
スタイリッシュでクールでファニーでポップでアダルトでカラフルでロックでモッドな魅力が充ち満ちて溢れ出し滴る最強で最高のロック・バンド、ザ・コレクターズ! 前作の大名盤『東京虫BUGS』から2年振り、通算17枚目となるオリジナル・アルバム『青春ミラー(キミを想う長い午後)』が遂に完成! 待ってました!
リーダーでヴォーカリストでソングライターの加藤ひさしさんと、ギタリストの古市コータローさんに、またも大名盤となった今作にまつわる秘密、そして、いつになってもドクドクと溢れ出し続ける格好良さの秘密を語ってもらいます! 加藤さんは今年50歳になるんですって! 信じられない! 本当ですか!?(interview:宮城マリオ/エアギタリスト)
アナログ・ディレイはミラーに反射した残像
──今作でまず目を引いたのが、加藤さんがゆがんだフェンダーを抱えたジャケットなんですけど...。
加藤:いきなりマニアックなところから突くね(笑)。コータロー&ザ・ビザールメンの取材を『ギター・マガジン』で受けた時に阿修羅さんっていうイラストレーターの家に行ったら、床の間に飾ってあったギターなんだよ。俺たちを驚かせるために。それが忘れられなくてね。最初はアコースティック・ギターか何かを持って鏡でゆがませて撮ろうとしたんだけど、今はマックで簡単に画像処理ができちゃうじゃない? だったら超レアな曲がってるギターを持って、それをさらに曲げたほうが面白いんじゃないかと思ってね。
──パッと見、ゆがんだ鏡に映っているように見えますよね。
加藤:うん。判る人にはかなりツボな"BENDER Distortorcaster"というギターだよ。
──このジャケットの出来映えを見て、作品を聴く前から"これは間違いないな"と思ったんですよ。聴いてみたら、まさにその通りで。
加藤:ああ、そう言ってくれると嬉しいね。
──1曲目のタイトル・チューン『青春ミラー(キミを想う長い午後)』にはギターのディレイが掛かっていて、そのちょっとくすんだ音色が印象的なんですよね。
加藤:ミラーに反射した残像のイメージがあの音なんだよね。そのミラーも上手いこと映っていない感じが出ていていいんだよ。
──途中のソロで、高音が時折キラキラするのもいいんですよね。
加藤:そうそう。俺はあそこにフランジャーを掛けて、もっとグニャグニャにしようと思っていたんだけど、あれはやらなくて良かったね。ナチュラルなまま進んでいって、たまに倍音が出てキラッとするのがいいんだよ。
古市:あれは、80年代の初頭か70年代の終わり頃のマクソンのアナログ・ディレイなんだよね。
加藤:そのディレイでリハをやっていて、レコーディングの時はデジタル・ディレイを使ってキラッとした音にして、尚かつ音の分離もいい感じにしようと思っていたんだよ。でも、コータロー君がリハでそのアナログ・ディレイを使っているのを聴いていたら、そのディレイが好きになっちゃってね。ちょっとモヤッとした感じがあってさ。
古市:あのディレイを差し替えて録ると、昔で言うデモ・マジックになっちゃうんだよね。
加藤:そうそう。デモ・テープは凄い格好良かったのに、本番で録ったらしょぼくなったってよくある話だよね。コータロー君がレコーディングした時も同じマクソンのディレイを使ってアンプで鳴らしたんだけど、プロデューサーの吉田 仁さんはそれとは別にラインでギターの音を拾って、それを後からデジタルで加工して音を作ろうと最初は思っていたみたい。でも、運がいいのか悪いのか、エンジニアがラインで録るのを忘れてたんだよね。それでもディレイが掛かったままのラインの音っていうのが残っていて、それをいろんな音質で試してみたんだけど、やっぱりあのアナログ・ディレイの音には敵わなかったんだよ。
──あのディレイがほろ苦い青春を追憶する楽曲の世界観とよく合っていますね。
加藤:そうなんだよね。まさに瓢箪から駒って言うか、面白いなと思ってさ。
古市:名盤にはそういう逸話が付きものだからね。
加藤:こっちは差し替えする覚悟だったんだけど、今思えば、コータロー君のプレイにライヴ感があって良かったのかなと思ってね。今回は特に、小手先の技術に頼らずにその時のパッションや偶発性を出そうとしたんだよ。そのほうが誰にも真似できないものになるし、新鮮なサウンドになると思ったから、エフェクティヴなことは敢えてしなかったんだよね。
──1曲目からいきなり7分ちょっとの大作じゃないですか。でも、アンサンブルと構成が巧みなせいか意外とサラッと聴けるし、アルバムの導入部としても申し分ないんですよね。
古市:長く感じないでしょ? 『Hey Jude』が短く感じるのと同じだよ。
加藤:やっぱり、いい曲ってどれだけ長くても短く感じるものなんだよね。年末に藤井フミヤ君の企画で武道館でライヴをやらせてもらったんだけど、ああいう所で『青春ミラー』みたいな曲をやったら相当格好いいだろうなっていうのをイメージしながら作った曲でもあるんだよ。武道館に似合うスケールの大きな曲を作れば、いつか自分たちも武道館で単独ライヴができるんじゃないかなって言うかさ。
──まさに"イメージ・トレーニング"ですね。
加藤:ホントにね。コータロー君のギター・ソロのところでレーザー光線が飛び交うわけだよ、武道館の中を(笑)。そういうのをイメージして作ってみた。
大人なのに枯れないのがコレクターズの魅力
──アルバムの制作はいつ頃から取り掛かったんですか。
加藤:去年の12月から始まって、録り終わったのは3月の頭。
──つい最近じゃないですか(笑)。
加藤:今はライヴをよくやっているからね。以前はレコーディングするために2ヶ月時間を取ることもできたんだけど、今はそういう状況じゃないから、レコーディングとライヴを交互にやっていくしかないんだよ。そうなると、どうしてもこれくらいの時間が掛かっちゃうんだよね。
──サリンジャーが亡くなったのは1月27日だったし、『ライ麦畑の迷路の中で』みたいな曲をよく差し込めたなと思って。
加藤:そう、あの曲は歌詞を書き換えたんだよ。最初は違う歌詞で唄おうと思って、頭の3、4行くらいを書いていたんだけど、サリンジャーが亡くなったのを知って急遽書き換えることにした。ロックンロールだからタイムリーなことを唄いたいからね。ツイッターが流行ればツイッターのことを唄ってみたりさ。
──『twitter』ですね。これ、ツイッターをテーマにした最初の曲なんじゃないですかね。
古市:多分そうなんじゃないかな。ただ、この曲はメロディも難しくて速いから、唄うのに苦労したよ。詰まったら一巻の終わりだし、ライヴで初披露するのが怖いよ。カンペを見れるスピードじゃないしさ(笑)。
──ツイッターって年内にブームが終わると言われているし、抜群のタイミングですよね。
加藤:抜群だね。しかも、この小馬鹿にした感じがいいよね(笑)。でも、そういう旬なものを唄えるのがロックンロールじゃない? 来年唄ったら古くても全然いいわけでさ。
古市:どうせまた違ったコミュニケーション・サービスが流行るんだろうから、"twitter"のところを変えて唄えばいいんだよ。数年前は"mixi"だったわけじゃない?
──『エコロジー』も時事性を唄った歌ですけど、『Nick! Nick! Nick!』みたいな説教臭くないメッセージ・ソングと相通ずるものがありますよね。
加藤:今回のアルバムは初期っぽいって凄いよく言われるんだけど、そういうところなのかな?
──コレクターズは枯れた境地に行かないって言うか、今作も全体的に瑞々しい楽曲が多いじゃないですか。
加藤:確かにね。意識してそうしているわけじゃないし、俺やコータロー君はクラプトンとかシブいのも好きだし、ミュージシャンってああやって枯れていくのも格好いいじゃない? でも、そういうのは自分には合ってないんだろうな。コータロー君、ストーンズってどうなの?
古市:ストーンズは枯れてないけど、新譜を出しても自分たちをコピーしてる感じがあるよね。
加藤:じゃあ、U2とかは?
古市:U2は俺、嫌いだから聴かない(笑)。
──ポール・ウェラーみたいな枯れ方もシビれますよね。
加藤:ああいう枯れ方も格好いいし、ああなっていけるならなりたいものだけど、コレクターズと自分には合ってないんだろうね。
古市:むしろ枯れたいと思ってるくらいなんだけどね。
──『青春ミラー』も『明るい未来を』も大人の歌で説得力がちゃんとあるのに、歌も演奏も凄く瑞々しいんですよね。若々しいっていうのとはちょっと違くて、大人なのに枯れていないっていうのがコレクターズならではだと思うんですよ。
加藤:そこがコレクターズの最大の魅力なんじゃないかな。いい歳した大人なのに、今流行っている音楽をやっているわけでもないのに、決してシブくはならないって言うか。
──最近のインタビューでも、プロデューサーの吉田さんがコレクターズを今っぽい音にしようとしたけどそうはならなかったと話していましたよね。
加藤:最近のアメリカのバンド、たとえばフォール・アウト・ボーイやオール・アメリカン・リジェクツみたいなパワー・ポップ系のバンドって、初期のコレクターズっぽいイメージがあるじゃない? でも、俺たちはどういう訳かああはならない。それは何故なんだろう? って仁さんと話したことがあるんだけど、要するにリズムの録り方が若い連中と違うんじゃないかと。ブルース・フィーリングみたいなものが今の子はないわけよ。コータロー君はブルースを散々コピーしてきたし、間の取り方が裏で入ってくるって言うかさ。
古市:ああ、なるほどね。
加藤:今の連中は頭からガン! って入るから、リズムがビッチリ合うんだって。でも、コレクターズみたいに古いロックが好きな連中は心なしか少し後ろにいるみたいな感じなんだよね。黒人音楽もそういうところがあるよね、いわゆるグルーヴって言われるものがさ。何かちょっと後ろにあるんだけど格好いいっていう、そういうのが身に付いちゃってるみたいだね。だから新しくは聴こえないし、今のティーンネイジャーがやってるアメリカのバンドみたいにはならないって仁さんが言ってたよ。興味深かったね。俺も自分なりに分析はしているつもりなんだけど、出てきた結果がこうなっている感じなんだよ。
