていうのが功を奏したと思う。
──コレクターズほどのキャリアのあるバンドでもそういうものなんですね。
加藤:料理だってそうだと思うけど、毎日同じメニューを作っていても、その日の焼き加減とかで味が微妙に変わるでしょう? ライヴとレコーディングもそれと一緒で、成功のレシピが判らない。どれくらいの頻度でライヴをやってからレコーディングに入れば一番いいのか、とかさ。まぁ、判らないからこそ今もこうして続けていられているんだとは思うけど。
固有名詞を挙げることで歌詞がより伝わる
──歌詞が変わる前の『ライ麦畑の迷路の中で』はどんな歌だったんですか。
加藤:挫折していく感じと言うか、大人になりきれない感じを描こうと思ってた。だから世界観は似ていたんだけど、もっと具体的にしたかったんだよ。『ライ麦畑でつかまえて』を読んだ男が50歳を目前にしてサリンジャーの訃報を聞いて、自分の少年時代を思い返して、"あの頃と何が変わったのかな?"ってふと思うことを唄いたくなったわけ。サリンジャーを題材にしなくても伝えたいことは変わらなかったんだけど、固有名詞を使うことでより伝わるじゃない? 『ライ麦畑でつかまえて』を十代の頃に読んだ連中が感じた怒りみたいなものが。
──それは『イメージ・トレーニング』でジョニー・デップやタイガー・ウッズが出てくるのと同じような感じですね。
加藤:同じだね。時事ネタに近いと言うか、そのほうがフレッシュに唄えるんだよね。
──ジョン・レノンが『インスタント・カーマ』を1日で録音して、10日後に発売に漕ぎ着けたような鮮度の高さと言うか。
加藤:そうそう、ああいうスピード感が俺は欲しいわけ。俺は普遍的なテーマを唄うのが案外苦手で、その時々のニュースが日々生きていて一番面白いことだからさ。
──前作『東京虫BUGS』に収録されていた『たよれる男』でも、ジェームス・ボンドや甲本ヒロトを称えていましたよね。
加藤:あの時の作り方と似ちゃったんだけど、敢えてまたそういうのをやってみてもいいかなと思ってね。
──そういう部分でも若いバンドには出せない、ヴェテラン・バンドならではの遊び心を感じるんですよね。
加藤:まぁ、後進のバンドには今まで随分と貢献したと思うよ。コレクターズは『CANDYMAN』の頃から歌詞カードの上にコード譜を振っていたんだけど、いろんなバンドから「パクらせてもらいました」って散々言われたからね(笑)。ただ、歌詞カードの上にコード譜があると、歌詞が頭の中に入ってこないんだよ。コードがあることによって余計な情報が入ってきちゃって、歌詞の字面の持つ本当の意味が全然吸い込まれてこない。まだ耳で聴いているほうがいい。だからコード譜を振るのをやめにしたんだよね。
──僕も家でよくそのコード譜を見ながら唄っているんですけど、コレクターズが使っているコードって割とシンプルで、実際に弾くと凄く気持ちいいんですよね。
加藤:ギター・バンドはやっぱりそうじゃないとね。シンプルなコードなのに凄く格好いいっていうのが理想だしさ。
──さっき加藤さんが「普遍的なテーマを唄うのが案外苦手」と仰いましたけど、コレクターズには『世界を止めて』を筆頭に普遍的なラヴ・ソングも多いですよね。
加藤:それはやっぱり、『世界を止めて』が売れてそういうタイプの曲を求められていた部分もあるよね。世の中で売れるものはある程度の普遍性がないとダメだっていうシステムみたいなものがあったじゃない? 俺たちだって売れたいし、イヤな言い方だけど、ヒットは狙いたいからさ。オーディエンスも普遍的な曲を求めてくるし、それは凄く自然なことだと思った。俺は昔からビートルズが好きだったわけだし、普遍的なものを極端に排除するつもりもなかったしね。ビートルズなんて世界中でヒットしたバンドで、全然カルトじゃないわけでさ。彼らみたいになりたくてバンドをやっているわけだから、やっぱりみんなに受けたいんだよ。それがいつからかビートルズのある側面がとてもマニアックなものとして捉えられるようになって、ロックが高尚なものになってきたわけだけどね。この間、NHKの『ロックの学園』という番組でフミヤ君と一緒にRCサクセションの『トランジスタラジオ』を演奏したの。凄いシンプルな歌でさ、昔だったら「そんなシンプルな歌は恥ずかしくて書けねぇよ」なんて大人ぶったことを言っていただろうけど、ポップスってこういうものだよなと思って、ちょっと反省したんだよね。
──コレクターズのレパートリーも、充分シンプルでポップだと思いますけど...。
加藤:それでもまだ『トランジスタラジオ』ほどシンプルじゃないし、もうちょっと判りやすく作るのも手だよなと思ったね。別に判りにくいものを作ってるわけじゃないけど、もう少し間口の広がる作り方をすれば良かったのかなって思った瞬間もあった。そうやって日々いろんなことを感じているわけだよ、何年経ってもね。だから、いつまでも青臭いところや瑞々しい部分が残っているのかもしれない。
──"青春"って言葉は若い頃は抵抗感のあるものですけど、コレクターズが使うと凄くしっくり来るんですよね。
加藤:昔は凄く恥ずかしい言葉だったけど、今は青春に憧れちゃうからね。自分が歳を取っていくことを痛感するしさ。これも自然なことだから、別に隠す必要はないと思うけど。コータロー君だって酔う時間が早くなったからね(笑)。
古市:強肝剤を打って酒を呑んでるからね(笑)。
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